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23. ★

ちょっと分割するのも微妙だったので、いつもより少し長くなっています。

前話まとめ。

マコト、バルドメロに連れられアレセスへ→アレセスで五大門の門主と会う。

 マコトは、またかとため息をつきたくなる展開であったが、リクの一言によってこれは回避された。


「リンの言う事も尤もだが、彼らも疲れているだろう。後程の宴席で。・・・それで良いだろう?」


リクはそう言ってリンを窘めると、


「失礼した。だが、後程宴席で皆の名と顔を教えて欲しい」


と、式としては異例だったリンのもの言いを謝罪すると、式を改めて終える事を宣言した。これにリンは扇で口元を隠して皆に分からないようにはしていたが、ぶすっとしてマコトのほうを見ていたのである。皆の顔と名など方便であり、リンが知りたかったのはリルミルたちであり、動くぬいぐるみのような彼らのことを一目で気に入っていたのであった。目的は果たせなかったものの、宴席でとなるならいいかと気を取り直したリンは席につくが、リルミルたちが出ていくまでその目線は外されることは無かった。


 マコトがどうにかなりそうだとほっと胸を撫で下ろし袖を引っ張るリルミルたちを撫で宥めていると、数名の者たちが広間へと入ってきて魔術師たちへ声を掛けると客室への案内が始まった。魔術師たちはそこまで広くは無いとはいえ、1人1部屋と破格な待遇が与えられたのである。といっても、マコトと一緒にいたリルミルたちは1人と数えられなかったのか、マコトと同室ではあったのだが。


「んー」


ようやく到着したという思いと肩凝りのするような式が終わり、部屋に着いたマコトは声を上げながら大きく腕を伸ばし体を伸ばすと、荷物から酒瓶を取り出し一口含み、口内で舌を酒に絡め始める。


(ちょっと疲れたな・・・宴席があるらしいけど、これは辞退でいいかなぁ)


マコトはそう考えつつも酒を飲み込むと、椅子に腰かけ深く息を吐いて、来たはいいがこれから面倒事が増えねばいいなと願うのだった。そうして、マコトの飲んでいる酒に目を付けたリルミルたちに酒や干し肉を渡すと、マコトはしばらくリルミルたちの問答に付き合い彼らと楽しんだ。




 夜になり、マコトはというと結局宴席の場に出されていた。マコトは適当に回避しようと思っていたのだが、バルドメロが言うには宴席を辞するのは拙く、仮に病だの疲れだので断れば手厚い看護と治療のための人員がくるだろうと言うのである。マコトは少しばかり約束が違わないかとごねようとも思う気持ちはあったが、それをどうにか飲み込むと渋々宴席に赴いたのであった。


 宴席は、立食式で長いテーブルには所狭しと料理が乗せられ、酒も多くの種類が並べられていた。門主たちの音頭で始まった宴は、各々好きに立ち回り門主たちが各人場所を変えつつ歓待し、美味い食事と会話を楽しんでいる。その中でもフードを被ったマコトは少しばかり浮いていたが、魔術師たちも外套を纏う者は多く、マコトは目立たぬよう端の方で食事を摘まみつつテーブルに手の届かぬリルミルたちへと食事をとり分けてやっていた。確かに酒も料理も上等なのだがマコトとしては落ち着けず、食事もそこそこに酒を呑むでもなく木杯を手で遊ばせていたのであった。

 バルドメロは他の魔術師に声を掛けたりと色々と話しているようでマコトと話すことも少ないなか、五大門の主であるリクが魔術師たちに1人ずつ声を掛けていてマコトへと近づいており、それに気付いたマコトはするりと立ち位置を動かし、リクを躱せるように場所を移る。


「あら?あなたとはまだ話していないわね。はじめまして、私は千変八雫のリン・リーリルよ」


 そこに声を掛けてきたのは、マコトが移動したのを目聡く見つけたリンであった。リルミルたちに近付きたかったリンは、将を射るには馬からと、リルミルが付き纏うマコトへとまず声を掛けたのである。

 マコトは、内心の動揺を隠しつつも、


「はじメ、ま、して」


とゆっくり答える。あまりにたどたどしい言葉遣いとマコトの動揺を見抜いていたリンは、


「あんまり緊張しないでいいわよ。私は門主なんていっても小娘なんだから」


そう言って微笑む。マコトはそれに頷きフードが揺れると、リンはにっこりとしたまま視線を下にずらし、


「あの、そちらの可愛らしい方々も紹介して下さらない?」


とリルミルたちを見て言うのだった。フードのことに触れられずほっとしたマコトは、


「彼ら、名、無イ」


リルミルたちが名前を持たないと伝える。そこでやっとリンはマコトの話し方がおかしいことに気付きはしたが、そんなことはどうでも良かった彼女は屈むと、


「はじめまして可愛らしいお方。リンと言いますの。よろしくお願いしますね」


そう言って、今までと違い年相応の笑みを覗かせるのだった。


「よろしく?人がよろしくとお前に言ってるぞ」


「何?お前にだろう?」


「だが我らは人が好かん」


「人は嫌なことをする」


「人はすぐに嘘をつく」


「人の料理は美味いのになぁ」


そんな風にリルミルたちはリンを置き去りに交互に会話を繰り返すが、リンはそんな彼らに少し驚いた後、


「私は嫌なことも嘘もあなた方にはしないわ。それでもだめ?」


と諦めずに言う。


「嘘も無しか」


「だが、これが嘘ならどうするのだ?」


「石の人なら信じられる」


「石の人はどう思う?」


リルミルたちはマコトへと話を振るが、何と答えれば良いかも難しくマコトは分からないと返してしまう。そんなマコトに、


(あぁ!気が利かないわね!)


と、内心で憤るリンだったがそんな事はおくびにも出さず、


「それなら、あなたはどうかしら?お名前伺ってないけれど、教えて交誼を結んではくれないかしら」


と、マコトへと向けて言うのである。マコトは当て馬にされているのかな?と思いもしたが、


(どうせこの場で終わりだろうし、名前を交わすくらいいいか)


と自身の名を告げると、リンは微笑んでよろしくねと言い、


「このアレセスには初めてかしら?」


と問いかけた。それにマコトが頷いたのを見ると、楽しげで少し自慢するようにアレセス国について話し始めたのである。リンは殆ど口を開かないマコトに対し、仕方なくこういった話を始めたのではあるが、この国の成り立ちや門派のことに触れられた話はこの世界の知識の乏しいマコトには有難いもので、


(あれ?意外と楽しいかもしれない)


と僅かに緊張を緩め、相手へたまに頷いたり返事をしながら楽しんでいたのであった。


 会場は、仁君と呼ばれるだけに多くの人を集め楽しげに会話をしているフガクや、五大門の長と派遣団の長ということで交誼を深めているリク。そして、魔術師たちに持ち上げられ、差し出される酒を呑みながら丸い巨体を軽快に動かすリオと、対照的に静かに食事をしながら皆の周りをゆっくりと回るラーシュと、5人の門主はそれぞれに宴席を通じて魔術師たちと親交を深めていた。

 そうして宴も進み、皆にも程良く酒の回ってきた頃合いになり、リンもそろそろ話を切り上げまたの機会を窺おうとしていた時に、マコトとリンにバルドメロは近寄ってきた。この男、ずっと仁君たるフガクの話に聞き入っていたのだが、少し前になってようやくマコトとリンが話していることに気付き、慌ててマコトの元に来たのである。宴席とはいえ、五大門の門主の1人と顔も見せずに話しているというのが、後で何を言われるか?ということもあったし、バルドメロ自身がマコトを紹介するために描いていた図から外れると面倒だと急ぎ来たのである。


「これは、リン殿。マコトが何か粗相は致しませんでしたか?」


そう言ってバルドメロはにっこりと笑ってから、リンへ自己紹介をする。リンは突然会話に混じってきたことに不快感はあるものの、よろしくねと言って笑みを浮かべ、


「マコトとは名を交わしたわ。それで折角交誼を結んだのだから、私のアレセスのいい所を教えていたの」


とマコトについて言うのだった。交誼を結ぶということは友として絆を深めるということであり、門主であるリンがそこまでのことをマコトとしていることに驚いたバルドメロは、取り繕うように、


「マコトと交誼まで結ばれるとは・・・ありがとうございます」


と言うと、気を取り直しマコトとの約束を果たすために自らの腹に持っていた案を実行せんと大きく息を吸い、


「いや有難い!マコトは我が塔の秘蔵っ子でしてな!是非皆様に披露したく連れてきたのですよ」


と大きな声で言うのであった。マコトはバルドメロが来たことに少しばかり安堵していたのだが、


(なんだ?バルドメロはどうする気なんだろう?)


と雲行きの怪しさにフードの奥で眉を僅かに顰めて成り行きを見守ることになった。

 大きな声だけに、宴席の他の門主たちや魔術師もバルドメロに注目しており、彼はそれに手を広げて大げさにぐるりと体を回し、これから披露するぞとアピールしたのである。そうして門主たちや魔術師たちが遠巻きにバルドメロを見ていると、バルドメロはマコトを呼びつけた。マコトは意味が分からず少しばかり混乱していたが、見物人の人垣で逃げることも出来ないとバルドメロの元にゆっくりと歩いて向かう。リルミルたちはそんなマコトの足元をちょろちょろと付いて行っており、どことなく羨ましそうにそれを眺めるリンもいたがマコトを止めるものはおらず、程なくしてバルドメロの近くにまで来たのであった。マコトが非難を込めた視線をバルドメロに送るが、彼は笑みを浮かべたまま相手にせずマコトの肩に軽く両手を置くとマコトの体を皆の方に向けた。


「すまんが、これしか手が思いつかん」


少し屈み、マコトの耳元でバルドメロはそう囁くと、肩に沿えた両手をマコトの頭へと持っていき、フードを下ろしたのである。


 皆の視線がマコトは刺さるように感じられ、それを耐える中、バルドメロは皆のざわつきが収まるまで静かに待ち、静まったところで、


「少々驚かせましたかな?これこそ黒の魔術師である私、バルドメロの友人にして、古からの客人たるマコトです」


 魔術師たちが、まさか禁忌に手を出したのかと糾弾の視線を彼にぶつけ、門主たちは驚きに目を瞠っていたが、長たるリクが我を取り戻すと、


「これは何だ?」


と聞き、バルドメロはかつての黒の魔法の産物だと答えると、魔術師から禁忌に手を出したかと非難が飛ぶが、


「いやいや、かつてのですよ。遺跡にいた彼女を私が保護した訳です」


と堂々と嘯くのだった。実のところ、マコトに囁いたようにバルドメロにはあまりいい手が思いついていなかったのである。彼の描いた図は、五大門の門主と魔術師の長の居る場でマコトを黒の魔法を得手とする自分の身内だと紹介することであり、上をどうにかして納得させれば、下も従うだろうという単純なものであった。バルドメロ自身は、もっと人の少ない場かいい機会を得たかったのだが、戦争が始まる前に彼が上の人間と同席出来る機会を考えるとこの宴席くらいしか無かったのである。バルドメロがマコトに事前にこれを教えなかったのは、あまりに杜撰で逃げられやしないかと思ったからであり、


(悪いことをした・・・。後で許しを得られるといいが)


と苦々しい思いを胸に抱えながら、今まで考えていた説明を皆にしているのだった。


「つまりだ。秘蔵っ子を連れてきたんだ、戦力になるってことだよな?」


門主の1人であるリオがそう言い、ならば手合せでもするか?と呟くように言ったのはリクである。


「待ってください。マコトは魔術師のようなもの、武で競って敵うものでは・・・」


慌ててバルドメロはそう言うのだが、


「だが、マコトの足運びにはどこかの流派が見られる。練達しているようには見えんが使えるのだろう?」


リクはそう言い、それに丸々とした体を揺らしながらリオが余興に一つやろうか!と大きな声で笑いながら言い放ち、事態はバルドメロの収める範囲からは外れて行ってしまうのだった。

 そして宴席から見える中庭で一試合という運びとなり、腕を回しながらリオが試合に臨まんとしたところで、リンが一飛びに中庭に降り立ち、


「相手は私がやらせてもらうわね」


と言うのだった。リオは折角の酒の肴と思ったところを邪魔され、


「おい、俺がやろうとしたところで盗るってぇのか?今の運びは俺がやるところだろうが」


と憤る。それに可愛らしい笑い声をあげたリンは、


「だって貴方たち、マコトをまるで魔物を相手にするかのような目で見てるじゃない。マコトは大事な秘蔵の子なのよ? 貴方たちじゃ間違えそうだわ」


と、他の門主では間違って殺しかねないとリンが出たのである。だが、リン自身も


(あら?私って魔物の子を友にしちゃったのかしらね・・・それも面白いけれど)


などと、外面で見せてはいないもののマコトへの扱いは決して良いものではない。事態が動いてしまったことにバルドメロは呆然としていたが、気を取り戻すと頭を激しく掻き、


「マコト、すまん!」


と、同じく事態についていけていなかったマコトへ謝るのだった。マコトはその言葉で我を取り戻すと、


「酷い・・・後デ」


と、非難と後で会話をと言葉に込めると、ゆっくりと中庭に向かうのだった。その後ろ姿に、


「右腕は使うなよ!あれは敵に向けるものだ!」


とバルドメロは声を掛ける。マコトの主力たる右腕だが、近接戦では使い難いし、外せば建物なり人なりに被害も出るだろう。ましてや五大門の当主に傷を負わせるようなことが万が一起これば戦争への参加どころの話ではない。こうなったのは好戦的な彼らのせいではあるが、バルドメロは勝つ必要は無いと思っていたので、マコトの右腕を封印するよう言ったのである。


 中庭にはすでにリンがおり、裁定役としてのリクもマコトの後に続いて入っていく。そうしてマコトが仕方なく外套を脱ぐと、腕や足の異形も皆の目に入り、皆の驚きの声が静かだった中庭に響くのだった。


(あら、綺麗。あの宝石、取れないのかしら?)


と、皆と違う目で見ているリンも居たりはしたのだが、五大門の声は概ねこんなものがあるのかという驚きの声であり、魔術師たちは、過去の産物への感嘆と畏怖であった。


「獲物は?」


とリクが聞くと、リンは剣と答え、マコトは槍と答える。静かだった門主の1人、ラーシュによっていつの間にか訓練用の武具は揃えられており、リンとマコトへと武器が放られた。

 それを綺麗に受け取り一礼するリンに対し、マコトはといえば、槍を上手く受け取れず落としてしまっていた。皆の目線に失望の色は混じるが、マコトの大きな手と長い指では人が使う槍では細すぎて上手く摘まめないのである。マコトも槍を拾い上げはしたが、


(うう・・・こんなの使うのか)


と、手にした頼りなげな模造槍に視線を落とすのだった。


「さて、準備が良ければ始めるぞ」


裁定役のリクの声で、リンは右手の剣先をマコトの首へと向け半身で構える。マコトはといえば、どうにか左手で掴んだ槍を突きだせるよう左手を後ろにし、右手で半身を護るように肘を曲げて構えを取った。


(うーん、あんまり熟達してないわねぇ。構えも隙だらけだし・・・)


リンは良い試合に出来るか悩みつつ、まずは軽くと速度を出さずにマコトへとゆらゆらと揺れるような動きで突きかかり、マコトが繰り出した槍を避けつつ、剣を繰り出す。剣は左腕の急所を撫でるようにし首突き刺すこの一手はマコトにも覚えのあるカイのものであり、マコトは知った一手を受けるはずもなく、左腕を横に振り強引にこれを打ち払う。


(あれは、カイと同じだ)


そう思うマコトだが、正確には彼女の門派、千変八雫のうちの1つ「白蛇剣」を習得しているのがカイなのである。とらえどころのない白蛇剣の恐ろしさを知っているマコトは、大きく手加減していたとはいえども一手を払われたことで僅かに隙の出来たリンから飛び退ると、気を巡らせて水神浮歩の軽功によって加速し、一気にリンを攻め立てる。


「おぉ」


と、意外そうに驚くのはマコトと試合したがっていたリオである。彼もマコトなど大したことは無く、すぐにけりをつけてやろうと思っていたのだが、そのマコトが使う武功が、未熟なれど軽功に込められている内力の大きさと水神浮歩の精髄の深さに感じ入ったのである。


 カイの時とはマコトは大きく違い、一度死に瀕した体はより頑健で、内力に頼らずとも驚くほどの剛力を持っている。そして、軽功は、リルミルの治療によって得た内力と、何時でも遁走出来るという事が平和な生き方をしていたマコトと水が合っていたのか練度は高まり、あの頃とは大違いの速度を持ってマコトを動かしていた。


(意外とやるわね・・・全く、蛮力ではあるけれど、軽功は本物だわ)


 マコトの力と速さに舌を巻くリンだったが、カイの時と同じく、これはマコトが勝てる試合ではない。勝つならば、さっさと彼らの目が届かぬ位置まで遁走し、その力が知られぬ内に一撃をもって右腕の砲で倒すという手くらいで、試合で出来ることではなかった。果敢に打ち掛かり、優勢に見えるマコトだが、カイの時のように内力が尽きるといった問題どころではなく、実力の差がはっきりと表れてきている。何せ相手は片手の剣1本で凌いでおり、その場より1歩も動いていないのだ。その上、リンは得意の赤華化法を封じ戦っている。彼女が内力を侵す赤華化法の毒を使えば、内気を巡らせるマコトは一瞬で毒が総身に回り動けなくなって勝負はつくのだが、


(魅せるのは大事よね。これから戦争なのに片手落ちなのも駄目だしねぇ)


というリンの考えによってこうしてもっているのだ。そうしてしばらく一方的に見える試合が続いていたが、リンの、えいという可愛らしい掛け声と共に、マコトの速さにリンが追従し剣を合わせてきて、たちまち形勢は逆転する。マコトは剣を払うために足を止めねばならず、足を止めれば、くねくねと位置を変え悟られ難い白蛇剣の妙技によって間合いに入り込み、急所を鋭く狙う剣技で追い詰められていく。そうしてついに、マコトの槍はリンの練り上げられた内力によって槍に込められた剛力をいなされて大きく弾かれてしまい、体勢を崩したマコトは尻餅をついてしまう。そして、その隙にリンの剣はマコトの首を跳ね飛ばさんと振るわれた。


挿絵(By みてみん)



「そこまで!」


リクの声で止まった時、リンの剣はマコトの首筋に添えられており、マコトの右腕から飛び出た爪はリンの首を挟み込むように伸ばされその細い首を折ろうというところで止まっていたのである。

 静止したこの図に、魔術師たちから大きな歓声が上がり、「仁君」フガクとラーシュも拍手し試合を讃えていた。勿論この図は、双方を立てるためにリンが引き分けを作ったものである。リンは爪こそ驚くものではあったがこれを利用し、もし爪が無ければ自身があそこで投げられたように体を飛ばして、次に槍と剣で同じような引き分けを作るつもりだったのである。五大門の面々はそれを理解したので、リオなどは詰まらなそうに酒を呑んでいたのだった。


「良い武功だったわ」


と言ってマコトの右手を取り起こすのを手伝うリンだが、そう言いながらも視線がマコトに纏わりつくリルミルに行ってしまっていて、マコトもどこまで本気なんだかと思いながらも手を掴んで起き上がる。


「石の人、遊ぶのなら我らと遊べば良いだろう?」


「石の人、遊びならばどーん!という死の叫びが見たいぞ!」


と、リルミルたちは場など気にせず騒ぎ、マコトはそれを見て気が抜け、深くため息をつくのだった。

お読みいただき有難うございます。

リク・リオ・リンと、間違えそうな名前ばかりになっていたので、後程変更するかもしれません。

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