25LVの差の意味
放課後、僕は先に教室を出て、椋夜の居る三階の教室に行ったのだが、どうやら椋夜の友達曰く『あぁ、長次のやつなら一目散に生徒会室に行っちまったぞ?』と言ったので、僕は今、生徒会室に向かっている。
昼休み、僕は長瀬さんに言われた通り椋夜に言われたことをそのまま伝えると、仕方ないなというような感じに、椋夜は僕らとではなく教室で昼を済ませた。その時に何があったかは虫酸が走るほど聞きたくないので、その話には今後一切触れないでおこう。
三階の階段を下り、二階、一回と降りる。そして、左に少し移動すると和風な感じの部屋が一つあるのが見えた。
「ここだ」
僕は二回ノックの後、ガラガラとその和室の部屋を開ける。
「失礼されまーす」
「失礼セレブ(・・・)に来ただと!」
中に入ると、そこには失礼されますに滅茶苦茶驚いて、思わず失礼セレブと噛んでいる椋夜の姿があった。
教室の2倍ほどの大きさの和風だと思われていた生徒会室の中身は、和室ではなく会議室のような作りをしていた。
和室に見せ掛け……?
なんてことだ。入口と全然ギャップがあっていない。
和室は? 和室はどこいった!
僕は生徒会室をキョロキョロと見渡す。
「なんだ馳優? お宝とかは無いぞ?」
僕の姿を捉えた椋夜は、驚きを隠し安堵の息を吐きながら僕に言った。
「いや、それはわかってるけど……」
「わかっているだと……? お前この生徒会室にお宝がないとでも思っているのか?」
「え?」
あるの? それは是非見てみたい。
僕は、椋夜の顔へ目を輝かせて見つめた。
「なんだよ、その飢え死にしそうな顔は……?」
「違うし! 飢え死にじゃないしっ!」
なんだい飢え死にって? 僕の美しいキラキラした目と表情は、飢え死にしそうな人と同じ表情だって言いたいのか?
「じゃあなんだその顔は?」
「輝きのある、美少年の顔だよ」
「! まさか、お前からその言葉を聞ける日が来るなんて、一向に思ってなかったぜ……」
椋夜は、何故か感動のあまり涙を流し始めた。
「あ、いや……なんで泣くのさ?」
僕が美少年と言ったことに感動しているのかな? 別に冗談で言ったんだけど……。
「そんなの決まっているだろう! 俺の名前が美しすぎるからだよ!」
そっちかい!
全然、今話していたこととまったく関係のないことで涙を流してるよこの人!
「このナルシストが!」
少し椋夜の感動的な涙にがっかりしながら、思いのままを口に出す僕。すると、さっきまで涙を流し続けていた椋夜は、急に目から水を放出するのをやめ、代わりに口を大きく開けて
「だーれがぁ、ナルシーストだぁ~?」
僕を睨み始めた。
「と、とある外国人のことだけど? まさか、椋夜自分のことだとでも思ったわけ?」
少し動揺しながら言う僕。
「なんだよ、チャップリンのことかよ……」
チャップリン――喜劇王の異名を持つ数百年ほど前の人物。彼には数々の名言があり……
「って、確かにチャップリンは外国人だけど、そこまで自分をナルシスト扱いするほどの人じゃないでしょ!」
会ったことも話したこともないけど、自信満々に言う僕。だが、それを聞いて椋夜は元から開いていた目をさらにカッと見開き始めた。
「お前、チャップリンの凄さが分からないのか? チャップリンは俺の一番好きな人物であり、二番目に好きな名前なんだぞ?」
「一番じゃないんだ……」
「彼には沢山の名言集があり、その一つ一つが俺の心にグッとくる名言なんだぞ?」
まぁ、それは大体僕も同意するけど……
「今この学校に通えているのは、チャップリンのおかげ。生徒会長になれているのも、チャップリンのおかげ。そして、俺がこの世に存在していることは、両親のおかげなんだ」
「あ、最後チャップリンじゃないんだ」
この人、チャップリンになると面倒くさいな。チャップリンとの関わりが妙に膨大になってるし……どれだけ彼とチャップリンは親しかったんだ? 幼なじみであることが怖くなってきた。
「で、お前一体ここに何しに来たんだ? お前はここに来るの初めてだよな?」
唐突に話を変える椋夜。
「いやちょっと! なにこの唐突さ? もっと語ってからこの題に行こうよ!」
「なんだお前? そこまでして俺のチャップリンについて語って欲しいのか?」
「いや、遠慮しときます」
それよりも俺のって……。
「そ、そうか……」
あれ? 予想外だぁ! というような表情をして口ごもる椋夜。多分語りたかったのだろう。
疲れたので、僕はひとつ息を吐いてから冷静になる。
そういえばすっかり忘れていたよ……僕はここへ椋夜に用があって来たんだった。それなのに、なぜ僕はこうやって無駄話をしてるんだ? 早く本題に入らないと……。
僕が言いたいのは、椋夜のせいで色々と面倒な人たちに決闘を申し込まれるんだってこと。だけど、なんだか言う気もなくなっちゃった。
それよりも、もっと聞きたいことが頭に浮かんだんだ。
「いや、ちょっと椋夜に用があってね」
「用?」
長瀬さんたちとの決闘中、LVの差の話の時に思ったのだが、LVが高いほど強いという事は、LVが全員より3以上になるのは容易なんじゃないだろうか?
今の最高LVは、秋山瑠奈さんのLV8。LV6の生徒と闘えば、確実にLVの差を広げることは可能なのだが……そんなことをやったりしているのだろうか?
僕は今のことを、椋夜にそのまま伝えた。
「ほう、いいことに気がついたな」
あれ? 褒められた? 違うか。
「確かに、LVの差は力の差だ。1でも違えばそれは大きな力の差となりうる」
それは僕も身を持って経験した。LVが2違うだけでもあんなに苦戦したんだ。長瀬さんだってきっと三人がかりじゃなかったら倒せなかっただろう。ということは、LVが3差あったらどうなるのだろうか? 一撃当たっただけで負けそうな気がするんだが……
「だがな、別に闘いは決闘に限られたものじゃないって知ってるよな?」
「まあ……」
忘れていた。確かに、LVやHPは無関係だが、決闘を始める前から遊びでやっていた能力を使ったじゃれあい。
別に、決闘をしなくたって闘うことが可能なんだ。
でも、それがどうしたんだろう?
「つまりな? 考えるやつは考えるんだよ。相手に願いを叶えさせない方法を」
「相手に願いを叶えさせない方法?」
それは凄そうだが……一体どうやるんだろう?
「例えばだが、俺が見た限りではまず決闘とは関係なしに、LVの高い奴とじゃれあいのように闘う。決闘をしていなくても力の強さはいつになっても引き継がれるので、当然のことLVの強い奴が有利。しかし、そこが落とし穴なんだ」
「落とし穴?」
決闘でもないじゃれあいをしてどうして落とし穴なんて言葉が出てくるんだろう? じゃれあいは楽しいものなのに。
「疲れというのは、決闘を始める際も終わる際も続くものだ。よく考えている者はそこが倒す狙い時だと思い、襲いかかっていくんだ」
「!」
なんてずる賢い連中なんだ。僕もLVが上位にいったら気を付けないとな。
「でも、それなら決闘を断ればいいんじゃないの?」
疲れてまで無理やりやるものではない。
そう思ったのだが――
「それは無理だ」
「どうして?」
「この決闘では、LVの高い者からの決闘は断れるが、LVが低い者からの決闘を断ることは出来ないんだ」
な、なんだって! それじゃあLVの高い人は永遠に闘い続けなきゃいけないじゃないか!
それは地獄といっていいほどだ。楽しい決闘が地獄になる瞬間じゃないか。
僕は眉間にしわを寄せる。
「心配するな」
「なにを?」
「その苦難を一度でも乗り越えてみろ! そこは楽園だ」
乗り越えたら楽園?
指に顎を載せて考える。
あ、本当だ。
その苦難を乗り越えるということは、全員とのLVの差が3以上を超えるということ。そうなると、願いへの道が開かれる。
なるほどなるほど。苦あれば楽ありか(なにか間違ってる?)そうなると、願いが叶うのはもう少しあとになりそうだな。




