10ゲーム……スタート
どうする? こんな強い相手といきなり闘わなくちゃいけないの? 怖いどころの問題じゃない。
怖すぎる。
「えと……どうして?」
「お前らが本当にあの生徒会長から決闘についての攻略法とかを教わっていないかを確かめさせてもらうためだ。もし必ず勝つ方法とかを知っているのならば、このゲームは成立しないだろう?」
「そうそう、私だって願いを叶えたいの。いいえ、私は絶対に願いを叶えたいの!」
確かに、成立はしない。でもだからってそれを確かめるために決闘をするなんて……しかも初にヤンキーどもとだ。
僕が少し悩んでいると――
「馳優、梨乃、やるぞ」
突然僕の前に体を突き出した万桜が、強い口調で言う。
「おぉーおぉー、やるぞぉ~!」
梨乃が僕らの方を向き、両手を大きく回し始めた。
なんだよ……このふたり乗り気じゃないか……。
「ここでオレたちが何も教わっていないと証明すればいいんだろう? それにこの初決闘は、今後の決闘に大きな影響を与えるかもしれない」
万桜が僕の肩に手を乗せる。なんてやる気なんだ。そのやる気に惚れてしまいそうだ。
「わかった、僕もやる!」
万桜の勇姿を見て、なんだか僕もやる気が出てきた。
よし、頑張ろう。
僕ら三人で手を合わせ、決意の眼差しを見せ合う。
よし、これで決闘への心構えができた。
「なによ、意外に乗り気ね」
「へぇ、随分と張り切りだしたじゃねぇかぁ! 面白くなってきたぁ~!」
オールバックの生徒が腕をコキコキ鳴らす。
「あら、いい目ね? あ、そうそう私の名前は七星よ、よろしくね」
梨乃に手を伸ばし、握手を交わす。
七星さんか……怖そうなイメージだったけど、オールバックの生徒よりは断然いい人だ。
「ではとりあえず、初めての決闘を始めたいと思う」
坊主頭の生徒が手を上げる。その行動を見て、僕ら三人は身を少し屈める。
体育館で椋夜は話していなかったが、この決闘では始める際に誰かが片手を宙へと上げて『ゲームスタート!』と叫ぶ必要がある。
なぜそんなことが必要なのか、それは例えるならば、ゲーム機でゲームを始める際、何も押さずにゲームを始めるのは無理だよね? ちゃんと電源ボタンを押さないとゲームができない。それと同じで、決闘も始める際は電源を入れるような感じで『ゲームスタート!』と言わなければいけないらしい。
「それでは、『ゲームスタート!』」
坊主頭の生徒の声が響く。
同時に、この学食の天井の方に、大きな画面が現れた。
そこには、緑色の細長い線が左右それぞれに三つずつ映し出されていて、その一つ一つに、僕らのであろう名前が映し出されていた。
「あら、こんな風になっているのね」
誰も決闘をやったことがないので、こんな光景は初めてだ。
僕は大きな画面に注目してみる。右側には上から順に、神北(HP)神田(HP)相沢(HP)と書かれており左側には、後藤(HP)太田(HP)七星(HP)と書かれていた。
HPの場所は緑色の線になっている。いわゆる体力ゲージだ。
七星さんはともかく、どっちが後藤君でどっちが太田君なのかがわからない。
「あの、どっちが後藤君なんですか?」
「あぁ? 俺に決まってんだろうが!」
うわっ! よりにもよってオールバックの人だったとは……この人だけは相変わらず怖いな……。
「じゃあ、見物も済んだしそろそろいいか?」
坊主頭こと太田君がそう言って、ポケットからステルス・ファクトを取り出す。
それを二の腕に近づけると、それはたちまち形を変えてリング状になり、二の腕に張り付いた。
決闘では当然のこと、ステルス・ファクトを使用する。
なんだか雰囲気的に素手同士の殴り合いかと一瞬思ってしまったが、ヤンキーを見ているからだろう。
「ほら、お前らも付けろ」
太田君の声に、僕を合わせて残りの五人が一斉に付けた。
これで準備は完了だ。いつでも決闘に望める。
僕は、能力を引き出すために必ずしなければいけない『集中』を、両手を前に突き出してし始める。自分の中に眠っている力を発揮するには、集中が必要なのだ。
ステルス・ファクトは、決闘前から何度も使っているから、自分の能力がどういうものかはわかっている。
しばらくすると、僕のリング状になったステルス・ファクトが虹色に輝き、輝く粒子が僕の体全体にまとわり付く。
この粒子は、個人個人の能力でまとわり付く場所が全然違う。武器を扱う能力だったら、自分の手元にその人にあった武器が粒子となって手元にまとわりついて体の中に入っていく。武器でもなく身体に力が及ぼすとき、僕のように粒子が体全体にまとわりつくんだ。
つまり、僕の能力は武器ではなく身体的能力ということになる。
「よし、行こう!」
集中も終え、万桜と梨乃に声をかける。
「あぁ、了解した」
「わかったよ!」
二人とも声を上げ、僕とともにヤンキー三人を見つめたその時――
気力が失せた……