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部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ  作者: 雲居 残月
ネットスラング編4

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第80話「ワッフルワッフル」

 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部には、トラブルメーカーが集まっている。そして日々、周囲を巻き込んで困った事態を引き起こしている。

 かくいう僕も、そういったお騒がせ人間の一人だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。


 そんな、はた迷惑な面々ばかりの文芸部にも、優等生な人が一人だけいます。害虫の群れの中に紛れ込んだ益虫。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。


「サカキく~ん。ネット詳しいわよね。教えて欲しいことがあるの~」


 間延びしたような声が聞こえて、僕は顔を向けた。楓先輩は、ととととと、と歩いてきて、僕の横に座る。僕は、触れ合っている先輩の体温を感じながら、声を返した。


「どうしたのですか、先輩。ネットで、新しい言葉を見かけたのですか?」

「そうなの。サカキくんは、ネットをよく観察しているわよね」

「ええ。イージス武器システムMk.7並みに、ネットを監視して迎撃可能です」

「そのサカキくんに、聞きたいことがあるの」

「何でしょうか?」


 先輩は、最近ノートパソコンをお父さんに買ってもらった。文芸部の原稿を、家でも更新するためだ。先輩は、そのパソコンをネットに繋いだ。そこで活字以外の文章情報に出会った。そのせいでネット初心者の楓先輩は、ずぶずぶとネットの罠にはまりつつあるのだ。


「ワッフルワッフルって何?」


 び、微妙に性的な言葉だ。字面だけ見ても分からないけど、これは性的な文脈で使われるフレーズである。

 どうするか? 起源から使い方まで含めて、エロ的な展開は避けて通れない。そこはかとなく難易度が高いなと思い、僕は答えに躊躇する。

 ぼかして言おう。それしかない。僕は方針を決めて、口を開いた。


「この言葉は、ある特定ジャンルの書き込みに対して使われる言葉です。元ネタは、ネットの掲示板の書き込みだと言われています。


 ある掲示板での話です。画像が欲しいのならば、この書き込みを見ている全員が馬鹿であると宣言しろという流れになりました。そして、『画像欲しけりゃOur fool.って書けよ』と文章が投下されたそうです。ちなみに、この、『Our fool.』というのは、正しくは『We are fool.』です。

 この『Our fool.』の書き込みが『あわふーる』『わっふる』と変化したとされています。


 実際の使われ方としては、特定ジャンルの書き込みを途中で中断して、最後の行に『(全てを読むにはワッフルワッフルと書き込んでください)』と記して使います。

 また、そこから派生して、続きを期待したり要求したりする時に、ワッフルワッフル、あるいはひらがなで、わっふるわっふると書くようにもなりました。これらはさらに短く、ワッフル、あるいは、わっふる、になることもあります。


 ワッフルワッフルは、このように、現在では歌舞伎の掛け声みたいに使われます。『成田屋!』『待ってました!』みたいな掛け声を受けて、演技を続けるように、ワッフルワッフルと言われて、続きを書くみたいな流れがあるのです」


 僕は、「性的な」の部分を「特定ジャンル」としてごまかした。そのあとに説明を濃厚に展開した。これで先輩は、特定ジャンルのことを忘れて流してくれるだろう。


 ついでに、駄目押しとしてアスキーアートも紹介する。これで、先輩の注意は逸れるはずだ。


  _  ∩

( ゜∀゜)彡 ワッフル!ワッフル!

 ⊂彡


「へー、ワッフルワッフルには、そういった意味があったのね。それで、特定ジャンルって何?」

「うっ」


 スルーされなかった。


「続きを教えて。ワッフルワッフル」


 楓先輩は可愛らしく声を出す。ああぁぁ。僕は、めろめろになって、自滅への道をたどりそうになる。

 その時である。部室の一角で「ガタン」という大きな音がした。うん? 何だろう。僕は、その音がした場所に顔を向ける。そこには、僕と同じ二年生、鈴村真くんが立っていた。鈴村くんは、顔を真っ赤に染めて、僕の方を見ている。


 鈴村くんは、華奢な体に、女の子のような顔立ちの男の子だ。そんな鈴村くんには、他人に隠している秘密がある。実は鈴村くんは、女装が大好きな、男の娘なのだ。彼は家に帰ると、女物の洋服を着て、等身大の姿見の前で、様々な可愛いポーズを練習している。そして、女の子の格好をする時には、「真琴」という女の子ネームに変わるのだ。僕は、その真琴の姿を、これまでに何回か見たことがある。その時のことを頭に浮かべながら、鈴村くんの姿を見た。


 そういえば。

 僕は、昨日の昼休みのことを思い出す。僕は鈴村くんに相談事があると言われて、一緒に屋上に行ったのだ。

 そこには誰もいなかった。昼の太陽が照らす下、僕は鈴村くんと二人切りでたたずんだ。


「相談事って何だい?」


 僕は、頼れる親友という立場に満足しながら、鈴村くんに尋ねた。


「ネットのことなんだ」

「僕は、ネットの達人だからね。どんなトラブルも任せてくれ」


 僕は自信に溢れた声を出す。事実、この学校で、ネットに関して、僕の右に出る人間はまずいないだろう。鈴村くんは、はかなげな笑みを見せる。その顔は、どことなくやつれているように見える。何か重大なトラブルがあったのだろう。僕は、鈴村くんの置かれた立場を、そう想像した。


「実は、ネット掲示板に書き込みをしたら、謎の返信があったんだ」


 鈴村くんは、スマートフォンを取り出して僕に見せる。僕は、鈴村くんが書き込んだ内容を確認する。


 ――中学二年生の男子です。女装が趣味です。普段は、自分の部屋でしか女装をしないのですが、たまに外でおこなうこともあります。


 ――中二くん。外で女装をする時って、不安じゃない? 実は、自分が、女の格好をした男にしか見えないんじゃないかと、びくびくして態度に出たりしない?


 ――不安です。だから、たいてい、誰かと一緒に外を歩きます。


 ――誰かとって、誰? 男の子、女の子?


 ――クラスの友人です。男の子です。


 ――ワッフルワッフル。


 オウフ。僕は、この書き込みをした人が、何を期待したのか分かった。中学二年生の女装好き男子と、その友人の男の子が、「続きを見たいならワッフルワッフル」な展開になることを望んでいるのだ。何たる破廉恥な書き込みだ。僕は、鈴村くんの代わりに、ぷりぷりと怒る。


「あのね、鈴村くん。このワッフルワッフルは、性的な書き込みの続きを期待して、要求する決まり文句なんだ。つまり、これを書いた人は、ちょっとエッチな展開を書けと要求しているんだ」

「何だ。そうだったんだ。じゃあ、続きを書くね」

「うん……ホワッツ!」


 僕は驚きの声を上げる。謎が氷解した鈴村くんは、スマートフォンを操作して、続きを書こうとする。

 おいおい、ちょっと待ちなよ鈴村くん。僕は、心配になり、鈴村くんの顔の横からスマートフォンを覗き込む。鈴村くんの髪のよい匂いがした。それは女性の髪の匂いと同じで、僕は鈴村くんに真琴を意識した。


 ――僕は、その男の子を外出に誘いました。駅で待ち合わせをして、彼に映画のチケットをあげて、映画館に向かいました。僕は女の子の服装をして、ばっちりメイクをして、可愛らしい仕草で女の子を装いました。彼と一緒にポップコーンを買って、暗がりに入りました。ポップコーンに手を伸ばすたびに、僕たちの指は触れ合います。そのたびに僕の心臓はドキドキとします。そして、いつしか、僕たちは手を繋ぎました。彼の手のぬくもりが、僕の心臓を高鳴らせます。初めは緊張しましたが、徐々に体の固さは取れて、僕は指先の力を抜きました。


 こ、これは、僕との映画鑑賞のことではないのか?

 真琴は、送信ボタンを押す。画面が遷移して、鈴村くんの文章が表示される。鈴村くんは、僕の顔を見て、艶のある笑みを浮かべる。それはまさに真琴の、女の表情だった。

 狼狽する僕の前で、真琴は画面を更新する。


 ――ワッフルワッフル。

 ――わっふるわっふる。

 ――ワッフル。

 ――わっふる。


 続きを求める書き込みが、すかさず投下されていた。


「ね、ねえ、真琴。もしかしてこれ、僕とのこと?」


 真琴は、顔をほのかに染める。そして、スマホの画面を僕に示してきた。


「続きが知りたいって」

「続きって?」


 真琴は僕を見つめる。僕も、真琴の目を覗き込む。二人の顔が近付く。その顔が触れ合いそうになる。

 その時、騒がしい音が聞こえてきた。屋上の扉が開き、他の生徒たちが上がってきた。僕と鈴村くんは、素早く離れて気持ちを落ち着かせた。

 昨日の昼休みに、そういったことがあったのだ。


 僕は、部室に意識を戻す。僕は、隣にいる楓先輩と、慌てて僕を見ている鈴村くんの姿を確認する。


「ねえ、サカキくん。ワッフルワッフルは、どういった分野で使うの? わっふるわっふる」


 楓先輩は、再び僕に質問する。

 僕は、顔を赤く染めながら、どう答えようかと考える。このままでは、楓先輩が常にワッフルワッフルと言う女の子になってしまう。それは、様々な話題に食いついて、性的な続きを要求する変な人になるということだ。

 それはまずい。楓先輩が、変態さんだと思われてしまう。僕は、楓先輩が誤解されないように、意を決して説明することにした。


「ワッフルワッフルは、主に性的な分野で、書き込みの続きを要求する言葉です」

「えっ? じゃあ、私がワッフルワッフルと言っていたのは……」

「そうです。そういった方面の話題を希望している、といった意志表明になります」


 楓先輩は、羞恥で顔を赤く染める。そして、少し離れた場所で反応している鈴村くんの姿を見た。


「鈴村くんは、どうしてこの言葉に反応して、恥ずかしがっているの?」


 楓先輩の鋭い質問に、僕と鈴村くんは狼狽する。


「もしかして、サカキくんと二人で、ちょっとエッチな話題で盛り上がっていたの?」


 僕と鈴村くんは、気まずそうに視線を逸らした。


 それから三日ほど、僕は楓先輩にワッフルワッフルと言われないか、びくびくして過ごした。しかし、楓先輩は、真面目でおしとやかで、純情な方なので、僕と鈴村くんに性的な話題を要求してこなかった。

 ふう、よかった。僕は、ほっとして胸をなで下ろした。


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