01
※変更点※
ここから主人公について「真」表記が、「マコト」になります。
前話まとめ
鈴村真死ぬ→魂が世界から外れちゃった→魂もって神歓喜→魂いれる身体ないよー→魂入れる身体あったー!→鈴村真異世界へ
世界は移り、廃都へと戻る。
四千年という月日は廃都を遺跡と呼ぶにふさわしい様相を与えたが、隠された施設群のひとつであるこの研究所は機能が幾分か保たれている分ましであり、人が居なくなってから十年にも満たない程度にさえ見える。封鎖されているため獣が入り込んではおらず、苔むしている場所があったり、劣化して削れ崩れた場所こそあるものの、生きた設備のためか廃墟という印象を与えない場所になっている。
その中で人が入るほどの大きなガラス管が並ぶ区画、つまり新しい生命の培養槽が並ぶ場所がある。薄く青い光に照らされたこの場所に並ぶ培養槽の中には、大小さまざまな生物が液に浸かり浮かんでいる。無論、長い月日によって培養槽が割れたのか、ひびが入っていて中には白い骨のみであるものや、培養槽への動力が供給されておらず液の中で朽ちたのか何も浮かんでいないものなど、正常ではないものも多い。
しんと静まりかえっている場所に僅かにこぽりと音が響く。
マコトが目を開けてみれば頭まで水に浸かっているのを感じ、ひどく焦る。
(死ぬ・・・死ぬ!)
天井をたたくがみしみしと音を立てるだけで開かず、少しでも明るい目の前の透明な壁を叩く。数度で蜘蛛の巣のようにひびが広がっていき、大量の液体とともにマコトは割れた場所から投げ出された。
四肢を地につけ、頭を少しでも覚醒させようと頭を左右に軽く振りながら、意識が戻る前のことを思い起こす。
(確か風呂で・・・溺れる前に意識が戻ったのか?)
(いや、自分の風呂はこんなところではない。どうなっている?)
少しでも現状を把握すべく、マコトはゆっくりと周囲を見渡す。
薄明りに目を凝らすマコトの額にゆっくりと汗がつたり
(なんだここは・・・!?)
とある理由でさして表情には出ていないのだが、培養槽が並び薄青い光に照らされた光景に唖然としている。
「おぉ・・・!?」
近くの培養槽に手をかけ立ち上がったところで、中の生き物を直視してしまい声が漏れ出る。
(作り物か?だがあまりにもよくできている・・・)
当然作り物ではないのだが、マコトが知る由もない。培養槽に入った羽の生えた大蛇のようなものをしばらく眺めた後、ゆっくりと息を吐き出して立ち上がる。
(ずいぶんと大きな施設だな・・・)
これはマコトの前の体は190半ばであったのに対し、今の体が160に満たないからであるが、マコトがそれに気づくのはもう少し後のことである。
培養槽が立ち並ぶ部屋を見て回り、その中に入っている不思議としか言いようのない生き物と壊れたもののなかにある骨、見覚えのない文字や文明が違うとしか言えないような部屋の施設を肌で感じ、ようやくマコトはこれが現実だと認識する。
(夢かとも思ったが、あまりに現実的だ。古びた施設だし、人の形跡も無いから攫われたというのもおそらくは無いだろう。)
いくらマコトが思いかえしたところで、自身の記憶と今の現状に結びつくはずもなく、またそれを彼も分かってはいたのか
(何か思い出そうとしても無駄か。となると・・・いい加減この現実にも目を向けなければいけないか・・・)
マコトが指す現実とは、置かれた環境ではなく自身の体についてである。見回っていれば嫌でも自らの体は目にするわけだが、夢か現かと分らぬ状態であったから、それから目を背けていたのだ。
マコトは自分の腕や胸から腹・・・足までを見回し
(あぁ・・・こう、なんというか。悪の組織にさらわれて怪人になりました・・・とか、1号2号に改造されましたとか・・・)
マコトが昔見ていた特撮番組を思い出すような自らの風体にため息が大きく漏れ出る。
その体でまず目につくのは、異形の手足だろう。鮮やかなターコイズブルーの外殻にひじ・ひざの辺りまで覆われた手足は鎧を付けているようにさえ見えるが、触れてみればそれが鎧などではなく生来のものであると実感できる。そこから体へと色味が徐々に抜け白い肌へと続いている。ぴったりとした服に包まれている胴体は、胸は慎ましく発達しているとは言えないもののやわらかな曲線を描き人のものと何ら変わらないようにも見える。体の大半は人と変わらぬことに安堵すべきか、男でないことに嘆くべきかとマコトは悩んでいたものの、頭を確認すべく手で顔をまさぐりはじめる。
(四肢がこうなのだから、顔がこうであるかもしれない・・・そうなれば化け物としかいいようがない・・・)
実際のところ、顔つきは見目の良い長命種の因子を多く含むため、ある一点を除けば人との違いは耳が尖っている程度で可愛らしいものではある。自身の顔を確かめるべく培養槽のガラスを鏡代わりにしようと近くにある培養槽にびったりと張り付いて頭をくねくねと動かしている。
「ん?・・・な!?」
自らの容貌が見えたところで違和感を感じよく眺めたところで驚き、マコトは腰が抜けたかのように尻餅をつく。
(曲面に移したから歪んだんだ・・・きっとそうだろう・・・)
自身に言い聞かせるようにして、僅かに肩を震わせながらゆっくりと培養槽に近付き再度顔を確認しようとする。
そこに写るのは、白い髪を肩ほどの長さで切りそろえ少し幼さの残るが美しい顔立ちだが、宝石のような硬質な右目とそのまわりに外殻を張りつかせた少女の顔。硬直こそしていたものの、今度は逃げることなく自らの顔を確認する。
そこで口を開いて何かを言おうとしたところで口から長い舌がだらりと胸元にまで垂れ下がる。
(何だこれは)
自らの舌を左手の長い指で確認し、自らの意思でそれが動くことを見て
(おいおい・・・これじゃ本当に化物じゃないか)
舌を左手から解き、口の中に収め
(・・・あんな長いと口の中が一杯になりそうなんだが、どこに収まってるんだ?)
大きく口を開けて眺めまわし、舌を出し入れするもののマコトにはどうなっているのかはよく分からず首を傾げる。それから暫くしてゆっくりと目を閉じて手で顔全体を撫でまわすと
(これが自分の顔か)
と早くなった呼吸をマコトは落ち着かせてゆく。
そうして10分ほどかけ冷静になったところで大きく息を吐き、マコトは自身の確認を終えたのだった。
(ひとまず体については置いておこう。これからについて考えなければ)
考えながらゆっくりと部屋を調べていく。
(このくたびれ具合を見れば、おそらく数十年以上は経っている施設なんだろうが、他に人はいるのだろうか?いや、いたとして、会って大丈夫なのか?そもそも言葉は通じるのだろうか)
マコトの体が人と言うには少々異なること、この部屋を調べた際にいくつもあった文字が見覚えが全くないということから、他者と会って大丈夫だろうかとマコトは思い悩む。
(いやいや、まずは人がいるなりここが何処で何なのかだ。だが、人が居なかったりしたらどうする?・・・まぁ、そもそもここから出られるかどうかということもあるか)
戸惑いながらも探索を続けるマコトだったが、入れない部屋も多く隠された施設だっただけにそう規模が大きなものではなく、ある程度の間取りはすぐに把握できたのだった。
まず、入れる場所の多くは個人の部屋のような小さな個室であり、動力の通っていない部屋の中のものは多くが劣化して持ち運べるものは無かった。動力が通っていない研究室にも入れたのだが、中はマコトが居た培養槽のある部屋と比べてはるかに酷い状態であり、何か手に取ろうとするとそのまま崩れてしまったり、同じ施設であるのに大きな時間の差を感じるような状態だった。
見て回りマコトが思ったことは
(近代的・・・とも言えないが、中世など古い時代のもの・・・とも言えない。なんというか、ちぐはぐだ)
となる。これは魂のあった世界は魔法などない科学文明で、この施設は魔法文明のものだからというものもあるし、動力が生きている部屋では劣化が低く数年どころか積もった埃さえなければ今も使われているように見えるのに対し、動力が死んだ部屋では壁が剥がれ、天井が抜け落ち、手に取れるようなものはないほどの劣化が進んでいるという差異の激しさもあるため、マコトが判断に困るのも仕方がないだろう。
マコト自身も、動力の通った部屋と通っていない部屋の差異には気づいており
(後から建てられたか、何らかの劣化防止処置があるんだろう)
と推測してはいるのだが
(そう思わないと違いが激しくて分からないし、考えてもいられない)
というのが正直なところであった。
現在マコトがいる部屋は培養槽のあった部屋以外で唯一動力が通っていて入れた研究室であり、マコトの感覚では少し暗いのだが照明がいくつかある明るい部屋だ。マコトの体における主たる種はうす暗い場所が好みなのだが、人としての感覚が強いためか明るい場所は落ち着くのだろう。
そこで何をしているのかというと、あぐらをかいて座り無意識に長い舌を伸ばしゆらゆらと揺らめかせながら
(うーむ・・・これを信じるべきなのだろうか)
と、数枚の紙を何度も読んでいるのだった。
これは、この部屋で落ち着いて見つけたものを調べようとしていたところで、服のベルトに下がっている筒に気づき中を開けてみたところで発見したものであり、それはマコトへの手紙であった。
(これをそのまま信じるならこの手紙は助けとなるのだが・・・うぅむ・・・信じていいものか)
手紙の内容は簡単にマコトに起きたことと現在の場所、そして自身が得ている加護というものについてが書かれていた。そして、この手紙がある理由も。
マコトの身に起きたこと、すなわち死後に自らの魂がその世界から外れ、違う世界での肉体へと宿ったということでありこの内容には
(信じがたいが、否定しようがない)
とマコトも思っている・・・何しろひとかけらも、思い出せる自らの肉体とは違うのだから。
(しかし、魂なんて本当にあるものなのか)
などと、呑気なことを考えたりもしていた。
そして、加護。神々から与えられた恩恵とのことだが、深く宗教をやっている訳ではない日本人であるマコトからすれば、馴染みは全く無い。
加護は神々が直接手を加えられるということで彼らの楽しみとしているものだが、これは祝福と呼ぶには少しばかりくせの強いものが多い。マコトに与えられた加護といえば、力が大幅に上がるというものや呪いや病気への耐性というものがまず並ぶ。さらに目を進ませれば魔術への適正が上がるというものもあり
(魔術・・・使えるならだが、少し楽しそうだ。)
とマコトは疑いながらも期待をする。だが、、読み進めるにつれ良いことばかりでは無さそうであることに気付く。それは、祝福が強いために神の性質に侵され影響を受けるというもので、マコトが受けているものは、一定までの感情が表情に出ないこと、強く意識しなければ口数が大きく減り、話す言葉も単語や片言程度になるという。そして、一定以上の精神の負荷を打ち消すというものだ。
これを見て
(あぁ、だからか)
と、独り言がほとんど出ない現状にマコトも少し気づいていたので納得する。そして、これほどのことが身に置きながらも大きく混乱することもなく割と冷静でいられるのもこれの影響である。
表情や言葉が出ないというのは、人と関わる場合に大きなデメリットとなりかねず
(祝福とは言うが呪いのような側面もあるな)
と、マコトは感じていた。
(これを信じるだけの材料があるとは思うが・・・こう、納得し始めたところで日本語の文章があると、どっきりや仕掛けという気にもなってしまうのが困るな。まぁ、自分が仕掛けられるような大層な人ではないし、自分の体や周りの建物を仕掛けと言うのもありえないと思うが・・・)
手紙は、異なる世界からの魂であるが故に大きく混乱しすぐに命を落としたりと、神々にとってせっかくの楽しみがなくなることが何度かあったために用意されたものであり効果は大きいのだが、通常ありえない現実の中に今までの現実の文字があるということで、逆に悩ませるということにもなっていた。
マコトはしばらく腰に手を当てたまま、じっと目の前に置かれていた手紙を見ていたが、瞑目し
(何にせよ、まずは生きられること。そして人と会うなりして調べることだ)
と決めて動き出した。
マコトが研究所の探索を始めた頃、同じく廃都を探索する一人の男がいた。
名をオルドといい、数年前から廃都を住処とする老人である。
100年以上の月日を武芸に費やした武人である彼は、筋肉質で190を超す大きな身体を持ち、音も立てずに遺跡を動き回るその姿は齢を全く感じさせない。
オルドは数日前より何とも言えぬ不思議な違和感を感じていたのだが、つい先ほどその違和感がある方向で大きくなり警戒しようと構えたところでその感覚がふっと消えてしまい、原因を探るべくその場所へと向かっていた。
(はて?あそこに何かあったか?)
とオルドは疑問を思い浮かべていた。それは、違和感が大きくなった場所は小さな寺院や住居の遺跡が残っているだけで気になるようなものは無いこと。また、この廃都自体が10年以上前にすでに探索され尽くしたと言われていることから、今更何か起きるとは考え難いからだ。
あとは何者かが、何かを起こしたということもありえるのだが、
(何者かが居たとも思えぬ)
と、この方向も可能性が低いと彼は思っていた。廃都は魔物がいないため多くの獣が住み着いており、それらの領域を騒がすことなく廃都を進むのはそう出来ることではなく、そういった異変を感じ取ることが無かったためである。
オルドはそうして色々と考えながらその区域へと辿りつく。
特におかしな気配は無くどういうことかと疑念を顔に浮かべつつも、ゆっくりと建物を調べて回る。
(怪しいとすればここだろう)
と、その区画では大きめの建物である寺院に目をつける。風の神であるイハトを信奉する寺院は、本来ならば黄金で装飾されてあったであろう壁や屋根は剥がされ扉も無くなっており、すでに人の手が入った遺跡であることが分かる。
内部は白い石造りで精緻な彫刻が施されているが、彫刻には蔦が這い土が積もり抜けた天井から光が差し込んでいて廃墟と化している。しかし、その静謐な空間は不思議と美しさを感じさせるものだ。
オルドはその寺院の中央まで進むと地面に腰を下ろし、瞑目し寺院に入った時に僅かに感じた気配を探るように意識を広げていく。
遺跡の探索が得意ならば自らが探せばいいが、オルド自身は隠し扉や魔法による仕掛けを見つけるのは得意ではない。それ故に感じた気配を逃すことなく捉え続け、対処出来るであろう場所にくるまで待つことにしたのだった。
それから数刻が過ぎ、その間オルドは身じろぎもせず気配を探っていたが
(本当にこれが違和感の正体か?)
と疑問を感じているのだった。その気配はオルドの居る場所よりも下にあるのだが、脅威と感じるようなものではない。また、この気配は数刻の間うろうろと下を動き回っているのだが、探索者がするような動きからは程遠く迷子のようにふらふらとしているのだ。
だが、徐々にオルドの近くへと気配は近付いており、出会うまでもう半刻もかかるまいと彼は踏んでいた。
それから程なくして、石のずれる音と共に寺院の床にひかれた石の一部が動き出す。オルドもそれに合わせ立ち上がり、寺院の床に出来てゆく穴を見つめる。
(さて、何がでる?)
と構えていたところ、最後にいくつかの石がばらばらと落ちる音の中、
「あっ・・・」
と小さな声と石同士以外がぶつかった音、そして何者かが倒れる音が穴から響く。
何とも言えぬ間の抜けた状態に、数日前からの緊張はなんだったのかとオルドは心中で嘆きつつも穴の中を覗き込み、うつぶせに倒れた少女を見つけたのだった。
お読み頂きありがとうございます。