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11. ★

前話まとめ。

マコト、酒場で友を得る?

 交誼を結んだ友人が出来た、といってもマコトの生活や世界が変わったか?と言えば、そうでもない。翌日になれば、相変わらずフードをすっぽりと被った2人で向かい合い、同じように教えを受けていて、カイの姿が増えていたということもなく、僅かにベルムドが私語を増やし毒を吐いていたくらいである。

 この頃になると、座学で教える部分はかなり減ってくる。低級の魔法をとりあえず使えるようにという依頼であるし、基礎というよりは概念的な話が多く、基礎的な教養がなっていないものであれば大変ではあるが、マコト自身は世界は違えど十数年は教育を受けていた身であり、物事を順序立てて覚えたり、概念の話であっても理解は早く、憶えた内容を他の話と系統付けられるのであれば、さしたる時間は必要ない。無論、魔法という学問として学ぶのであれば、基礎だけで何年もかかろうが、要は魔法を使い修錬出来ればよいだけなのだから、内容も少ないのだ。村人あがりで教養が無いような者であれば、その概念を理解するために、物事の基本を知らねばならず、一ヶ月という依頼では無理だろうが。

 そうして、座学というよりはマコトの未熟な点を指摘する会話と、軽食を済ませて実践を行い、今日の実践についての話や、魔法についてなどを話ながら街へと戻り、予定より早い昼も少し過ぎた頃に解散となったのだった。


(時間が空いてしまった・・・ベルムドを昼食に誘えば良かったか)


 別れてから、することもなく手持無沙汰になり、酒場に行くことはなく屋台で適当な串焼きの肉を買い齧る。すじ肉に火を通しただけなのか、えらく固い肉をかじかじと齧っていると、前日は奢られてしまいマコト自身が金を出していなかったと思い至り、前日分として誘うのも良かったかと、そんなことを考えながら、マコトは長屋に戻るでもなく、ぷらぷらと街を歩きはじめた。


 アリアデュールの大通りは広く、様々なものが行き交っているが、昼も過ぎたこの時間は一仕事終えた農民が、農具や収穫物を荷車に積み第二壁へと向かう姿が多く、手伝いに駆り出されたろう子供たちの高く楽しげな声が大通りを騒がせていた。冒険者や傭兵たちで溢れるこの区画や、港を含む区画には農民や街で生計を営むような市民はほとんど住んでおらず、第二壁以降に住んでいる。マコトもそれには気付いていて、不便ではないかな?と思ったりはするのだが、そちらに住もうという市民が少ないのだから、こうした区画分けは問題の発生を減らし、何より剣や槍を持つ者が隣に暮らしていないというのは安心感があるのだろう。

 マコトは未だ入ったことの無い第二壁の向こうも気になったが、


(あぁ、そういえば、この街来て随分と経つが、北区以外行った事も無いな)


と、南にある港を目指すことにしたのだった。国の首都であるだけに大きな街であり、その外周を回るように進むのはかなりの時間を要することになったが、港まで半ばといったところで徐々に街の様相が変わってきたことにマコトは気付く。


 石造りで2階から3階建ての建物といった見目は変わらないのだが、外に干される服は色が増え、張り出した窓に花瓶や植木鉢を置いたりと、華やかさを感じさせる。武具の店などは無くなり、簡単な鍛冶を行う店もあるが鍋などの金物や鋳掛屋のように補修を行うような店になっていて、当然、傭兵や冒険者のような身なりの者は通りにも少なくなる。代わりに水夫のような赤く日焼けした肌を持った逞しい者や、商人やそれの使いのような身なりの者が増えてきていた。


 いよいよ港が近付き、マコトにも海特有の塩の匂いが感じられるようになってくると、通りは荷駄を運ぶ者たちで溢れ、酒場や妓楼も目に入るようになる。酒場からは男たちが大声で歌う声が聞こえ、妓楼からは女たちの嬌声や呼び込みの声が響く。


(おぉ・・・帆船だ)


 大きな倉庫らしき建物に阻まれて全貌は見えないが、帆船のマストが建物の影から覗き、それにつられマコトの足も早くなり、するすると人を避けながら前へと進んでいった。冒険者も少なく、フードを被ったマコトの姿は目立つものだったが、足取り軽く楽しげな様と低い身長で子供が遊んでいると思われたのか、声を掛けたり気に留めるものもおらず、マコトは港の岸壁に辿り着いたのだった。



 港は、大きな帆船が帆を下ろし3隻停泊していて、2つの船は荷物の積み下ろしをしている。他にも漁に使うのであろう小型の船が多く泊まる艀や港に出入りする船が海に浮かび、日も落ち始めた時間であっても多くの人が岸壁を行き交っている。そんな場所は、同じ街でありながら北区とは大きく違い違い、新鮮さにマコトは目を輝かせ、岸壁を歩き回った。


 ひとしきり歩き満足すると、夕焼けに染まり始めた中、船の泊まっていない桟橋を歩き先端まで辿り着く。潮風に煽られフードも取れるが、それを見るような者もおらず、マコトはそのままに海を眺めた。桟橋の先端は周り全てが海しか見えず、海の上に立つようなそんな気分を味あわせ、解放感に身を浸らせ強い風にゆらゆらと体を揺らしていると、ようやく自分に余裕が出来たんだなとそんな実感をマコトは得たのだった。


「暗くなるから、危ねぇぞ!」


岸壁より桟橋にゆらゆらと立つマコトに気付いた水夫の大声に、マコトはびくりと振り返り、もう一度海をさっと眺めてからフードを被ると帰路へつくのだった。




 それからは、酒場でベルムドと会い、そして郊外へ実践に赴くという日々が続いていたが、依頼期間も残すところ3日といったところで、マコトはカイと再び出会ったのであった。


 カイは、朝からマコトたちを待っていたのである。特に用事がある訳でもないが、この男、軽薄な物言いながらも律儀なもので、あれで終えてしまっていれば、怖気づいたか場を取り繕っただけとなり男が廃ると、唯一の接点であった酒場にて待っていたのである。声は低いが美しく、話の合うベルムドを気に入っていたり、マコトの容姿が酒で記憶を違えたかと思っていたのもあるのだったが。


「朝から酒場の前に立ってるとは。金が無くて用心棒にでもなったのか?」


と、ベルムドが毒を吐き、それにカイは


「ぬかせ。俺はな、交誼を結んだ友がどうしているか気になったんだ」


と答え、続けて


「縁があり、また出会えたという訳だ」


そう言って、マコトたち2人に、おはようと挨拶を交わす。マコトが楽しげにゆらゆらと体を揺らしているのにベルムドは苦笑しつつ、


「今日はこれから魔法の訓練だからな。酒には付き合えんよ」


と言うが、カイはそうかと言い、マコトたちに付いてきて郊外まで来たのであった。

 そうしてマコトが魔法の訓練を始めると、カイは少し遠巻きに座り、懐から徳利を出して酒を呑み始める。邪魔はしなそうだとベルムドはカイから視線を外すと、マコトに訓練の継続を促し、昼前までそれは続いた。マコトははじめ、見られているのに少し緊張し、魔法の出来も悪いことがあったが、しばらくするといつもの調子を取り戻し、まずまずの形で訓練を終えたのだった。


 マコトが魔法の出来ややり方についてベルムドから話を聞いていると、訓練が一段落ついたと判断したカイが傍により、


「終わったか?終わったなら、俺と一手やらないか?」


と、自身の剣を軽く持ち上げて、マコトに試合を申し込んできた。


「それが目的だったのか?」


とベルムドが問うが、


「訓練を見ていたら、体を動かしたくなったのさ」


カイは肩をすくめてそう返した。だが、カイはマコトの動きを見て何かの武術をやっていることに気付いており、それが見覚えのないものであったために興味を惹かれたのも大きな理由だった。


「やる」


そうマコトはカイに向けて告げた。少し浮かれていたことや、仲間との鍛錬というのも楽しそうだといった思いがあり、積極的になったのである。外套を脱ぎ、動きやすい出で立ちとなったマコトにベルムドは訝しげな顔をしたものの、特に何か言うでもなく邪魔にならぬよう遠くへと離れた。


「鞘を布で結び刃を出さぬこと。そして魔法を使わぬこと・・・でいいか?あとは有効打を寸止めで決まりだ」


「うん」


 マコトがこくりと頷くと、2人とも武器を構えた。いつでも槍を突けるようにと構えるマコトに対して、カイは、右手に長剣を持ち、肘を軽く曲げて半身で構え、剣先をマコトの喉元へと向けている。

カイは、マコトが対人慣れしておらず、硬い構えになっているのを見て取ると、そうでは面白くないと内気を体に巡らせ、10メートルはある距離を3足跳びに駆け抜け、一気にマコトへと仕掛ける。


「・・・あぁっ!」


驚きながらもマコトは一手、槍を繰り出すが、カイの長剣が槍にくるりと絡み、切っ先を僅かに逸らされる。そうして一手が空を切ると、腕を戻すよりも早く、懐に入ったカイの長剣がくねくねと滑るようにマコトの右腕を手首、肘、肩と滑り抜け、首へと当てられた。


「うむ、決まり・・・だな。続けるか?」


息も触れ合うほどに近くでにやりと笑い、カイが告げると、マコトもそれに奮起したか


「やる!」


と言って、槍を構える。カイが跳び離れ、構え直すと、今度はマコトが打ってかかる。マコトの使う軽功、水神浮歩は、内気の練りが甘く未だその神髄を発揮したとは言えないが、それでも速くカイが3足跳びにした距離すら1足飛びに襲い掛かる。


「まだまだ!」


カイはそう気勢を上げ、長剣で槍を絡め止めると、相手の力を利用してマコトを放り投げた。2,3と転がったマコトだったが、すぐに起き上がると、同じくしてカイに槍を向け襲い掛かる。


(芸の無い)


と、カイがいなし、数回試合は決まったのだが、徐々にマコトが追いすがり始めた。武技でも経験でもマコトは劣り、追いつくことも追い越すことも出来ないが、その膂力と速さを持ってカイの変幻自在な剣技を打ち破らんとしているのだ。

 繰り出される槍は、以前より速度こそ落ちるものの、固く力を込めたそれは、土に深々と刺した鉄棒のごとく強固となり、剣によって逸らすことが困難になる。だからといって、繰り出した槍を避け、剣を絡めて相手を倒そうにも、その頃には歩法によって逃げ出していると、玄妙なる武技を力で捻じ伏せカイに迫ろうとしていた。

必死さから生み出された方法は、カイを驚かせると共に


(拙いが・・・なかなかやる。)


と、マコトとの試合を楽しませていた。だが、相手に決定打を取られぬからと言って、こちらが取れるというほどの力量はマコトには無い。

 常に内気を体に回し、掛け回るマコトに対して、カイは受け逃す時にだけそれを行えばよい。そういった差と、元々の内力の量や内気の練りの差によって、マコトはついに息切れし、動きを止めることになった。ふらふらになったマコトに、最後の一手とばかりにカイは駆けよると、マコトの突き出した槍をするりと避け、マコトの首筋に剣を当てた。


「まけ・・・タ」


そう言って、マコトは膝から崩れ落ちる。カイは、それをぽんと手で押し、くるりと回って仰向けにマコトは倒れ込んだ。


(あー、負けた!でも、結構楽しかったなぁ)


悔しさと楽しさをない交ぜに、マコトは空を眺め、カイは


「楽しかったな。また、今度やるか!」


と言いながら、酒を呑んでいた。カイが見たマコトのそれは、武技としての槍の動きと言うには微妙なもので、どこの流派かも全く見当がつかなかったが、現在のマコトでさえカイに迫るその歩法は、拙くともその精髄の深さを感じさせるものがあり


(よほど良い師がいたと見える・・・が、その割には武術はなってないな)


と、歩法の素晴らしさと他の拙さに首を傾げたのであった。そうして、カイは不思議さを感じながら、仰向けに倒れて休んでいるマコトを見て、


(こうして見れば、色々おかしいが、少女だよなぁ・・・)


と、思う。だが、そこで試合を思い返して


(本人には言えぬが、知己でなければ斬り捨てかねん恐ろしさだな)


と、外套を脱ぎ捨て、異形を露わにして襲い来るマコトのことを思い出し、そこからくる感情を払うように酒を煽るのだった。



 街へ戻ると、3人揃っているのだからと、理由とも言えぬ理由をカイが言い、酒場で夕食となる。ベルムドが、当然奢りなのだろう?と聞き、カイが詰まる場面もあったが、3人なら大丈夫と思ったのか、胸を叩いて請け負うと、いつもの酒場である赤竜の鼻息へと入ったのだった。

 乾杯をして、食事と酒が進む中、ぐったりと疲れたマコトは、木杯を両手に取ると口元へ運び、長い舌を酒に漬け込みゆらゆらと動かしていた。この行為、行儀は悪いが酒の味をよく感じられ、マコトは気に入っているのである。


挿絵(By みてみん)


「なぁ、マコト。その舌どれだけ伸びるんだ?ちょいと摘まんで伸ばしてみてもいいか?」


 酒の入っていたカイは、ゆらゆらと艶めかしく揺れる舌が気になり、ついそんなことを口にしてしまう。マコトはそれに驚き、伸ばしていた舌がつるりと口の中に吸い込まれた。

長い舌がマコトの小さな顔に仕舞われたことに


「うーむ。気になる・・・」


と、カイは呟く。すると、ベルムドはくつくつと笑い出し、


「全く、女の舌を嬲りたいとは、カイは随分と業の深い色欲を持っているな・・・いや、ここまでいくと獣欲か?」


と、からかい交じりに笑い出す。


「気にならんか?」


そうカイは続けてしまい、それにベルムドは大笑し、机に頭を伏せひとしきり笑うと、


「くっ・・・ははっ!まぁ、このような小柄な女を2人も侍らせているのだ。業の深さなど今更だな」


と、自分の身すら引き合いに出してからかう。それにマコトも乗り


「童女・・・趣味・・・」


と呟く。それを聞いたベルムドはまた机に伏し、自分のことを童女と言ってしまうことにもおかしさを感じ、マコトも軽く笑い声をあげた。


「全く・・・。さて、業の深い俺は、長い耳を嬲っても良いものかな?」


そう言って、カイはベルムドの耳に手を伸ばし、ベルムドは慌てて頭を起こし手で耳を覆う。それを見たカイはしてやったりと笑い、良い酒だと木杯を空にした。


笑いながら友人と杯を交わす、そんな光景にマコトは木杯を掲げ、この時が続くよう願い酒をあおるのだった。

ほのぼの回。いつもよりマコトが幼くなっていたような。

戦闘描写の練習も兼ねて、鍛錬を書いたりしていました。

感想で、舌をびろーんと伸ばしたい!というのがあり、これは・・・!と、ネタに使わせて頂きました。きっとまたどこかの話でびろんと伸ばされたりするのかも。


※戦闘での用語補足※


内力・・・体の内にある力全体を指す。それを体内に巡らせることで身体を強化したり治療などを行う武功と外に出して外気を操る魔法がある。

内気・・・内力の一部を指す。


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[一言] (時間が空いてしまった・・・ベルムドを昼食に誘えば良かったか) 魔法を教えて貰う代金に昼食入っていたよね。
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