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第130話 挿話30「文化祭と氷室瑠璃子ちゃん」

 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部には、鋭敏な頭脳の者たちが集まっている。そして日々、厳しい批評眼で物事を見つめている。

 かくいう僕も、そういった峻厳な態度で何事にも臨む人間だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンでネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。


 そんな、厳格一辺倒な人間ばかりの文芸部にも、ほんわかした人が一人だけいます。鉄壁の城塞にやって来た、やわらか戦車。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。


 楓先輩と僕の部活は、今は文化祭準備の真っただ中。満子部長が、猫耳メイド喫茶をすると言い出したために、どうやって実現しようかと右往左往しているのです。何せ去年の出し物は闇鍋で、喫茶店をやったことなど一度もないのです。これは困った。本当に困った。


 というわけで僕は、苦手な相手、一年生の氷室瑠璃子ちゃんと一緒に、コーヒー豆をどうやって安価に調達するのか、打ち合わせをしていたのである。


「ねえ、瑠璃子ちゃん。コーヒー豆を安く手に入れるって、そもそも無理じゃないかな。今回の店の企画は、きちんとした産地の豆を手に入れないと成立しないよね。各産地の豆に合わせた掌編小説を、添えて出すというものだし」


 僕は、初めから弱気な考えで、瑠璃子ちゃんに話しかける。瑠璃子ちゃんは冷たい目で僕を見たあと、あきれたような口調で声を返してきた。


「努力する前に、諦めるのですか? それだからサカキ先輩は、テストで赤点ばかり取るのです。それとも、そういった怠惰な生き方しかできない、欠陥でも抱えているのでしょうか?」


 ううっ、相変わらず物言いが厳しい。僕は蛇ににらまれたカエルのようになり、身を縮こまらせる。

 瑠璃子ちゃんは、その名の通り、僕に対して氷のように冷たい女の子だ。だが、瑠璃子ちゃんの特徴は、それだけではない。どう見ても、小学校低学年にしか見えない外見。そして人形のように整った顔。その姿と、目付きと、きつい性格のせいで、「幼女強い」という謎の陰口を叩かれている女の子だ。


 その瑠璃子ちゃんは、なぜか僕に厳しい。「エッチな情報ばかり追いかけているのは、人間としての理性が欠けているからですか」とか、「テストの点数が悪いのは、もしかして問題文を読むことができないからですか」とか、「いつもぶつぶつ言っているのは、自身の行動をコントロールできる能力がないからですか」とか、世話焼き女房のように、いつも小言を言ってくる。

 僕のガラスのハートは、そのたびに粉々に砕けそうになる。瑠璃子ちゃんの言葉の暴力に、僕はいつも打ちのめされているのだ。


「うーん、とはいっても、コーヒー豆を安く買う方法なんて、思い付かないしなあ」


 僕は、頭をかきながらつぶやく。


「普通に考えれば、問屋に行って安く仕入れることでしょうね。量販店などで安売りをしていることもありますが、そういった場所では、必要な量を確保できない可能性があります。

 できれば、訪問客数を予測して、使う予定の豆を、少し多めに確保しておきたいところです。ちなみに、買わなければならない豆の量の見積もりは、すでに終えています」


 さすがだなあ、と僕は思う。瑠璃子ちゃんは、家が漢方薬屋で商売をやっている。そして、その店を毎日手伝っている。仕入れや商品の販売については、僕よりも造詣が深い。こういった話は瑠璃子ちゃんに丸投げして、僕はその指示に従うのがよさそうだ。


「ねえ、瑠璃子ちゃん。格安でコーヒー豆が手に入る問屋を知らない? 漢方薬の原料とは違うと思うけど、何かあるんじゃない」


 僕が気軽な気持ちで尋ねると、瑠璃子ちゃんは神妙な顔をする。何か当てがあるようだ。しかし、すぐには答えられない問題もあるようだ。僕は瑠璃子ちゃんが口を開くのを、辛抱強く待つ。


「いちおう、あるにはあるのですが、店主が面倒な人なんですよ」

「どう面倒なの? 女の子にちょっかいを出すとか」


 瑠璃子ちゃんは、蔑むような目で僕を見る。うう、僕が女の子に手を出すとかではなく、そういう店主なのかなと思っただけなのに。


「サカキ先輩みたいに変態ではないので、そういうことはしません」

「僕は、ちょっかいをかけたりしないよ」

「でも、卑猥な顔で女性を見ますからね」

「そんなっ、この顔は地顔だよ! 僕は、いつも真面目な顔をしているよ!!」


 僕は、必死に表情を引き締める。しかし、瑠璃子ちゃんは、そんな僕の顔を見ず、考え事をしている。瑠璃子ちゃんの、僕への扱いがひどい。いや、それはいつものことだ。僕は仕方がなく、瑠璃子ちゃんがこちらを向くまで、時間を潰す。

 しばらく横を見ていた瑠璃子ちゃんが、僕に顔を戻した。ようやく考え事が終わったようだ。僕は、身を乗り出して、瑠璃子ちゃんの言葉を聞こうとする。


「ねえ、瑠璃子ちゃん。何を考えていたの?」

「面倒な店主のことです。その店主は、非常に安く物を売ってくれるのですよ。ただし、それには条件があるのです」

「どんな条件なの?」


「店主の出す問題に正解することです。それも、問題は毎日変わります。クイズマニアなのですよ。

 普段は普通に商品を売っているのですが、常連客にはクイズを出して、一時間以内に正解にたどり着けば、割り引きしてくれるのです。まあ、クイズはそれなりに難しいので、割り引きになる人は、ほとんどいないのですが」


「それは面倒な店主だね。でも、できればクイズに正解したいね。今回は、仕入れ値が安ければ安いほどよいわけだし」

「ええ、別に私たちでなくても、安いに越したことはありません」


「じゃあ、瑠璃子ちゃんは、なぜ悩んでいるの?」

「クイズに不正解だと、悔しいじゃないですか。なので、行くべきかか決めかねていたわけです」


 瑠璃子ちゃんは、不機嫌そうに言う。

 きっと、クイズに答えられなかったことが、一度や二度ではないのだろう。瑠璃子ちゃんは、負けん気が異様に強い。だから、二の足を踏んでいるのだ。


 僕は考える。瑠璃子ちゃんは頭がよく、勉強がとてもできる。テストの点数は、いつも学年で一番だ。というか、全科目全問正解だ。その瑠璃子ちゃんが、二の足を踏む店主のクイズというのは、それなりに難易度が高いのだろう。

 出題される問題は、毎日違うと言っていた。だから、簡単な時もあれば、難しい時もあるはずだ。行って挑戦してみる価値はあると思う。

 瑠璃子ちゃんと違い、僕は不正解でも全然悔しくない。何せ、瑠璃子ちゃんが間違うようなクイズなわけだから、僕がミスしても恥にはならない。むしろ正解したらラッキーぐらいの勢いだ。


「瑠璃子ちゃん。その店に行こうよ」

「しかし、ですね……」

「そんなに嫌ならさあ、何日か通って、簡単な問題の時に正解すればいいんじゃないの?」


 瑠璃子ちゃんは、馬鹿にしたような目で僕を見る。


「言い忘れましたが、特別割り引きの問題は、一人の顧客に対して、一ヶ月に一度しか出してくれません」

「うっ、不正解だと、一ヶ月後までチャンスはないわけか」

「そうです。文化祭の時期を考えれば、間違ったら割り引きなしで買わざるを得ません。それでも、他の店よりは安い場所なので、よいと言えばよいのですが」

「だったら、その店に行くということで、いいんじゃないの?」

「正解できなかったら、滅茶苦茶悔しいですよ」

「うん。僕は気にしないから!」


 僕が明るく言うと、瑠璃子ちゃんはため息を吐いた。そして、「仕方がありませんね」と言って立ち上がった。


「サカキ先輩、今から行きますか?」

「うん。行こう!」


 僕はカバンを持ち、席を離れる。そして、瑠璃子ちゃんとともに、部室を出発した。


 僕と瑠璃子ちゃんは、電車に乗り、リトル中華街と呼ばれる町に来た。神戸や横浜の中華街を、ぎゅっと圧縮して小さくしたような場所だ。そこには、よく分からない怪しげな店がたくさんあり、瑠璃子ちゃんの両親が、よく仕入れにやって来るらしい。瑠璃子ちゃんも暇な時は一緒に来て、様々な材料を購入するそうだ。


「中華っぽいね」

「小さいですが、いちおう中華街ですから」

「中国四千年の歴史って感じだね」

「ここができたのは、第二次世界大戦後です」


 瑠璃子ちゃんの台詞に、僕は肩をすくめる。まあ、何はともあれ、中国風の店が多く立ち並んでいるのは事実だ。


「それで、件のお店は、どこにあるの?」

「裏道にあります。案内しますから、迷子にならないように付いてきてください」


 瑠璃子ちゃんは、振り向いて僕に手を差し出す。えー、僕はそんなに信用がないですか? 僕は、とほほと思いながら、瑠璃子ちゃんに手を引かれて、道を歩きだす。はたから見ると、小学校低学年のお嬢さんに引率されている、情けない男子中学生である。いやまあ、そのままの構図なんだけど。


 僕は、瑠璃子ちゃんの先導で細い道に入る。人とすれ違うのも困難な様子の、建物の隙間だ。その裏道を、何度か曲がり進んでいく。これは、確かに案内なしでは無理だ。瑠璃子ちゃんが、僕の手を取って歩きだしたのも頷けるというものだ。僕は、迷子にならないように気を付けながら、瑠璃子ちゃんの背中を追いかける。


 一軒の店の前で、瑠璃子ちゃんは足を止めた。ここなのだろう。僕は顔を上げて、店の外観を確かめる。木造家屋を改造した、駄菓子屋のような店構えだ。本当にここが問屋なのか。僕は看板を確かめる。「問題屋」と書いてある。あれ? 問屋じゃないの。僕は瑠璃子ちゃんの肩を叩き、そのことを問い質す。


「ねえ、瑠璃子ちゃん。ここは、本当に問屋なの?」

「ええ。元々はコケツ屋というお店だったんです。漢字で書くと是頁屋です。それが題屋に見えるということで、八代目の現店主が問題屋に改めたのです」


 僕は、突っ込みたくなるのをがまんする。このリトル中華街は、第二次大戦後にできたと言っていた。なのに八代目とは、どういうことだろう。いや、突っ込みどころは他にもたくさんある。僕は、あまり深く考えないようにして、店に入っていく瑠璃子ちゃんに従った。


 僕たちが足を踏み入れると、奥から誰かがぬっと出てきた。痩身で白髪の老人だ。白い服を着て、黒いマントを羽織っている。死神博士という単語が頭に浮かぶ。おそらくこの人が店主だろう。瑠璃子ちゃんは、その老人に慇懃にあいさつをした。


「よく来たな。氷室漢方実験所の跡取り娘よ。今日は、どんな用じゃ?」


 問題屋の店主は、にやりと笑い、近付いてくる。確かに、瑠璃子ちゃんの言ったように面倒くさそうな人だ。瑠璃子ちゃんは、メモを取り出して、店主に渡す。購入予定の品物が書いてあるものだ。

 店主は紙の束を出して、何かを書き付ける。その紙を破いて瑠璃子ちゃんに渡した。それぞれの商品の、金額と合計額が記してある。その下に、クイズが書いてあった。正解すると、三割引きと添えられている。かなりの値引きだ。僕は、クイズに目を通す。


 ――Hello! 1は3、2は3、3は5、4は4、5は4、6は3、7は5、8は5、9は4、10は何?


 僕は、瑠璃子ちゃんの表情を見る。渋い顔をして固まっている。答えが分からないのだ。僕も当然分からない。店主はにやりとして、口を開く。


「一時間じゃ。そこのベンチに座って考えてよいぞ。答えは分かるかな?」


 店主は、くくくと笑い声を漏らして、店の奥に消えていった。


「瑠璃子ちゃん、解けそう?」

「いえ、皆目。サカキ先輩は、分かりますか?」

「僕の知力は、すさまじいからね。当然この問題も分からないよ。それが、僕の頭脳の素晴らしいところさ」

「はあ、期待した私が馬鹿でした」


 瑠璃子ちゃんは、落胆した様子で言う。うう、ひどい扱いだ。僕はそう思いながら、瑠璃子ちゃんの顔を、じっと見つめる。


「な、何ですかサカキ先輩?」

「いや、瑠璃子ちゃんは、小学生時代から変わらないなと思って」

「そんなことありませんよ。成長しています」

「そうなの?」

「身長も少し伸びましたし、胸も少し大きくなったような気がします」


 ううん、そうなのかなあ。僕は、大いに疑問に思う。


「どうしたの瑠璃子ちゃん?」

「いや、似たような問題を、どこかで見た気が」

「そうなの?」

「ええ。小学校時代、この店で出された問題の答えが分からず、サカキ先輩に尋ねた気がするのです」

「そうだったかな……」


 僕は記憶をたどる。そういえば、そういったことがあった。僕は、その時のことを思い出す。


 あれは、小学二年生の時だった。僕は、アカデミックな思考にふけるために、図書室で本を開いていた。その当時の僕は、まだ読める漢字が少なかった。それでも分厚い本を開いて眺めていたのには理由がある。それが図鑑だったからだ。その図鑑には、裸の男女と、その体の仕組みが記してあった。

 そんな学術的な午後を過ごしていた僕の横に、小学一年生の瑠璃子ちゃんが、座ってきたのである。


「何をしているのですか、サカキ先輩?」

「うん。人間の体について調べているんだ。僕は学問をこよなく愛している。だから、様々な知識を吸収しているんだ。僕は、人類の英知を体現している人間なんだ」


 僕は、優雅にページをめくりながら答える。


「サカキ先輩。そんなに知的ならば、このクイズの答えは分かりますか?」


 瑠璃子ちゃんは、一枚の紙を机の上に置いた。僕はその紙を手に取り、問題を読む。


 ――こんにちは! 一は一、二は二、三は三、四は五、五は四、六は四、七は二、八は二、九は二、十は何?


 僕は、さっと答えを書いて、瑠璃子ちゃんに渡した。瑠璃子ちゃんはその素早さに驚く。そして、なぜ正解が分かったのですかと聞いてきた。


「簡単だよ。法則性を見抜けば、すぐに答えにたどり着く。僕は森羅万象の法則に通じているんだ。だから、答えにたどり着くのもわけがない。僕は自分の知力が恐ろしいよ」


 僕の言葉に、瑠璃子ちゃんは感動した様子を見せる。そして、どうやって解いたのか尋ねてきた。僕は紙の裏に、数字の対応を書いて、説明を始めた。


 こんにちは!

 一は一

 二は二

 三は三

 四は五

 五は四

 六は四

 七は二

 八は二

 九は二


 十は二


「これは、それぞれの漢字の画数なんだ。瑠璃子ちゃんも、数字の漢字は、もう習っているよね。だから答えは分かるはずだ」


 瑠璃子ちゃんは、あっと言い、僕を尊敬の眼差しで見上げた。僕は、得意げな表情をしてみせた。

 実は、すぐに答えられたのには、裏があった。僕は二年生の癖に、漢字の書き取りがひどかった。だから、一年生の漢字を、復習させられていたのだ。そのため、すぐに答えが分かったのである。

 そんなことが、小学二年生の時にあったのだ。


「そうか……」


 僕は、お店のベンチに意識を戻し、声を出す。あの時と同じタイプの問題だ。僕はそのことに気付く。そして、問題の冒頭に、ヒントが示されていることを発見した。


「答えが分かったよ、瑠璃子ちゃん」

「えっ! 何なのですか?」

「三だよ」

「ど、どうして?」


 瑠璃子ちゃんは目を白黒させる。その時である。店の奥から笑い声が聞こえてきた。


「お若いの。なぜ、三だと思ったのかね? 当てずっぽうでなければ、どうやって解いたのかを聞かせてくれないかね」


 店主である。僕は頷き、紙の裏に解法を書いて、店主と瑠璃子ちゃんに見せた。


 Hello!

 1はoneなので3。

 2はtwoなので3。

 3はthreeなので5。

 4はfourなので4。

 5はfiveなので4。

 6はsixなので3。

 7はsevenなので5。

 8はeightなので5。

 9はnineなので4。


 10はtenなので3。


「つまり、英語の文字数なわけです。そして、この問題を英語で解くことは、最初の『Hello!』で示されています。おそらく、これで合っていると思いますが、どうでしょうか」


 僕が告げると、店主はにんまりとする。


「はっはっはっ、正解じゃよ。完全正解。気持ちがよいのう。特別割り引き価格で商品を売ってやろう。ところで、こんなにコーヒー豆を買い込んで、どうするのじゃね?」

「文化祭で喫茶店をやるんです」


 僕は、文芸部の企画を説明する。店主はその話を聞いて、楽しそうな顔をした。


「気に入った。坊や、名前は?」

「サカキユウスケです」

「サカキくん。必要なものがあれば、この店に買いに来なさい。文化祭用の品物は、特別価格で提供してやろう」

「ありがとうございます!」


 僕は、店主に頭を下げる。そして、特別割り引きのコーヒー豆を購入して、店を出た。


 瑠璃子ちゃんに手を引かれ、複雑な裏道を縫って、表通りを目指す。その途中、瑠璃子ちゃんが声をかけてきた。


「サカキ先輩は、相変わらずずるいです」

「えっ、何が?」


 僕は、わけが分からず尋ねる。


「いつも頼りない癖に、こういった時だけ、頼りがいがありますので」

「そうかな?」


 僕は、首をひねりながら声を返す。


「そうです。だから、先輩とずっと一緒にいたくなるんです」


 瑠璃子ちゃんは、僕に背中を向けたままつぶやいた。

 僕は、握っている手を通して気付く。その声を出す時、瑠璃子ちゃんの指先は、微かに震えていた。


「そうなの?」


 僕は、笑いながら尋ねる。


「ええ、そうです。だから、もっと勉強して、よい高校に入ってください」

「えっ?」

「そして、猛勉強して、きちんとした大学に進学してください」

「ちょ、ちょっと……」

「それだけでなく、まともな会社に就職してください」

「え、ええ……」

「絶対ですよ」


 瑠璃子ちゃんは振り返り、僕に顔を向けた。その顔は真っ赤に染まっていた。いつもの瑠璃子ちゃんの鋭い視線ではなく、優しい視線が、僕に向けられていた。

 仕方がないなあ。

 僕はそう思う。そして、苦笑しながら頬を指でかいた。


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