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51.

本日2話目になります。ご注意下さい。

 援軍として赴いた門主たちの軍が帰ってきたのは、アレセスより軍船が消えてから2週間が経った頃だった。彼らを含めた3国による同盟軍は遂にベル王国をヤラヴァより叩き出し、再上陸を阻止したのである。夏もすでに終わりが見え、涼しい秋の風が草原を抜け、田畑の作物も実りの重さにその身をしならせるそんな時期となっていた。


 凱旋とあって歓声が響く中に堂々と入り、それからは街を挙げての祭となった。秋の過ごしやすさや実りの多さ、そして帰還に湧く者たちと大きな祭りとなり、備えに有していた糧食や酒を使い街中で振る舞われる。

 門主たちも大いに飲み、門弟たちを労い、街の者たちと無事の帰還を喜び合う。マコトも隅でリルミルやカイたちとちまちまと肉や酒を楽しんでいたが、


「ほら、こんなところに居ないで楽しみましょう?」


と、酔って陽気になったリンはリルミルを片手に抱え、マコトを引っ張って宴席の中央でリンと共に門弟に囲まれた。いつもならば寄らないだろう門弟たちも、門主が傍にいることや宴席の勢いもあって、


「門主さまはよく貴方の話をするのですよ、少し嫉妬するくらい。だから、今日はその分たんと呑んで下さいまし」


「あら、近くで見ると本当に綺麗だわ。確かに顔は怖いけれど、本当に宝石のよう!」


「門主さま、友と語らうばかりでなく、私たちにもちゃんと紹介して下さいな」


「あら、こちらはとても可愛いわ! あっ、門主さまぁ、独り占めはずるいですよ!」


と、マコトやマコトに纏わりついているリルミルに近寄っては姦しく皆で囃し立て、その度にマコトやリルミルの酒杯になみなみと注いで、自らの杯にはマコトやリルミルから同じく注いで貰い、2人同時に杯を空けるといったことを繰り返し、


「我らはもっと呑まねばならんと思わんか?」


「確かに確かに! だが、呑むのもいいが食い物も欲しいぞ。呑んでばかりでは体が酒樽になってしまう!」


と、リルミルたちも小躍りしながら酒を呑んでは料理を食べると楽しんでいた。


「なんだぁ、リンが独り占めたぁ狡いじゃねぇか!」


そう言って乗り込み、マコトと杯を交わしたのはリオである。少し前からリンとその一門がマコトやリルミルたちと戯れるのを見て楽しんではいたのだが、そのうちに自分も興が乗り入ってきたのだ。


「お前ら! 俺の友のマコトだぞ! もう酒が体に満ちちまったのかぁ?」


と、リオが自らの門弟へと言い放つと、リオのような丸い巨躯を揺らしながら近寄り、


「おぉ、これは失礼しました!」


「憶えていますかな? 以前、貴方に打ち飛ばされた者ですよ!」


そう言いながらも邪魔にならぬよう器用に立ち回りながらマコトと酒を交わし、それからリンの門弟たちと混じり語らう。


「やっぱ酒と女だよなぁ」


リオも門弟たちがマコトと酒を交わし、そしてリンの門弟である綺麗どころの女を口説こうと頑張っているのを見て楽しげにそう言い、杯を空かした。


「そういや、お前ら。今回はアレセスに組みしなかったんだなぁ」


と、リオが見たのはリルミルたち。彼らが姿を見せるのは実に久しぶりの事で、戦争が起きていた数ヶ月の間は姿を見せていなかったのである。


「あぁ、我らは石の人の友だぞ。望まぬ危地なら助けるぞ!」


「だが、戦は我らは好きではない。友が行くことを決めた戦ならば、それは我らとは別だろう?」


「だが、石の人が元気でよかったな!」


と、リルミルたちはリオに理由を話したのである。

 すでに庇護する相手ではなく同等の友人となったマコトに、リルミルたちは以前のようにどんな場合でも助けるということはしなくなったのだ。今回はマコトが防衛戦に参加を自ら決めたことと、リルミルたちに頼まなかったことと二つあり、彼らは戦の終わるまで谷で暮らしていたのである。


「なるほどなぁ。まぁ、マコトは口下手だからな、そう言った場合はお前らを頼みとするか聞いてやれ」


と、リオは言うと、


「確かに石の人はあまり話すのは得意でないな! だが、石の人は感情豊かで分かりやすいぞ!」


「石の人は友だからな。よく分かるぞ! それに、石の人が話すのが下手なら、得意な我らがその分話せば良いのではないか?」


「おぉ、では石の人と話そう! そして尻尾を褒めてもらうのだ」


「なに? 石の人と話して鬚を褒めてもらうのはこちらだぞ!」


と、きゃあきゃあと騒ぎながらマコトへと近寄り、纏わりつきながら交互に話続ける。


「奇縁だが、面白い」


「そうねぇ。私たちもその一つでしょう? あぁ、あの子たち本当に可愛いわ!」


マコトたちの様子を見て呟いたリオに、いつの間にか隣にいたリンはそう答えたが、マコトに纏わりつくリルミルたちを見てたまらなくなり、すぐにそちらへと駆けていった。


 この祭は、リクやフガク、怪我をしたラーシュも含め、街は二日二晩宴に明け暮れ、街全体が酒臭くなるほど続いたのである。これは皆にとっては勝利の宴であったが、実のところ門主たちにとってはヤケ酒も大いに含まれていたと言える。確かに大いに勝利し憂いは払われたのだが、正直に言えばこの同盟の三国はヤラヴァなどどこの国も欲しくは無かったのだ。

 アレセスは門主たちが統治する良い国だが、他の都市に手を伸ばせるほど器用では無く代官など送るのも面倒だと思っていたし、イホは騎馬を主とする狩猟の国で以前より争っていた草原を多く領地としては欲しいもののヤラヴァのような北の地に魅力は感じない。魔導都市は自活に役立つとヤラヴァを得ることは悪くは無いのだが、戦いでの初手が余りに酷く街と民を巻き込んでおり、魔導都市が収めればヤラヴァの住民からの反発は必至である。何よりヤラヴァは都市の要である防壁を大きく崩され、街も魔導都市兵団によって大きく焼かれていて酷いもので、戦力や労働力となる若い男はアレセス防衛戦と今回の戦で失われており復興もままならない。このまま冬を迎えれば多くが死ぬだろうし、いくら魔物対策の忌避結界があったとしても外壁の無い都市に安心して住めるはずも無く難民は方々に散ることだろう。だが、都市を攻め落とした責任として彼らを背負わねばならず、復興と統治、そしてそれにかかる金と頭の痛くなる思いがすでにリクやフガク、リンなどはしていたのであった。


 マコトにはそのような事は関係なく、宴によってようやく戦争の終わりを強く感じられてほっとしていた。宴も終わり、酔い潰れたカイをベルムドと左右に挟むように2人で抱えると、先頭を歩くハサと共に帰路に着く。ハサも今回の戦いで度胸がついたのかマコトにも話したり、カイやベルムドと同じように対するようになり、木剣ではあるが腰に剣を佩き胸を張って歩く姿は堂々として自慢げで、それを面白がるようにリルミルたちはハサに声をかけ不思議な問答を相変わらず繰り返す。


 秋風は涼しく体を冷やしたが、マコトは心に温かみを感じてふと顔を上げ皆を見た。ハサは門を開け、リルミルたちは陽気に何かを話し合っている。カイは酒に弱くなったかすっかり酔いつぶれており、ベルムドは少し窮屈そうにマコトとカイを支え歩いていた。


「どうした? もう家に着くよ」


「うん」


マコトの様子にベルムドが声を掛けるが頷いて何でもない事を示しゆっくりと自分の家の門を潜る。そこでカイをベルムドに預けてから背を伸ばし大きく一息つくと、マコトは門を閉じたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

人外少女の生活譚。これで完結となりました。

五ヶ月の連載となりましたが、みなさま、本当にありがとうございます。


本編としては完結ですが、ちょこちょことマコトや周辺人物のその後の話などを閑話として少しいれていこうかと思います。あと、挿絵もあと1枚くらい描きたいところ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めてファンタジーを読んだ初心を思い出すようで面白かったです。 TS の業は深いですがw リザードマンいいよなぁ
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