06静かにしないか!
体育館は依然と生徒たちの声で賑わっていた。うるさすぎて雑音のようにも聞こえる。
「み、みなさん……静かにしてください」
ステージに上がった少し頼りのない教頭先生の声。あれではもちろん誰も静かにはならない。声の響く中、僕たちも指定されている場所に座り込む。これで全校生徒が揃っただろう。僕らが最後というのが少し悲しい。
「やはり毎回のことだがうるさいな?」
僕の後ろに並ぶ万桜が怪訝そうな顔をする。
「ホント、うるさいし寝れないし……」
そして、僕の左横に並んでいる梨乃が、腕を組んで頬を膨らませて怒っていた。
寝る気でいたのか……なんて人だ……
まぁ、それはそうと、あの教頭初めて見るな。いや、僕が見ていないだけなのかもしれない。この前も、その前の集会でも僕は寝ていたから先生の顔なんてまったくと言っていいほど覚えてはいない。
あ、集会でよく寝ているのは僕だ!
しばらく座りながら、苛立ちを覚えそうになる雑音のような声を耳にしていると――
「みんな、静かにしてくれ!」
教頭先生の持っていたマイクを借りたのだろう、ステージの上に椋夜が立っているのが見えて、僕は目を見開いた。
椋夜だ! 生徒会長が直々に前に出てくるなんて凄いことだ。
僕にとっては相手陣地に一人で乗り込んでくる武将のように見えている。
「オレとしたことが、今この目ではっきり見たが椋夜、教頭からマイク取り上げたよな?」
「いやいや、借りただけだからね?」
どうしてそんな結論に至るのか……それとも本当に奪い取ったのかな? ステージの上の隅で教頭がオドオドしてるし……
椋夜の声が鳴り響いた途端、周りのうるさかった声が徐々に小さくなっていき、しばらくして体育館に静寂が訪れた。
流石は生徒会長だ。
「今日、みんなに集まってもらったのは他でもない。みんなに渡したいものがあるからだ」
完全に周りが静まった途端、マイクを手に持ったまま、ステージの左端にいた椋夜は、ステージの中央まで歩いていった。
渡したいもの……その言葉が合図なのか、生徒会メンバーのほとんどが、生徒会専用の椅子から立ち上がり、ステージの下に現れてクラスごとに一人一人、A4サ イズのプリントを手渡してきた。
もちろんそれは僕にも当たる。
これは――学食の時に椋夜に見せてもらったやつだろう。最初のタイトル文字がさっきのと同じだ。
どこからともなく、「なんだろうな」というような声が聞こえる。
一度見たことのある僕は少しは理解しているので自慢げにプリントを見る。
「あぁ、今渡されたプリントを見てくれ」
マイクとは反対の手を広げて前に突き出して言う。そう言われるので、多数の生徒がその紙に注目する。
僕と万桜は軽くは読んだけど梨乃はまだ一つも読んでいない。紙に目を通して、ふぅ~んという感じに首を縦に動かしていた。
「なんだこれ、ステルス・ファクトでなんかやんのか?」
紙を読み終えたらしい生徒が大きな声で椋夜に訊く。
「みんなに配ったプリントの内容……」
少々の騒ぎ声の中、転々と話を進めていこうとする椋夜。
体育館内からは、多数の質問をする生徒たちの声が鳴り響いていて、みんな何を言っているのかわからない始末だ。
椋夜はみんなの質問を聞き流して、自分流に『決闘』というのを説明しようとしている。
「それは、ステルス・ファクトの新ゲーム、『決闘』についてのプリントだ」
やっぱり決闘をやるというのは実行されるんだ。今更思うけど。
「先に説明をさせてもらうが、お前らも知っているとおり、決闘とはステルス・ファクトを使った闘いのことをいう」
決闘という言葉を聞けば、大抵の人は闘いとわかってしまうだろう。僕も決闘という言葉を聞いた途端に闘いということは予想できた。
「みんな何度も経験したことだと思うが、ステルス・ファクトには痛みを背負わせないという力が備わっている。そこで、それを生かしたイベント――決闘をステルス・ファクトの新ゲームとして取り入れていきたいんだ!」
強い口調で言う椋夜。ステルス・ファクトの力について、みんなわかっているからこそ、誰も決闘について疑問を持たないのだろう。誰も椋夜が語っている最中に口を出してくる者はいなかった。それどころか、みんな何かを期待しているように椋夜の次の言葉を待っている気がした。
「さて、それでは簡単に説明に入ろう」
そう言い終わった椋夜はステージの右側まで移動する。途端にステージの上部からスクリーンが垂れ下がり中心を覆った。そのスクリーンには白色の背景と、簡単に描かれた棒人間六人の映像が移り出されていた。
「うむ」
彼はいつの間に持っていたのだろう長い銀色のステッキで、スクリーンに映し出された画面を示す。
「決闘とは、一から三人のペアで行う、ステルス・ファクトを使った闘いのことである」
椋夜の話すタイミングに合わせて、スクリーンには、人と人との間に『VS』という文字が映し出され、棒人間それぞれ三人の近くに、AとBとCと上に書かれた緑色の細長い線が浮き上がった。その緑色の線を、右側で説明している椋夜が示す。
スクリーンに映し出されている画像は、パソコンの前に座っているホワイトブルーの髪をした生徒会副会長が操作しているようだ。
「そして、今出てきたこの緑色の線、これは体力ゲージといって決闘時の際の自分の残っている体力を表すものだ。決闘者それぞれには、体力ゲージというものがあり、闘いの挙句このゲージが空っぽになった者の負けとなる。二、三人の場合は全員を倒した方の勝ちとなる」
スクリーンには、左側の棒人間が右側の棒人間をパンチして、その右側の棒人間の全ての体力ゲージが無くなり、左側の棒人間に『WIN!』という文字が映像で映り出されていた。
この決闘というのは、敵の数だけ、全員倒すまでが勝負ということか。
「このように、相手の体力ゲージを無くした者が勝利となる」
大体分かってきた。いわゆるゲームでいうならばRPGを僕たちでするということだろう。