02出番をとられていた
「うわぁ~っ! 寝坊したよぉ~っ!」
あさ、私は五回目の目覚ましでようやく目が覚めた。
「たいへんだ、はやく起きないと遅刻しちゃう!」
ピンクの可愛らしいクローゼットの中から、私が通っている空房高校の制服である、灰色がかったセーラー服と純白のスカーフ、そしてセーラー服と同色のスカートを手にとって着替え始める。
腰まで届く長い髪をクシで溶かし、赤色のゴムで一つ縛る。左耳の上の方には透明なひらひらの付いた白のリボンを付けて準備完了!
「よし!」
鏡で自分の顔を見たあと、私は寝巻きをクローゼットに強引に入れた。
この空房高校は全寮制。私も寮に住む一般生徒だ。
今日はみんな早く寮を出てしまったんだった。なんで起こしてくれないのよ、もぉ~……
と、一人で唸りながらも着替え終わり、そのまま私は部屋の窓から長縄を吊るしてジャンプ! 急がば回れだ。
シュルシュル……
と、手のひらと縄のこすれる音を聞きながら、ぶじ砂場の地面に着地する。
散歩中のおじいさんとおばあさんに驚かれてたみたいだけど、気にしちゃノンノン。
「ふぅ……さて、急ぐぞぉ~!」
私の部屋は窓から降りると校門からは裏なので、半周回って手に持ったカバンを傲慢に揺らしながら学校へ急ぐ。
あ、そういえば自己紹介を忘れちゃってた。てへっ!
「私の名前は相沢梨乃。この物語の主人――」
真っ直ぐな、500メートルほどの長い道路を走っていると、見知った顔の子が道路の中央で体育座りをして、私をじっと見据えているのが見えたので、口が止まってしまった。
ついでに足も止まった。
「えと……その……」
あの子知ってるんだよね~……というか知りすぎてんだよね~……。
私はその子の顔を見ながらジト目を返す。
「ねぇ、梨乃……」
体育座りをしていた子が急に立ち上がり、私の名前を呼んだ。
「なに?」
そ、そうだ。あの子の名前を紹介してあげないと……えーとね、あの子の名前は――
「ちょっとモノローグを語る前に僕の話を聞いて欲しいんだけどさ?」
私にゆっくり近づいて来る子。しかし私は一歩も引かない。だって知ってる子だもん。知っててさらに仲が良いのだから引く必要性がない。
「なにを聞いて欲しいの?」
カバンを手に持ったまま腕を組む私。そんな私に向かって、この子は大きな口を開けて声高らかに言った。
「いい? 主人公は梨乃じゃないから! 主人公はこの僕、神北馳優だからね! なに主人公じゃない梨乃が先陣切ってるわけ? あー、これはもう今世紀最大の失態だよ!」
大きな声に思わず組んでいた手を耳に当てる。
もう、急になんなの? 頭がくらくらするよぉ……
「はぁ……はぁ……」
息を切らしながら、また元の道路の真ん中に腰を掛けてしまったちゆう。
「?」
そんな彼に、私は顔を傾ける。
「えーとね、今僕が座ってるところから先に梨乃が足を踏み入れると、今の梨乃の立場と僕の立場を入れ替えるから。いいね?」
入れ替える? それは、えーと……
「ちゆうは女の子になりたかったの?」
「ち、違うから! そういう入れ替えじゃなくて、僕が言ってるのはこういうこと、今梨乃目線でしょ? だからここから先を超えたら強制的に僕目線にするってことを言ってるの!」
えー……いーやーだぁ――っ!
もう最初から私なんだからこのまんまでいいんじゃない?
「じゃあ私、こっから先出ない!」
ちゆうの真正面にブルーシートを広げて正座で座る。
「!」
「これでよし♪」
私は鼻歌混じりの歌を口ずさみながら、ちゆうの真正面でお弁当を開いた。
「弁当って……起きたばっかりだよね? もう食べるつもり?」
「だってしょうがないじゃん? 私はもうここから一歩も前へ出られないんだから」
そう言って弁当箱を広げようとしたとき、急にちゆうが立ち上がり、ポケットの中から黒い球を掴み取って、私に突き出してきた。
「ふぇ?」
「言うことを聞かない子には、お仕置きかな?」
その小さな球を自分の左の二の腕に近づける。すると、球体だった物体が淡い光を出してリング状の形になり、二の腕にぴったりと張り付いた。
「ん~と……」
仕方なしにと私もセーラー服のポケットから同じ物体を取り出して、ちゆうに掲げる。
「えへへ……」
苦笑いをしながら、私もちゆうがやったようにこの丸い物体を二の腕に近づけ、淡い光を出してリング状になったそれを貼り付けた。
「え……ちょっと、梨乃も使うの……」
「うん、もちろんだよ?」
目を白くしてちゆうの動きが止まった。
私は目を閉じて、この黒いリングのことを考えるために集中をする。
とたんに、私の二の腕に張り付いているリング状になった物体が虹色に輝きだし、私の手のひらに輝く粒子がまとわり付く。
そして徐々にその粒子は私の体の中に入った。
「ちょっ……(ブクブクブク――)」
ちゆうが私の手のひらにあるものを見て口から泡を吐き始めた。
私の手のひらには、さっきまでなかったものがピチピチ動いている。
《 金魚 》
そう、小さな金魚だ。
私の手のひらにある少量の水を頼りに活発に動いているようだ。
えへへ、可愛い。
私は親指で金魚のウロコをツンツンと触る。
「(ブグググググ――)」
「……?」
そうだった。ちゆうは魚を見たりするのが嫌いだったんだった。
泡を吹きながら後ろに倒れていくちゆうを見ながら、私は金魚を光の粒子に変えた。
そう、今私が付けるこのリング状の物体。これが――