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31.

前話まとめ。

マコト、家でアレセスの防衛案を練る。

 翌日、上手い具合に会議を運べたことで意気揚々と足取りも軽くマコトの家の門をくぐるリンであったが、中庭で鍛錬をし始めていたマコトにそれを報せていると、


「おや?マコトの知りあいが来ているのかな?」


と、低い声が庭の横手にある建物より発せられた。


「えっ?男!?」


マコトが男を連れ込んだと驚き、そちらに目を向けると窓から顔を覗かせたベルムドの姿があった。部屋は暗がりであり、あまり判別がつかぬこともあってリンは男と勘違いしたまま、


「マコト、何時の間に良い人を作ったの?」


と言うのだった。だが、心中はと言えば、


(悪い虫だったらどうしてやろう・・・マコトは頼りない所があるし、見てやらないとね)


と、リンは値踏みをしてやる心算であったのである。


「えっト・・・アリアデュール、友ダチ」


マコトは、リンとベルムドが会っていなかったことに気付いて紹介しようとそう口に出したが、


「ふぅん・・・カイ・バーデン以外にも男がいたのねぇ。ここまで追ってくるなんて余程仲が良いのかしら」


と、リンはマコトの旧友に少しばかり嫉妬していた。それに、男が追いかけてきたのだから少なからずマコトの事を思っているだろうとリンは思い、見極めてやろうとベルムドの居た窓を見ていると、


「いや、待て。くっ・・・ははは!いや、待ってくれ」


と、マコトやリンからは見えないが中からベルムドの笑い声が漏れ始める。


(また、何かツボに嵌ったな)


マコトはそう思い、実際、ベルムドはリンの誤解を見抜いて笑っているのだからその通りなのであった。ベルムドは部屋の中でひとしきり笑うと、誤解を解くために部屋から出る。外套でもつけて誤解を広げるのも面白そうだと思っていたものの、さすがに初対面でそれは意地が悪いと長衣に帯を巻いただけの部屋着のまま外に出ると、


「部屋着で申し訳ない。ちょっとばかり行き違いがあるようだから、すぐに出ようと思ってね」


そう言ってリンへと笑いかけた。エルフのベルムドは、顔つきは種として細く美しいため男女が分かりにくいが、小柄ではあっても出るところの出た良い体つきで服の上からでも女性だと分かり、リンはその声と口調が目の前の佳人から発せられていたことに言葉も出ない。


「マコト、良ければこちらの方を紹介してはくれないか?」


ベルムドはそう言って、少しばかり止まってしまっていた場を取り持ち、マコトはこくりと頷くと対面する2人の横に立って


「リン。友達・・・門主」


「ベルムド。友達・・・魔法、教えテ、くれタ」


と、それぞれを紹介する。そこでようやくリンは気を取り直し、軽く咳払いをしてから


「私はリン・リーリル。千変八雫の門主をしているわ。よろしくね」


と言って両手を組み軽く頭を下げ、ベルムドは同じように頭を下げ返礼してから、


「五大門の方でしたか。私はベルムド・ツァルダと言います。こちらこそよろしく」


そう返した。


「あぁ、敬語はいらないわ。門主なんて言っても小娘なんだから」


リンはマコトやリルミルと過ごせるここで敬語のやりとりなどしたくは無く、敬語を拒否しベルムドもそれは有難いと受け入れる。立ち話もなんだろうとマコトは鍛錬の継続を諦め、2人を本宅へと案内しお茶の用意を始めたのだが、


「危ないじゃない。私が淹れるからマコトは茶菓子でも出しておいてね」


危なげな手つきのマコトに、リンは道具を取り上げると慣れた手つきで台所に立ち、お茶の用意をし始めた。リンの左手は最近ようやく薬漬けから解放され、少しばかり痺れと傷痕は残っているが不自由を感じさせることなく沸いた湯を急須に入れ、盆に乗せるとマコトたちの待つ部屋へと行くのだった。


「門主手ずからのお茶を楽しむ機会があるとは。っと、有り難う」


そんなことを言いながら茶碗を受け取るベルムドだが、相手が都市国家の支配者の1人と知っただけに少し緊張しているようで、どことなくぎこちない。

だが、


「いい匂いがするぞ!」


「美味そうな匂いだ」


「これを食べれば、より毛艶が良くなりそうだ」


「これを食べれば、今まで以上に尻尾が立つぞ!」


リルミルたちがこの茶会を目聡く見つけ、マコトを見上げながら菓子をねだり、


「あら・・・おいでおいで・・・ふふ」


と、黒毛のリルミルを膝に乗せ、菓子を与えながら頬を緩ませころころと笑うリンを見ていると自然と緊張は解けていき、和やかに茶会は進むことになった。


「今日は暇? 前に約束していたけど延び延びだったから、マコトの服を選びに行きましょう」


アリアデュールの話やアレセスの防衛戦と、あまり色気の無い話をしていたのだが、それにも一区切りがついたところでリンはマコトにそう提案し、


「貴方たちも、良い食べ物を狩りましょうね。ベルムドも良ければ一緒に服を見に行かない?」


そう皆にも提案した。マコトも約束は憶えていたし、このところのアレセスは復興が進み賑やかだったのでそれも良いかと頷くと、それを見てから、


「良い酒があるといいな」


「良い食い物もあるといいな」


「ふむ・・・しばらくこちらに滞在するつもりだし、服を少し買うのも良いかな」


と、リルミルたちやベルムドも乗り気であった。



 準備も終わり、マコトたち一行は街へと繰り出す。2つの都市国家に魔導都市による同盟の発表、そして港以外は大きな被害の無かったこともあり、アレセスには商人たちも戻ってきていた。秋という豊穣の季節に賑わいも盛りを迎え人々の顔も明るく、大通りには露店が立ち並び、人が溢れていた。

 中央の区画から門主たちの区画を分けるように四方に伸びる大通りには多くの店が並び、露天を冷やかしたり、リルミルたちにリンが色々と食べ物や飲み物を買ったりしながら一行は進んでいた。


「この酒は良い酒だな」


「こちらの串に刺さった肉は、たれが良い。肉がもう少し齧り甲斐があればより良いのだが」


と、リルミルは両手に酒や串を持ち食べ歩き、


「あら、あそこの店をちょっと見てみましょう!南方の品っぽいわ!」


と、リンは、マコトの手を引き櫛や簪を並べる露店を見て回る。そうした少女たちの保護者のように悠々と歩き、


「ふむ、この色ならばリン、こちらならマコトに似合うのではないかな?」


時に混ざりながら楽しむベルムドと、一行は楽しみながら目的である服を扱う店へと辿り着く。そこはしっかりと店を構える商店で、マコトがいつも使うような雑貨屋とは違い服飾を専門としているため質は良いが少々高い店である。


「ここよ」


リンはそう言って先導する。中に入るとすぐに店員がリンを見て案内をつけようとしたが、リンはマコトが不快にならないよう店員に必要以外は来なくていいと告げ、各々で服を見て回る。しばらく見て、どんな服を見繕ったのかと皆で集まると、


「これ」


と、マコトはリンに見せるものは、黒や焦げ茶、濃紺など暗い色や地味で質素なものが多く、装いも刺繍などが施されたものはなくどことなく男っぽい衣装ばかりであった。


「駄目よ。そんな色ばかり選んじゃ、自分の魅力を消してしまうわ。マコトは可愛いのだから、勿体ないわ」


リンはそう言って服を選び始め、


「ふむ・・・マコトの装いか。私も見てみるかな」


「石の人の服か!毛皮がないからな・・・どれ、我らも見てみるか?」


「服か。我らは服は分からんからなぁ。だが、ただ待つのも詰まらんか」


と、ベルムドやリルミルたちも思い思いに服を選び始めた。


(そんな駄目かなぁ)


そんなことを思うマコトは所在無さげであったが、


「マコト、選んだ服も戻さずにおいてね。それも必要でしょう?」


そうマコトへとリンは声をかけた。リンはマコトが着飾ることは良いと思っているが、マコトが選ぶ服は冒険者として動く時などには必要だし、自分たちばかりが選んで押し付けては駄目だろうととりなしていたのだった。


 それから、選ばれた服を次々にマコトに合わせていき、その内にリンとベルムドはどちらが友人として良い物を選べるか?と張り合いだしてしまい、多くの衣装が積みあがることとなった。マコトは、


「分から、ナい」


と、次々と出される服を合わせてもどれがいいか今一つ分からなかったりもしたのだが、それでも笑みを漏らしながら皆とのやり取りを楽しんでいたのである。リルミルたちが飽き始め、マコトも疲れが出るまで服を見て、


「おっと、私はそろそろ自分の服をいくつか見ておかないとな」


とベルムドが止め、


「まぁ、こんなものかしら?」


そう言ってリンが多くの服を店員に渡し、いくつかはマコトの腕が通るようにと加工を頼んでいた。こうしてようやく服は選び終わり、リンはベルムドの分を含めて全てを払うと、感謝を示す2人に


「マコトの恩と比べればまだまだよ。それに楽しかったしね」


と笑顔で返したのだった。


 買い終わると、持ち帰れる服の内からいくつかをリンは取り出すと、マコトのフードのついた外套を外し、マコトの衣装を変えていく。フードの代わりにショールを頭にかけ肩へと垂らすような恰好で、腰の帯も今までより飾りのある華やかなものとなり、いつものような全て隠れるような地味な衣装ではなくなった。マコトの外殻や顔の角や目は華やかな衣装によって宝飾のようなアクセントとなり、


「これなら可愛い顔も綺麗な宝石のようなところも良く見えるわ!」


と、リンは満足そうに微笑んで太鼓判を押すのだった。ベルムドも悪くないと言い、マコトも姿見に写った自分の姿が前より良くなっていることは分かるので、


「ありが、とウ」


と礼を言う。とは言え、外に出てみれば、フードや外套で隠れていないことは不安が残りマコトはびくびくとしてリンやベルムドの影に隠れるようにしていたのだが、時折不思議そうに振り返る者や目立つ腕を見る者はいたものの、怖れられるような様子は見受けられなかった。

 日が傾いてきていたり、リンやベルムドといった者の後ろについていたこともあるが、隠者のような外套姿はアレセスでは珍しかったので、今の方が目立たぬとも言えた。また、マコトは先の報償の式典でリクたち門主より認められていることを知る武門の者も多く、それによってマコトは色々と噂になり、多少なりと変化もあったのである。マコトのことを毛嫌いする者が居る一方で、その功績や恩を感じ入り、見目に拘ってどうすると思う者も居たのであった。


 帰りも露店を巡り様々な物を食べ、他にも幾らか買って回り、マコトたちは終日騒ぎ通して家へと辿り着いた。その勢いのまま3人で風呂にも入り、


「少しばかり酔いが回ったし、先に寝るよ」


と、風呂から上がったベルムドは先に寝てしまった。マコトはリンに髪を梳かれ、気持ちよさそうに目を細めていると、


「今日は疲れたでしょう?」


と、リンは話しかけてくる。


「うん」


マコトがそう答えると、リンはごめんなさいねと前置きをしてから、


「ちょっと強引だったかもね。でも、私は楽しかったわ。やっぱり、気兼ね無く話せるし、マコトと友達で良かったわ」


そう言い、


「うん、楽しイ」


と、マコトも返して2人微笑むのだった。そうして手入れが終わると、リルミルたちが先に丸まって寝ている寝台に2人で入り、灯りは落とされる。


「おやすみ」


マコトがそう声を掛けると、


「マコト、何時もでは疲れるでしょうけど、たまには華やかな服も着てやってね。それじゃ、おやすみなさい」


と、リンは答え、


「あぁ、この子たちと一緒に寝れるのはいいわねぇ」


そう言いながらリルミルを抱えて寝てしまう。


(長い買い物っていうのは疲れる・・・けど、意外と楽しかったなぁ)


マコトは今日の事を思い返しながら目を瞑り、横で眠るリルミルの温もりを感じながら眠りについたのだった。


お読みいただき有り難うございます。

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