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26.

前話まとめ。

戦争が始まる。→門主や魔術師による防衛戦。→マコトも近寄る敵兵へ榴弾を放つ。

 アレセスの外壁を見渡せる位置に造られた陣、その指揮所には6人ほどの将が居るが、その中でも上座に座る突き出た腹を持つ恰幅の良い40過ぎの男は、


「ここまではまずまず計画通りか?」


と静かに話す。口髭を蓄え、黒髪を後ろに流したこの男の名は、カルロス・アネーリオ。今回の遠征軍の指揮官であり、ベル王国の将である。


「ですな。・・・ヤラヴァ国の者どもは少々頼りなかったですが」


と副官は彼に返す。当初の予定では、先陣を任されたヤラヴァ国によって、多少は外壁を超えて戦闘を行わせて双方共にそこそこの被害を出す予定だったのだが、結果はすり減らされただけに終わっている。


「まぁ、王を戴かぬ国の兵なぞこんなものだろう。我らの代わりに魔術師ギルドをあぶり出せただけ役立ったといえようよ」


 そうカルロスは言って朗らかに笑い、指揮所からは将官の笑い声が漏れた。彼らからすれば、ヤラヴァ国などの国王を持たぬ国は、国と言えぬ野蛮な集まりであり、蛮民を庇護してやったのだからと彼らの武器となる兵を使い捨て、後で対価を存分に支払わせるつもりなのである。そのため、今回の被害も予定通りであり、ベル王国の兵員にも、


「ヤラヴァ国の蛮兵は智も勇も足りぬ弱兵ゆえにああなった。我らは違う」


といった趣旨の話がされており、食料もしっかりと渡っている現在は、初手を失ったとは思えないほどに士気が高い。


「しかし、アレセスは意外と頭が回るようですね。それに武功も侮りがたい」


 そう言う副官だが、


「大したことは無いだろう。確かにヤラヴァの者から聞いたよりは知恵が回るようだが、猪が猿に変わったからと言ってどうだと言うのだ? せいぜい魔術師の連中が知恵を貸し猿回しをするくらいだろうよ」


とカルロスは言うのだった。彼らが余裕を持っているのは兵力の多さだけではなく、ヤラヴァより支援物資がしっかりと届くことで矢も糧食も不安は無く、何より海洋国家として海戦ならばどの国にも引けを取らぬと自負する海軍がアレセスへ向かっているからであった。


「我らは矢で休む機会を相手に与えねば良い。海から船が来れば、我らのみを相手にもしていられまい。そうして防御が緩んだら攻めかかるのだ」


 そうカルロスは言い、初手の強引さからは考えられぬほど堅実にアレセスを攻めていたのである。



 こうして、船が来るまでの間は膠着状態であったのだが、アレセス側も相手が機を窺っていることは気付いており、門主たちは膠着状態を利用し一同に会して、今後の作戦を練っていたのである。


「外壁側は、今のところ変化は無い。船が来るまで何も無かろうよ」


 そうラーシュは言い、フガクやリンも同意する。


「詰まらんよなぁ。攻めてくればいくらでも殺してやるんだが」


とリオは膠着状態に苛立っていたが、攻める訳にもいかず我慢していた。


「海はまだ何も無いな、静かなものだよ。だが、そろそろ荒れるだろう」


 海側に張っているリクは、今は異常は無いがそろそろだろうと踏んでいるのであり、


「ならばどうします?相手の海軍は決して侮れません。近付かれ、大軍を港に呼び込まれれば不味い事になります」


 それにフガクはどうすべきかを聞く。軍船は大砲などは開発されていないが、弓が通じるものでもなく、大軍を運び港へ上陸されればアレセスの精鋭でも数に負ける。海というのはやっかいで、防ぐ手段が少なく魔法の届く範囲まで軍船は近寄っては来ないために上陸艇を叩くくらいしか術が無いのだ。その上陸艇も屋根に鉄板を張り火がつかぬよう塗料の塗られたものをベル王国は有しており、軍船から次々にそれが送り出されれば成す術はない。


「あぁ、そうでした・・・リオ。あなたが先の防衛で使ったアレは使えますか?」


リクに聞きながらフガクは自分で色々と考えていたのだが、そこでマコトの砲のことを思い出したのである。彼はマコトのことを「学も無く、見目もああだろう。心から身が引っ張られてああなのだろうよ」と酷く嫌っており、態度がそれに現れているのだが、


「あぁ・・・マコトか。おお・・・そうだな!いい手がある!」


と、リオが珍しく策を話し出した。彼はマコトの砲を見ていたし、その力も知って利用はしたが所詮は個であるとあまり重要視してはいない。だが、相手が船で、見通しの良い場であると考えが至ると、さも前から温めていたかのように策を話す。


「射程はフガクの弓の3・・・いや、4倍はあらぁな。しかも細い木ならば一撃だ。使えるとは思わんか?」


と言ってにやりと笑い、マコトを海へと配し、自分たちは壁側で同じように防衛に当たることを提案したのであった。


「ちょっと!マコトは我らとは違って武門の子じゃないのよ!同じように扱ったら可哀想じゃないの!」


リンはそれに怒りを見せ反対するのだが、フガクは元よりリクも、


「この街に居るならば、我らと一蓮托生。使える手は使う」


とにべもなく、決まってしまったのである。それでも憤るリンに、


「分かった分かった!俺がちゃんと話をつけるからよ。駄目なら我ら輪月功の一門、全員で船に仕掛けて潰してやらぁな」


そうリオは言い、リンとリオはマコトの部屋へと向かったのである。


 マコトは初手の一戦以来、街中に回され、負傷者や食料の運搬などの後方支援を行っていた。門派の者たちでしっかりと構築され、あまり手が要る場所でもないのだが、武功の未熟な者が多いために力の強いマコトは意外と重宝されている。リオが気を回してこちらにやったのだが、その甲斐あってかマコトも戦争で固まっていた心もほぐれ、運搬で頼りにされ暖かく迎えられていることもあり、


(何だか・・・結構人殺したとは思うけど、あんまり実感が無いというか・・・もっと衝撃があるかと思ったんだけど)


と、思ったよりは衝撃が無くマコトは首を傾げりもするものの、何時ものような緩い雰囲気を纏わせ始めていた。戦争に加わったことへの忌避感こそ抜けている訳ではないが、休めば固まった心も解れ、割とマイペースな地が出ていたのである。そんなマコトは手が必要な場合は仕事に呼ばれるのだが、それ以外は詰所でぼんやりと酒に舌を入れてゆらゆらと揺らしているか、自室のベッドで転がってぼんやりしている事が多い。


 その日も、マコトはぼんやりと自室で転がってリルミルを抱え、


(こうして自室にいると、戦争の音も祭か何かの喧騒が聞こえてるみたいだなぁ)


と、呑気な事を考えていたのだが、暇そうにごろごろしていたところでリンとリオという来客を迎えることとなった。ごめんなさいねと一言いれるリンに対し、リオは開口一番に、


「マコト、もうすぐ敵の船が来るぞ。マコトがそこに要る!」


と、簡潔に述べたのである。意味も分からず首を傾げるマコトに、


「お前の右腕があれば、我らは助かる。外壁からの敵はどうとでもなるが、港より来る敵を防ぎきるのは難しい・・・何としてでも敵の本船を叩いて防ぐ必要がある」


そう言って、どかりと床に胡坐をかくと膝に手を置き、


「頼む」


と、深々と頭を下げたのであった。


「あら・・・」


 これにマコトはそう大きな反応はしなかったが、リンはリオがそこまでしたことが意外で驚いていた。彼は門主より武人としての矜持が強く、自身より弱い者に下げる頭など無いと他の門主相手であれ頭を下げることなど無いのだが、こうしたアレセスを護る行為のために自らの頭を下げたことが意外だったのである。リオは、自らの身などどうでもいいが、武門に関わらぬ市井の民をを失うのをよしとする訳ではないし、武人としてもマコトが自分が成せぬことを成せると、その力を優れたものとして認めているのである。その上で、武人としてマコトに敬意を払い、頼み込んだのだった。

 マコトは少しの間、頭を下げたリオを眺めていたが、


「うん。行ク」


とあっさりと承知した。すっと言葉が出たことにマコト自身も少し驚いていたが、バルドメロに請われた頃とは内心に変化があったためである。魔導都市に居た頃は、戦争に参加していた訳でも無く、そこに知己が居る訳でも無かった。だが、戦場に来て参加し、心非ずではあったものの実際に自ら右腕を使い敵を斃している。何より、武門の者と鍛錬を通して誼を通じ、それによって少しは受け入れられたことや、リオのように荒くとも真っ直ぐな気性がマコトは気に入っていたのである。確かにマコトを忌避し嫌う者もここには居るし、受け入れられず人として見ていない者も居るが、


(そんなものは何処でも同じ)


と、マコトは思っており、この都市に来てからの経験を経て協力することを快諾したのだった。


「そうか!そうか!」


リオは喜び歯を見せ笑うと、


「有難い!これで俺が見るのは壁の外だけで良くなった! 戦が終われば浴びるほどに酒を交わそう!」


と言って、もう一度有難いと言って頭をマコトに下げると立ち上がり、リクたちに話をつけてくると立ち去る。リンはこのやりとりを静かに見ていたが、リオが去るとベッドに腰掛けたマコトの近くに座り、


「いいの?今なら私が都市から出してあげるわよ?」


と言うが、マコトは首を振り断った。リンはベッドに置かれたマコトの左手に手を重ねると、


「本当に?抜けても私が責任を持ってとりなすわ。マコトは捜し人がいるのでしょう?」


と訴える。だが、マコトは首を振り、


「いイ。リン、友達。捨てナい」(いらない。リンも友人だから見捨てられない)


そう答えると、リンは軽くマコトを抱き、


「有難う。この大恩は決して忘れないわ。戦争が終わったら服でも見に行きましょう? マコトに似合う可愛い服を見つけてあげる」


しばらくそのままで居たが、それじゃあねとリンは言ってマコトの髪を軽くなでると門へと向かうために出て行ったのであった。


 こうして敵の船が見える灯台にの中にマコトは今立っていた。マコトの目に映る軍船は4隻。まだ小さく映るその帆船は、大きな帆をたなびかせ徐々にアレセスへと迫ってきていた。

 マコトの居る灯台の足元には多くの武人が詰めかけ、その中には門主のリクの姿もあった。今回の防衛の要はマコトであり、船への攻撃の手段でもある。上陸全てを阻止出来るとは考えにくく、マコトを斃されれば相手の帆船を潰すのは難しいと門主自らが灯台の防衛に当たっているのだ。街への被害も無視は出来ないが、そちらには一門の精鋭を置き、リクは要を自ら守ることを選択したのである。防衛には魔術師の姿もあったが、魔法は帆船に届かず上陸艇を叩けるかどうかといったところであり、大魔法を使う者の姿は無い。


「この灯台には一歩も入れさせぬ。存分に力を振ってくれ」


と、リクより言われていたマコトだが、射程より遠い帆船に焦れ、1人右腕の爪を出し入れしつつ舌を少し出して軽く噛んでいた。


(見える・・・見えるけどまだ届かない・・・あぁ、焦れったいな)


と、見えるが届かぬことに苛立つが、心を癒すリルミルたちは今はここに居ない。彼らは海を見て、


「溶ける!溶けるぞ!」


「我らは海に落ちれば溶けてしまう!」


と、海を嫌い、毛を逆立て精彩を欠いた動きになったリルミルたちを見かねたマコトが壁を護ることを「お願い」し、別行動になっていたのである。

 マコトは、普段よりもゆっくりと時は過ぎる感覚に焦れていたが、昼も過ぎ雲も無く日が海を照らすなか、ついにその時が訪れる。沖合で速度を落とした帆船のうち3隻はマコトの射程ぎりぎりに入ったのだ。

速度を落とした帆船は、兵員の乗せられた小型の船を降ろし、甲板も下ろす船に乗る兵が溢れていた。そんな時にマコトの右腕から放たれた砲は最も近い帆船のマストに撃ちこまれたのである。


「む・・・」


1発では太いマストは折れず、マコトは次弾を撃ちこみそれをついに折り倒す。マストは甲板に待機し乗り込むのを待っていた兵を多数巻き込み倒れ、巻き込まれなかった者も何処にも敵が居ないため何が起きたかと驚き慌て、押し出されて落ちる者も多数出ることになった。

 初めは一発で折れるならば動きも止まり良いと狙ったのだが、これでは無駄弾だとマコトは狙いを少し悩み、2隻目は船腹の喫水線のぎりぎり下を狙うことにしたのである。マコトの砲は、遠距離を狙うこの弾では榴弾にはならず爆発もしない。だが、貫通力のあるそれは確実に船腹に穴を空けることになった。それを連続して前弾の至近に撃つことで船腹の穴は水圧で繋がり大穴と化し、船に水を大量に呑ませる事態となり、2隻目はすぐに大きく傾き甲板の兵を落としながら沈み始める。ぱらぱらと甲板から落ちていく敵兵がマコトにもよく見え、落ちた兵は鎧の重さで浮き上がりもせず沈んでいく。手を止めればああやって死ぬのはこちらだと心に言い聞かせ、マコトはしっかりと狙い確実に船腹へと穴を空けていった。

 マコトの下に詰めたアレセスの兵は沈む船を見て大きく歓声を上げ足を踏み鳴らす。マコトの耳にもそれは届くなかで冷静に3隻目を同じように沈めていった。そうして3隻に穴を空けるまでに要した時間は5分程だろうか。これに射程外だった4隻目も慌てて帆を張り面舵をきって動き始め、上陸用の船も出さずに離れ始めたのである。ただ、マコトが3隻を落とすまでに全く上陸艇が出なかった訳ではなく、マコトの射程に入るよりも前に下ろされた船はすでに漕がれてこちらへと向かっていた。

 射程外へと逃れた4隻目とこちらへ向かう小型の船。マコトはどちらを狙うべきかと悩み、灯台より下に降りるとリクへ、


「帆船、残り1コ。小舟いっパイ」


と状況を伝え、弾が無いがどうするかと聞いた。マコトも残弾は正確には分からないが、数発で終わることだけは腕の間隔で掴んでいたのである。

 上陸艇は約20ほどは降りており、叩くべきかとマコトは思っていたが、


「良くやった!こちらにくる小舟は気にするな。弾が無くなってから帆船がまた近付き降ろしてくればこちらはどうしようもない。1隻の敵兵とはいえ数を侮る訳にもいかんからな」


と、マコトに帆船を見張るようにとリクは告げた。マコトがこれだけの戦果を挙げたことでアレセスの兵だけでなくリクも戦意を高揚させており、大きく目減りした敵兵を相手にすることを選んだのである。


(まぁ、帆船は近寄ってはくるまい)


と、リクは帆船が再び近寄る可能性を低く見ていた。それに1隻残っていたことで、全ての母船が沈むことにより敵が死兵と化す可能性も減り上手い具合になったとにやりと笑い、


「さて、お前ら。客人がこれだけの戦果を見せたのだ。相手もここを狙ってくるだろうが、これを護るのは当然。それを超えねば我らの威名、轟くどころか萎んでしまうだろう!いいか、ここアレセスに踏み入る馬鹿者どもにしっかりと我らの武名、思い知らせてやれ!」


そう大声で集まっている兵に言い、それに兵たちは応と大声で答えて手にした武器を掲げた。


 マコトの戦争での役割はこれで殆ど終わったと言えるし、時間にしても短いものであった。だが、マコトの上げた戦果は大きく、正に大功であり、戦争はまだ終わらぬが陸と海より攻め立てるベル王国の思惑は大きく崩れることとなる。マコトは確かに武功は未熟で力はあれど技も無く、近距離であればアレセスの中位の者にも負けるだろう。だが、一騎当千の武功は持たずとも、弓も魔法も届かぬ場所から撃ち貫く力がマコトにはある。そしてその力を存分に発揮できる大海原は、晴れて水平線の見える昼間。そこにゆっくりと浮かぶ船を狙うだけであり、敵からは何もされることはないと好条件が揃い、マコトの独壇場となったのである。


こうして、残すところは海より上陸する少数と陸の軍勢となり、外壁に配された門主たちも決戦の時を迎えていたのであった。

お読みいただき有難うございます。

マコト、大活躍の巻。でも武侠系の雰囲気出してる以上、武術・内功で頑張ってほしい気持ちも・・・。

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