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29.

※1日予定より遅れましたが、23.にイラストを追加しました。


前話まとめ。

戦争が終わり、アレセスは他都市との連携を図る。→マコト表彰され家を与えられる。

 マコトが得た家は、アレセスの中央塔に程近い場所にあった。元々はリクが別邸として用意したものの一つで、屋敷と言っていい大きなものである。四方に塀を巡らし、外に面した門を潜っても本邸は見えず次の門扉と左右に小さな平屋建ての家があり、マコトは貰った家はそこかと思ったのだが、そこは門番や奥に入れない相手を待たせる部屋で、次の門を潜るとようやく本邸が姿を見せた。門を潜ると石畳で作られた広く四角い庭があり、その周りにコの字型に3つの大きな平屋が建ち並ぶ。その中で正面にある最も大きな建物がマコトの本宅で、他は家人を住ませられるようになっていた。邸宅はアレセスの街並みと同じく朱色の鮮やかな瓦と白く塗り固められた壁を持ち、欄間や柱に花や山の風景が彫られた美しいものである。家は新築で与える話もあったのだが、復興に忙しい今ではそれに割く人員は限りがあり、ならばとあまり使われていなかった別邸をとなる。その場所が中央区で誰の門主の区画でも無い事もあって、マコトへの報償となったのであった。

 この邸宅はマコトの功と比べれば小さい物なのだが、家と言えば日本のものを思い浮かべるマコトにとっては大きく、


(家って言ってはいたけど、こんな大きいのか!)


と驚き、心が落ち着けば、住むには広いなと思いながらも高揚した気分で自分の家を探検していた。リルミルたちや、屋敷の場所を伝え案内したリンもそれに同行しマコトと共に見て回る。


「ここが石の人の家か。何とも低い場所の家だなぁ」


「山でも谷でも無いな!これでは良い洞窟も掘れまいぞ?」


「だが、ここなら雨も風も凌げよう。少々壁が薄くて気になるが!」


「ここなら寝るも食うも困らぬな。少々狩りは難儀しそうだが」


リルミルたちは、マコトの家が石の人たる種のものと違うことや自分達の家との差を話し、


「やっぱりリオは良い調度を揃えてるわねー。これならマコトも不便は無い・・・けれど、ちょっと硬くて男っぽいし華が足りないかしら?」


「ん?分から、ナい」


と、リンやマコトはリオの別宅だっただけに良く揃った調度品を見て評しながらも部屋々々を渡り歩く。1人で寝るには大きい天蓋のあるベッドや、夜には月見をしながら入れるだろう半露天の風呂など、


(これで別邸か!本邸はどれだけなんだ)


とマコトを驚かせ、


(広くて良い寝所に詩にでも出そうな風呂・・・女でも連れ込んでたのかしらねぇ)


とリンは少し呆れた顔で邪推をしていた。その後、マコトとリルミルたち、それにリクとリンとリオを呼んで簡素ながら家を得た祝いとしての宴をし、皆と語り合い、宴が終わっても夜が更けるまでマコトとリンは語り合ったのだった。



 さて、マコトの報賞の一つ、武器についてはまだ得ていない。式典から数日後に、マコトはリクに呼ばれて両手の握りの型を取りはしたのだが、武器自体はまだ姿形も見ていないのだ。

 マコトの右腕は、その性質から武器は必要そうには見えないが、左手側はそうではない。今まで使っていた槍は、元々幾重にも革紐を巻きつけていたもので、腕を潰され大きな腕に再生してからは更に幾重にも布を巻きつけており不格好なもので、使い勝手はとてもではないが良いとは言えない。穂先となる刃はオルドより貰った鋭い良い物ではあったが柄がこれでは台無しであるし、マコトの大きな手は槍の扱いを不自由なものにしていた。

 今でも槍は歩法と共に鍛錬をしているし、リオの門弟たちとも槍を使って組手もするが、武人から見たマコトの槍は、体に合わぬ腕によって突きの角度はずれ、手首が回りきらぬために振り回すのも不得意とすでに弱点に近く、少し間違えれば獣の突進も受けてしまいかねぬほどに合わぬものになっていたのである。リルミルたちの元に居た頃にマコト自身によって手直しされた突きの技ではあったが、おかしな角度から放たれる突きは、武術で言えば奇手に近く妙手とは言い難い。初手こそ相手が受け難く驚かれるだろうが、逆に言えばそれだけである。型から外れてしまった槍の技は隙が大きく、技しか見ない者ならばそこが好機と飛びかかり右腕に打倒されるだろうが、しっかりと見ていれば隙の多い左側を利用してマコトはたちまちにやられてしまうだろう。リオの門弟との組手でも如実にそれは表れており、マコトを倒すものはあっさりと倒し、倒されるものはマコトの力によって振り回されるといったものになっていたのだった。

 マコトも、武器については金があれば欲しいと思っていたこともあり楽しみにし、出来るまでの間は運搬の手伝いや鍛錬をしていたが、左手を使ってもう一つ練習を始めていた。


「む・・・むぅ・・・うう・・・」


と小さく呻いたり、舌先を出して噛みながら集中しマコトがやっているのは、オルドと会った頃にやっていた砂板での字の練習である。前は無理に右手で筆を摘まんでやっていたのだが、変じてからはいよいよ文字を書くのも辛くなり、書いている文字が右腕に隠れる始末でどうしようもない。元々、字はある程度整えないと恥ずかしいとマコトは右手で練習していたりしたのだが、変じた右手で練習することは遂に諦め、左手で書くよう努力しているのだった。左手の方が右手よりは器用なはずなのだが、慣れておらず力を抜き過ぎればぐにゃりと字が歪み、それに焦って力を入れ過ぎれば筆が折れ砕ける。現状では木の棒でやっているため替えは十分だが、


(右手でも、少しは字もましになってきていたのになぁ)


と残念に思いながらも、努力を続けるマコトであった。


 そうして、日々を過ごし、一月と半ほど経つとようやく武器がマコトの元に届くことになる。武器を届けにきたのはリオにリン。それに武器の入った箱を運ぶ門弟数人であった。


「リクも来たがったんだがなぁ、どうにも外せぬ用事が多くてなぁ。国が絡むと面倒事が増えていけねぇな」


「ラーシュも、未だ弔いがあったり、敵を埋めた場所に小さい塚を作ってるから抜けれないって」


と中庭でマコトと対したリオとリンは、リクが来訪出来ぬことを惜しんでいたこと、ラーシュも忙しく来れない事を告げ、門弟を促し箱を自分達の前に置いた。


「開けてみて。貴方に合うと思う武具を用意したわ!」


大中小と箱が3つ並び、初めにマコトは小さい箱を開けると、中には装飾品かと思うような金の細工であしらわれた湾曲した円錐状の青いものが3つ入っていた。


「あら、私のを初めに選んだのね!」


そうリンは言うとマコトに近付き、中の物と一つ一つ取り出してマコトの右手の指に嵌めていく。


「これはね、青燕爪と言ってね、こう見えて硬く鋭いのよ? マコトの力なら壁も貫けるんじゃないかしらね。それに・・・毒も仕込めるから仕込んで引っ掻くだけでも良いのよ」


楽しげにマコトの親指、人差し指、中指に嵌った爪を説明するリン。尖ってはいるが、はた目には美しい装飾品に見え、青色に金で彩られたそれはマコトの腕にも良く合い映えていた。リンが選んだのは、左手の武具ではなく右手の間合いでの必殺武器であった。マコトの腕と鍛錬を見て、どうにも武具や技を扱い切れぬ時、間合いに入られれば頼れるのは右手だろうと指に嵌る暗器の類を用意したのである。リンの好きな部類の武器ではあるが、対人においては実用に足る武具と言えるだろう。

 恐る恐るゆっくりとマコトは指を動かし、試しにと庭の端へと歩いて石畳を引っ掻いてみるが、少し力を入れるとずぶずぶと指がめり込み、石を削り採っていく。


「おお・・・」


硬い石がただの土のように削れていくのに驚きながら何度か引っ掻き、驚きながらも楽しんでいたが、リンやリク、それに門弟の見守るような目線に気が付き、


「う・・・」


と、言って、マコトは皆の元に戻ると、リンへ向かいありがとうと告げる。


「気に入ったようで良かったわ」


とリンは言い、マコトは丁寧に爪を外すと箱に収め直して、次は大中小の中くらいの箱を選んだ。

 中に入っていたのは、1.2メートルほどの棍棒で、金砕棒と呼ばれる武器であった。マコトの手に合わせ、丸太のように太い鉄を六角にし、それぞれの面には棘が並んでいる。マコトの外殻に当たらぬように装飾の類は無く造りは単純だが、芯と回りでは硬さを変えた折れにくくした逸品で、マコトが持つとずしりとした重さが伝わり、その威力を示しているようであった。


「それは砕竜と銘を打たれた棍棒だ。槍のように間合いは無いが、力を持って砕くならばそれ以上はなかなか無い逸品だぜ」


そうリオは言い、ラーシュがお前はそういう単純な力こそ向いていると言っていたと告げるのだった。マコトはそれを聞き、軽く振り回してみるが、しっかりとマコトの手に合わせたそれは驚くほど手に馴染み、振り回してもその重さすら苦にならない。2人がかりで持っていた箱の中の武器を軽々振り回すマコトに、リオの門弟たちは目を丸くするなか数分間試しと振るわれ続け、


「うん・・・すゴい」


と振る手を止めたマコトが呟き、武具は箱の中に収められた。そうして最後の箱が開けられる。

 大きな箱に入っていたのは、2.3メートルほどの槍・・・と棍の中間に位置する特殊な武器であった。マコトの手に合うよう少し太めに造られた柄の先には棘のついた丸い球状の錘があり、さらに先端には槍となるよう刃がつけられている。


「それは金頭牙錘っていう槍の一種だぜ。リクと俺が選んだやつでな、槍で刺す以外にその錘を使って一撃食れてやることも出来る」


そうリオに言われてマコトは槍を手に取ると、錘がついているせいか僅かに先が重く感じられた。マコトが構えると皆が庭の端に引き、マコトはそれを見てから槍を振るい突き始めた。


(これは面白い・・・柄はよくしなるのに穂先がまとまる)


マコトがそう思うように、よくしなるが突きを入れようと動かせば、しなった穂先はぶれずにまとまり一点を突く。錘という重しが腕の繰りを早くし、不器用な手首で持ってしてもなかなかの動きが出来、マコトは調子に乗って振り回すが、やはり慣れぬ槍。最後に振り下ろして止めようというところで、予想以上にしなった柄によって錘が石畳をしたたかに打ち付けてしまい、大きな音を響かせ石畳の一枚を砕いてしまった。


「あー・・・失敗しタ」


リオがそれに大笑し、格好のつかぬ様に手に入れたばかりの家の一部を壊すと、情けない面持ちになったマコトに皆も笑みが漏れ、リンがマコトを慰めるなかで武器の授与は終わった。


「あり、ガとウ。皆、伝えテ」(ありがとう。皆にも感謝を伝えて下さい)


とマコトは3つの武器の礼を言い、そうしてリオやリンによる武器についての話から鍛錬が始まり、最後は門弟共々に皆で宴をしてその日は暮れたのであった。


 マコトが新しい武器の練習を始めた頃に、ようやくバルドメロはマコトへと会う機会を長くとることが出来るようになった。彼は治療を行う魔術師としての腕が良いために余りにも時間が足りず余裕も無く、今になるまでマコトとしっかりと会う機会が無かったのである。マコトの家を訪れ対面する2人だったが、バルドメロはマコトを目の前にして言いたいことが余りに多く言葉を失い、マコトはというと、


(こうも時間が経つと、怒っていたのも冷めちゃうよなぁ)


ときまりの悪い思いもあり、バルドメロの言葉を待っているのだった。だが、マコトが舌を酒に漬けて揺らめかせ、舌を引っ込めて酒を喉に通すことを何度か繰り返すが、一向に話は進まない。バルドメロも、時間が経ってしまったことでばつも悪く、考え込んだ頭には言いたことが詰め込まれて出てこないのである。


(カイだったらどうするかな?どう許すかな? リンだったら・・・毒でもやりそう? リオなら決闘になるかな?)


と、進まないなかで、どう話すかなと考えを巡らせていたが、


(カイなら酒か・・・酒だよなぁ)


そんな考えにマコトは至ると、酒瓶をどんと机に音を立てて置き、それにびくりと震えてこちらを見るバルドメロに、


「私、怒ル」(私は怒っている)


と言い、続けて


「でも、叩く。バルドメロ、死ぬ」(でも、叩けばバルドメロは死ぬだろう)


そう右手を見せるよう上げて言い、酒をバルドメロの杯に注ぐと、


「殺す。酔い死ヌ。同じ」(殺すのも、酔って死ぬのも同じだろう?)


と続けると、バルドメロに呑むように言ったのだった。始めはマコトの言葉を読み取るために考えていたバルドメロだったが、意を解すると酒を呑み、そのままなし崩しに双方酒を進めて、いつしかリルミルたちも加わり宴会となってしまう。

 酒も入れば言葉も進み、


「私は、ただ・・・信の置ける奴が近くに欲しかったんだ。魔術師ギルドの息のかかっておらん奴をな」


とバルドメロは言い、それだけだったと続けると杯を一気に飲み干す。


「結果、良イ」


とマコトは言うが、


「結果じゃぁない!魔法は結果だが、人は情だろう? 私は魔術師だから義侠なんぞ知らんが、情は知っている。結果が良いと言われようと、その道筋でお前に酷いことをしたことに変わりはない」


そういって更にバルドメロは杯を飲み干し、マコトはそれを時に肯定し、否定しながら吐き出させていく。リルミルたちもそれにたまに混じりながら夜も深くなり、バルドメロが酔い潰れ寝てしまうまで続いたのだった。

 次の日、溜まっていたものを吐き出したバルドメロはすっきりとした面持ちになっており、その彼にマコトは、


「バルドメロ、酔い死なナい。これデ、また友」


と、水に流して友となろうと不自由な言葉をゆっくりと操り言うと、バルドメロは深く頷き、


「ありがとう」


と言った。これにより、またバルドメロの奇行がマコトに行われることが増えるが、バルドメロによって始まった一連の騒動はようやく区切りを迎えたようにマコトは感じるのだった。


 日々は過ぎ、アレセスと魔導都市、イホ国の同盟の締結によって商路にも活気の戻り始めた頃、マコトの邸宅に1人、遠方より訪れる者がいた。


「久しぶりだ!本当に・・・! 聞いたときは信じ難い思いだったが、本当に良かった!」


出迎えたマコトを抱きしめ、珍しく斜に構えた様子も見せずに感情を表すマコトと同じ程度の背格好の者。それはマコトがアル・フレイで交友を深め、発端となる依頼でエルフの森へと里帰りをしていたはずのベルムド・ツァルダであった。

お読みいただき有り難うございます。

どこから話に手を付けようかなと悩んだ回だったりします。

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