16今、この瞬間を楽しみたいから
「すまんすまん。どうでもいいから話に戻させてくれ」
そんなことを言うが、どっちから話を変えてきたと思っているんだ!
根本から考えると、どう考えても……いや、僕だ! 僕がステルス・ファクトに土下座しながら願いを言ったのが原因だった。それに、今思ったのだがなぜ僕は願いの内容を『ステルス・ファクトよ、僕に願いを叶えたまえ~!』で終わっているのだろう? これじゃあ願いが叶ったとしても何が叶ったのかわからない。いや、願いを叶えたことが叶ったことになるのか……? それでは何も叶っていないと同じじゃないか!
心の中で色々と突っ込む僕をよそに、椋夜が話の続きを始めた。
「つまりだな、この『三つの願い』を叶えるためには、それなりの行動を取る必要があるんだ」
「それなりの行動……?」
「だから決闘なんかを始めたのか?」
理解ができたのか、万桜が口を挟んだ。
「あぁ、そういうことになる」
なるほどなるほど、決闘をやろうとした理由がわかったぞ! これで少しはステルス・ファクトの姿を知ることが出来たんじゃないだろうか?
少し満足する僕。
「それじゃあ、決闘っていうのは願いを叶えるために必要な強さを確保するために行ったことなの?」
手元から小説を落として寝入った梨乃をよそに、床に置いたステルス・ファクトを拾い上げて卓袱台を正面にして座る僕。
「あぁ、そういうことになる。それに、この方が面白いだろ?」
「確かに面白いことは面白いけど……」
願いを叶えるためには、ライバル(校内の生徒)に勝ち進んでいかなければならない。それこそ数日で終わるものではないだろう。だとしたら願いを叶えられるのはまだまだ先になるということだ。
「椋夜は自分が願いを叶えられなくてもいいの?」
「何を言っている? 自分で勝利を目指し突き進み、願いというものを手に入れるからこそ意味があるんだ。別に俺は願いを叶えたいわけでもなんでもない。ただ、決闘という、今この瞬間を楽しみたいだけなんだ!」
願いなんかどうでもいい、ただ今を楽しみたいだけ……
そうか、そういう考えもあるのか。僕はただ願いを叶えたいとだけしか思っていなかったよ。
「そうだね」
やっぱり椋夜はいろいろと凄いよ!
最後の部分だけは恥ずかしくて口に出せなかったので、心の中だけで言っておく。
「なに……? 話終わった?」
眠そうな目を擦りながら、僕たちの会話が止まったのを見て口を出す梨乃。
「いやいや、終わったもなにも梨乃寝てたじゃん……」
「寝てなんかない! 目を瞑ってただけ!」
「寝てると一緒じゃないか!」
何が違うと言うんだ?
それにしても、よく僕たちのうるさい声を聴いて寝ることができたな。僕だったら寝ようとしても、あまりのうるささに寝るどころかのたうち回ってそうだ。
そんな僕らの会話をよそに、ふと椋夜が立ち上がった。
「どうした急に、風邪か?」
「あぁ、インフルエンザにかかったみたいだ」
立ち上がった椋夜を見た万桜が、よく分からないが心配すると、なんと椋夜がインフル発言!
「いやいや、今は夏だからね? インフルは冬」
「それがどうしたぁ~~~~~~~~~~~!」
ドカーンッ!
という効果音が似合いそうなほどの大きな声で叫ぶ椋夜。
「まぁ、インフルというのは冗談で、俺は今から自室に戻る。ルームメイトが待っているからな」
「あ、わかったよ」
ルームメイトか……椋夜も学年が一緒だったらルームメイトになれたかもしれないのに……年の差というものはことごとく邪魔をしてくれる。
「とりあえず……」
万桜が巫女衣装を整えながら僕の方を向いて立ち上がる。
「とりあえず?」
「オレたちも願いを叶えるために決闘というのを頑張っていかないといけないな」
決闘……そうだ。
僕は絶対に勝ち進んで願いを叶えてもらえるようになるんだ!
願いの内容なんてまだ決まってもいないけど、願いのため……決闘を頑張っていこう。そう、心に誓った。