40これで、終わりにしよう
全ては僕の過ち。秋山さんは今それを終わらせようとしているのだろう。
となると、僕は行くしかないんだ。
「うん、分かった」
僕は梨乃の脇下と膝下を持ってお姫様抱っこをする。
「ち、ちゆう?」
「いくよ、梨乃!」
地面を思い切り蹴り上げ、穴の空いた天井を一気に飛び屋上まで行く。
外はもう赤い夕日が雲一つない空を照らしていた。
もうこんな時間か……僕らは屋上の壁に制服姿で寄りかかっている七星さんを見据える。
「私としたことが……でもまたやり直せばいいだけね? いえ、今からでもやり直せるわ……」
この人……まだ諦めていない? やっぱりNSCを先に探しておくべきだったか?
過ぎたことを悔やんでもしょうがない。僕が七星さんを睨んでいると、不意に梨乃が僕の前に出て、そして言った。
「みんなね? みんな一生懸命願いを叶えさせてもらうために決闘を頑張ってるんだよ! なのに、どうしてあなた一人だけ卑怯な手を使ってまで勝ちにいこうとするの?」
赤く照らされた空、制服を微かに赤く染めながら、一歩一歩、梨乃が七星さんへと近づいていく。
「うっさいのよ!」
「!」
七星さんの一喝に梨乃が怯み近づいていた足を下げてしまう。
流石にヤンキーの喝には敵わないか……
僕は眉間にしわを寄せながら怯んで動かなくなった梨乃の肩を掴んだあと、前に出て七星さんを見据える。
「なに? 私に説教でもするつもり? 悪いけどあなたの言葉なんて耳にもしないんだから」
さっきの攻撃で体力が消耗しすぎたのか、七星さんは荒い息を吐いていた。
「説教か、本当は説教もしたいんだけど、僕がしても何も怖くないからね……」
「ふん…………」
「でも……君の言ったとおりだよ。今回の件は全部僕が悪い。盗聴器なんていつの間にか付けられて、挙句の果てに椋夜の秘密まで聞かせてしまった」
僕が言うと、七星さんがその通りという感じに声を出してきた。
「そう、あなたが悪いの! あなたが私の盗聴器に気づかなかったのが悪いのよ!」
…………
「なにそれ、そんな言い――」
僕の前から顔を出して庇おうとしてくれてる梨乃の頭に手を置いて、黙らせる。
「ちゆう……」
「いいから、僕に任せて」
「……うん」
僕の目を見て分かったのか、冷静を取り戻して梨乃が数メートルほど後ろに下がった。
「ですから、あなたには私に詫びというものをくださらないといけませんよねぇ?」
息をするのが辛そうにも関わらず、唇を広げ微かに笑う七星さん。
詫び……そういうのもいいかな……
僕は入学してから三ヶ月たった今でも思うことがあるんだ。
椋夜の開発したステルス・ファクト。実際のところこれは一体なんなのかと、本当に楽しく遊ぶために作り出したものなのか……。
こればかしはどうしても椋夜の思惑というものが理解できない。こうやって、不幸な出来事を招いているのだから……。
「詫びもいいかもしれない。でも、悪いのは僕だけじゃないんだよ。盗聴器を僕に付けた君も悪いんだよ」
「…………」
「だから、このすべてを終わらせるために、僕はもう一度、七星さんに決闘を申し込む!」
僕の言葉が終わるとともに、屋上に暖かな風が通り過ぎ、僕らの髪が少し揺れた。
「……決……闘……」
七星さんは一瞬驚いたあと、すぐに微笑に戻って壁に捕まりながら立ち上がった。
LVが下の者からの決闘を断ることはできない。つまり、七星さんは僕と絶対に決闘をしなければならない。
きっとNSCのコマンドの中には決闘を強制的にできないようにするのもあると思うが、彼女自体も決闘には乗り気だ。そんなコマンドなんて使おうとするはずがない。
足を震わせながらも、地面に足をつけて立ちあがった七星さんを見て、僕はすぐさま片手を挙げて「ゲームスタート」と叫んだ。
途端にスコアが数個現れ、転々バラバラに宙に浮かんだスコアに僕と梨乃、そして七星さんの名前が入れられていた。
僕らの上空にあるスコアは、真っ赤な夕日の影響で青い色が赤っぽい色に変化している。
「いいわ、いいわ! 今度こそ手加減も何一つせず一瞬にして倒してあげる!」
能力に犯された中毒者みたいに、願いを叶えたくてたまらない。そんな目をして、ゆっくり僕へと両手をかざし、集中しているのかしてないのか分からないような笑みを浮かべながら目を閉じる。
この人はもうだめだ。願いにしか頭がいっていない。だから僕は今、ここで、七星さんの願いを潰す!
両手を七星さんに向け、目を閉じて僕も集中する。
そして、どうじにステルス・ファクトが虹色に輝きだし、僕には体全体を、七星さんには手のひらに光の粒子がまとわり、体の中に入っていく。
が、七星さんは自分の手のひらの中にあるものを見て、ただ愕然としていた。
「……なんで、どうしてなの!」
誰もいない、紅い空に向かって叫ぶ。
彼女の手には、あの魔法使いの武器ではなく、ただの、平凡な元の武器であるパイプが強く握り締められていた。
「そこまでだ!」
突然屋上の穴のあいた部分が一定時間を越え、修正されていくのに加えて、聞き覚えのある誰かの声が、僕の後ろから鳴り響いた。
この声は……
「椋夜?」
「ああ」
七星さんを警戒しながら僕が後ろを振り返ると、そこにはポケットに手を入れて立っている椋夜と、砂がついた巫女服を手で払っている万桜の姿があった。
「長次椋夜? なぜあなたがこんなところに? それに、何がそこまでなのよっ!」
椋夜の顔を見るなりいきなり罵声を浴びせる七星さん。それに対して、椋夜は何も言わずに、代わりに万桜が答えた。
「NSCは見つかった。既にお前にあれを操作する権限なんて無い。今あれを操作できるのは椋夜だけだ!」
見つかったのか!
一安心する僕に向かって梨乃が親指を立てて笑顔を見せてきたので僕も立てる。
別に僕たちが探し当てたわけじゃないんだけど……今はどうでもいいことか。
その言葉を聞き、七星さんが膝から崩れ落ちる。
「そんな……私の負けじゃない」
地面に両腕を付け、四つん這いになる。
椋夜は、鉄パイプを持ったまま体を震わせる七星さんに向かって口を開いた。
「だが、俺はNSCの力で卑怯な、お前のようなことなんか一切しない。さぁ、お前の力でこの決闘に勝ってみろ!」
「だったら……だったら……!」
ゆっくりと立ち上がり、手のひらに握りしめているパイプの先を僕に向ける。
そして、そのパイプを両手で持ち、僕に向かって走り込んでくる。
「僕も、こんなところで負けるわけにはいかないんだ!」
地面を蹴り、七星さんとの距離を詰める。
一体一……どちらも自分自身の与えられた能力で向かい合う。
「あぁ――――――っ!(パイプルダスト!)」
七星さんは、走りながら鉄パイプを口にくわえ、一気に吸った息を思い切り吐き出した。
刹那――僕に向かって溶けた鉄の塊が複数飛び散ってくる。
だが、僕には通用しない。
「(スピアースプラッシュ!)」
掛け声とともに加速し、溶けた鉄の塊を一つずつ避けていき、七星さんの腹を思い切り蹴り上げた。僕は七星さんが寄りかかっていた壁に手を付けて留まる。
「うぇぇ…………」
僕は七星さんが寄りかかっていた壁に手を付けて留まる。
唾を吐き、手のひらから鉄パイプを離して宙を高く、高く飛ぶ七星さん。
「梨乃、今のうちに能力を!」
「わかった!」
僕から離れていた梨乃は、少し前に足を出したあと両手を七星さんに向けながら集中を始める。
きっと、今の七星さんが怖いと思っているのは蛇とかそんなもんじゃないだろう。
ステルス・ファクトが虹色に輝き、光の粒子が梨乃の体にまとわり付き、粒子が体の中に入っていく。
そう、七星さんの今、怖いと思っているもの、それは――
「ち、ちゆうと一緒の能力だ……!」
梨乃が驚きに目を見開く。
前にも言ったと思うが、人は誰しも本当に怖いものよりも今、目の前にある怖いもののほうが断然怖く見えてしまう。だから、今の僕の攻撃による痛みによって彼女は本能的に痛い、怖い。と思ったにちがいない。だから、梨乃の能力が僕と一緒のものになったんだ。
「梨乃、一斉に決めよう!」
「うん、いこっ!」
七星さんを中心にして、左右に分かれている僕と梨乃は、同時に光の粒子がまった拳に力を込め、空中から落下してくる七星さんに向けて地面を蹴って距離を縮める。
「私の願い……叶えられないみたいね……」
七星さんの目元から地面にこぼれ落ちる一滴の涙。
でも――罪悪感があろうがなかろうがここで決めなきゃいけない。ここで決めないと、また同じ過ちを犯してしまいそうだから……
「うあぁ――――――――――――――っ!」
「はぁ――――――――――――――っ!」
「「(スピアーインパクト!)」」
力を込めた二人の拳が、七星さんの背と腹を押し潰す。
「あぁぁ――――――――――――――――っ!」
痛みにもがく七星さん。HPがものすごい勢いで減っていき――
七星さんの動きが止まると同時にHPが完全に無くなる。
途端に僕らの体の中に入っていた光の粒子は体から抜け出して空を飛び散り、その姿を空気へと変えていった。
「はぁ……はぁ……」
「や、やったよね……」
荒い息を吐く梨乃をよそに、僕はスコアを見る。
☆WIN☆
神北馳優 LV17→LV18
相沢梨乃 LV17→LV18
僕と梨乃、ふたりの名前がそこにはあった。
同時にトドメを刺すと、一緒にLVが上がるんだな……。
決闘の集結の合図のように、僕らの体の中に入っていた輝く粒子が体外を出て、空を舞い消えていった。途端にスコアが消え、赤い夕日もともに沈んでいく。
今、僕らの上空には薄い月の光が輝いている。




