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36.

前話まとめ。

カイ、マコトが死んだと思い仇討ちへ。→ナグルマルで決闘騒ぎを起こす。

 マコトたち一行は、ナグルマルへと着くと、


「それじゃあ、私は帝都に急がないといけないから・・・。いい? 危ないことはせず、ちゃんとアレセスに帰ってくるのよ。時期が合うなら一緒に戻りましょうね」


そう言うリンと別れ、マコトにベルムド、そしてリルミルたちと4人でナグルマルの門を潜り、街へと入るのだった。


「さて・・・。探すにしても、そう早くは見つからないだろうし、先に宿を取ろう」


ベルムドがそう提案し、マコトも頷くと4人は宿を探し大通りを歩く。

 ナグルマルは、南方の街であり季節は冬なのだが袖の長い服では暑いくらいで、ショールを頭からかけ、飾り袖を腕に巻くマコトの姿は暑苦しく映る。街は1年を通して長袖など着ない者の方が多く、暑いせいか建物は風を通すために窓が大きく、その窓から光が入らぬよう雨戸が上に開くようになっており、どの家も雨戸を大きく開き風を通していた。


「これは焼き魚か? どうにもでかい魚だな!」


「これは食い出がありそうだぞ? どうだろう?」


とリルミルたちは早速屋台の香ばしい匂いに釣られマコトにねだり、マコトもたれに漬けられた魚が焼ける匂いに胃が刺激され食べ歩きながら宿を探すことにし、長い耳をぴこぴこと機嫌良さそうに動かしながら焼かれた魚肉の串を頬ばり舌で器用に解しながら通りを眺めていた。


「あちらに数軒宿があるみたいだが、女人が泊まるならこのまま進んで、白い飾り枠のついた窓のある宿が良いらしい」


ベルムドが酒を片手に、屋台の男より情報を仕入れてきて、その宿へと皆で向かう。それからそう歩かぬうちにその宿らしい大きな窓に白い飾り枠をつけた4階建ての石造りの建物がマコトの目に入るようになり、


「あれカな?」


とマコトが首を傾げると、ベルムドは目を細めてマコトの指す方を眺め、


「あー、多分あれだな。マコトは目が良いな・・・私はまだそれっぽい白いものがついているようにしか見えんよ」


と返す。そこまで遠くは無いものの、様々な建物が軒を連ね昼光が反射し見え難く、ベルムドがしっかり見えるようになったのはもう少し進んでからであった。近付いて見てみれば、宿の名は「涼舷亭」といい冒険者向けではなく、商家や旅人でも金のある者が泊まるようなもので1泊も銀貨で3枚半と少し高い。だが、長旅の疲れもあり、マコトもベルムドも他の宿を探すのは、カイのことを考えてからでいいと宿を取った。


 宿の受付は若い男で、すぐに4人は部屋に案内されたのだが、


「今日は南の広場へは近寄らない方がいいですよ。まぁ、見物したきゃ止めやしませんが、今日に限っては荒っぽい奴が多いですからね」


と男はマコトたちに言う。


「何かあるのかね? 広場なら屋台も多そうだし、見物に行くには良さそうなものだが」


と、ベルムドが訊けば、今日は決闘があるから傭兵や兵士が広場にいるから女性が行くのは勧めないというのだ。


「決闘・・・それはまた珍しい。武人同士の諍いかね」


「いやね、何でもこのご時世に仇討ちだとかで、王龍団の団長と・・・何だったかな・・・ケイ?カイ?だかの武人がね」


決闘という珍しい事にベルムドが乗れば、男は更に決闘の事を話し、その中にカイの名が出たのである。これにマコトは驚き、


「カイ? カイがスる?」


と、男に食って掛かり、


「えっ・・・あぁ。確かカイとかいう武人だって聞いた・・・」


と、男が答えるや否や、マコトは荷物を放り出し、槍を手に宿を駆け出たのだった。


「ふむ・・・だが、まさかカイがそんなことをしているとも思えないんだが。さて、3人居なくなってしまったが、とりあえず部屋まで荷物を運んでくれるか?」


気付けばリルミルたちも姿が見えず、置いて行かれたベルムドはそう言って案内の男に荷物を持たせ、広場に行くにもまずは荷物を置こうと部屋に向かうのだった。



 そうして、広場へとついたマコトは、大きな歓声を上げる見物人をかき分ける。かなりの人だかりではあったがようやく開けたとマコトが目にしたのは、血に塗れ口と胸より大きく血を噴き自らの血溜まりに膝を付くカイと、そのカイへ剣を向けるアレイルの姿。


「ああああぁっ!」


マコトは驚きと悲鳴、そして怒りを込めた威声と共に一足飛びでアレイルまで駆け、力強く錘を左より打ちアレイルを横へと吹き飛ばす。咄嗟に剣で受けはしたものの、アレイルは思わぬ一撃に大きく飛ばされマコトの膂力をまともに受けた腕は痺れて剣を取り落した。


 そのアレイルとカイの間に入るようにマコトは槍を左手で構え、顔をカイへと向けると


「カイ!」


と、悲痛な声を上げる。マコトの目に映るカイの傷は深く、今にも死にそうに感じているが、カイをこんな目に遭わせた敵を前に引く訳にもいかず、カイを助け起こすことも出来ない。


「待て!待て待て待て! 我が審判する決闘に立ち入るとは何者か!」


そうしたマコトに対し、アレイルとの間に入るように立ち大声でマコトを制するのは、決着に気を取られマコトを防げなかったシゲンである。マコトが両脇にリルミルを付け、シゲンは付き人を両手に従え、大小対を為すかのような図に、見物人たちも息を飲み見守っていた。


「男同士の決闘に分け入るとは不届き千万である! 我が成敗してくれよう!」


と言い、シゲンは体に白光を纏わせる。マコトも怒りのあまり、唸るような声を上げそれに対峙したのだが、


「マ、・・・マコト、なのか?」


カイが苦しい息の中呟いたことで、マコトはカイへと顔を向け、それを聞いたシゲンの付き人も、


「陛・・いえ、シゲンさま。何か事情があるようです、お沙汰の前に事情を聴くのが良いかと」


「ですです。懐の深い英傑は無暗に武を振るわないものです」


と、シゲンが何かするのを嫌った彼女たちは彼を乗せながら制し、それに対してううむと声をあげ悩んだシゲンは身に纏う白光を収め、


「ふむ・・・決闘はすでに決していたな。アレイルよ、とどめは刺すのか?」


と、アレイルに向き直り訊く。


「いえ、それには及ばぬかと」


アレイルは必要ないとそう返した。アレイル自身は、あのまま続いていればとどめは刺したろうと思っていたが、こうなってしまえば止めを刺すのも少女の護る男を殺すようでばつが悪く、気も削がれてしまっていたのだった。


「では、決闘はアレイルが制した! だが、終わりに少々勢いがある者がいたようだ。それについては我が審判として面倒を見る・・・それで良いな!」


そうシゲンは大きな声で周り言い、決闘はここに終わることとなった。シゲンが話をしている間、マコトは対峙を止めてリルミルと共にカイの治療に当たっており、闇魔法を使いゆっくりと肺の傷を治していたのだった。

 もし、シゲンと戦っていれば、傷の深さからカイは助からなかったろうが、果たして助かったのはカイだけだろうか。シゲンは気付いていないが、マコトとやりあうことになっていれば、マコトを護る2人のリルミルを相手にすることとなり、門主をも上回るリルミルたちによって容赦のない攻撃が加わっていた事だろう。友の敵にかける容赦などない彼らを相手取り、シゲンはおろかいかほどの人が血に沈むかと思えば、この時の決断は英断であったといえる。こうした運の良さと、付き人の配慮がシゲンの行脚を日々助けているのであった。



 カイは治療の甲斐があってか血は止まったものの意識はすでに無く、マコトは言葉も交わすことも出来ていない。心配そうにカイを抱えるマコトに


「これはちと危ないな。石の人の傷よりましか?」


「いいや、こちらのほうが危ないな。血も出ているし、中が傷ついておる」


リルミルも、マコトの友ということでカイの体を診て、その危うさを指摘していた。


「傷塞がっタ・・・ダメ?」


と、マコトはそれに対してリルミルに訊くが、


「塞がったが、血が足りん」


「塞がったが、なかがずたずたで石の人が怪我した時のようだ」


そうリルミルは返す。カイの傷はある程度マコトによって塞がってはいたのだが、血を失った事。そして、内気を十分に込めた刺突が体を貫いたために気脈が大きく傷つき、カイの命脈はまさに断たれているに等しいのだった。


「治せル?治る?」


マコトはカイにすがるようにしながら、リルミルに治してくれるのか、治るのかと訊き、


「難しい。我ら2人では長くかかろう」


「治らぬこともないが、我らも石の人も必要だろう」


「あぁ、石の人もやるならいけそうか?」


「あとは肉と魚と酒がいる」


そう言って、マコトも治療に加わるようにリルミルたちは言う。

 マコトのような再生力があればリルミルたちだけでよいのだが、内気を込めた必殺の一撃というのは気脈が傷つくために塞がったはずの傷が幾度となく開くのだ。リルミルたちは2人では気脈を整えるのに手を取られるため傷を治すことは出来ず、マコトが参加することでようやくこの致命的な傷を癒すことが出来ると考えたのだ。こうした内傷から外傷がぶりかえすため、武人同士の決闘は例え闇の魔法の使い手がいようと死者が絶えない。アレイルやシゲンがこの間声を掛けなかったのは、そういったことから最後を看取るのを邪魔するのも悪いだろうという理由で、


「宿に行こウ」


と、マコトがリルミルたちとカイを運ぼうとすると、シゲンは慌てて声を掛ける。


「待て待て。一体どういうことなのだ?」


そう言うのだが、


「シゲンさま。今声をかけても仕方ないのでは? 宿に行くようですし、逃げるのではないですから付いて行きましょう」


「そうですよ。このような時に呼び止めるなど器量が知れてしまいます」


付き人たちにまたも制され、風のような速さで駆けだしたマコトたちにシゲンは付き人の1人を付けると自らはゆっくりとマコトの向かった方向へと歩き出した。


 そうして騒動も終わり、広場に残されたのは団長のアレイルである。何とも決まらぬ終わりに、見物人も同じ団の部下たちも声が掛けられず、


「何とも奇妙な話になったな・・・まぁ、少女が必死に割って入る。少しは面白い話として酒の場で話せるか」


と、おかしな決着となった決闘にため息をつき、歪んで鞘に戻らぬ剣を片手に持つと、


「酒でも呑むか! 何とも決まりは悪かったが、見に来た者もこれでは詰まらんし酒の肴にも困るだろう? 皆も今日は奢るぞ!」


そう大声で言い、皆の歓声を受けながら酒場へと向かうのだった。



 意識の無いカイを運び、今から宿を出ようとしていたベルムドと合流したマコトは、ベルムドの案内で部屋へと向かい、カイを床に寝かせた。


「着替えがいるな・・・大きさは分からんがとりあえず買ってくる」


ベルムドはそう言って部屋を出ると、受付に金を握らせカイのことを黙認させ、服を買いに出かけて行った。マコトはというと、再び開いた胸の傷を魔法で治し、リルミルたちは内傷を癒すべくカイの両手を取り内気を巡らせている。カイの傷はリルミルが思うよりも深く、その後、3人は休む間もなく手当を続けることとなったのだった。


 夜になり、カイの血に塗れた衣装をベルムドと2人で着替えさせ、ベッドに寝かせる。カイは小康状態にはなったものの、血を失い傷が開いてもうめき声すら上げられない。リルミルたちは傍で丸まりカイの内気を整え、マコトは度重なる魔法の行使で内気も尽きかけ、ベッドの脇でカイの手を握り傷がもう開かぬことを祈っていた。





「では、カイの言うアレイルの団が起こし殺してしまった者が、介入してきた者だというのか?」


マコトたちが治療で部屋を離れぬなか、ベルムドは宿の食堂で夕食を採りながらシゲンたちと話をしていた。決闘の審判ということやマコトが介入したという話を聞き、口下手なマコトより自分が説明するべきだろうとシゲンに申し出て夕食を共にしながら説明していたのである。


「その通りだ。私も秋口まではマコトが死んでいたと思っていたからな。実際、マコトは死んでいてもおかしくはなかった」


そう言って、ベルムドはマコトの受難について、全てではないが軽くは伝えていく。その話からマコトの腕が喪うほどの傷を負い、それでも生き延び、こうしてカイと再会したという事が分かると、


「何とも不運な子よ。故にあのような籠手や飾りをつけているのだな・・・」


と、シゲンはマコトの腕や顔のものを目立つ装飾か何かと勘違いしており、


「それにしても決闘のその日に再会とは天運か。いや、乙女故か? 恋が縁を繋ぐというのは本当か」


マコトがカイと恋仲にあるかのような勘違いまでして、


「えっ?」


「今の話、恋人の要素ありましたっけ?」


と付き人たちに驚かれ、ベルムドはそれを聞いてくつくつと笑い机に伏していたのだった。ベルムドはシゲンが皇帝だとは知らず、そのまま酒を酌み交わしながら話をし、シゲンは何時も何故だか気付かれ気遣われるのに、この者はそうではないと機嫌良く、


「今日といい、良い者と会える日は多いものだな。カイが治ったらアレイルと共に酒を交わしたいものだ」


そう言ってベルムドにも酒を注ぎ、大いに飲むのだった。その間に付き人たちはベルムドにシゲンを任せ、この宿の部屋を手配し、その部屋を整えたりと実にそつなく、


「その彼女たちとも酒を交わしたいものだ・・・実に苦労・・・いや、実に甲斐甲斐しい良い子達じゃないか」


と、戻ってきた彼女たちをベルムドは労い、彼女たちと目で苦労を語り合いながら酒を交わすのであった。


「本当に、男というのはどうしようもない。だが、カイは私の数少ない友だからなぁ・・・早く目を覚まして欲しいものだよ」


酒盛りも落ち着き、シゲンも酔い部屋に付き人に抱えられ戻ったところでベルムドはそう独りごち、酒杯を部屋にいるカイとマコトを思い掲げ呑み干すのだった。


お読みいただき有り難うございます。

とりあえず合流を果たすマコトとカイとなりました。

今回は男臭く・・・なかった。けど、もう少しマコトに活躍させても良かったかなーとも。

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