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08.

前話まとめ。

冒険者登録→仲間探し→仲間出来ないよ!→初依頼へ

 マコトがアリアデュールに来てから初めてのギルドの依頼であり、狩り。それは、アリアデュールの周囲に広がる畑の東端に現れ畑を食い荒らす草原猪の退治である。事前に依頼の仔細といくつかの忠告を聞いていたマコトは、荷車を借り受けて畑の近くにある街道まで赴き荷車を端に停め、荷台の上に腰かけて周囲の監視を始めた。


 草原猪とよばれる緑の体毛を持つ猪は、成獣となれば2メートルを超える大きな体躯を持つ昼行性の獣である。草食だが外敵に対する攻撃性は高く、突進を受ければ馬でさえ跳ね飛ぶと言う。また、頭や心臓を矢で撃ちぬいても100歩は駆けると言われており、その生命力の強さが窺える。生息域はここより遥かに北方であることを考えると、はぐれたか迷ったかで来た獣であり、数が多くないことが推測できた。

 マコトもすでにそれを承知しており、槍は持ってはいるものの遠目で見つけ次第、右腕によって狙撃し撃ち殺すことを決めていた。昼行性であるということから、夜間の見張りが必要ない事もマコトにはありがたいものである。だが、こうして見張りをしてみて気付くのは畑の広大さだ。東端部といっても十キロを超える長さがあり、ギルドに寄せられいる被害のあった地域や目撃情報もそれなりに広い。


(広い・・・とてもじゃないが全部は見えないな)


 マコトは周囲を見回しながら、こうして止まって監視できる区域だけでは依頼となる猪を見つけにくいと気付く。

 廃都と違い、アリアデュールでは人目が多く鍛錬の時間も余りとれていなかったマコトは、最初の狩りも鍛錬だとばかりに軽功を駆使し、一定の範囲を巡回することになった。本来であれば数人の狩人かパーティで行う依頼であったので、マコトの目の良さと軽功を持ってしてもなかなかに苦労するものだったが、その甲斐もあってか6日目には3頭の草原猪を見つけるに至った。すでに畑の中に入っており、背の高い草の生えた草原と違い猪の姿はよく目立つ。


(あー、畑に被害が・・・。でも、思ったより数多いな)


 巨躯によって踏み荒らされ、地面を鼻で掘り起こして根菜を食い散らされた畑は酷いもので、その被害は3匹によってさらに広がりを見せようとしている。マコトは僅かに腰を落とし、目標への距離が1キロ程であると目測を立てると、右手の砲を猪たちへと向け、最も草原へと近く畑に入り込んでいない猪へと発砲する。狙いより僅かに下に逸れた弾は、猪の下顎を根こそぎに吹き飛ばし、そのまま腹へと入り込み臓腑をかき回し、衝撃で腹を破裂させながら突き抜けると、地面を抉りながら潜り止まる。

距離が離れていて他の猪には衝撃を伝えたりはしなかったが、突然に仲間の猪が内臓をまき散らしながら崩れ落ち、聞いたことの無い音に周囲を見回す猪たちだったが、遠く離れたマコトを見つけることは出来ない。音も周囲に拡散し、どこから響いたかさえ分からず、いつでも突進できるようにと頭を下げて警戒する猪に2発目が襲う。マコトに横腹を見せていた1頭が背を骨ごと吹き飛ばされ、体を支える骨を肉ごと飛ばされた猪は死ぬまでの短い間、地面を前足でかきながら血をまき散らす。

ここまできてようやく猪は危険性に気付き駆けだした。速度は早くとも畑のほうへ向いた体が草原へと向かうには旋回せねばならず、それは非常に緩慢で大きな円を描くこととなる。2頭残っていた頃にこうして逃げていれば、少なくとも1頭は逃げたせたろうが、すでに遅く、マコトの放つ最後の一発は猪の後ろ足を大きく削り取った。駆けることも出来ず荒い息を立て死を待つ猪は、最後にようやく槍を持ち仕留めに駆け寄るマコトの姿を目にしたのだった。


(畑が・・・)


 猪は倒せたものの、弾によって抉られ吹き散らされた作物がそれなりにあり、その場所は酷く荒れている。


(まぁ、うん。倒すのが依頼だし、被害は小さかった・・・きっと)


 マコトはそう自分を誤魔化しつつ、抉れた畑を受け皿にして猪の血抜きを行う。猪の損傷は酷いもので、最初の1頭は内臓自体がすでに無く、最後の1頭以外はほぼ血も出尽くしており、血に汚れすぎていたため荷台へと運ぶ前に軽く水をかけ洗うほどであった。


 それからマコトは街へ戻り、解体屋へと向かう。荷台に乗せた3匹の草原猪はどれも酷く傷ついてはいたが、1頭目は肉や背の毛皮が無傷であったことや、全体の肉自体は多量に採れたことでそこそこの値段となる。背が抉れて傷ついた猪の毛皮と、牙の1本、前足と後ろ足の肉を1つずつ残し、討伐数を店で3頭受け取りと証明書を書いてもらった。


 証明書を片手にギルド支部で依頼達成を報告すると、仮証の期間が一月伸びてマコトもそれにほっと一息ついた。


(やっと終わった・・・)


 初めてのことに達成感はあったものの、マコトの思い描いていたような冒険者同士の出会いなどはなく、達成感を分かち合える仲間がいないことに物寂しさを感じ、ギルド支部の地下へと続く階段をちらりと見るが


(何というか・・・微妙なんだよなぁ)


と、気乗りせず、結局地下へ降り待合室に行くことは無くギルド長屋へ戻るのだった。


 マコトは長屋に戻ると、体を拭き着替えたのだが、包帯代わりの帯を取った左腕は、白い膜がしっかりとした外殻へと変じ、怪我はすでに治っていた。依頼で見回っている間は帯を変えることは無かったため、帰ってきたこの時になりようやく気付いたのだ。


「・・・ん?」


 マコトが気になったのは、白い色合いがまだわずかに残った外殻だが、気のせいか前より厚みを増し、大きくなったように思えたのである。左腕の外殻のうち、節だった他の部分と比べてみてもそこまで差は無く、形状の右腕と比べても判断はつかない。


(いつも帯を巻いてしまっていたから、久々に見て大きく見えただけか?)


 マコトは少し気になりはしたが、治ったことは良いことだし不安要素は減っただろうと左腕を見るのをやめ、床に荷物を並べた。


 戦利品のうち、革は加工が終わるまで手に入らないので、今回手に入ったのは牙と肉である。依頼達成や売り払った部位によって得た金も横に置いて


(金もそこそこ入って安心感はあるけど、一番は肉だなぁ)


 屋台で安価な豆粥などは食べていたものの、肉といえば塩漬けや干し肉ばかりで新鮮な肉というのは久々であり、その干し肉も数が減ってきていたので、大量の肉が手に入ったのにマコトは満足していた。猪の牙は一本だけだが下顎の骨に埋まっていた場所まで取り出されたそれは立派なもので、大きく半円を描くように沿っている。牙の根本は穴が空けられており中の髄は取り出されているが、解体屋によれば土の中などで1ヶ月ほど置くと骨だけになり加工に向くようになるという。しばらく牙を見て満足感に浸っていたマコトだったが、


(さてと、せっかく金も入ったし仕込みだけしたら、何か食べに行こう)


ようやく増えた金と、初依頼の達成ということで屋台以外で食べようと思っていたのだった。


 マコトが向かうのは、『赤竜の鼻息』という名の酒場である。マコトが長屋を入る前に泊まっていた銀鬚亭の近くにあり、そこからギルドへ通う度に食欲をそそる匂いと楽しげな喧騒が聞こえていて、


(依頼を達成したら来よう)


と決めていたのだった。他にも良い匂いに惹かれた店はあったのだが


(何で鼻息なんだ・・・赤竜の吐息なら分かるんだが)


そうやって店名が記憶に引っかかっていたため憶えており、達成時の食事はここでといった目標になっていたのである。


 木造の店に入ると、むわっとした酒の匂いと色々と混ざってはいるが料理の良い匂いがして、マコトの胃を刺激する。マコトは胃が鳴りそうだなと思いながら、空いた机に座ると40過ぎの背の高い女性の給仕がやってきて


「注文は・・・酒と何にする?」


と、頼む前に酒が加わる形ではあったが、注文を聞いてくる。マコトもそれを気にすることも無く


「何、アる?」


そうマコトが聞くと、


「酒はエールか薬酒があるよ。あと、少し値は張るが火酒もあるね。料理は、今日のおすすめはアルバ鳥の香草蒸しかね。他の料理を頼みたけりゃあっちに掲げたメニューを見とくれよ」


勢いよく早口にマコトに告げてきた。


「エール、おすスメ。良い」(エールとおすすめでお願いします)


そういうと、ちゃんと聞き取れたのかは分からないが、あいよと返事をして他の客の注文を受けつつ厨房へと去って行った。


 料理が来るまでの間、マコトは周囲を見回して


(この木造の酒場と鎧姿の冒険者たちって雰囲気はいいよなぁ)


といった感じに、冒険者達の楽しげな声が響く酒場の雰囲気を楽しんでいた。

 しばらくしてエールと深皿に盛られた料理が運ばれてくる。エールは木のジョッキにつがれた赤みがかった発泡酒で、マコトはビールかなと思いながら飲むが、少しリンゴのような香りがあり度数と酸味が強いことに驚く。だが、味としては悪くなく無意識に舌でエールの泡を巻き込みながら異世界にきて初めての酒を堪能していた。

料理は、深皿に鶏肉らしい白身の肉と黄色い芋がいくつかの香草に絡んだもので、香草の爽やかな香りが鶏肉の匂いと混じりながらマコトを刺激している。

 料理はどんな味かと食べてみれば、塩気が多少きついものの脂のよく乗った鶏肉は美味く、香草によってその味をさらに引き立たせており、思った以上にまともな料理にマコトは木匙を片手に勢いよく食べ進める。途中、幾度となく長い舌で肉を絡め取って食べてはいたが、マコトはそれに気付いていないのか気にする様子も無く、エールをおかわりまでして満腹になりほろ酔いになるまで楽しんだのだった。


(あぁ、こうやっていると、やっとこの街に入れた気がするなぁ)


 マコトは酒場の喧騒に包まれ、その中で気持ち良く食事をしたことで、ようやく冒険者としてこの街ではじめられたような、そんな気がして口元に笑みを浮かべ、勘定を済ますと赤竜の鼻息を後にした。





 こうしてマコトは最初の依頼を終え、冒険者として歩み始める。だが、一月、二月と過ぎ、正規の冒険者となり依頼をこなしていても、未だ仲間も友も作れてはおらず、新人向けの待合室にも足は遠のき赤竜の鼻息で無聊を自ら慰める日々が続いていた。そうしたマコトに転機が訪れるのは、夏も終わり秋波が稲穂を黄色く染めた頃であった。

お読みいただきありがとうございます。

この辺りは数行でまとめてさくっとすませて話を少し進めるつもりだったのですが、初依頼部分だしそういった部分を描写してもいいかなと書くことにしました。話し振って終えているし、次を今日の夜辺りに出せるよう頑張ろう・・・。

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[一言] 「未だ仲間も友も作れてはおらず、新人向けの待合室にも足は遠のき赤竜の鼻息で無聊を自ら慰める日々が続いていた」 一人で暮らせているのに、そんなに仲間が欲しいのかな。
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