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16.

※11.に挿絵を追加しました(13/10/23)

※設定集を追加しました。よろしければ作品一覧より人外少女設定集をご覧下さい。

前話まとめ。

マコトとカイ、野営地で傭兵と騒動になる。→逃げて山へ→逃げたところで魔物に襲われ、マコト谷底へ落ちる。

 落ちたマコトが目覚めたのは、それから1日以上が経ってからであった。血で濡れ乾いて固まった部分もある衣服は酷いもので、マコトのいる地面も血を吸い色が変わっている。身体の方々が痛く、目覚めたマコトはまともに動くことが出来ず体をよじりながらうめき声を上げた。


(どうなって・・・何の音だ)


意識が混濁としたまま、マコトは己の体の中からぱきぱきと音が響くのを聞き、その度に体の傷が無理矢理動かされているような痛みと芯に響くようなちくちくとした痛みを感じる。そうして目覚めているのか寝ているのかといった状態を続け、1日が過ぎた頃にようやくマコトはしっかりと目が覚めたのである。



 マコトは意識がはっきりとしてくると、自分がどうしてここで横たわっているのか分からず、僅かに首を動かし周囲を見るが、地面しか見えない。カイを呼ぼうと声を上げようとして、マコトは大きく咳き込むと、喉からいくつもの血の塊が吐き出された。


「ううぅ」


と、マコトは唸るように声を出しながら、傷む体をひっくり返し仰向けになるとようやく空と、切り立った崖が見えて、


(落ちたのか)


そう認識するに至ったのだった。

動いて痛む体が収まるまでと、マコトはじっと動かずに目覚める前のことを思い返し、


「カイ・・・」


あの赤眼猿と対峙したまま別れてしまったカイのことが心配になり、呟いた。


 その後、何度かマコトは体を動かそうと力を入れ、少し離れた所に落ちた荷物へと這いずるようにして近付くと、荷物に背を預けて大きく息をつく。マコトの体は酷いものだったが、傷らしい傷は全て血が止まり膜で覆われており、起きた時に血塊を吐き出した割には息も苦しくなく、内臓の痛みも感じない。ただ、動かすと骨や筋が痛み、マコトは動くのに苦労していた。

マコトの右腕は、覆われた部分があるものの、前腕の半ばから大きく縦に割けており、手首から先は無い。この部分だけは鈍い痛みが常にあり、手が無いことをマコトに訴えかけているかのようだった。対する左腕は、落ちた時に腕で着いてしまったのか、外皮のほぼ全てに罅が入り、外皮の無い左手もそこかしこに白い膜が張っており、動かすことが出来なかった。マコトはそこでぐったりとしながらも、どうにか戻らねば、戻らねばと思っていた。どれだけの時が過ぎたか分かっておらず、マコトはその思いを抱えたまま、動いたことによる疲労で意識を失ったのだった。



 マコトの落ちた場所は、小さな谷間であり、周囲は切り立った岩場が高くそそり立っている。その谷間を沿うように僅かな水量の川が流れているものの、途中で崖の下へと入り行きつく先は見えない。日の当たらぬ地面は湿った土で所々を苔で覆い高い木々や草などは無く、獣や魔物の居ないこの場所は水音が聞こえるだけの静かな場所であった。


 その場所でマコトは、荷物の食料で食いつなぎ、どうにか立ち上がれるようになったのは更に5日が過ぎてからである。当初、動けない時はマコトはカイのことを心配し、どうにか元の場所に戻らねばと思っていたり、情緒が不安定になり見捨てられたかと涙したり、自らが招いた難事に友人を巻き込んだと嘆いたりと、酷い体の状態に引きずられたかのようであったが、5日もすれば落ち着き、


(カイはあれほどの人だ。あの状況でも逃げることくらい出来るだろう)


そうマコトは思い、願っていたのであった。当然ながら、戻ることへの恐怖もあり、また、戻ったところでこの体では何も出来ぬと、崖上へ戻ることは諦めアリアデュールへ戻ることを考えていたのであった。

 しかし、体が動くようになったとしても、山間の谷からどう抜け出ればいいかにマコトは頭を悩ませることとなる。川に沿って下ろうにも崖の下に川が消え、登って辿り着く場所も分からない。歩法が練達の域ならば崖も上がれるだろうが、マコトはその域には至っていない。荷物も落ちた衝撃で多くが壊れ、方向も分からず、地図を見ても役に立ちそうになく、かろうじて現在位置は恐らくこの辺りの山ではないか?というほどである。


(見晴らしのいい場所まで登って辺りを見るしかない? でも、そもそも谷から出られるんだろうか)


 体の消耗は大きく気力も戻らぬ状態で、計画を立てずに動くわけにもいかないとマコトは色々と考えを巡らせるものの、動かないことには何も分からずどうしようもない。


(せめて左手だけでもまともに動けばいいのだが・・・)


 未だ動かぬ左手にマコトは目を落とす。槍は柄が半ばから折れていたものの、短槍と思えばどうにか使えそうではあるのだが、そもそも手が使えないのである。左腕の肘から先はほぼ全てを白く硬い膜が覆い、感覚が薄く固まったように動かない。痛みこそないものの荷物を漁るのさえひどく苦労し、今のマコトでは武器など扱えるはずもない。右腕に至っては、1日前に2つに割けていた腕が自然と折れ落ち、肘の少し先から無い。これでは何かあっても武器すらなく、


(魔法は・・・目くらましがせいぜいだよなぁ)


といった有様で、マコトは動くに動けず、少しすれば左腕が動くかもしれないと更に2日を無為に過ごすことになる。そこでようやく、このままここにいても食料が尽きると、谷を移動しはじめたのだった。



 マコトのいる谷は、大陸中央の北西部から大陸北西へと延びる山脈に存在する。この山脈は、大陸の北部中央に円を描くように存在する海を取り囲むようにある山々で、古の戦いにより大陸が抉られそこに海ができ、その余波によって造られたと言われていた。マコトがいる谷も、山脈を縦に断つような大きな谷の一部であり、谷の大本から派生した枝葉のような場所だった。

 そうとは知らず、マコトは谷を歩く。どんどんと両側の崖は高さを増し広くなる谷にマコトは不安こそあったが、行ける方向はそちらしかない。獣も魔物もいない静かな谷をとぼとぼと寂しげにマコトはとぼとぼと歩き、夜に脅えろくに眠れないまま動き続け、


(ここが終の棲家になるのか)


と、残りの食料の乏しさと終わらない谷に、嘆きながら10日が過ぎようとしていた。季節はすでに冬に入っており、寒さがマコトの足をより重くしているが、それを見つめる目があった。


 マコトは山脈を縦に走る谷間を北に向けて歩いていて、その谷間の北部へと入ったところで、ある種族の領域へと入っていた。体力の消耗でついに動けなくなり意識を失ったマコトに、ちょろちょろと近づく者たちがいた。身の丈は1メートル程度で、頭が大きく獣の耳がぴんと立っている。体を様々な色や模様の毛で覆われ3等身ほどのその者たちは、丸みを帯びたその体躯を音も立てずマコトへと走り寄る。


「・・・これは何だろう?」


「知ってるよ!石の人だ!」


「綺麗な石だ」


 マコトを囲み、じろじろと大きな目で見ながら、子供のような甲高い声で口々に囃し立てる。体に比べて大きな頭と大きな目を持つこの者たちは、かつては人と数えられながらもエルフさえ忘れてしまった種族の1つ、リルミルという種である。大きな猫の頭と毛でおおわれた丸みを持った小さな体躯を持ち、長命だが天真爛漫な性質で、個の名前も文字も持たない彼らはいつしか街や人々から離れ、この谷で遊びながら暮らしていたのだった。

 しばらくがやがやとリルミルたちは騒いでいたが、


「死んでしまう!勿体ない!」


とそのうちの一人が尻尾を膨らませ毛を逆立てて叫ぶと、他の者もそれはつまらない、勿体ない、などと騒ぐと、数人でマコトを担ぎ上げ、切り立った崖をひょいひょいと登り、途中に空いた洞窟の中へと入っていった。


 洞窟は、彼らの家であり、広く幾多の部屋を持つ蟻の巣状のもので、闇を見通す彼らの目では不自由しないためか灯りは無い。その中の一つの部屋で、毛皮を厚く敷きつめた上にマコトは寝かされていた。


 その周りにはリルミルが数人いて、きょときょとと視線を交わしつつ、マコトの手当をしている。薬や布などを使うことは無く、肉球のついた手で触れている姿は治療には見えないものだが、彼らは生来より内力に長じており、内気を相手に巡らせることでマコトの体の内より治そうとしていたのである。

 マコトの傷の多くは白い膜に覆われているし、小さなものはすでに治っている。これはマコトの異形の元であるイグススの体によるものだが、掛け合わされ半端となったそれは治すのに多くの体力を使い、本来なら正常に治すものが異常を持ち、マコトの内気を巡らす経路は治るに従ってずたずたになっていたのである。マコトの体が治ってきても、今一つ思考が鈍かったり、体力が戻らなかったのはこのためだった。

こっちを繋ごう、こっちが切れてる、などど楽しげな声と遊ぶような仕草で、マコトの体を直していくリルミルたちだが、気まぐれな彼らは、飽きたと言って他の者に入れ替わったり、治すでもなくマコトの碧い石状の突起を眺めていたり、傍で丸まり寝ていたりとと奔放であった。


 マコトが目覚めたのは、リルミルたちがマコトの荷物へと興味が移り、酒瓶を見つけ呑むものや僅かに残った干し肉を齧る者、衣服を広げて中に埋もれる者と、彼らが甲高くきゃあきゃあと騒ぎ立てる中になる。暗いなか目覚めたはいいが、体を起こしたマコトに気付いた彼らが一様にマコトを見つめたことで、マコトの目に飛び込んでくるのは暗闇を爛々と光る大きな目の群れである。


「わああっ」


赤眼猿とは全く違う大きく金色の眼ではあるが、寝起き様に直近の恐怖を思い出させるような光景にマコトは思わず大声を上げると立ち上がり、飛び退こうとしたところで足元の毛皮に足を取られてすっころぶ。


「石の人が起きた!」


「起きた?転んだの間違いじゃないのか?」


「つまりは、まだ寝てる?」


「でも声があったよ」


と、きゃあきゃあとまた騒ぎだし、マコトの傍へとするりと近づく。毛皮で守られたものの、転んだ衝撃で起き上がっていなかったマコトは、リルミルの姿を目にして、


「誰?」


と彼らに言い放つ。それにその中の黒い毛皮のリルミルが、


「誰って、私は私さ。だよな?ぶちよ」


と言い、白毛に黒いぶちを持つリルミルは、


「そうか?お前は私か?」


と首を傾げ、私はお前か?、お前はお前か?などと彼ら同士で問答を始める。今まで見た獣人とは違い、まるでデフォルメされたかのような体型の彼らが行うその不思議な光景をマコトはぽかんとして見ていたが、そのうち1匹が、


「我らは我らだ」


と言い、そうだそうだと同意の声が上がると、またマコトを見たり荷物を弄ったりしながら騒ぎ出した。部屋には5人のリルミルがいて騒いでいたが、マコトは未だ体力が戻り切ってはいなかったか、害意が無さそうだと思うと眠気が一気にきてそのまま毛皮に体を預けて寝息を立て始めた。それを見て、1人のリルミルが傍で丸まり寝だすと次第に騒ぎは収まり、部屋の隅やマコトの近くなど、好きな場所でリルミルたちも寝だしたのだった。

お読みいただき有難うございます。

よく話し動いてくれるカイが一時脱退となってしまい、結構悩みました。


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