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13.

前話まとめ。

マコト金欠で依頼を受ける。→カイが同行し冒険へ。→依頼の村につく。

 翌日、村の南東部に広がる森へとマコトたちは足を踏み入れる。森は多くの実りを残すものの、浅い場所ではあまり獣も魔物の姿も見られず、静かな場所だった。しばらく浅い場所を回り調べるが、木々や土に熊の痕跡と思えるようなものは見られず、マコトたちは更に奥へを足を踏み入れることになる。

 森の深部とまではいかないが、ここまでくると森によく慣れた者でもなければ入らず、木々も多く鬱蒼と生い茂り、暗く視界の悪い世界へと変わっていく。


(視界が悪い・・・)


予想以上の視界の悪さに、マコトはより警戒度を高め、槍を左手で強く握りながら調査を進める。すると、茂みや木々のない小さく開けた場所が、ぽつんぽつんと視界に入ってくるようになった。その場所を見れば、木々が倒れ茂みが潰されており、樹木の皮が大きく傷つけられたり剥がされている。木々に残る爪の高さはマコトが見上げるほどに高く、手が届く場所には無い。それを残した相手の大きさを想像し唾を飲むマコトだったが、


「マコト、こっちだ」


カイの呼び声でそっと近寄ると、カイの指す地面には30センチ以上はあろうかという足跡があり、


「この足跡と木の痕跡をみると、かなりのでかさだ。どうする?」


戻るかどうかという問いにマコトは少し悩むが、まだ熊自体は見ていないと調査の継続を望み、さらに調査を続けることとなった。


 そうして、熊を見つけたのは、森の中にあった小さな沢である。大きさが大きさだけに痕跡は多く、それを辿るように調査していたところで、ついに熊自体を見つけたのだった。

 熊は、依頼書にあったように6本足だが、前肢が4本に後ろ足が1本といった様相で、太く大きな足と5メートルはあるだろう体長を持つ大きなものである。その異様な体躯が熊を魔物であると示していた。熊は地面に横たわる何かの獣を器用に4本の前足で割き、貪っていて、今はマコトたちに気付く様子はない。しばらく観察するが、つがいであったり子持ちでは無いようで、1匹でこの辺りにまで来たのだろうとマコトは推測すると、マコトはどうするか?とカイの方に目を向けたが、カイはすでに剣を抜き、戦う準備を進めていた。マコトも槍を構えると、カイの合図に従い、静かに熊の後ろへと回り込んだ。


 仕掛ける合図と共にマコトは飛び出すと、槍を熊の後ろ足に向けて突き出す。だが、それに気づいていたのか、熊は巨躯を振り返らせながら立ち上がり、その動きで毛皮の表面を槍は滑るだけとなり傷つけることは無かった。

 立ち上がった熊の巨体と威嚇だろう大きな吼え声に、マコトは危険を感じ、咄嗟に土壁の魔法を使うと後ろの茂みへと体を逃がす。突如目の前にせり上がった土壁に、熊は抱え込み押しつぶすかのように体ごと前肢を叩きつけ一撃でそれを打ち潰す。だが、土壁にもその向こうにも獲物はなく、不満げに熊は、マコトの隠れた辺りを見ながら立ち上がり、再度大きな吼え声を上げると近くにあった木に前肢を振って折り飛ばすが、幸い折れた木がマコトに当たるようなことは無かった。

 マコトの奇襲こそ成功とは言えなかったが、気をひかれて威嚇をするこの動作にカイは好機を見出し、熊の後ろより熊の首元まで一気に飛び上がると、肩に足をかけ、その首筋に剣を鋭く走らせる。首を舐めるように深く切り裂く剣筋は頸動脈をも断ち切ったか、あたりの木々を染めるほどに多量の血が噴き出て、たちまち熊の半身を血に染め上げた。


「うおっ・・・と!」


 だが、それでも熊はひるまず、怒りを増した吼え声をあげると、大きく体を振り動かしカイを揺り落とすと、振り向きざまに大きく前肢を振りかぶり、カイに向けて振り下ろさんと前肢をしならせた。


 それをいなさんと剣を構えたカイの目に、振り上げた熊の前肢が1本千切れ飛び、もう1本も千切れかけているのが見え、その後に聞いたことも無いような不思議な音が響くのを耳にした。


「なんだ・・・!?」


熊は横に倒れ、一気に前肢を2本も失い立ち上がれずにいたが、驚いたのはカイの方もである。戦地に幾度となく立ったカイですら見たことの無い技に聞いたことの無い音で起きたこの現象に、動揺を隠せず声を上げたのだった。だが、戦いに慣れたカイはすぐに気を取り直し、熊へと剣を構える。

 血だまりの中をふらつきながらも立ち上がった熊は、失った肢や首から血をだくだくと流し今にも倒れそうであった。だが、魔物の生命力は驚くほどに高く、ふらつきながらもカイの方へと突進するものの、軽々とカイが避けられ、それにも気付かずに茂みを潰し、木々をなぎ倒す。そうしてマコトとカイが合流し、手負いに手出しも危険と少し離れて見守る中、熊は歪んだ円を描くように駆け回って木々や茂みをなぎ倒して回り、ついには倒れ伏した。それでも這いずるように動こうとする熊にカイは近寄ると、その目に剣を突き通し脳まで破壊し、止めを刺したのだった。


 残ったのは、これほどの血量があったのかと思うほどにまき散らされた血と、熊によってなぎ倒され、ちょっとした広場となった場所である。カイが周囲の警戒をする中、マコトは熊の死体を調べてみたが、ほとんどの血が流れ出てしまい、死したその体は対峙したときよりも一回り小さくなったようにさえ感じられた。


「その熊はどうする?魔石だけ取って捨てるか?」


カイは、熊の死体を運ぶのはマコトの膂力や自分の内力を持ってしても一苦労であり、あまり気が進まずそう聞いたが、


「持っテく」


と肉や毛皮が勿体ないと思うマコトはそう言い張り、帰ったら俺が先に風呂に入るからなとカイは自棄気味に吼えると、2人は熊を担ぎ、休憩をはさみながらゆっくりと森を抜けたのだった。



 森を抜け畑に入るころになると、2人の運ぶ熊の姿を見た者がいたのか、村の方が騒がしくなり、門番を含め、弓や槍で武装をした村人たちがこちらへと駆けてくる。だが、少し近寄ったところで、その熊が死体だと分かると驚きと喜びの声が上がり、数人は村へと引っ込み、残った数人だけがマコトたちの方へと近寄ってきた。


「少ししたら車がきます」


そう門番は話し、しばらくすると空の荷車が村の門から出てくるのが見え、カイは熊を下ろすとどかりと座り、血と獣臭くなった体にため息をついたのだった。


 村へ入ると、通りには村人が溢れ、荷台からはみ出るほどに大きい熊の死体に驚き、普段では見ることの無い獲物に湧き立つ。カイは堂々と手を上げ村人の歓声に応えていたが、マコトはというと目立たぬように、その後ろにこそこそとついていた。広場まで行くと、村長が家から走ってきたのか、息を切らせながらもマコトたちを出迎え、解体などの処理はこちらでやるので一度村長の家で話を聞かせて欲しいとのことである。村長の後に2人は続くが、熊の見物で残る村人たちの他に、マコトたちについていく者もおり、そこそこの人数を連れ村長の家へと歩くのだった。


 村長の家の前で村人たちを待たせ、村長は2人を家に入れると詳細について聞いてきた。カイは熊が1匹であろうこと、それを倒したことを伝えると、それを食い入るように聞いていた村長は子供のように喜び、2人を置いて村の前にいる者たちへと熊が退治されもう居ないと言ったのだった。残された2人に対し村長の妻は穏やかな笑みを浮かべ、風呂がありますよと2人に告げて、ようやく獣臭さから解放されるとカイはため息をついたのだった。


 マコトが風呂から上がった頃には、村はお祭り騒ぎのように浮かれた雰囲気が漂い、村長は2人が揃うと、宴の用意が出来たので酒場で受けてほしいと言い、カイはそれに同意してから、


「熊の肉を宴に出していいか?全部なんてことはないが、俺の取り分の半分くらいはいいだろう?」


とマコトに言い、マコトが頷くと笑みを浮かべ、


「では、熊を倒した英雄として、村の歓待を受けなければな!」


そう軽口を叩き、酒場へと向かうのだった。マコトは大人数の宴となるとどうにも気が重かったが、少しは付き合うべきかとのろのろと歩いて付いていく。

 村の蓄えを使った宴は村にとっては珍しい祭のようなものであり、多くの村人が参加し酒場は賑わっていた。カイはその中心となり、何度となく酒の入った木杯を掲げては音頭を取り、村の者たちに今回の熊のことだけではなく、色々な戦地や街のことなど、村人では知ることの無いような話をしては皆を喜ばせていた。そうして、熊を使った料理が出てくると歓声が上がり、


「皆が恐れていた熊も、今ではこの通り!皆で食ってやろう!」


とカイは大きな声で言い、皆の歓声に杯を上げて応えると、皆が熊の方へ気が向く中、座って辺りを見る。先ほどまで近くでこそこそと酒を呑み食べていたマコトの姿は見当たらず、宴を抜け出した後のようであった。


(あれはなんだったのか)


 マコトの使ったらしい謎の技。熊の前肢を吹き飛ばし、カイの度肝を抜くそれが、魔法であったのか武技であったのかも見当もつかず、気になっていたのだった。これは、マコトの右腕の砲のことではあるが、マコトとの試合や魔法の練習で使うはずも無く、カイはそれについて知っていなかったのである。

 そうして考えが深くなろうという時に、主役が端にいてはいけないとばかりに村の女たちがカイに寄り、酒を酒をと注いでくる。カイは苦笑し酒を煽ると、宴を楽しむために立ち上がり、宴の輪の中心で話に花を咲かせながら酒を呑むのだった。



 マコトの方といえば、宴では影のように静かにし、いくらか食べ飲んだだけで、熊の料理の登場と共にこっそりと抜け出して村長の家へと戻っており、あてがわれた部屋のベッドの上に腰かけ肉を齧り酒を呑んでいた。といっても独り寂しくといった雰囲気ではなく、カイと共に戦ったことの余韻に浸っているマコトは気分よく楽しげである。何より、騒がしい中でなく静かにそれに浸り思い返したかったマコトにとっては、騒がしい宴より今の方が良いのであった。

 こうしたらどうなっていただろうか、こうすれば良かったなど、色々と考えつつも酒を呑み、試合よりも鋭いカイの剣技や、マコトが前肢を吹き飛ばさずとも無事に熊をいなしたであったろうカイの技量なども思い返すと、武術に向かないと言われてはいるが、やはりああいうのには憧れるものだよなぁとマコトは思う。そうしてマコトは、つらつらと取り留めのないことを考えながら時間を過ごし、そろそろ寝ようかと思っていたところ、扉が開かれ、そこそこに酔った様子のカイが中へと入ってきたのだった。

 マコトは酔った相手に対し、


「部屋、違ウ」


と、カイに話すが、カイは軽くあぁとだけ答えると、ベッドに座ったマコトの隣に腰を下ろし


「今日はあれだけの熊相手に楽なものだったな」


そう言って、マコトの持っていた酒瓶を取るとくいっと軽く一口煽る。


「うん」


とマコトも返して、カイから受け取った酒瓶を煽る。そうして、ぽつぽつと静かに話が始まり、マコトの腕の話へと及ぶと、


「あれ、右腕」


といってマコトは自分の右手をカイへと差し出す。カイは少し驚きながらも右手を取ると、マコトの右腕を動かしながら眺めて、


「武技でも魔法でもなく、生来の力であれか・・・」


と呟いてマコトの右手を離した。すると、マコトは、


「ごめん・・・」


と小さく言い続けて、


「伝える、忘れテた」


そう自らの伝達不足を謝ったのだった。


「くっ・・・ははっ!俺の肝を冷やす者がそれか・・・!ははは!」


心中に積もった色々なことをカイは吹き飛ばすように大笑し、マコトの頭を乱暴に撫でると、酒瓶を大きく煽ってから体を倒し大きく息を吐いて目を瞑った。

 しばらくそうしていたので、マコトは寝たのか?と顔を覗くと、


「俺は、マコトが怖い」


驚き、身を硬くするマコトに対して、カイは目を開きマコトを見ながら、


「お前より俺は強いし、マコトは良い友人だろう。だが、何故だか怖い」


そう言って体を起こし、


「俺は、その怖さもそういうものだと思うことにした」


と続けたが、特にマコトに何か聞くことも無く、


「共に戦地に立てば、共に旅すれば分かると思ったんだが、よく分からん。だが、それでいいのだろう。マコトは俺の友であるのだということは変わらんのだからな」


そう、カイは静かに話し、酒を煽るとマコトに酒瓶を返し、マコトの頭を軽く撫で先ほどと同じように後ろに倒れると、今度は寝息を響かせて寝だしてしまった。


 そうしたカイの行動にマコトはついていけず、きょとんとしたまま聞き続けていたのだが、カイが寝て静かになってからようやくマコトの考えがその言動へと及ぶ。そうして自分を受け入れる友が居るということ、それを語ったのだと気付いてへたり込むように体の力が抜けたまま、カイの寝顔を見つめ続けた。


 しばらくしてマコトは記念にと酒瓶で一杯やろうとしたところ、すでに空になっており、むむっと小さく唸り声を上げてから酒を呑むのを諦め酒瓶を放ると、寝入ったカイの足をベッドの上にあげてやる。それからマコトは外套にくるまり部屋の隅で蹲ると、幸せそうに笑みを浮かべながら寝息を立てるのだった。

お読みいただき有難うございます。

このまま続くといいけれどというマコトちゃんほのぼの話。

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