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40. ★

前話まとめ。

マコトたち一行、賊の拠点に入る。

 広場で半数、そして棲家である湖上に立てられた家で半数。マコトたちはというと、残敵の掃討も取りあえずは終わり、湖のほとりで休んでいた。実のところ、残りの掃討においてもシゲンが飛び出しシロナたちが付き従うという構図は変わらず、広場の戦闘のように芝居がかった仕草や技の名を叫ぶような事も多く、


(・・・思った以上に皇帝って馬鹿なんだろうか)


と、マコトが思うのも仕方のないことだろう。アレイルの方も、戦闘に関わることも少なく体力は有り余ってはいたが心労が大きく、げんなりとした顔つきで湖を見ながら水筒の酒を呑んではため息を付くと、疲れた様子を見せていたのだった。


 そこに、捕えた賊の尋問を終えたシゲンたちが戻ってきたのだが、あれほど楽しそうに口上を述べ賊を狩っていたシゲンは口をへの字に曲げて不機嫌な様子で、クロナは何かを抱えている。


「そレ、何?」


と、マコトがクロナに近づくと、抱えていたのはまだ10にも届かぬだろう小さな子供であった。鱗族だが、賊と違い蛇のような大きな頭を持つこの子供は、何やらいわくありげで、意識の無いその子供を地面にゆっくりと下ろして休ませたクロナもどこか困ったようにその子を見ていた。


「うぅむ・・・これはどういうことですか?」


と、シゲンたちに顔を向け訊くアレイルに、


「面倒ごとだ。放っても置けんが、いかにすべきか」


シゲンは不機嫌な顔のままアレイルに答えるが、途中から独り言のようになり要領も得ない。クロナも意識の無い子供の介抱で手も離せず、自然とシロナへとマコトとアレイルの目は向き、


「説明ですか? まぁ、色々とあるのですが」


と、シロナは前置きして尋問の結果を話し始めた。


「この賊は、もっと大規模な集団より分かれた・・・正確には追い出された集団のようです。だから腕も頭も無かったのでしょうが、問題となるのはそれがどこから来たのかということです」


シロナが始めに訊きだした内容を言うが、これについてはアレイルも予想済みで、マコトもだから動きが悪かったのかとふんふんと頷いている。その2人を見て、シロナは軽く頷いてから、


「追い出された賊が居たのは、我々帝国が進めている湿地帯にある開拓村。正確に言うなら、開拓村が賊に乗っ取られて、村人の一部を賊に組み入れたけれど、働きの悪いものなど無駄となる者たちを追い出したというところでしょう」


この話にアレイルが、


「待て待て。開拓村は確かによく魔物に潰されるが、そこらの賊に潰されるとも思えんし、あそこには帝国の兵も出るはずだろう?」


と、驚いて聞き返す。

 この開拓村とは、帝国の領土の大半を占める湿地帯や森を切り拓き、新たな村を作るという帝国が推し進める計画の一つである。アレイルの言うように開拓村の多くは湿地帯の魔物や病気などで全滅などもあるものの、国費を投じ少ないながらも兵も動かしているし、農村などで家を継げぬ次男三男や一旗挙げようというもの達が自分達の村や田畑、店を得るためにこれに参加していた。

 こうした背景がある以上、開拓村が賊に潰されたなどというのは醜聞であるし、民の参加も減りかねない。何より帝国がそれに気付かぬとあれば、


(これでは帝国は獅子ではなく、肥えて病魔に倒れた豚ではないか)


と、シゲンは不機嫌に口を閉ざしていたのである。


「はい。どういった訳か、帝国から兵は出ていないようです。この追い出された一団は、湿原で死ぬと思われていたのでしょうが、運が良いのか悪いのか、生き延び賊となったようですね・・・もう少し頭が回るなら、賊など続けず、何食わぬ顔で開拓村からの避難民として人足に紛れ普通に生きれたでしょうに」


そこまで言うと、シロナは大きく息吐き、右手でこめかみをほぐすようにして一息ついた。

 ただ、シロナのこの言い分は上から見たもので、賊に堕ちた民が気付かれずに過ごすのは難しい。避難民として暮らすことに思いが及ばぬと嘆いたところで、その民からすれば、帝国は賊を知りこれを見逃さぬと喧伝され、その庇護を信じていてそれが彼らの常識なのだから、賊となったその身を街や村になど置けようはずも無かったのだ。上から見れば、望まずして賊になったとしても、更正の機会をふいにしたとなり、下から見れば、望まずして賊となり、もう戻ることも出来ぬとなるという意識の差がそこには大きく横たわっていたのであった。


 ここまでの話で、マコトは賊の手際の悪さに納得し、アレイルは内地の開拓村まで関わっていたと知って呆れ顔となり、一同は賊の正体に大きくため息をついてしばらく無言で休むこととなったのである。

 だが、それでこの話は終わりではなく、頭目が最初に斃されただけに賊は戸惑っておりほぼ殲滅出来たが、どうやら数人は逃げたようだと聞けば、


「当初の提案通りに動けていれば、このような事態にはならずに済んだものだが・・・」


と、アレイルは嘆き、マコトはすでにここまでの話で呆れてじとっとした目付きで水筒に入った酒を杯に注いで、いつものように舌を揺らめかせながら聞くのだった。


 そうして、話はようやく鱗族の子供の事となるが、やはりその子供は開拓村の生き残りで、逃げ出した賊の唯一残った子供だと尋問された賊たちは言い、まだ小さく幼い子供だけに彼らの仕事にも関わっていなかったという。このような場合でも、賊の一味として連れ帰り兵に突き出すか、連座とその場で殺すことも多い。また、そういったことを嫌うならば、見逃して放逐するだろうし、人が善ければ連れ帰り世話をすることもある。

 つまりはどうするかはマコトたち次第なのだが、アレイルはシゲンや付き人の様子を見るに前者のように殺しはせず、おそらく持ち帰るのだろうとあたりをつけていた。


(あの方がこういった面倒ごとで幼い子を殺すなどと手を汚すとも思えん)


アレイルの思いとしてはこういったところであり、シゲンが次に出した指示も、


「そろそろここから出るか。ちと、血生臭いだろう」


と、明らかに子供を気遣うものである。血生臭いというほどに近くに死体は無いし、マコトたちは気にせず湖のほとりで休憩していたのだからだ。

 そうしてクロナが子供を抱え、一行は洞窟を抜け外に出ることとなった。賊の荷物や武具などは倒したマコトたちの物ではあったのだが、それを知るアレイルはそのようなはした金より早く帰って寝たいと面倒を嫌い、マコトは死者から物を盗るという考えが無く知りもしない。当然、シゲンたちもするはずもなく、全て死者と共に朽ち眠ることとなったのであった。



 洞窟より出れば、既に日は傾いて赤く空を染めており、一行は出口で見張りをしていた傭兵達と合流すると浜辺で一夜を明かすこととなった。そうして野営の準備の中で鱗族の子供は目を覚ましクロナがあやしながら話をしていたが、共に暮らしていたものが死んだと察したか大声で泣き始め、クロナは抱きかかえながらぽんぽんとその子供の背を叩く。


(大丈夫かな?)


と、泣き声にマコトも心配になり見に行くのだが、ただでさえ知らぬ者たちに囲まれ知る者も居ないところでマコトの姿を目にした子供は恐れのあまりひきつけを起こしてしまい、


「自分の見目くらい弁えて下さい!」


そうクロナに怒られて追い出され、マコトはしょんぼりと野営地の端に座りぼんやりと海を眺めていた。と言っても結果が悪かったので悄気たくらいで、


(今回は思うような冒険でもなかったなぁ・・・でも、こういうことも経験だと思えば悪くないか。地底湖っぽい珍しいものも見れたし)


と、気落ちはしていなかったのだが、しばらく海を見ているとシロナが同じように隣に座ってきたのである。


「私も子供はダメみたいです。嫌いじゃないんですけど、力加減を間違えちゃうんですよねぇ・・・撫でてると首を折りそうだと追い出されてしまいました」


シロナは苦笑いを浮かべながらそう言い、マコトより視線を外して海を見て、


「嫌いじゃないんですけどねぇ」


と、もう一度言うのだった。未練の残るような言い方にマコトは子供好きなのか?と、


「残念?」


そう聞くと、残念ですとシロナは返し、マコトは腰につけていた水筒の酒をシロナに渡し、日が落ち食事の用意が出来るときまで2人でちびちびと酒を交互に飲み、無言で慰めあっていたのであった。


 夕食となるものは、野営であるために大したものではなく、肉や乾燥した野菜を煮込んで塩と香草を少し加えただけのものである。クロナやシゲンは子供の相手をしながら、そしてマコトは少しばかり気心が知れたシロナと、アレイルは傭兵たちと共にそれぞれ食事を始め、


(肉が硬い・・・のは歯応えがあっていいけど、野菜が硬いのが微妙)


そんな事を思いながら食べるマコトだったが、シロナが共に居たのでつい気になっていたことを尋ねたのである。たどたどしく単語ばかりのマコトの言葉では、数度尋ねてようやく答えてもらえるようになった内容だったが、それは先の戦いでのシゲンの口上についてであった。


(何であんなことするんだろ?)


と、そんな事を思って聞いたのだが、


「あぁ、あれですか・・・」


そう言ってため息をつくと、


「あれは、ただ演じているようなものです。内気を込めているので只人ならば動きも止まりますしね」


と、ただのシゲンの趣味であると話すのだった。そうしてシゲンの事をつらつらと聞いていたのだが、シゲンの使った白光を放つ内功に話が及ぶと、


「内功? いえ・・・あれは魔法ですよ?」


と、きょとんとした顔で言われ、同じく目を瞠ったマコトとシロナで数秒の間顔を見合わせてしまう。


(魔法? いや、内功、武技の類にしか見えなかったけどどういうことだ?)


マコトはそう思って詳しく聞くと、特に秘するものでもないのかシロナはつらつらとそれについて話し始めた。


「マコトは、皇帝が魔術師だとは知らない?」


「うん」


マコトが皇帝について知らぬと分かると、


「シゲン様・・・いえ、シグダール様のような皇帝の一族は魔術師なのです。初代は魔法によって英雄となり帝国を興し、それ以来皇帝は魔術師であるのが当たり前となりました。シグダール様も魔術師としての才なら大魔法も行使できるほどでしょう」


とマコトにシロナは教える。それで内功を無理に魔法と言ってるのかなとマコトは思ったが、


「ですが、武術の才もあったのでしょうね。そこで、シグダール様は幼い頃に、本や劇をご覧になっていて、初代様よりも他の英雄英傑憧れてしまったのですよ。世は魔術師の英雄たる皇帝を望み、シグダール様は内功を使い戦地を縦横無尽に駆ける英傑に憧れる」


そこで一息つくと、


「武術の鍛錬と魔法の鍛錬。相反するものを学び、ある程度の内功を修め、双方を生かしきることは出来ぬと分かったシグダール様は恵まれた肉体とそれを生かし魔法を阻害せぬ程度の内功。そして、武技の如く行使する光魔法という何とも言えぬものを作ってしまったのです」


と、続けた。これにマコトが、


「流派・・・作ル?」


と、流派を興したのかと聞けばシロナは首を振り、


「流派ではありません。内功は既存のものですから、どちらかと言えば、肉体派の魔術師用の魔法を作り出したと言ったところでしょうか。ここで終われば面白いですし悪くない話なんですが、あの口上も、大げさな物言いや仕草も小説や劇のせいなんですよねぇ・・・」


シロナは大きなため息をつくと、これで一区切りだと温くなった汁を掬い食事を始めた。マコトも、魔法を作り出すという凄そうな話が劇や小説のごっこ遊びのようなものに変わったことで呆れ顔となり、同じく温くなった汁をすするのだった。


(魔法・・・魔法かぁ。言われれば確かにそうなのか・・・掌とか拳とかつく技名だったけど、魔法なのかー)


これで幾度目になるか分からぬほどに味わってきた何とも言い難い気分になってしまって食事の味も分からず、


(内功もそうだけど、魔法も謎だ。いや、魔法の方が謎?・・・今度ベルムドかバルドメロに聞こうかなぁ)


と、シゲンの見せた不思議な魔法に悩むマコトなのであった。

 分からぬから不思議と言えるシゲンの魔法だが、光魔法によってその身を光らせて見せているだけの演出と、恵まれた肉体による肉弾戦と内功による若干の底上げ。そこに至近のみで効果の高い魔法を使っているだけであったりする。先の戦いで使ったシゲンの天雷掌などは、光魔法の熱を発するという初歩的なものを相手の体内で一気に行うだけであるし、その他のものも内部に干渉して変化を起こして損傷を与えるものだ。相手の内部で行うために、内気によって効果を指定したマナを送り込んでも抵抗されやすく、それ故に至近距離で行わねばならない。そんな単純なものなのだが、内功のような魔法という不思議さと資質の高いシゲンによって至近より使われる必殺の魔法という脅威がこれを成り立たせていたのであった。


(魔法も色々と意思によって変化するみたいだし、そのうち研究してみよう)


食べ終えて後は眠るだけだと蹲って顔を伏せると、そんなことを思いながらマコトはゆっくり眠りにつく。

そうしてマコトも眠りにつくなか、子供も疲れ寝てしまったか泣き声も止み、よく晴れ満天の星空の中で一夜を過ごすと、一行はナグルマルへの帰路へついたのだった。



挿絵(By みてみん)

お読みいただき有り難うございます。

少し冗長だったかもしれません・・・どこを長く取ってどこを切るか難しいところですorz

マコトの腕と服装変化後設定絵を最後につけました。

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