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04

前話まとめ。

マコト狩りをする→うまくいくよ!→不器用でまともに皮も剥げないよ!→マコト勉強する→不器用で文字も綺麗に描けないよorz

 朝日が廃都を照らし陰影の濃い幻想的な光景を描くなか、槍同士がぶつかる甲高い音と少女の裂帛の気合が木霊する。

 オルドとマコトが出会ってから一月が過ぎ、その関係にも区切りがつく時が迫っていた。



 日が昇り始め、夏の暑さが来ない間にオルドとマコトの鍛錬は行われる。はじめの数日は体力などがあるか見ていたが、元々種族として体力がそこそこにあるようで問題はないと見てからはごく基礎的な動きと、立ち合いを主なものにしている。

 マコトとオルドでは体躯が違いすぎるというのはあるものの、マコトは加護によって強化された膂力で単純に力を比べるならばオルドに勝る。

 しかし、使い方や経験の差が大きくオルドに力で圧倒することも有効打を加えることも出来てはいない。

 オルドから見たマコトは、身体の資質は高いが腕の硬さは武器を巧みに使うには向かずオルドのような武術家にするには微妙といったところである。故に槍は基本の突きだけを教え、手首を使うようないなしや取り回しは一切教えていない。いなされても力でそれを捻じ伏せるよう、組み手ではいかに体を浮つかせず力を一撃に載せるかを教えていた。オルドにとっても小柄ながら俊敏で察知も早く、膂力もオルドを倍するほどであるマコトの相手をし続けるというのは神経も体力も使うものであり、一刻ほど行ったところで終わりの合図がオルドより出された。


「まあまあだな」


 オルドはそう言いマコトに槍を渡し、マコトはそれを受け取り壁に立てかける。


「・・・悪い?良い?」


 オルドの評価がどういうことか分からずに首を傾げつつ、マコトは尋ね返した。


「ぶれは少なく、鋭さも良い。だが目で追いすぎて人相手では分かりやすすぎるな。もっと慣れればましかもしれんが、そこらの獣や低級の魔物相手ならどうにでもなろうよ」


 そう言ってから一息ついて


「お前に武器による技は向かん・・・初めから言っておるがね。一撃を加え、逃げる。それが出来るよう鍛錬するのが一番だろう」


「うん」


「もうあとは教えたことを反復すれば槍は大丈夫だということだ」


 その言葉にマコトは少し驚くように目を見開く。教えに一段落がつくということと、それによって変わることを察したからである。


「あり、がとう」


 マコトは言葉がまともに出ないのならと、ぴっと背筋を伸ばし最大限の敬意の謝意を込めて一礼する。


 それから少しの間休憩をすると、次の鍛錬が始まる。オルドが壁に背を預け見守る中、マコトは腰を僅かに落として8の字を描くようにするすると歩きはじめた。マコトの学んでいる歩法はオルドの収める武術における軽功で水神浮歩とよばれる絶技であり、極めれば水の上を歩き滝を駆けあがる身の軽さを持ち得、戦いにおいてはその身の軽さと間をずらし幻惑させる恐ろしいものとなる。とはいえマコトの習熟度では多少身が軽く間合いや動きを掴ませにくい程度ではある。この武技に関しては、オルドはマコトが修錬を積んでいけば絶技として揮えるだろうと思っていた。


 そうして、日が高く昇り照りつけてくる時間までその鍛錬は続き、マコトが汗が目に入り目を瞬かせ頭を振ったその時に終わりの合図が告げられた。

 ひたすら同じように歩き続けるのにかなりの疲労を感じ、マコトは膝に手をあて頭を下げたまま息を整える。


「歩法は悪くない。鍛錬を続ければその名の如く水の上でも歩けるだろうよ」


「おぉ・・・」


 マコトも学んでいて驚くほど動きが良くなることに気付いてはいたが、オルドから評価されるというのは嬉しく頬を緩ませていた。



「汗を流してから家に入れ。話がある」


 そう言ってオルドは家の中に入っていった。


(一ヶ月で色々教えてもらったし、獣も狩れるし魔物も2度外で狩った。野営も問題ないし文字もある程度は読み書き出来る。武術は・・・まぁ・・・一朝一夕で出来ることじゃないけど、武術の師ではないと言われてるしなぁ)


 服を脱いだマコトは、手桶で昨日使った風呂の水をすくいあげ頭から被る。鍛錬で熱くなった体を程よくさまし、汗を流す気持ち良さを感じながら、今日の鍛錬、いやオルドの雰囲気の差と言葉を考え込む。


(色々と教えてもらったし、ここの生活になれてきて離れたくないとも思うけども、それは望みすぎだよなぁ。むしろ、こんな変なやつ相手にここまで親切にしてくれて、色々教えてくれたんだ・・・本当にありがたい)


 そろそろ別れの時期だとマコトも感じていたのだ。


(まぁ、色々見目が変わりすぎたが、若くなって自由になったんだ。新しい生活を、楽しい生活を手に入れるのも良いか)


 色々な思いと、依存したくなる気持ちを流すように何度も水を被ると両手で頬を軽く叩いて気合を入れ直し身体を拭くとささっと衣服を纏い、マコトは家の中に入ってゆく。



 すでに腰を下ろしているオルドの対面にマコトは座ると、オルドは茶を一口飲みマコトへと視線を向け


「一月。短い時間だったが、困らない程度には知識も経験も積めたろう。あとは魔物や獣、そして人に対して油断せず精進すれば大成はせずとも生けてはいけよう」


「・・・ん」


「武術はお前の体は器用ではないから向かなかったが、お前の身は豪力とその右手がある。歩法と共に研鑽すれば良い」


と、オルドは自らの言っていることが先程告げたことと変わりない事に気づき苦笑しながら


「老人になるとくどくていかんな。マコト、お前はここに居たいと思っているのかもしれんが、そんなことは齢経て疲れてからでいいだろう?」


「それに、隠棲した年寄りにいつまでもつきあわせるな。若いのだから、自らの場所は自ら作れ」


 マコトが少し困ったように頷くとオルドはにやりと笑い


「明日、森の外まで送ってやろう。今日は荷造りしてゆっくり休め」


「・・・はい」


 そこで一旦会話は終わり、マコトは口元に運んだ冷たいお茶に舌を入れ揺らめかせながら


(頑張るかー。どんな世界かなぁ・・・これでビルとか建ってたら笑うけども、そりゃないよなー)


と意外と呑気なことを考えており、それを見てとったオルドも内心で安堵していた。もしマコトがあまりにオルドに依存していればこの話でそれが悪化しかねないと思っていたからである。



 しばらく2人でゆるゆるとマイペースにお茶を飲み、それから明日揃える物について話し合うこととなった。結果としてはマコトは干し肉や水筒代わりとなる魔道具などの食料品を揃え、オルドは槍や汎用に使えるナイフ、衣類を揃えるということとなる。衣類はオルドからどの程度受け取れるのか等が分からないということや、槍や刃物などについてはマコトも手入れを学んでいるとはいえオルド自身がマコトを送り出す前にしっかり見ておきたいということでオルドが揃えることになり、マコトは食べ物の用意ということになったのだ。

 しかし、マコトが食料を選び袋詰めしたものも、オルドから見ればかなり心もとないものであり、結局オルドによって揃え直され、どの程度余裕を持つべきかということや袋への収め方などをマコトは教わることとなった。

 一応それも学んではいたが実が伴なわず、マコト自身がえらく遠慮してしまっていたことも重なり、旅するには相当切り詰めなければならない量にはオルドも笑いながらも


「もっと狡く欲を出さねば生きるのに辛いぞ」


と諌めるのだった。とはいえ、現代人であったマコトは遠慮するのが当然であったり、歩いて旅することなど常識の外であるから仕方のないことではある。 マコトもそれを自覚しつつも、自らの土台はまだまだ弱いということに


(旅するのもほんと勉強しないとやばいな・・・。うぅ・・・ボールペンとメモ帳欲しいな)


と、憶えることの多さに手帳が恋しくなったりもしていた。それでも覚えようと、干し肉を一切れ口の中にいれ舌に絡ませ味わいながら、オルドが教えた手順をなぞるように食料をまとめ袋にいれるということを何度となく繰り返し、取り出しやすさや持ちやすさなどを確認し納得しながら行っていく。

 数度繰り返してから一息つき、時間をおいてからまた同じことをして確実に憶えていくが、毎回布を風呂敷のように袋に纏める際に結ぶのに苦労し


「・・・・ふぬぅ」


と変な声を漏らしていて、槍を手入れし終えたオルドがそれを見て肩を揺らしながら去っていくという光景がありながらその日は暮れ過ぎて行った。





 明くる日、鳥の囀りが始まる宵も明けようかという薄暗い中で2人は外に出た。森を抜けるのに最も安全な時間であり、オルドの目算では昼前には抜けれるといったところである。


 何とも会うこともなく廃都と森との境界まで辿りつき


「さて、ここからは魔物の棲み家。この時間なら眠りについているだろうが、儂がいるからといって用心を怠るなよ?」


「・・・ん」


 マコトはオルドの警告に短く頷くと、振り返って廃都をじっと見つめてから向き直り、廃都を背に歩き始めた。


 人の手の入らない森は路らしい道も無く、うっそうと茂った木々や草花によって闇を増し視界も悪い。マコトの目は暗闇を見ることが出来るものの昼ほどの視界がある訳ではなく、慣れてきていた廃都とは違っていることや敵への警戒で歩みは重くなっていた。


 マコトが森に入るのは3度目。いずれもオルドと共に入り、過去の2度では魔物を相手に狩りをして注意点や魔石の取り出し方を学んでいる。相手とした魔物は、子供のような身の丈と餓鬼のような気味の悪い形をした緑色の魔物であるゴブリンと、1メートル近くある肉食性の芋虫ラズルワームといういずれも低級の魔物である。

 ゴブリンは獣である灰色狼より弱いくらいの魔物だが、3~5匹以上で群れていることが多いことと、武器や防具を身に着けていることがあることがやっかいであり、小柄で間合いは短いものの小狡いために不意打ちを食らいかねない危険性ももっている。また、弱いからといって不用意に近付くと恐ろしいほどの握力で肉や骨を引きちぎられることもある。だが、臆病で小心で不意を打ったり驚かすような行動をとると群れは一気に瓦解してしまう。マコトが相手にしたときは遠距離から2匹まとめて撃ちぬいた時点で群れは潰走、マコトは魔物だけど楽なものだと思っていたところ、音叉が震えるような重さと甲高さの重なる発砲音で他の魔物を寄せてしまい、オルドがいたことでどうにかなったものの、マコトも大いに反省させられたのだった。

 ラズルワームは単独でいることが多く攻撃性の高さから他の獣や魔物を相手にしていることも多い魔物である。攻撃はその身を大きく跳ね相手に飛びかかりのしかかった後に顎で噛み砕くという方法で、1メートル程度とはいえ丸々と太った身による体当たりは低級とはいえ恐ろしい。マコトが何よりも恐ろしかったのは、1メートルという芋虫。ゴブリンの時の反省を生かすことと、相手が数少なければ近接で倒そうと思っていたマコトだったが、芋虫を見た瞬間、マコトはへたりこみそうになり、どうにか戦いに持って行ったところで飛びかかられて全力で逃げ、遠方から槍の投擲で倒すというへたれた内容となったのである。無論倒した後は剥ぎ取りがあり、びくびくと痙攣する巨大な芋虫を泣きそうになりながら解体することになったのであった。目覚めてからのマコトが今までで最も表情豊かだったのはこの戦いだっただろう。ちなみに、肉は栄養豊富で食用であり、マコトはオルドに知らされることなく幾度かそれを口にしていたりする。


 過去の狩りと同じく、オルドが先行しマコトは追従しているのだが、マコトは周囲を必要以上に警戒しているのはこの芋虫のせいである。どうにもあの芋虫が生理的に受け付けなかったのか、


(もうアレだけは見たくもない・・・でも、あれにのしかかられるのはもっと嫌だ・・・)


とオルドがいるにも関わらず目を凝らし気配を探っている。これでは緊張で森を出るまでに疲弊しきってしまうだろうと


「ラズルワームならば、この時間ならまず出るまい。アレが動き出すのはもっと日が出て暖かくなってからだ」


 そうマコトを気付かってやっていた。


「・・・う・・・、ごめンなさい」


 マコトも分かってはいるのだが、嫌いなものが棲んでいる場所にいるというのはやはり恐ろしいのである。気を持ち直すために水筒から僅かに水を口に含み、清涼感で身を落ち着かせながら何度となく大丈夫だと自らの心に言い聞かせ、オルドの背を見ながら歩むうちにマコトもようやく過度の緊張が解れてくる。


 そうしてオルドが想定していたよりは遅いものの進む速度は戻り、オルドが切り開いた道をするするとマコトも進んでいく。夜明け前のこの時間はもっとも気温が低く、獣も魔物もほぼ動きが無い。この森は本来中級以上の冒険者パーティでなければ危険な場所だが、気温や昼夜に関係ないようなものは少なく、オルドのような熟達した者が時間を選び森を騒がさずに抜けるのならそう難しくは無いのである。マコトだけなら歩みは重く過度の緊張で疲れ、深い森に方向を見失ってしまいかねないのだが、順調に抜けてゆき日も天高く差し掛かる前には森から出ることが出来た。


 木々も薄くなり森を抜けると、広大な草原がマコトの目に入ってきた。


「おぉ・・・」


 森をようやく抜けれた達成感と広大な景色にマコトは声を漏らす。オルドは棒立ちになり草原を見ていたマコトを促し、草の生えていない地面まで行くと腰を下ろし食べ物を取り出すと


「これから長いからな。食べてから行くといいだろう」


と言い、昼食となる。

 煮炊きはせず干し芋に干し肉を齧るだけだったが、これがオルドとの最後の食事となった。最後だというのに相変わらず2人共に口数は少なかったが、オルドはマコトへ伝えることは伝えたと思っていたしマコトもオルドへの感謝は前日の夜に深く礼をし伝えていたので納得ずくであったのだろう。

 食事を終えるとオルドはマコトへ地図を見せ、現在位置と向かうべきだろう場所を伝え


「達者でな。あと、精進を怠らぬことだ」


「はい!・・・オルドも」


 そうして別れとなり、マコトはオルドに一度深く礼をしてから歩き出した。


ちょっと駆け足だったかなと思いつつも、この辺りまではプロローグみたいなものだしいいかなとか。初めての狩り!とか魔物相手!とかじっくり書いてもいいかなーとも思うのですが、自分の腕だとぐだぐだになりそうでして・・・。

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