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24.

前話まとめ。

マコト、アレセスの宴席で秘蔵っ子としてバルドメロに披露される→宴席の余興と実力を計るとリンと試合をする。

 マコトは、五大門の門主も、バルドメロたちのような魔術師も、自身が想像するほどに高潔でもなければ理知的でも無く、実は馬鹿なんじゃなかろうか?と思うことがある。


 あの日より、マコトの扱いが良くなかったか?と言えば微妙だが、門主たちや武人、そして魔術師と交流する機会は先の出来事によって増え、マコトが1人ぼんやりと戦端が開かれるのを待つというようなことが減ったのは確かである。一部の頭の螺子が飛んだような魔術師を除くと、マコトが人格を持つ個人らしいと一応尊重しているのだが、マコトの元を訪れる魔術師たちはやはり研究材料として見ているのは確かであり、人として扱っているとは言い難い。その熱意はともかく、人としてはバルドメロよりも格段に劣る彼らの態度にはマコトも1日で根を上げ、怒りと鬱憤を晴らさんとバルドメロの客室の扉を力でもってぶち破り、今ではバルドメロに全てを押し付けたために魔術師が訪れることは少なくなった。そのため、バルドメロと会うことはあれ以来殆ど無く、会話らしい会話もあまり出来てはいないのだが、これで来客が減ったかといえばそうでもない。



「あなたの縞模様はとてもくっきりして美しいのねぇ・・・。ね、触ってもいい?」


 ベッドに腰掛けるマコトと、それに寄り掛かるように丸まったリルミルたち。そして、ベッドに俯せになり、足をぱたぱたと動かしながらリルミルを可愛らしい声で褒めそやすリンの姿があった。そのリンの声にリルミルは、勝手にしろと言わんばかりに尻尾をぱたりと降ると、目を輝かせてリンはリルミルを優しく撫でる。年相応というよりは、もっと幼い感じさえ受ける言動をしているが、リンは五大門の門主であり、言うなればこの国の重鎮の1人。それが毎日のようにマコトの部屋を訪れては、リルミルと交誼を結べないかと手を尽くしているのである。


(戦争前にこれでいいのか・・・すること無いのか?)


とマコトは思うし、リンにもそう言った事はあるのだが、


「私なんて飾りよ。難しいことは年寄りが知恵を絞るだろうし、居なくたっていいのよ。それに、どうせ私みたいな小娘の言うことなんて中々聞きやしないしね」


 そう返されてしまう。それでもする事はありそうだとマコトは思ってはいたが、口には出さず現在に至っていた。何より、五大門の門主がマコトの元を訪れるのは彼女1人ではないのだ。こうしてリンが入り浸り、マコトはというとする事も無いとリンが毎回持ち寄ってくる菓子や酒を飲んで過ごすのだが、このまま夕方まで過ごせることもあるが、大体3日に1度という割合でもう1人が来るのである。


「・・・あぁ、可愛らしいわぁ。っと、マコト、肉団子が来たわよ」


そう言って舌打ちし、リンは体を起こすと扉の方を睨め付けた。マコトもまたかとため息をついたところで、乱暴に扉を叩く音がし、返事をする間もなく開かれると、


「おぅ!・・・なんだ、やっぱリンもいるのかよ。まぁいいや。今日も鍛錬しようぜ」


「ったく、扉を叩くなら、返事があるまで開けないものよ?私やマコトがあられもない姿だったらどうするのよ」


と、リオが扉を開け廊下から声を掛けてきたのにリンが不満げに言い返す。


「けっ、お前らの裸なんぞ見ても勃たんわ。俺のように目方を増やして毛深くなってから出直してこいや」


そう言ってから、マコトへやろうぜと声を掛けるのだった。リオは、マコトに目をつけ、本人ともやることはあるが、門下の者と立ちあわせることをよくやっているのである。マコトの武功は決して高くは無く、マコトも何でやるのか?とリクに聞いたことがあるのだが、


「お前の軽功は中々のもんだ。何よりな、内力と関係ねぇ力がいい。・・・今の弟子は技量ばっか求めやがって、生来の力に技が断たれるってことを知りやしねぇからな」


と、マコトの膂力を買っていたのだった。技量ばかりに目が行き、その技を力で潰されることもあると門下の者に知ってもらうためにマコトを鍛錬に誘っているのである。


(戦争前に彼らが自身の技量を疑わせるようなことをしないほうがいいんじゃないのかなぁ)


そうマコトは考えていた。だが、リオはあまり頭の良いほうではなく、弟子が学ぶ機会があり面白い試合が見れるならそれで良いと考えており、その考えはリオの気性では隠れるはずもなく先のリンとの試合の一幕と合わせ、


(この国、門主たちは格好つけているけども、脳筋揃いっぽいなぁ)


とマコトに思わせているのだった。ただ、この話はマコトにとっても悪い話ではなく、両腕が揃い力も変化したマコトにとっては良い鍛錬になりもする。リオ自身も、誘いはするが断れば、次は来てくれよと言って去るので、そこまで悪い印象はマコトには無い。そうしてマコトが槍を手に取ると、リンは渋々立ち上がり、


「やっと撫でられたのに残念だわ・・・まったく肉団子め。マコト、頑張ってらっしゃいね」


そう言うとリルミルたちを一撫でして、


「あぁもう!あなたが居ると廊下が肉で詰まって通れないじゃない!」


と、至福の時間を邪魔したリオに鬱憤をぶつけて戸の前よりどかすと、マコトの部屋を出て行ったのだった。



 マコトが連れられ鍛錬を行う場は、リオの門派である輪月功の鍛錬場で行われる。

 アレセスは、5つの門派によって治められているように、街も5つの門派がそれぞれ治める区画と中央の1つの区画、計6つに分けられている。各門派の門下生が多い5つの区画はそれぞれの門主や門派の特色が強く出た街となっており、リクの街であれば剣を佩いた武人の姿が多く、フガクの街は武人だけでなく書家のような文人も多く居り文武共に競う姿が見受けられる。ラーシュの街は、袈裟姿の男ばかりで静かな修行場といった雰囲気であるし、リンの街は5つの区画で最も女性も多い華やかさがあった。マコトが行くリオの街は、リオのように恰幅の良い者もやはり多いのだが、意外なことに門下生には女性も多かった。

 そこでマコトは、対人や自身の力の確認だけでなく、手加減ということも覚えることになる。マコトが今まで対人で相手にしたものは、この世界で目覚め教えてくれたオルドに友人であるカイ、そしてリンである。この中ではカイが最も弱いが、それでも練達の武人であり、オルドは門派を起こしたことすらある達人でリンは門主とこの2人はカイと比べても桁が違う。マコトの力が通じたのは山に逃げる原因となった傭兵くらいなもので、マコトは自身の豪力を見誤っていた面があったのだ。力が強いことはマコトも自覚していたのだが、武術などに対した時、その力がいなされ受け止められていたために勘違いしていて、この鍛錬でようやく自覚が出たと言えるだろう。

 初めて鍛錬で相手にした者など、リクのような巨躯を揺らしマコトを侮っていたのだが、防御に使った棍を折られるとそのままその丸い巨躯を吹き飛ばされ、地面で鞠のように跳ね動かなくなるなど、


「えっ・・?」


と打ったマコトが動揺し、戦争前に重篤な怪我の治癒に魔法ギルドの出番が来てしまった程である。無論、リクに近い練達の者や奢らず精進をしっかりしている中位の者たちならばマコトの力をいなすことは出来るし、隙につけ込み勝つことも出来るが、鼻っ柱ばかりが強く技を自慢していた者たちは悉くマコトに巨躯をその自慢ごと吹き飛ばされていた。彼らとて技を自慢するだけに、マコトの隙の大きい槍捌きに好機を見出し打ち掛かれはするのだが、いなそうとすればその武器を力で叩き折られ、槍の内に入り徒手の間合いになればマコトの右腕に殴り潰されるか、体を掴まれ壁まで投げ飛ばされる。見物に来たリンが「玉遊び」と揶揄し、それを聞いたリルミルたちが「やはり遊びか」と言ってしまうような有様で、


(こっちは結構練習になるけど、相手はこれでいいのか?)


とマコトが思ってしまう程だった。今日の鍛錬も、上位の者相手にマコトは負けはするものの双方良い鍛錬となるような試合と、下位の者の挑戦を受け、マコトがそれをどう手加減するか悩みつつ、たまに手加減を間違え危うくなったり、逆に力を入れすぎ張り飛ばしたりといった内容で、


(戦争間近でこういう鍛錬する辺りも、それを止める門主が一人も居ないとか、ほんと脳筋だよなぁ)


そう思いながら、穂鞘をつけたままの槍で相手をするマコトであった。確かにリオは戦争を前にしたとは思えないことをしてはいるし、マコトのような者を門下生に相手にさせているとフガクが眉を顰め苦言を呈したりしている。だが、リオとしては、「腕の差」などと言い訳の効かない負けっぷりを見せる彼らはこれでより精進するだろうし、慢心で戦争に挑んで死ぬよりマシだろうと満足していたのである。ただ、リオも予想以上に怪我人が多く出るのには慌てもしたが、そこは魔術師が増えたことでどうにか治癒の目途も付き、ほっと胸を撫で下ろしたのであった。


 こうして鍛錬と、それに伴いリオとその門下の者に認められ始めているマコトだったが、意外なことにリンもマコトに色々と手を回すことが多い。リンは元々はリルミルと仲良くなるための土台としてマコトを見ていたし、実際今もそれは大きくは変わっていないが、日々マコトの部屋に入り浸れば、マコトがいかに女としてなっていないかを見せつけられることになってしまい、ついつい口を出したりお節介を焼いてしまうのである。


「あぁもう・・・マコトはちょっと不用意すぎるわ!それじゃ、勝手に男がその気になって近付いてきても知らないわよ?」


と、マコトの服の合わせの緩みを直したり、


「だめよ。そこで付いて行っちゃったら、良いと言ってるようなものだわ」


と、無防備な行動を窘めたりと姉のように振る舞うのであった。マコトの精神のことや、見目から女性扱いされ難いことでその辺りが未熟なのは仕方ないのだが、自分の美しさを知っており、それを使ってきたリンとしては目に入ってくるマコトの言動を見ると放っておけないのである。

 今日も鍛錬が終わり、汗を流しに浴場に向かえば、リンがいつの間にか来ており共に汗を流すことになる。リンに案内された湯船は、檜風呂のような香りの漂う木造りの風呂場で、バルドメロの塔の風呂と比べても遜色の無い大きな素晴らしいもので、普段客として使う風呂よりも良いものなのでマコトも密かに有難がっていたりした。

 風呂に入れば、マコトはいつものように体や髪を乱雑に洗うのだが、そうなると、リンはマコトのやり方を見て、


「折角綺麗な白い髪なんだから、丁寧に洗わないと勿体ないわ。ほら、洗うからこっちに座って」


とマコトを自身の前に座らせ洗い出す。マコトはといえば、もう数度目にはなるものの、やはり女の子と一緒に風呂に入るということに何とも言えぬ違和感と感じており、


(うぅ・・・こう、前なら興奮するはずなんだが・・・綺麗と思っても興奮しないっていうのも悲しいな)


と、自らの体の違いからくる心身の反応の違いをどう処理しようかと悩むのだった。リンの肢体はマコトから見ても美しく、マコトと比べると胸や尻の肉もしっかりとついた女性らしいもので、長い黒髪をその白い肌に張り付かせ艶めかしさがあり、武術を嗜むだけに動きにも優雅さを感じさせるものである。


 マコトは、リンの武術をしているとは一見見えないような華奢で滑らかな手によって丁寧に髪を洗われるのは気持ちよく、ぼやんとした雰囲気でそれを受けていた。


「マコトはもっと女の子らしくしなきゃダメよねぇ。見目でそう扱われないからって、それを捨てたら本当にダメになっちゃうわよ。・・・っと、お湯掛けるから目を瞑っていてね」


手桶で湯をすくい上げてマコトの頭からゆっくりとかけることを2,3繰り返し、


「はい、おしまい。後で髪と肌の手入れも教えてあげるから、ちゃんとやるのよ?」


そう言ってリンの洗髪は終わり、2人でゆっくりと風呂に浸かると、


「そういえば、彼らはお風呂は来ないのね」


と、リルミルたちが居ないことをリンは言い、


「ん・・・風呂、嫌イ」


と、マコトはリルミルたちが風呂は嫌いで近付かないと教えるのだった。


「意外ねぇ。あんなに綺麗で艶やかな毛並みなのに、お風呂で手入れしてないなんて・・・でも、彼らって仙人みたいな感じだし、汚くならないのかもね」


そういって可愛らしく笑うリンであった。


 こうした日々は一月ほど続く。マコトにとってこの期間は、鍛錬によって兵となるような武門の者と通じ慣れてもらえたという大事な期間となることになったし、リンと触れ合うことによって女性らしい手入れや機微を勉強する機会にもなったのである。そうして日が過ぎ、ついにヤラヴァ国とベル王国が平原へ進軍を始めたとの報がアレセスへともたらされたのであった。

お読みいただき有難うございます。

戦争が・・・はじまらない!

近日中に前話に挿絵をいれる予定です。

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