第四話
また、エレベーター内。
少女を治療室に置き、五人は会議室に向かう。
そんな中、ふと雪歩は気になる事を思い出した。
「そういえば、八裂さんのカタナって一体どういうものなんですか?」
そう八裂に聞くと、八裂はそのままカタナを解放した。
手元から刃を上向き大鎌が現れる。しかし大きいためガギリという音を立てて壁を引っ掻いた。
「うわわわ」
危ないなー。全く。
「こんな狭いとこで出さないでください!」
陰神が窘める。
「あはは。ごめんごめん。」
八裂が悪びれた顔をし、説明を始めた。
「【吸血鎌 ドラクル・リッパー】。ランク7のカタナ。能力は血を吸えば吸うほど切れ味が増す。そんな感じかな。」
「戦い続けばどんどん強くなるってことですか。」
「まあ僕には適性のあるカタナだからね。他にも様々な身体的効果が得られるよ。さっきの戦闘とかでも力とか速さが上がってたんだよ。さらにおまけで・・・って話が長くなったね。到着だ。」
八裂がカタナをしまう。どうやら目的の階についたようだ。
八裂がさらに続ける。
「適性って大事だよ~。雪歩ちゃんもカタナ選ぶときは自分に合ったカタナにしなよ?」
「そ、そうなんですか・・・」
「そうだな。カタナは能力より適性のほうが大事だ。適性が良ければランクが上のカタナより強くなることもある。」
陰神がそう付け加える。
「さあさあ解説回はまだまだ続くよ~。」
「いったい誰に言ってるんですか・・・」
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会議室は質素なつくりだ。真ん中に大きな机、それは3Dマップになっていて第八地域を縮小して映し出されている。それを囲うように丸椅子が置かれ、扉があった壁と反対側の壁にスクリーンがある。
そして、二人の人がいた。小柄な一人は長い黒髪ツインテールの女性。さらにピンクのフリフリの服を着ており、雪歩より年齢が低いように見える。胸は小さい。なんだろう、とても流行した・・・ツン・・なんとか。そんな雰囲気だ。
もう一人は50歳ぐらいの老男性で、スーツ姿に丸いサングラス、小さなハットと、まるでずっと昔の紳士姿である。いかにも温厚な雰囲気をしている。
どちらもランク9だったはずだが、雪歩はその人たちの名を思い出せなかった。
「またせたにゃ~。ペーちゃんに有志!」
「ペーちゃんはやめなさいって言ってるでしょう!」
「だが断る。」
「朱林殿、そちらの娘さんは?」
「僕の眷属候補だよ!」
「ま、間宮雪歩です・・・」
「これはこれは、私は阿笠 有志。以後お見知りおきを。こちらのご婦人はペイルル・ドリトルでございます。女性ならよくご存じでは?」
「おい朱林!まーた、あんたはバカなことしてるの!?全く!誰よこいつ、けしからん乳ね!」
その名前で雪歩はこの二人のことを思い出すことができた。
ペーちゃんと呼ばれた女性は、ペイルル・ドリトル。ランク9で第八地域のナンバー1アイドル。ファッション雑誌では一度も載らなかったことはないと言われる女性だ。その可憐な姿、あどけない笑顔でファンクラブは地域内外にあるらしい。
ちなみに第八地域の服装作成も手掛けている。聞いていた"かわいらしさ"とはずいぶんかけ離れて、申し訳ないが性格が悪そうに見えるが、ランク9の面々はみんなこうなのだろうか。雪歩はそんなことを思わざる負えなかった。
紳士な男性は、阿笠有志。
第八地域、第四地区、この第一地区を囲うようにあるビル群の一角を担う男。数々の企業を動かしている敏腕で、現在ランク2以上が就業率100%なのはこの男のおかげだとか。
また、戦闘面も現在は引退しほとんどしないそうだが、腕利きのようで、討伐数でも上位に入るそうだ。
そんな感じで自己紹介が終わりに近づきそうなこともあり、雪歩はもう限界だといわんばかりに声を上げた。
「あのー。帰っていいですか?」
もう限界だ。こんなすごいメンバーの中にいては精神衛生上よろしくない。てかみんな怖い。雰囲気が。
「だめだ。」
真っ先に八裂が反対した。
「え~・・・。だってなんかすごい大事な会議そうじゃないですか。なぜに私がいるんですか。」
「すまんが雪歩君。少し残ってくれ。たぶん俺が聞きたいこともこの会議で話すから。」
豪坂がそういう。
(なんか一般の人が足を突っ込んじゃいけないとこだよね・・・)
困ったなあと、雪歩はため息をついた
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スクリーンの前に八裂が立ち、雪歩たちは左右に大きな机を挟んで立った。
八裂がしなくてもよい咳払いをし、発言を始める。
「では、今回の会議はみんなわかってると思うけど、"はぐれ"蝕魔の数が最近、増加している。」
「それも異常な数で。今回はそれについて話し合うよ。」
「今月に入って半月。それだけで二十八件。異常事態ですね。」
陰神がそう付け加えると同時に机の3Dマップの発生箇所に×印が浮かぶ。
「そ、それってひどいんですか?」
雪歩が質問する。
「普段は一ヶ月平均して五件ほど。多くても十件いくかどうかだよ?あきらかに異常。これまでにこんな発生件数はこの地域ができてから確認されてないよー。」
つまり多いときの二倍以上。普段と比べては5倍以上というわけだ。確かに素人の雪歩から見ても異常だ。そしてそれはすなわち・・・。
「・・・すなわち、"発生源"や"収穫災"に繋がる可能性があるということですか?」
「あなた、ランク4のくせに発言が多いわね!」
ペイルルが声を荒げる。
「す、すいません!」
勢いに臆して雪歩が謝る。
「まあまあ~いいじゃなーい。合ってるんだし~。」
先程から黙っていた(というよりほぼ寝ていた)逆咲が庇う。
「その通りだ。発生源や収穫災に繋がる。特に収穫災になったら一大事のレベルではない。だから私達はその蝕魔を狩り、治安を守っている。」
現在ランク5以上、つまり正規隊員は地域内部に入ってくるはぐれ蝕魔の討伐が主な仕事の一つになっている。そのため、ランク4以下が安心して生活が送れているのだ。
「今のところは低ランク蝕魔が多いために、地域に有り余っている正規隊員で何とかなっている。情報網もまだ抑えられている。」
「だがこれ以上はもたないかもしれない。今もすでに死者は12名まで増加した。負傷者も増えている。そして第一に、高ランク蝕魔が現れもしたら三十士官や朱林殿に頼るほかなくなる。そうなってはたまったものではない。」
陰神がいつもより一層冷たい口調で言う。
「そして!よくわからないことがある!」
八裂が調子を上げる。そして急に冷静にな口調でしゃべりだす。
「今回の"はぐれ"はあまりにも低ランクすぎる!」
「それでいてなぜか地域の内部側で出現している!やつらは目撃もされず、正規隊員や監視カメラの目をかいくぐってこれるか?いや、できるわけがない。」
「一番の内部地区だと8区だったかしら・・・近いわね。」
「最短でも17区、警察暑がありますな。ふむ・・・かなり難しいことですな。」
ペイルル、阿笠は思考にふける。
「そしてもう一つ。今日、僕が処理して分かったことだが、あれは山椒魚型を含んでいた。」
全員がはっと顔を上げる。雪歩はよくわからなかった。
「そいつぁ変だぜ。第八地域の周りには水棲生物型が来れるような水辺はねぇ!湿気じみたところもないぞ!」
豪坂が声を上げる。
「そ、それって?」
「つまり水棲生物は第八地域に来れることはないってことよ!」
蝕魔はさまざまなタイプ、型があるが、その生物の特性を引き継いでいることが多い。たとえば、爬虫類型なら固いウロコがあったり、鳥型なら空を飛べたりと言った感じだ。
つまり、水棲生物型は水辺近くでしか生きられないし、魚型なら川や水、植物型なら土がなければ生きていけないのだ。
第八地域は海は近いが監視を重点的においており、川などは蝕魔侵入経路になるのを防ぐため、ほぼ埋め立ててしまった。
そのためか水棲型の蝕魔に襲われることはなかった。
そしてなによりも日本は島国、さらに言えば水の国と呼ばれるだけあって、水棲生物に対しては非常に注意を置いている。それが原因で過去、"大戦"が発生した。
「やはり今回は異常ねー。で、原因は分かってるのん?」
「それがわかりゃーねー。第一移動経路もわかってないんだしー。」
八裂がぶーぶーと口をすぼめる。
「ま、この話は後でもっとするとして、第二の問題。」
八裂が開き直ったような態度をとり、また頭を抱えた態度をとる。
「権利濫用がまーた増えてきた。」
「またかい。」
ペイルルがツッコむ。
権利濫用。JCBFランクはこの日本では絶対である。故に高ランクになればなるほど職権濫用が増加している。
これはいつも出る話題のため、そのため低ランクとの軋轢は今もまだ根深い。
だがもっと面倒なことがある。
「こっちはいつもみたいな感じだねー。低ランクが高ランクとのつながりを持って、虎の威を借る狐状態。」
正にこれだ。最近では高ランクより"高ランクの庇護を得た低ランク"が、好き勝手に暴れるといった事件が絶えない。
雪歩が絡まれていた不良たちが良い例である。あのように小さなものから、大きなものなら罪人を匿ったり、無実の罪を作ったりと様々である。
「で、雪歩ちゃんに聞きたかったことはこれ。あの不良達はたぶんそういうのだと思うんだけど。」
「ごめんなーお嬢ちゃん。なんかあいつら言ってなかった?」
(そ、それだけのためにこんなところに連れてこられたのか。)
なんだかやるせない気持ちになりながらも雪歩は質問に答えることにした。
「確かにランク8とつながりがあるとか言ってました。」
「えー普通過ぎー。他に何かあったんじゃないのー?」
八裂がつまらなさそうに言う。
「だって仕方ないじゃないですか、そのあとすぐにあなた来たんですから。」
「ふむやはりランク8だったか・・・また粛正が必要だな。」
陰神が呆れたような態度をとる。
「やだー。血なまぐさーい。」
逆咲が臭いものを前にしたように鼻をつまむ。
「本当に他になかったか?」
豪坂が問いただす。
(うーん他には言っていなかったけど・・・)
ふと、雪歩は不良達の首に何かの紋章が取り付けてあるネックレスを身に着けていたのを思い出した。
「なんか変なブレスレット着けていました。何かの紋章?みたいな・・・」
「あーそういえば着けていたね。どんなんだっけ。」
「えっとぉ・・・」
雪歩が目の前の"それ"を見る。それで思い出す。
(ああ思い出した。これこれ・・・って、え?)
ナゼミツケテシマッタノカ。ナゼキズイテシマッタノカ。グウゼン。ナゼ。ユキホニハワカラナイ。
「・・・すいません。とても変な頼みですが、この3Dマップの発生場所を線でつなげてもらえませんか?」
「?構わんが、かなりの数だな・・・まあ問題ないか。」
スクリーンにいくつもの線のシミュレーションが浮かび上がる。
たくさんあったが運よく見つけられた。
「これです。この模様の紋章でした。」
その一つに指さす。それは左右斜めから引っ掻き傷のような線が三つ。それらが重なってできた間の真ん中に三角形という模様だった。
「こ、これは・・・・!」
陰神が目を見開く、いや殆どのそこにいた人間が唖然とする。
八裂を除いて・・・・
「あっひゃひゃひゃひゃひゃ!おもしれー!ナイスだよ雪歩!よく見つけたね!」
陰神が口を開く。
「自由の・・・爪・・・。」
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自由の爪。最近できた反政府勢力であり、その中でもかなり宗教的であることで有名である。指導者である教祖を盲信し、自由のない政府を打倒し、教祖のもとに自由を創るという、ありふれた団体であるが、非暴力的な姿勢が民の共感を得て、徐々に信者を増やしていると聞いたことがある。
「他の模様でもこのようなことはないか?」
陰神からさっきの驚愕の顔色が消え失せ、そう質問する。(どうやら操作は逆咲が行っていたようだ)
「いやー無いわねー。2件あるけどしょぼい企業マークと、少人数のサークルグループ。この奴ほど大きなものはないわよ?」
逆咲がそう言うと、陰神は分かった頷く。
「ならば職権濫用の理由もわかる。あそこの教祖は元ランク8だ。それで誑かしてるんだろう」
豪坂がそう伝える。
「しかしまさかこの二つが繋がるとはね~。」
八裂がニヤニヤしながらそう言う。
「ふん!どうせ分かってたんでしょう!アンタのことだから。」
ペイルルがふくれっ面で八裂に反抗する。
「いや、自由の爪が何か怪しい動きをしていたのは分かったからさ。職権濫用はそうだろうと思った。ただ蝕魔関係に繋がるとはね~。」
「だがしかしどういう事なんだ?あいつらは蝕魔を操作してるって言いたいのか?」
豪坂がそう発言する。
「または導いてるか・・・」
阿笠がぼそりと呟く。
「どちらにしろ、蝕魔を"使う"なんてことはありえない。そんなことができるなら、こちらがやっているぞ。」
陰神がそう言う。確かに、そんなことができるならそれこそ大発見であり、どの組織でも喉から手が出るほど欲しいものだ、日本どころか、世界レベルでだ。
それがただの一宗教。それも反政府勢力だ。資金援助は乏しいだろうし、技術もないはずだ。
「うーんこれについてはキリがないからここでやめよう。」
そうやって八裂が止める。
「とりあえず今日はここらへんで会議を終了しよう。」
「それと、今後の方針として・・・。」
「有志!」
「はいはい。なんですかな?」
「一般人の就業時間を20時間に引き上げろ。1週間ほどね。理由は適当に取り繕っといて。被害を減らすなら人間はまとめておいたほうが楽だ。」
「ひ、ひえ・・・。」
あまりの酷さに雪歩は狼狽する。
「了解しましたよ。まあ反抗する連中は叩いて"潰して"おきましょう。」
「陽子ちゃん!」
「は!」
みじかくそう返し、陰神は気を付けをする。
「教祖の身元、部隊の招集、教団の位置、その他もろもろを頼むよ。これは大きな戦いになるかもしれないからね。」
「了解しました!」
「逆咲!」
「はーい。」
「第零地区の一時総司令官を頼む。」
「はいはい。いつも通りね。」
陰神が苦い顔をする。
「どうせそんなことだろうと。またこいつに任せるのか・・・嫌な気持ちしかしないな。」
「あ~んひどぅ~い。」
そんな会話をよそに八裂は続ける。
「ペーちゃん!」
「分かってるわよ。"いつもの"招集でしょ。」
「物分かりが早くて助かるね。彼らは僕の言うこと聞いてくれないし。」
「当ったり前よ!私も含めてアンタのことは大っ嫌いなんだから!」
「よし、じゃあ解散としよう。それと・・・」
「雪歩夜遅くまでお疲れ様。」
「あ、ハイ・・・。」
思わず礼をしてしまう。なんだかとても疲れた。雪歩はそう思うのであった。
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「ふむ・・・・」
陰神は会議の後、八裂共に書類関係と、今回の事件を調べている。
色々な書物を机のわきに置き、目の前の画面に釘付けになっている。
そんな中、陰神は別のことを考えていた。
(間宮雪歩・・・・彼女はいったい何者なんだ・・・)
会議でのあの発見といい、あれだけの大物達(私を含めてだが)を目の前に、多少の動揺はあったもののすぐに順応し落ち着いているような感じだったし、普通ではない。私の勘はよく当たる。
(そして何よりあの八裂朱林殿だ。まともな人間を連れてくるはずがない。)
そこでふう、とため息をつき。
「何よりも今は目の前の問題を解決せねばな。」
そう呟いて、タイピングスピードを上げるのだった。
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雪歩は豪坂の車で、自分の家まで送ってもらった。
今は夜も更け、シャワーを浴びている。
「お嬢ちゃん。本当に申し訳ねぇ。まあ俺が何とか出来るもんじゃねぇし、アイツはいつもああなんだ。」
「ただ、嫌なことははっきり嫌だっていうんだぞ。」
そんなことを豪坂は言っていた。
「これからどうなっちゃうんだろう。とんでもない人に出会ってしまったなぁ。」
そんなことをボソリと呟いた。
まあ今日は寝よう。なんだかとても疲れた。
そうだ、また明日から普通に学校だ。普通の生活に戻れるだろう。
そんな思いを胸に、雪歩は眠りにつくのだった・・・
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・・・・・・ねぇ・・・・
ダ・・・・・・・・・・・・・・よ・
・・で・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
第四話。完。




