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32.

前話まとめ。

マコト、リンとベルムドと買い物に出る。

 錘が低い風切り音を奏で宙を舞う。マコトが金瓜錘を左手で操り、右へ左へと速さを増しながら振り回し、錘が後ろへと傾いたところで素早くくるりと回して前方へと突き上げる。1点を突くとしなった柄が一気に戻されて、びぃんと震えるような音を響かせて動きを止めた。それを見ているのは、丸々とした巨躯に戻り前よりも太ってすら見えるリオである。


「やっぱりなぁ・・・悪かぁねえが、ちと強引だ」


そう言って、マコトの左手を取ると振り回していた途中の位置に腕を止め、


「力が強えぇからどうとでもなってんだが、この位置は拙い。こうして押せば分かろうが、体が捩れるだろう?」


と、型の不味さを指摘した。


「折角だからいくつかの型を指南してやろう」


リオはそう言ってマコトに槍を教えているのだが、内力によって高めるような人と違い、元の力が強いマコトは強引に槍を動かしてしまうことが多い。力が弱い人であれば、内力で高められていようと筋や骨を痛めるだろう動かし方をしたりはしないのだが、なまじ力が強いものだから型が崩れてもどうにかなってしまう。確かにマコトの力ならば筋を痛めることは少ないだろうが、悪い力の伝え方というのは隙も大きくなりやすいし無駄も多く、弱点となるために我流の部分を矯正しているのだった。

 だが、どうしてもオルドに教えられた手に近い突きや払いがマコトにはあり、


「前に教えた者の腕も、やり方も悪かねぇ。だが、槍の具合も体の大きさも違う時に教えられた一手だろう? 今に合わせて直さなければ、悪手になってお前を殺すぞ」


と、リオはマコトに忠告しながら、逐一悪い点を指摘し、輪月功の槍術や錘の技のなかでマコトが使える手を3手ほど選び教え込んでいた。槍術はリクの剛山功法にある青蛟槍術が有名ではあるが、24式の型からなるこの槍術は両手を使う型が殆どで、右手が邪魔にしかならないマコトでは教えを受けれるような手は少なく、リオが金瓜錘の打法を含めて使えそうな数手を教えていたのである。


「はっ!」


気勢を上げ槍を回し、時に体を回して槍との位置を変えながら連続で錘を当てる一手を練習するマコト。錘を太陽と月に見立て、右から太陽が昇れば左より月も昇ると左右より相手を襲う手だが、くるくると回って背に錘が隠れる度にどちらより錘が襲い来るか分からず相手を惑わし、体と槍の位置を変えることで持ち手の位置をずらし間合いを計らせぬ技である。

 やはり左手で扱っているからかマコトのこの一手は左から繰り出す手の数が多く、槍と身の入れ替えも偏りがあり、リオは途中から組手にして、わざと偏って攻めたててマコトが偏らぬように補正していく。


(ま、こんなもんで、後はまた1週ほどしたら見てやればいいか)


と、リオはこの一手を止め、次の手の練習へとマコトを移らせた。


 今度の一手は、槍としての基本である突きの一手で、振り回した槍を背に回しそのまま体を半身に滑らせ突く手であり、本来は右手も使うが、マコトに合わせてリオが変えた技である。ただの突きや、前の錘の一手からも変じて突ける技で、何よりも回してから突き出すまでの速さと鋭さは恐ろしく、半身で繰り出される槍は遠くまで届き相手を突き刺す。


「そこで手を返す・・・肘を上げると隙になるぞ!」


リオより指摘を受けるマコトだが、オルドから習った突きのなごりは残るものの理解は悪く無いようで形はなかなか様になっていた。


「よし、突きはもういい。あと一手やったら、それぞれの手を組み合わせるぞ」



 そうして、マコトがリオより習う最後の型は、槍を地面に突き立て、柄を使い防御を行いながら拳と足で相手を打ち払い連撃をし、最後には柄を手で掴み支点として跳ね上げた体を使った飛び蹴りを行う間合いに入られた場合の防御と連続技といったものだ。この手は地面に突き立つ錘を池に写る月に見立て、繰り手が写った月を見ながら踊る型と言ったところで、槍の周りを円を描くように立ち位置を変え、突き立った柄は相手の攻撃の軌道を限定させる。槍の柄を使った攻守の立場を入れ替え攻め立てる技であった。

 この技のみ、マコトは右手を連撃の突きに組み入れ、場合によってはそのまま右手の爪で相手を突くことも出来る型となった。


 一通りの型稽古が終わり、今度はリオが対面し組手の形で行われる。リオの声に合わせ左や右より錘を繰り出し、突きや払いもその中に組み込んでいく。2つの型と、相手の攻撃を払うことに少し慣れてきたところで、リオはマコトの間合いの内に入り、3つ目の型を出させ、実際に柄を利用した防御法としての使い方や攻守の入れ替えの起点をいかに作るかを一つ一つ言いながらマコトを攻め立て、マコトはそれを聞きながらリオが繰り出す手を防ぎ、利用して逆に攻め入る。そうして蹴りがリオを捉え後退させたところで、リオはマコトに突きを出すよう言い、マコトはそれに反応し槍を引き抜き後退したリオへと突きかかった。そうして槍術の型を使う連携をマコトに憶えさせながらリクは徐々に速度を上げ、マコトがついていけるぎりぎりの線を見極めて攻防を続かせ、マコトが疲労のあまりに穂先がぶれ始めたところでようやく鍛錬は終わりとなった。


 こうした鍛錬をマコトは受けているが、


(やっぱ右手が使えねぇのと、左手首も関節が硬いのが欠点か。こいつに合わせた流派でもあれば面白れえんだがな)


そうリオが思うように、武術という技を習うには欠点は多く、3手のみというのもマコトが出来そうな型が少ないのが理由である。体の能力が戦闘に向いているだけにリオはそれが惜しく、マコトに合う武術かマコト自身が開眼し流派を興せば面白そうで、現状は勿体ないなとマコトと組手をして思っていたのであった。


「石の人は踊り疲れたか?」


「我らはまだまだ踊れるぞ!」


と、マコトが火照った体を石畳に転がって冷やしていると、先ほどまで庭の端でマコトを見ていたリルミルたちが寄ってくる。そうしてリルミルたちの話を聞きながらマコトが空を見ていると、


「あーっ!」


と、大きな声を上げて、リンが庭へ入ってきた。リンは勢いよく中庭まで駆け入ると、


「リオ!抜け駆けしたわね!」


そう怒りの声を上げリオを睨みつけたのである。


「太った俺より遅ぇとは、リンも焼きが回ったな!・・・ちと肥えたか?」


と、リオは笑い、リンは肥えたという一言に絶句し、怒りと共にリオへと突きかかる。それをあしらいながらもリオは笑い声を絶やさず、


「おお・・・石の人の次はこっちか!」


「あれは踊りか?戦いではないか?」


「戦いなら殺すだろう?だから踊りだろう!」


「皆踊るのが好きだな!我らも踊るか?」


リルミルたちも2人で組手のような踊りのような奇妙なことをし始めた。それにリンも気が殺がれ、


「ったく!今度また変な事言ったら、内毒で貴方の自慢の腹肉を減らしてやるからね!」


とリオへと言い、手を修めた。リンが何を怒っていたのかといえばマコトへの鍛錬の事で、この2人は武器を渡しに行く時にマコトに扱い方を教えるといった話をしており、リオがリンに何も言わず進めていたので抜け駆けだと怒ったのであった。


「マコト!爪もちゃんと使い手になるよう教えてあげるからね」


そう息巻くリンだったが、マコトは先の槍の鍛錬で疲れ切っており、


「うん・・・今度・・・」


と、言うのがやっとである。次は私だからとリンはマコトやリオに宣言しているのを、横手の家の窓より眺めていたベルムドは、


(家賃代わりに魔法を見てやるのもいいか)


などと考えていたのであった。


 後日、リンによって爪の技も数手教えられ、マコトは指を蛇の牙に見立て相手の急所を点穴したり毒を扱う技や、指で相手の喉笛や骨を挟み砕いたり引き抜く技を覚えることとなった。右手は手首が無いために変幻自在にとはいかないが、隠しの一手としては優れていて、爪をつけたマコトの指は鍛錬で使う丸太を深く抉り取っており、人相手であれば並の革鎧程度ならば突き抜いて肉に刺さる必殺の技と言えるものとなりそうであった。



 そうした武術の鍛錬も続いていたが、魔法もベルムドが教えてくれることとなり、


「もう1人、いイ?」


とベルムドに聞く。マコトはバルドメロと会う機会が減っていて、仲直りはしたがこのまま疎遠になるのも勿体なく思い、良い理由付けになると魔法の訓練をするが一緒に来ないかと誘うことにしたのである。

 バルドメロは魔導都市の塔を持つ魔術師のはずなのだが、回復魔法を使える闇魔法は便利で貴重あり、未だ塔に戻ることなくアレセスにいた。先の戦いの治療はもう落ち着いていたものの、バルドメロ自身が望まぬほどに多くの人に感謝され付き合いも増えてしまい、マコトのこの誘いは気晴らしになりそうだと承知すると、持ち場を適当な者に任せてマコトたち一行に合流したのである。


 魔法の練習ともなると庭で行うには被害が大きく、一行はアレセスを出て北へ少し行った荒地の丘で行うこととなった。


「それでは、マコト。前に教えた土の魔法、使ってみてくれるか?」


と、ベルムドが言い、マコトが魔法の練習を始めたのだが、それを見たバルドメロは


「おお・・・そうか。魔法は教えるものだったな!」


と、ずれたことを口にする。塔に入ってからは研究や自らを高める事ばかりをしていたバルドメロは、他人に魔法を教えるという考えがすっかり抜け落ちており、今回一緒に来たのもマコトの腕の研究を更に進めて気晴らしにしようという考えが大きかったのである。


「私もマコトに魔法を教えよう!いやはや、教えるというのはなかなか新鮮で楽しそうじゃないか!」


バルドメロはそう言って、ベルムドとマコトの練習がひと段落したところで参加し、闇魔法について教えていく。


「魔術師ギルドの闇魔法か・・・興味深いな」


と、ベルムドもマコトと共に聞き、


「秘奥のようなものは言えんが、基礎的なことは教えられるからな。さて、闇というと随分と暗く悪い印象を与えやすいが、闇という属性は何か?と言えば、万物の根源といえるものだ。故に色々なものに干渉し得るが、扱いの難しい属性でもある」


バルドメロがそこで区切ると、ベルムドは


「生き物や物に使うのは知っているが、万物の根源とまで言うなら他の属性同様のことも出来るのではないか?」


と聞けば、得意げにバルドメロは笑い、


「可能だ。闇魔法で光や火を出すことも出来る・・・だがなぁ、闇魔法からそれをするとマナの消費が大きく無駄なのだよ。直接マナを変じて作る火魔法に対し、闇魔法で火を起こすには何を燃し火を起こすのかその全てを表さねばならず、えらく難しい上にマナも使うと無駄が多いのだな」


「あぁ・・・万物を知らねば使えぬ上に消費も大きいのか・・・闇は器用貧乏なのかな?」


バルドメロの返答にベルムドは理解を示し、マコトも何となく理解は出来るのでふんふんと頷いていた。


「器用貧乏か・・・確かに確かに。だが、器用故に回復魔法がある。そして・・・」


良い生徒がいると機嫌よさげにバルドメロは話し、途中で言葉を切りマコトを見てから、


「古の魔法で人を作り混ぜるような禁忌たる魔法も闇に属する。生ある者の根源に干渉出来るからこそ治癒があり、種を混ぜるという恐ろしいことも出来るのだ」


そう続けたのだった。ベルムドは、治癒と生物の合成が同じ魔法から繰られることは知っていたが、その2つが同系統とは思えずにいただけに、この知識に感嘆し、マコトは


(生き物の掛け合わせと治療か・・・遺伝子とか構造にも干渉してるのかな?)


と、こちらの世界では知られない遺伝子などに考えを及ばせていたのだった。そうした講義のような話がしばらく続くが、


「あぁ・・・いかん。つい話し過ぎたが、私は魔法を教えるのだった!」


と、闇魔法の治癒を実際に教え出した。あまり難しい治癒魔法は教え難いため、簡単な傷の治癒を行える魔法のみではあったが、治癒魔法はお金を積んで教えてもらえるものではなく、2人とも真剣にそれを聞いていた。


「簡単な怪我の治癒はいいが、内臓や筋などは腕と知識が無ければ魔法で治すのは勧めない。無論、治さねばならぬこともあるが、知識も腕も無く治癒魔法でそれを塞げば、筋は動かなくなったり内臓も後で駄目になることもある。腕や足も深く傷ついたものを治したはいいが、意思を伝える部分を肉で塞いで動かなくなったりするからな。そうして治してしまった場所は、そのまま後遺症を抱えることになる」


バルドメロはそう2人に釘を刺し、


「練習は簡単だ、ナイフなどで軽く傷つけて、そこを治すだけでいい。ただなぁ・・・マコトは治癒力があるから、練習台が必要かもしれんな」


と、簡単な練習方法を言うのだった。

 それからバルドメロは実際に自らの手の平を傷つけて治すという実演をし、ベルムドもそれを見て自分の手の平を同じように傷つけて練習を始めた。マコトはというと、手はナイフで傷つくものでも無く、肘まで外殻に覆われた腕は傷つけにくいために少し悩んでから外殻の及んでいない右足の太腿を練習台にする。


「むむ・・・」


マコトは2度ほどの行使を失敗したが、その辺りで傷は塞がってしまい再度傷つけねばならなくなってしまう。それを見かねたベルムドは、傷をつけた手とは逆の手にも同じ傷をつけると、


「ほら、練習台だ」


とマコトへ差し出した。マコトは礼を言い、ベルムドの手を治そうと体の構造を思い浮かべ治すイメージと共に闇魔法を試行し、程なくしてバルドメロの出したような黒い水のような魔法の構造物を出し癒すことに成功する。一度成功してしまうと、元々の適正が高いからか、知識が理由か、成功率はベルムドよりも高くなり、薄い傷を癒しているだけとはいえ一定の成果が得られたのだった。


 魔法の練習は日も傾く前には終わったのだが、


「マコト!このような場所まで来たのだから、右腕の砲を試そうではないか!」


と、バルドメロは目を輝かせ、


(射程は分かってるけど、残弾や弾切れの感触は知らないし、連射とかも集中すれば出来るのかとか調べてみるのもいいな)


と、マコトも頷いて、右腕の砲による榴弾と狙撃を行う弾の砲声が辺りに響き渡ることとなった。


「ふはははは! 研究としても面白いが、爆発するのもつんざくような音も実に楽しい! あぁ、これは気晴らしになるな!」


バルドメロは上機嫌で、さあ次だ次だとマコトに撃たせ、ベルムドは驚きに口を開いたまま2人を見ていた。


「そんな仕掛けがあったのだな」


「うん」


我を取り戻したベルムドがマコトの右腕のことを言い、同意しながら発砲を続けるマコトだが、


(確かに気晴らしになる。ちょっと楽しくなってきた・・・)


と、上機嫌に発砲し、初めて撃ち尽くすまで続けたのである。マコトの砲も撃ち終えると、ベルムドはどこか呆れながら、残る2人は上機嫌にこの場を後にし帰路についた。だが、砲声は遠くアレセスの外壁の兵も多くが聞き、


「魔物の声か!」


「悲鳴か!?」


と、ちょっとした騒動となり、後に冒険者ギルドへの調査依頼まで出ることになっていたのだった。これは、マコトの所業だとばれるまで、たまに砲を撃ちに出かけることで続き、マコトが撃っていた場所は、アレセスの人々から戦争で死んだ者たちが彷徨い叫び悲鳴をあげる亡者の丘として知られることとなったのであった。


 無論、それを知ったリクにより、マコトは長い長い説教を食らったのだが、マコトの砲はアレセスにとっても有用で練習は悪くは無いと一計を案じ、その丘には亡者を慰めるための碑文を記した石が置かれると共に民の立ち入りを禁じられ、


「誰も入らぬから練習に使えばいい・・・だが、他の場所で無断で撃たないでくれ」


と、リクは言い、マコトは砲を思う存分撃つ場所が出来たのだった。


「いい気晴らしの場所が出来たな! 亡霊の丘とは・・・くく・・・噂とは面白いな! そうだマコト。今度は左右の目や額の角、足なども研究してみたいのだがどうだ?」


騒動の一因でもあるバルドメロはといえば、こんな事を言ってにやりと笑い喜んでいたのである。これにはマコトも呆れはしたのだが、当の本人も良い場所が出来たと思っている辺り、似たようなものなのであった。

お読みいただき有難うございます。


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