表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/52

19.

前話まとめ。

マコト、リルミルたちと山を旅する。

 山を越えたマコトが目にした人工物、それは山ほどの大きさの巨大な塔であった。遠くからでもその威容ははっきりと分かるほどであり、周囲の街に立つ塔の群れは山の周囲に立つ木々のようにさえ見えた。魔術師ギルドの総本山であるこの都市は、半分以上を巨大な塔で占め、住人も半数近くが魔法に関わる特殊な場所であり、国家を名乗ることは無いが魔術師たちによって統括され魔導都市を名乗っている。

 北に位置するこの都市は、暗い灰色の巨大な塔と、同じ材質で作られた群塔や家々によって何とも無機質で暗い印象を受ける。周囲を囲む山も木々の少ない岩肌を見せるもので、それによって無機質さはより際立たされていた。


(何処だここ?)


そう思いながら訝しげに都市を見つめるマコトとは対照的に、リルミルたちは自慢げに反り立ちマコトを見ている。少しして気を取り直したマコトがリルミルたちを見て、その自慢げな恰好を目にすると、


「どうだ?街だ!」


「これは褒めても良いのではないだろうか?」


「ちゃんと言われた場所にある街だぞ!」


と目を合わせたのを皮切りにリルミルたちが話しだし、マコトもつい頷いてしまう。それに喜ぶリルミルたちだったが、マコトが動かぬ手で不器用に地図を広げ、首を傾げているのを見るとすぐに気付き、


「違ったか?」


「ううむ、違うのか」


「では何処なのだろう?」


「ここは何処だ?」


とマコトと一緒に首を傾げ悩みだしてしまう。マコトはしばらくうーんと唸りながら地図を眺めていたが、地図をしまうと近くのリルミルを動かぬ手でそっと撫で、大丈夫だと言って軽く微笑んだ。


(不安はあるが、行かなければどうにもならない)


アリアデュールへ戻ることは大事だが、地図を読もうにもここが何処だかも分からない。それでは駄目だろうと、都市に入ることをマコトは決めたのだった。


「ここで、イイ。助かっタ」


と言い、リルミルたちがそうかそうかと声を上げるなか、


「あり、がとウ。とてモ、とテも、助かっタ」


とたどたどしくゆっくりと言って、彼らの恩に何も報いていなくとも礼くらいはとマコトは深く頭を下げた。リルミルたちは不思議と騒がず、マコトの言葉をしんみりと聞く。


 そうして、マコトは都市に行くことを告げ、向かおうとしたところでリルミルたちは集まって顔を突き合わせるようにしながらこちゃこちゃと小さく話し合いをし始める。そうしてしばらくすると、2人のリルミルが飛び出してマコトの足に纏わりつくようにしながら共に歩み出した。


「ん・・・来る?」


と聞くと、付いてくることをリルミルは何時ものように騒ぎ立てながら言い、付いてこなかったリルミルたちは、


「またな!石の人」


「今度はもっと爪を磨くぞ!」


「我らは人が分からん!文も分からん!武も分からん! だが、石の人は友達だ!」


「それら全ては友ではないぞ?石の人が友だろう?」


「また遊びたいぞ!」


などとリルミルたち独特の言葉を口々に言いながら別れを惜しみ、マコトたちが見えなくなるまで騒ぎ立てると、山の中へと消えていった。





 マコトたちはゆっくりと進み、魔導都市を囲む壁につけられた門より中へと入る。都市の壁は4メートルほどで厚みも無く、アリアデュールとは比べるべくもない。通りには魔術師だろうゆったりとした外套姿の者が多いが、歩く者の姿は少なく静かな街であった。マコトは入る際にあるであろう門番とのやり取りに身構えていたのだが、冒険者証を見せるのみでフードを下ろせともリルミルたちは何なのかとも聞かれず、会話らしい会話もなく街へと入ることが出来、


(こんなでいいのか)


と思ってしまうほど、あっさり終わったのだった。

 これは、魔導都市の中枢は街ではなく塔にあるために門での検査が軽んじられていることが大きい。フードについても魔術師が半数近いこの街では当たり前であり、北に位置するこの都市は涼しく、夏であっても被っている者は多いのだ。何よりも、門番は傭兵を雇っただけであり、そのような彼らは魔術師のような者相手に面倒など起こしたくは無いという心持ちが、この程度のやりとりとして表れているのだった。


 そうして中に入ったマコトだったが、実のところ、金が心許無い。ベルムドやカイとの道中も、リルミルたちとの生活も金が減るようなことは無かったのだが、冬を越せると貯めていた金の半分以上は長屋の部屋に隠したままなのである。金も無いが情報も無いと、マコトは冒険者ギルドを探すのだが、いくつかの大通りを歩き回ってもそれらしい看板が見当たらない。

 通りはアリアデュールと比べると半分以下の広さで店も少なく、出店のような露天は全く見られない。都市として大きな特徴は、街のどこからでも見える太く大きな塔だが、街の通りにも細い塔や低い塔がぽつりぽつりと立っており、道も塔を中心としているのか曲がり角の多い使い難いものであった。


(見逃したのか・・・そう広くは無いし、見つかっても良さそうなんだけども。まさか、無かったりして)


 そう考え、不安そうなマコトにリルミルたちは声を掛けてくるが、大丈夫と返すと、意を決して通りを歩く男に声を掛け、ようやく聞き出したギルドの場所は何度か通り過ぎた低い塔であった。戻り塔を見てみるが、冒険者ギルドの看板はついておらず、本当にここか?とマコトは思いながらも、塔の中へと入ると、塔の1階にしつらえた2つほどの受付台に冒険者ギルドの看板が掛けられていた。受付に1人座った職員がいるだけで冒険者の姿もない小さく寂しい支部である。


「何か依頼ですか?」


と、受付に座っていた男性がマコトへ声を掛けてくる。それにリルミルが、


「依頼?」


「依頼だと?何を頼むのだ?」


「飯か」


「いや、人の頼みは碌なことがない。飯など無いさ」


と2人でやりとりを始め、奇妙なものを見るようにリルミルたちを眺める受付にマコトは、依頼を見たいと告げて左手に括った紐に挟んだ冒険者証を相手に出した。受付はどうやらマコトを依頼を出しに来た魔術師だと思っていたのか、冒険者の方でしたかと頷くとマコトを受付前の席へと促した。


「少々お待ちください」


冒険者証をマコトのものと確認した彼は、その証を返さず少し大きめの板のような魔導具へと入れた。


 冒険者たちの証である冒険者証には、受付によって依頼の達成や、本人についての様々な記録がされており、マコトのように見慣れぬ相手に対しては依頼の適正を見るためにそれを読み取っているのである。これは、依頼達成の受付時に毎回更新されるもので、冒険者たちはその依頼の多様さから、何に向いているのか?何を受けさせてはいけないか?といったことや本人の性格や対人関係など、受付の主観も大きいが事細かに記録されている。

 マコトについては、性格は温厚なれど見目と言葉に問題があるため、街中依頼や人と関わる依頼に関しては回さないよう書いてあったりするのだが、こうしたものがあるために、冒険者はどこの支部でもそれなりに合った依頼を請けやすい。それでも、長く同じ場所で請けた方が良い依頼を請けれるので本拠地を定める者は多く、依頼や探索などでもなければ他国や他の支部まで足を延ばす者は余りいない。特に北方に位置し、魔術師ギルドのあるこの都市は冒険者は少なく、ここを本拠とするものの大半は採取や狩りを行う狩人であった。


 マコトはそういったことは知らず、いつもと違うことをしているのを不思議そうに見ていたのだが、しばらく待つと魔道具から読みだされる情報を読み終わったのか、お待たせしましたという声と共に男はマコトへと向き直り、


「今までの依頼実績と等級ですと・・・この辺りですかね」


とマコトへと提示されたのは、狩りの依頼が中心である。それを見ていたマコトだったが、不意にあっと小さく声を上げ、左手を見て動きを止めて考え出してしまう。ここに来てようやくマコトは、自分が依頼を請けれるほど回復しては居ないことを思い出したのである。久しぶりの街であることに浮かれていたこともあり、アリアデュールへ戻るにも金がいると、深く考えることもなく来てしまったのだ。リルミルたちに頼めば狩りなど容易いだろうが、


(さすがにそれは無い。それに自分たちが食べられない狩りを彼らが喜ぶとも思えない)


とマコトは依頼をリルミルたちに任せるのも駄目だし、何よりもそこまですると情けないと思っていた。何より、気の良いリルミルたちがマコトを友としているのに、自分から彼らを利用するようなことをして信頼を失い去られてしまうのも嫌だというのも大きかった。そこで、マコトは自身の状態をある程度話し、請けれる依頼があるかを聞いてみることにしたのである。


「依頼、困る」


マコトはそう言い、何を言っているのかと眉を潜めた受付の男に対し、ゆっくりと言葉を重ねて少しずつ伝えていく。男は少々面倒臭げではあったが、見目と言葉に問題があるといった表記を思い出し、これかと思いながらマコトの話を理解しようと耳を傾けていた。


 全て聞いてみれば、手も使えず言葉も拙い。仲間やツテらしきものもなく、驚いたことにアル・フレイの首都を目指し迷ってここに来たという。これに受付の男も悩み、口を顰めううむと唸る。


「手が使えないとなると・・・外に出る依頼は請けさせるのは無理でしょう。ですから・・・」


街中の依頼について続けようとした男はそこで口を噤む。マコトの情報によれば受けるのは難しいと話の途中で思い出したのだ。だが、そうなれば依頼など何もなくなってしまい、


(これは弱った)


と難題に頭を悩ませるのだった。帰してしまっても良いのだが、街中の依頼はそれなりにあり、出せる機会に出しておきたいところだったのだ。


(話と見目といったが、腕と言葉を見ると鱗族だろう。向こうは差別は少ないと聞いているが、悪い奴に当たったか)


男はそう考えると、自分が見目を判断すれば請けさせても良いだろうと、マコトにフードを下ろすように伝えたのだった。

 これにはマコトがかなり嫌だったのではあったが、仕方なしにフードを下ろせば、やはり男はひどく驚き、のけぞった拍子に椅子ごと後ろに倒れ転げると、


「ない!ないぞ!依頼など今はない!」


と威嚇するように叫ぶ。それに驚いたマコトだったが、それよりもリルミルたちは素早く反応すると、男の両足に取りつき、


「石の人をいじめたのか?」


「石の人に嫌なことをするのか?」


と言いだす。端から見れば、丸みを帯びた彼らが纏わりついていて可愛いものだが、マコトの方はオーガの末路を思い出せば気が気でない。下手な返事をすれば男は割かれて死に兼ねず、それを思い冷や汗が背を伝うマコトだったが、


「違う」


とリルミルたちに向けて言うと、踵を返してギルドから出て行った。それに慌ててリルミルたちは追いかけ、マコトへと纏わりつくと、


「いいのか?」


「何かあるのではないのか?」


と聞いたが、マコトは少し寂しげに


「明日、また来ル」


そう言って、マコトは少し落ち込みつつも数日は通って依頼を探せば何か請けれるだろうと自らを励ましつつ、宿を探しに向かうのだった。



 そのようなことがあってから数日後、マコトもそろそろ依頼を諦め他の都市を目指すべきかと思っていた頃にようやく変化が訪れる。この数日、受付の男は前のようにひどく驚くことこそないものの、マコトへは仕事が無いと言い依頼書を見せることはなかった。男も意地の悪いことをしている訳ではなく、マコトが足繁く通い依頼を探す様には心痛むものはあったのだが、マコトは冒険者としては浅く、その見目から信用をして任せる訳にはいかぬと断り続けているのである。

 アル・フレイ商国ならば、こういった行為は差別だと言われるだろうが、北方のこの都市では種による差別は存在する。そもそも、ここの冒険者ギルド支部は小さく、魔術師ギルドによって支配されるこの都市においては名目上であれ魔術師ギルドの下部組織に機能を貸し出すという形を取っている。それ故に、信用や信頼が大事であり、失えば最悪この都市から排除されてしまうのだ。機能性やギルド同士の連携からそこまでは無いだろうが、独立性や職員としての立場を考えて男は動いているのであった。


「また来ましたか。やはり依頼は無いよ」


そう男はマコトへ言い、マコトは、それでも数度は何か無いか?と聞くのである。だが、この日はこのいつものやり取りを聞いている者がいたのだ。


「おかしいな?私は依頼を出したのだが、ここは依頼を請ける場所でもあるのではなかったか?」


マコトたちのやり取りに対して、こう話しかけてきたのはゆったりとした黒い外套姿の者である。外見から魔術師と分かるこの者は、細やかで上等そうな黒地の生地に金の刺繍を施した外套を纏っており、マコトと同じくフードを被っていて声や背の高さで男だろうと分かる程度で、種や歳は判別がつかない。

だが、その魔術師に対して受付の男は慌てて立ち上がり、


「いや、その。そちらの依頼についてはもっと適した者が居ると思いますので」


そう取り繕う。マコトも、依頼を請けれるならば請けておきたく、


「依頼、請けたイ」


と誰に話すでもなく告げるが、受付の男は、この通り言葉が不自由でとマコトを勧めない。


「言葉なぞ伝わればいいだろう? 私の依頼は雑用だ。言葉なぞ私が伝えて分かればいい」


「ですが、見目も悪く塔持ちの方の所にやるには・・・」


魔術師の言葉に、さらに重ねてマコトを否定すると、魔術師は少し怒ったように


「見目がどうだと?良ければ良いのか?悪ければ良いのか? では、下ろして見てみればよい」


と言われ、またこれかとマコトもため息をつく。こういったやり取りは繰り返されるのはやはり気落ちするもので、これで駄目ならこの都市は出ていこうと思いながら、マコトはフードを下ろす。


「おお・・・おお!」


と驚いた魔術師だったが、ずかずかとマコトに近寄ると、顔を寄せ体を舐めるように見回してくる。魔術師に纏わりつきそうなリルミルたちをマコトは片方は左腕を当て、片方は目線で制していると、


「いやこれは驚いた。これは凄いな、誰の作品だ?・・・いや、どの時代のだ? これは珍しい」


早口でまくし立てていたが、マコトと目が合うとうっと声を上げてから体を戻し、今までの態度を誤魔化すように咳払いをすると、


「失礼した。 いやいや、まさかこんな人がいるとは思わなくてな。それで、依頼を請けるんだろう?」


マコトは魔術師の奇行にひいてはいたのだが、ここで請けねばどうともならぬと頷くと、魔術師は機嫌よさげに頷くと受付とやり取りをし、マコトに依頼内容を伝えるのだった。


「これは色々と刺激になりそうだな!私は闇の小塔6番を任されているバルドメロ・セザスだ」


そうマコトに伝えながら魔術師はフードを下ろした。男の見目は、マコトにとっては少し懐かしい、アリアデュールではあまり見かけなかった黒髪黒目で、その顔は少し頬のこけたところはあるが釣り気味の目は強い力を感じさせ、男を大きく強く印象付けていた。

 この魔術師バルドメロは、ギルドでの地位は中堅どころであり、街中に幾つも立つ塔の1つを任されている。と言っても、塔は1人から3人程度で使う小さなものであり、個人の研究施設といったところだ。だが、色々な設備があり、マナを人工的に潤沢にするこの塔はそこそこの実績や成果がなければ貸し出されないことを考えれば、彼はなかなかのやり手なのであろう。彼は塔を任され1人でやってきたのだが、汚くなりいい加減住むにも研究にも支障が出てきたと雑務を依頼しに来たのである。そこで、最近少し耳に入ってくることのあった、奇妙な小さい獣人を連れた魔術師がここにいたので、これは良いと声をかけ、マコトを見て更に良いとご機嫌だったのだ。割と常識的に見える外面と、貪欲に知識を深め高め、そのための刺激なら何でも欲しがる内面を持つ。それがバルドメロという男であり、マコトの見目よりも、それに使われた魔法や技術、それに思いを馳せ刺激として楽しむ奇人であった。


お読みいただき有難うございます。

この都市の導入部分だったので少し悩みましたが、どうにか。

※13/10/27、17.に挿絵を追加しました。一応もう一度。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ