36ただ強いってもんじゃない。強すぎる……
1位の七星さんの名前が謎ではなく自分の名前に戻っている。もう隠す必要が無いというわけか。
それよりどうして決闘が始まるんだ? 秋山さんは決闘を拒否したはずだ。決闘は始まらないはずなのだが……まさかNSCの力か? NSCならLVが自分より弱い相手を強制的に戦わせることも可能かもしれない。
「NSCを舐めていたみたいだ……」
本当になんでもできるんだな。
未だに両者のHPは減ってはいない。
いや、今、今秋山さんのHPが少し減ったぞ!
もう始めている……決闘を――
僕は眉間にしわを寄せながら階段を下り、二階の廊下を覗き見る。
「!」
そこにいたのは壁に寄りかかっている美しい、歯切れの良さそうな刀を手に持った制服姿の秋山さんと、彼女の前に立ちはだかる、黒のとんがり帽子にそこからはみ出たカールの茶髪。首元には日本語ではない見知らぬ文字の書かれた金の輪をしており、服装は胸元が空いている露出度の高い黒のドレスのような魔装服。七星さんの右手には長く伸びた赤黒な色をした斧が握られていた。
あれは……七星さんの姿、魔法使いになっている。
七星さんが右手を頭上に上げ、秋山さんに斧の矛先を向ける。
「さて、一気に決めましょうか!」
「危ない!」
僕はすぐさま左の二の腕にステルス・ファクトを近づける。そして淡い色を出してリング上にくっついたステルス・ファクトを見ることなく、すぐさま両手を広げて集中する。
刹那――僕の体の周りを輝く粒子が纏い、僕の体の中に消えてゆく。
よし、僕は右足で地面を蹴る。それと同時に、七星さんが秋山さんに斧を振りかぶる。
「死になさいっ!」
「させるかぁ――――――――っ!」
七星さんと僕の声が廊下中に響き渡る。
この人に、秋山さんを倒させるわけにはいかない!
「(スピアースプラッシュ!)」
足に思いきり力を入れ、七星さんめがけて突進のように飛ぶ。
「!?」
風を切る音が鳴り、七星さんが僕に気づく。
だが、気づくのが遅い。すぐさま僕は足を前に突き出し、七星さんの溝を蹴る。
「うおぇ!」
体を宙に浮かし、数メートル後方へ飛ぶが、すぐさま手を床に付け回転しながら着地する。
当然ステルス・ファクトを使っているので痛みはないが、僕はこの決闘に参加していないので七星さんのHPが減ることはない。
「あら、邪魔が入るとは予想外ね~」
ドレスの裾を両手で払いながら言う。
「大丈夫、秋山さん?」
壁際で座り込んでいる秋山さんに手を貸す。
「ええ大丈夫。助かったわ、ありがとう」
僕の手を取って立ち上がる。
「あなた、神北君とか言ってたわね? 私たちの正式な決闘の邪魔をしてどうするつもりなのかしら?」
「正式な決闘? どこが正式なんだ! NSCの力を使っている奴にそんなことを言う権利はない!」
ほくそ笑む七星さんに言う。
「あら、知っていたの……だったらあなたも一緒に倒してあげます」
目を細め、獲物を見るように奇妙に笑い出す。
「あなたにもこの決闘に参加してもらいましょう」
そう言って、二の腕に貼り付けているステルス・ファクトを腕を動かして口元まで持っていく。
何をする気だ?
「早く逃げて神北君!」
「え、うわっ!」
秋山さんが僕の体を手で押す。だが、その勢いで僕は躓いて倒れてしまう。
「ウフフ……(システムコマンド2266!)」
七星さんの言葉とともにステルス・ファクトが紫色に輝き出す。
この光……僕が三階で見た光と同じだ。
その光は、ステルス・ファクトから離れ、僕らの上をゆっくり動いているスコアに吸収されていく。
「さぁ、楽しく決闘をしましょう?」
片手で斧を僕らに向ける七星さん。
僕は紫色の光を吸収しているスコアに目をやる。
すると、全ての光が吸収された頃にはスコアの、秋山さんの名前の下に――
(4位 神北馳優 LV17)
「そ、そんな……」
僕の名前が映り出されていた。
これで僕もこの決闘に参加したことになる。なるほど、さっきの紫色の光は秋山さんに無理やり決闘をさせるための技だったんだ。どうして秋山さんが決闘をし始めたのかが分かった。
しかし、それは僕もだ。今、僕も負けてはいけない。僕が負ければ残りの対抗できる人は秋山さんだけ。そうなれば確実にNSCを持っている七星さんの方が有利になるだろう。
「そんなところでのんびりしていると、すぐにHPがなくなるわよ!」
地面を蹴り、斧の先を僕に向けながら突進してくる。
「!?」
倒れていた僕は立ち上がり、ギリギリのところで七星さんの斧から左側に避ける。
「そこに動くのは予想済みなんですよね~」
足を止め、すぐさま円を描くように自分自身を回転させながら斧を振り回す。
「うあっ!」
更なる攻撃に逃げようとしたが間に合わず、僕の体は斧の先に切り裂かれ、床を転がった。
HPが一気に半分になる。
やばい。技の切り替えた瞬間が見えなかった。それに僕と七星さんのLVの差は3。こんな掠り傷程度でも僕のHPが半分も減っている。これ以上、攻撃を食らってはいけない。
「ウフフ、どう? 私の強さ半端ないでしょう?」
今度は斧を天井に向け、自分の体の周りから赤黒い邪悪な光を発生させ、斧の先端部に光を集め出す。
痛くはないが……なんていう強さだ。
「さっさと私にひれ伏してちょうだい!」
斧の先に赤黒い光が集まり、半径五十センチ程の大きな円形のボールのような光ができる。
「(The great death high!)」
掛け声とともに、僕ではなく、僕の後方で刀を構えている秋山さんめがけて斧を上から下に振り降ろす。
すると、斧の先に溜まった大きな円球の球が先から離れ、秋山さんの元へと飛んでいく。
「させない。そんな願いなんて叶えさせないわ!」
秋山さんは刀を脇下に構え、その球めがけて走り出す。
「(炎龍抜刀!)」
脇の下から刀をだし、床の表面を斬りながら、摩擦の力で刀の白銀部分に炎を纏わせる。
白銀の部分が炎で纏われたのを見て、秋山さんが宙を飛ぶ。
「はぁ――――――っ!」
炎を纏った刀を自分の顔の前に突き出し、左の横降りで大きな球に刀の切り裂きを当てる。
途端にすごい音を立てて秋山さんの刀と球が激突した。
「なになに? 私の技に対抗するわけ? 無理に決まってるでしょう?」
球が秋山さんを押し始める。
「負けて……たまるか!」
秋山さんも負けずと押す。
僕もこんなところで倒れている場合じゃない。立ち上がり、秋山さんの様子を楽しそうに伺っている七星さんに向かって地面を蹴る。
「食らえ!」
「おっと、そうはいかないんだな~?」
僕の振りかぶった右拳をいとも簡単に避け、僕の背中を蹴り飛ばす。
「うわぁ!」
油断していたと思ったけど、全然してなかった。
僕のHPがさらに減る。もう赤色……無いと同じ状況だ。
「くっ……」
限界が来たのか、秋山さんが一方的に球に押され、そのまま壁に激突し、球が爆発する。
「秋山さん!」
秋山さんのHPが急激に減り、僕と同じくらいまで無くなる。
そんな……秋山さんにも太刀打ちができないなんて……
強いってもんじゃない。強すぎる。




