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17決闘1位者の存在

 ――数年前――


 僕と梨乃は一度、誤って一時間以上早く学校に登校したことがある。

 その時一度帰ろうとしたものの、僕らの教室の明かりが点いているのが見え、僕らは迷うことなく校内に入っていった。


「……ちゆう、て、つなご?」


 薄暗い、誰もいない廊下で、身を震わせながらぼくに手を近づける。


「え? うんいいよ」


 軽く、その手を握った。

 冷たくて小さな、震えた手。

 よっぽど怖いんだ……。ぼくはその手をギュッと握ってあげて、そして言う。


「大丈夫。まだ朝だし何も怖いものなんてないさ。もしなにか出ても、ぼくがなんとかしてやるよ」


 甲高い声で梨乃にガッツポーズをとる。

 怖いものなんてあるものか! ぼくは強いんだ。なにが掛かってきても相手にならないね。


「ホ……ホント?」


 涙目になっている梨乃が、僕の顔を覗き込む。


「あぁ本当さ。なんたってぼくは強いんだぞ!」


「そ、そうだね」


 ぼくがにっこり笑うと、梨乃もにっこりと笑った。

 ああ、ぼくは梨乃の笑った顔が好きだ。

 大好きなんだ。だから――


 だから?

 だからなに?

 この気持ちは……なんだろう…………。




「…………」


 夢の途中で僕は目を覚ました。


「…………今のは……」


 僕が子供だった頃の夢だ。懐かしいな、今更こんな夢を見るなんて。

 でもあの日、結局何の日だったっけ? 誰かと出会ったとかそういう日だった気もするけど……どんな日だったかな?


「忘れちゃった……」


 両手で頬を叩き、僕はベッドから立ち上がる。

そして、勉強机の上に置いてある、鋼色の目覚まし時計に目を向ける。


 ――六時四五分――

 遅くもないし早くもない。普通の時間だとは思うが――


「よぉ、相変わらずお前は遅いな」


 制服に着替え、自室を出てリビングに顔を出すと、椋夜を揃えて万桜、梨乃、三人とも、既に卓袱台の周りに腰掛けていた。(梨乃の座布団が四枚になってる!)


「ホント、毎回ちゆうがおそい……」


 口元を手で押さえて、大きなあくびをしながら言う梨乃。全然説得力がないよ……。


「そうだね、どうせ僕は遅いですよぉ~」


 なんたって、昨日は自室でおままごとをしていたんだもん。寝る間も惜しんでやっていたから疲れてるんだよ……


 みんなが卓袱台の周りに座っているので、僕も、自室に一番近い(いつもの位置)に座り込んだ。


「まぁ、馳優が遅いのは昔からだからともかく――」


 消しゴムで鉛筆を子供のように突き刺しながら、僕を見ずに言う。

 って、ケシゴムデ、エンピツヲ?


「どうやらもう決闘をやり始めた連中がいるみたいだぞ?」


「え? もう?」


「ああ」


 早いな。僕たちの一回戦を見て、やる気になった人たちがやったんだろう。

 そう思うと、一回戦の敵は怖かったのはともかく、やって良かったなと思えてくる。


「私の強さに惚れたってわけね」


 長いポニーテールの髪をなびかせる梨乃。まぁ、そういうことにしておこう。


「ところで、何故他の奴らが決闘をしていたなんて分かったんだ? 直接見たのか?」


 万桜が疑問そうに訊く。


「いや、直接は見ていない」


 今のは僕も疑問に思う。直接見たならともかく、直接見てないとしたらどうやって……?


 椋夜は、自分のポケットからステルス・ファクトを手に取り、僕らに見せびらかすように、ところどころ空いている小さな穴に向かって自分の携帯電話の赤外線部分を近づけた。


「な、何してるの?」


 アドレスの交換? 友達がいない人が密かにそんなことやってそうだな。


「今、情報を携帯の中に送信している」


 情報を携帯の中に? またステルス・ファクトの隠された力が関係しているのかな?


「情報ってなんの情報?」


 梨乃が一枚の座布団を手に取って、自分の手元でギュッと抱えながら顔を傾ける。


「決闘を行う際の、全ての者のLVのランキングをだ」


 LVのランキングだって? 勝てば勝つほどLVが上がるというあれ……ランキング制にしていたのか!


 でもなんとなく分かる。ランキング制にすれば、今誰が上位にいて誰が勝ちそうだということが分かるから、その人に願いを叶えさせまいとみんなが頑張るはずだ。それに戦略とかも立てられる。椋夜はそこまで計算した上でランキング制にしたんだろうか?


 やっぱり彼は凄すぎる。僕の憧れの存在だ。

 と、僕が人知れず尊敬の眼差しを向けている中、椋夜は準備できたのか、携帯電話をステルス・ファクトから離し、ステルス・ファクトをポケットにしまった。


「これが、今の順位だ!」


 バッと、僕たちに携帯電話の画面を向ける。

 えーと、なになに?


「『はいっ! 椋夜様へメールが届いております☆』?」


 なんだろう? 画面上には、吹き出しのように書かれた、僕が読んだ文字と、いかにも魔法少女という感じの姿をした、茶髪のショートで貧乳の可愛いアバターが映し出されていた。


「椋夜……」


「やっぱりこいつ、キモいな……」


 梨乃も同じことを考えていたみたいだ。椋夜を別世界の人間を見ているような目で見ている。


「なんだよ急に……って、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 今までにない叫びとともに、画面を見た椋夜はすぐさま画面を自分の方に向ける。


「やっば、俺のイメージが崩れそうだった……」


 もう崩れたと同じことだ。

 それにしても、メールが届いていますということは、あれはメールが来たときの受信画面ってことかな? あれが椋夜の好きなタイプかぁ~……どこからどう見ても……


「この、ロリコンッ!」


 思わず、椋夜に向けて叫んでしまう。


「ぐ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 これぞまさに絶叫!

 何かに負けたように、両手で頭を押さえながら後方へと倒れていった。


「…………哀れだ」


「だな」


 それを見て、梨乃と万桜が首を上下に振る。


 なんだか三体一の、決闘でいえばまさに絶体絶命という状況のようだ。あの時、太田君は後藤君と七星さんが負けて逃げようとした。最後に僕がトドメを刺したわけだけど、やっぱり不利になってしまったら逃げてしまうのかな? 僕はそんな状態になっても絶対に逃げはしないけどね。


 そんなことを思っていると、絶叫から立ち直った椋夜は改めて携帯の画面を僕らへと見せる。


「今度はどんなロリコンアイテムなの?」


「いや、その話はもうよしてくれ……」


 ため息一つ付きながら、僕らに自分の携帯電話を渡す。


 画面を見るとそこにはたくさんの生徒の名前が1~50位まで並んでおり、ベスト5までが大きく記されている。名前と逆の位置には現時点のLVが映し出されていて、誰が今何LVになっているのか見ることが出来るようになっている。


 僕は、その中に書いてある、飛び抜けて高いLVの1位の生徒の名前を見ていた。



(1位 秋山瑠奈(あきやまるな) LV8)



 一日も経たずにどうしてここまでLVを上げられたのだろうか? 現時点の2位の生徒ですらLV6なのに……すごい人だ。


 今、2位はLV6なのだが、ここに載っている3位~8位までも実はLV6なんだ。僕たちはまだLV2。まだまだ強敵がたくさんいそうだ。


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