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39.

※37.に挿絵が付きました。よろしければ見てやって下さい。

前話まとめ。

マコト、カイの看病も一段落がつき、シゲンやアレイルと共に賊退治へ。

 洞窟は入り口こそ狭かったものの、らせん状に下がる洞窟を少し進むと4人ほどなら並んで歩けるほどの幅とマコトの背負った槍が天井につかぬほどの高さになった。水滴が天上より滴り、どこからか水の流れる音のする洞窟は地面の滑りやすさを除けば涼やかで、暑苦しさより解放された一行はゆっくりと内部へと歩を進めていた。


「思ったよりは広そうですね」


「シゲン様が入る前に偵察すべきでした」


とシロナたち付き人が交わすように、洞窟は曲がり、崖側へと向いていた入口とは逆には島の中心へ向かうような方角へと変わって、さらに洞窟は広さを増しながら奥へと続いていた。


 マコトは種族としての暗闇に対しての視界は良いのだが、それでも光の中ほどは見通せないし、アレイルやシゲンたちのためにカンテラが付けられているために、明暗の差が大きく見通しは良いとも言えない。それ故か、マコトの目にもすでに天井の高さは分からぬほどで、道沿いに流れる川も槍で深さを測れば1メートルを超え、


(小規模な賊・・・だったはずなんだけど、本当にそうなのか?)


と、マコトは疑念を抱きつつ、皆と共にゆっくりと歩を進めていた。ただ、広さからマコトがそう思うのも無理は無いが、アレイルやシロナなどは小規模な賊という考えを外してはいない。広さの割に賊の見張りも巡回も全く居ないということが、姿を見ずとも賊の数の少なさや拙さをアレイルに見せているのだ。彼からすれば、このような大都市の近く、それも商船や軍船すら出る都市の近くの島に居を構えること自体が賊が大した頭が無いと分かるし、この長い道に繋ぎの者が居ない時点で外の見張りは役に立っていない。

 そういった考えから、


(さっさと終わらせて街で休みたいものだ・・・帰ってきたばかりで金にもならぬ厄介ごとばかりとはついていない)


と、距離だけは無駄にあると嘆きながら、アレイルは進むのだった。確かに一行の進む道には見張りは居らず、洞窟の道が分かれていても人が通った場所を偽装すらされずに一本道に近い。では罠があるかと言えば罠も無く、一行で気を張っているのはマコトくらいなものだった。


 この道のりは、慣れていて先頭を行くアレイルや緊張しながらも後ろをついていくマコトより、大きな苦労をしていたのは、やはりといえばいいのか、シゲンの付き人2人である。何せシゲンは、ずんずんと巨躯を動かし我が道を止める者なしとばかりに動くので、


「そちらは大きな石が。あ・・・そちらは川です」


「こっちは滑りやすいです。ちょ・・・っと止まってください。猪ではないのですよ?」


と、必死にシゲンを制するのだ。途中で最後尾を代わり後ろからシゲンたちを見ていたマコトも、


(皇帝を御しているのか。はたまた振り回されているのか)


そんなことを思ってしまうほど、2人は細々と気を利かせていたのである。最も、こうしたことをしすぎるからこそ、シゲンは2人が居れば自らは思うがままに動けばよいと思っている節があり、聡いはずのシロナたちもこれに気付かぬのだからどうしようもないのであった。



 そうして30分も歩かぬうちに薄明かりが洞窟の先より見え、一行は灯りを消しそこからは慎重に進み明りの見える場所へと顔を覗かせると、そこは島の内部がくりぬかれたような地底湖を含む広い空洞であった。


「おお・・・」


マコトは地底湖に驚いて思わず小さく声を漏らして周囲を眺め、薄明かりの原因となっている空洞を照らす多くの松明を辿るように視線を動かしていく。すると、空洞の端を渡るように作られた道と、その湖の上に浮かぶ木で作られた住居郡が目に入った。


「あそこ、家」


と、シロナに声を掛け、それを聞いた他の者たちも何処だと目を凝らすが、一行で人間でないのはマコトくらいだったのでまだ見えない。遠くより確認出来るならば有利だと、しばらくマコトに観察を任せ、皆はそれぞれに体を休めることとなった。


「シゲン様、どうぞ」


「こちらもありますよ、よろしければ」


と、シゲンは2人を侍らせ、水筒から注がれた茶を飲み饅頭を口にする。


「うむ。・・・しかし、此度の賊討伐。思ったよりも棲家が大きいな。島に木の小屋があるだけかと思っていたが、広い洞窟とは何とも面白い」


シゲンにも洞窟は意外だったようだが、これも面白い、良い話を請けたと喜んでおり、


「ここまでなら請けない方向に動かすべきでした・・・」


「ですです。失敗しました」


そう言って茶を1口飲むと深く息を吐く付き人2人であった。


「まぁ、洞窟が崩れるようなことでも無い限り、不覚は取らんでしょう。賊もそう多い数ではないでしょうしなぁ」


と、アレイルは、シロナたちに向けて気休めを言い、


「手練れが居る可能性・・・は少ないでしょうね」


「頭目くらいはそこそこもありえます」


それに乗ってシロナたちも返すが、


「手練れか・・・。我としては強き武人が居ても良いのだが」


と、シゲンは相変わらずであり、シゲン以外の3人は思いを同じくして目を合わせため息を付くのだった。

 少しは自重をとクロナがシゲンに言おうとしたとき、暗がりよりするりとマコトが現れると、異形の外皮や目が闇の中で光を僅かに発しているその姿に皆はぎょっとして動きを止め、アレイルやシロナは剣に手が伸びてすらいた。マコトもなんだと動きを止め、何とも微妙な空気がその場に流れたのだが、休んでいる中で観察してきたのにこれは無いなと少しばかりむっとしたもののマコトはそれを抑え、


「見てきタ」


と、見てきたものをゆっくりと告げ始めた。そうは言っても詳しく話すのもマコトでは無理であり、地底湖にある家や通路に見えた種は鱗族のみで、5、6人が動き回っているというものだけである。だが、そうした話から、


「やはり大したことは無さそうだ。鱗族相手となると水中の逃げ道が気になるが、静かに敵を減らしていけば逃がしもすまい」


と、アレイルは言い、シゲンを除く皆はアレイルの言に頷いた。

 そうして休憩を終え、目の利くマコトを先頭に見つからぬよう歩を進め、地底湖の端沿いの道より行った先には多くの鱗族がたむろする場所を見つけるに至る。


(まずは他の場所や賊の住居を調べ、動いている奴を始末したらここだろう)


と、アレイルは手振りで広場に入らず進むことを示したのだが、そこで思いもよらぬ行動に出た者が居た。それは、アレイルの提案に一人頷くことが無かったシゲンである。

 シゲンは、賊の程度の低さや人数を聞き、


(この程度に隠れ潜むのでは、我が名も泣くだろう)


などと思っており、先頭のマコトを通り越して堂々と広場に入っていったのだ。これに慌ててシロナたちが続き、


「おいおい・・・どういうことだ?」


「あれ?広場・・・後」(あれ?広場は後回しだったんじゃ?)


と、アレイルとマコトは広場の入り口で驚き顔を見合わせ、そして少ししてから2人ため息を大きくつくとシゲンたちの後ろに続くのだった。


(広場に入っちゃったけど、どうするんだろう? それにしても、化け物扱いされることを多いけど、鱗族の集団も魔物の集団とあんまり区別付かないと思うんだ・・・)


 マコトは戸惑いながらも広場へと入り、10人を超える鱗族を前にそう思っていた。

 マコトから見れば、鱗族はまさに化け物の類で、獣人などとは比べ物にならない。鱗族と大まかな種別となっているが獣人のように多くの種があり、今回マコトが目にしている鱗族は、いわゆる半漁人に近く、全身を鱗に覆われ人に近い前を見る目こそあれども顔つきも人よりは魚やトカゲのそれであり、地下洞窟に集まる彼らを、


(ダゴンでも喚びそう)


と、マコトは観察時より思っていたのである。


 さて、その鱗族のいる広場は、多くの鱗族が会話をしながら酒を呑み食事をする酒場のような雰囲気で騒がしくはあったが、雑然としていようと鱗族でも無い者たちが堂々と入ってくれば気が付かぬ訳も無い。だが、シゲンがあまりに堂々と入ってきているために、侵入者なのかと疑問に思ってしまい声を掛ける者も無く、シゲンと付き人たちは遂に広場の中心にまでたどり着いたのだった。マコトとアレイルはシゲンより離れておりまだ出口に近かったのだが、


「おい・・・頭の客人か?」


「馬鹿か! 頭なら居るじゃねぇか!違うだろ!」


そこでざわつき始めてしまい、マコトたち一行にどうするのかと鱗族より気にされていた賊の頭は、


「お前ら、何者だ? ここは我らの地であり、お前らの遊び場では無いぞ?」


と、威嚇音のような音を漏らしながら言い、ようやく周囲の賊も各々武器を手に立ち上がる。


「あぁ・・・聞いてしまった」


その声に対し、諦めたようにぼそりと呟くシロナ。彼女たち付き人は、シゲンがこうして堂々と歩き始めたことで起こる事を予想しており、そのきっかけとなる言葉を聞き嘆いたのだった。


「ふ・・・クロナ、シロナ!」


にやりと笑ったシゲンは付き人2人を呼び、それに応えて2人はシゲンの両脇より一歩前に出て並び立つ。そうして、内力を込めたよく通る声で朗々と言葉を放った。


「右手に雷霆、左手に治法。千里の瞳に義の胸襟」


と、クロナが右より左腕を広げシゲンを指せば、


「地久の大足、雲臥の身丈。御身を龍変、人と成り」


と、シロナが左より右腕を広げ同じくシゲンを指し言い放った。そして、2人合わせ、


「「御国に降りしその名こそ」」


そう言えば、シゲンは両足を肩幅に広げしっかりと大地に立ち、その太い腕を組むと、


「シグダール・アレク・グリンガムなり!」


と、洞窟内に響き渡る大声でもって名乗りを上げた。その名乗りと共に、かつてマコトと対峙した時のようにシゲンの体は白光を纏わせ、威風堂々たるその様を見せつけたのだった。


「・・・うぁ」


賊からすれば驚きの一幕なのかもしれないが、余りの事にマコトは呆れと驚きを混ぜたような何ともいえぬ呟きを漏らした。一行のもう一人であるアレイルはといえば、諦めたような表情で小さく首を振り、有事に備えて剣を構えるのだった。


 マコトやアレイルからは、呆れや諦観といった何とも言えぬ雰囲気が漂ってはいるが、シゲンの名乗りはよく練られた内気と共に発せられており、賊たちはそれを身に浴び威に呑まれて言葉も無い。そうしたなかでゆっくりとシゲンは組んだ腕を解き下ろすと、


「冥府魔道を往く者よ、すでに主らの前に道は無し」


静かに、だが腹に響く低い声で言い、


「我が名我が声、そして我が拳を受け地獄の底へと落ちるがよい!」


と、言い放つと共に、シゲンとシロナ、クロナの3名は頭目の居る場所へと飛び込んでいった。そして、何も言えぬままの賊の頭に対し、


「天雷掌!」


と、シゲンが叫ぶや、その突き出した右手より白光が収束し放たれ、賊の頭であった男はその白い光に包まれると共に内部より炎を上げ、目や口より炎を吹き出しながら倒れ伏す。シロナ、クロナはシゲンの両脇を固め、シロナは頭目の傍にいた男の首をねじ折り、クロナは細剣で目より脳を一突きにした。

 そこでようやく賊たちも動き始めるのだが、3人によって次々と倒されていき、まともに剣を構えられた者すら居らず、死者を増やす3人の恐ろしさに、


「あんなの相手にしていられるか!」


と、後ろで出口を固める事になっていたマコトやアレイルへと残った者達が来たのである。


「えぇー」


「私も文句は言いたいが・・・不満をぶつけるには、丁度いい相手がいるだろう?」


色々と台無しな状況だと不満の声を上げるマコトに、アレイルはそう言って向かってくる数人を指した。


 マコトに向かってきたのは鱗族の男2人で、両方とも片刃で肉厚の剣を持ち走ってきた勢いのまま振り回してくる。多人数を相手取るため、マコトも受け手からの反撃を選んだのだが、


(あれ・・・下手だと分かる)


と、マコトが思うように2人は剣術など習っておらず、でたらめに振り回すだけで連携も無い。マコトはこれでは受けるまでも無いとさらりと躱すと、左手の金砕棒を横振りにして力一杯相手へと叩きつけた。


「へっ?」


打たれた方ではなく、もう一人がその結果に唖然として声を上げるように、小さなマコトが振っただけの一撃は、打たれた男の鱗と骨を砕きながら横に吹き飛ばす。男は5メートルほど滑るように飛ぶと広場の壁へと当たり、肉と骨が砕ける音を響かせぺしゃりと潰れ壁面に赤い華を咲かせたのだった。マコトも乗り気でない対人であるとはいえ、相手が半漁人とも言える面相であったからか自らの予想以上に躊躇無く振り抜くことが出来たために会心の一撃であったのである。

 こちらも化け物だったと剣を捨て逃げようとしたもう一人であったが、マコトが潰す前に自分の相手を斃し終えていたアレイルが剣の腹でその者の頭を打ち気絶させ、それが最後の一撃となり広場の掃討は終わったのであった。

 この男を切り殺さなかったのは、シゲンやマコトにその気が無いのを見て取ったアレイルが尋問に残そうと思ったからであり、男は目覚めた時、逆立ちしても勝てず、仲間を惨殺してまわった相手全員に囲まれ恐怖に悲鳴を上げることとなる。


(思っていた洞窟探検・・・仲間との行動と違う・・・)


と、思い描いていた冒険との差に嘆きながらマコトは首を傾げて金砕棒を肩に担ぐと、気絶した男を引きずるアレイルと共にシゲンたちのもとへと歩いていったのだった。


お読みいただき有り難うございます。

なかなか上手く時間が取れず投稿が遅れがちですみませんorz

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