-abyss of night-
untitled nightmare
流れゆく川
爽やかな心地に
身を委ねては
自分が今、
どこにいるのか忘れていた
曇りゆく空
雲が涙に
黒く腫れては
打ち付ける雨が
躯の熱を 溶かしゆく――
わたしはどこから
来たのでしょう
わたしはどこへ
行くのでしょう
巡りゆく時
たゆまざる足音に
ただ、随っては
自分が今、何をしているか
忘れていた
移りゆく季節
世界の色彩を
塗り替えていっては
新たな色に
わたしの躯は 簿かされた
わたしはいつから
いたのでしょう
わたしはいつまで
在るのでしょう
雫が霞む朧げな視界は
光の彩りを忘れさり
飛沫が唸る冷厳な流れは
わたしの躯を
閉じ込めた……
奔流はこの身を摩耗させ
手指の感覚を毟りとり
極寒で感覚を押さえ付け
や が て は 鼓 動 を……
靄に淀む 朧げな瞳は
映す世界を忘れさり
暗闇が巣くい
時間を殺す 幻想の底へ
吸い込まれては
ふっと
閉ざされた……
ウ ミ ノ ウ タ
忍びよる風
さざめく波間 揺蕩う闇
霞む情景
消ゆる体温 ほどける躯……
星々の朗らかな旋律も
木々のささやかな音色も
今は、水面と共に
遠のきゆく…………
痺れる指先
曇る言霊 届かぬ光
渇きゆく呼吸 纏わる愁憂
堕ちる感情……
手の平の安らかな温もりも
微笑みの紡ぐ彩りも
今は、朧月のように
おぼろげに――
霜夜のように
凍てつく深海
暁のあざやいだ
かがり火も
燈ることなく
波に溺れゆく――
イ タ イ 。
伸 び て く る……
サ ム イ 。
水 の 底 へ……
コ ワ イ 。
引 き ず る 影 ガ――
人形のように
くすんだ眼
ひるがえる
ほのかなる
光の謳も
宿すことなく
涙に滲みゆく――
刺 サ ル 。
孤 独 ノ 木 霊 ……
マ ワ ル 。
誘 う ヨ ウ ニ……
オ ド ル 。
ウ ミ ノ ウ タ ガ――
仄暗イ
深淵ヨリ
響キ渡リ……
光の謳
水面を泳ぐ恋いろ椛
淡い空を
空しく冷ます木枯らしに
ゆら
ゆら……
揺らめき遠くへ去った
近くで……
すぐ近くで
瞳をくすぐったのに――
この胸の疼きを
この手の震えを
“悲しみ”と呼ぶのであるならば
あの胸の色めきと
あの手の温もりは
何のために
息づいたのだろう?
冷えた心が零した言葉
薄い空に
浮かんでは沈む木枯らしが
ふわ
ふわ……
拾い上げて雲へと溶かす
遠くへ……
色づいた季節を
追いやるように――
この冬の乾きが
この陰の静寂が
これほどに痛いものならば
あの春の潤いも
あの光の輝きも
いっそなければ
楽だったのに……
されど季節は吹きすさぶ
鼓動をいたずらにせき立てて
そして木々は移ろいゆく
実りを腐らせ大地へ落とし
こやみなく新たな花を育んで――
近い春との再会が
近い光との再会が
もたらす色は
何なのか……
この疼きの先の色めきを
この震えの先の温もりを覚えることの
その意味は――
大地に芽吹く柔らかな薫り
温まりゆく風を きらきら伝いゆく
ひかりの謳に
ぽたり……
新芽の涙は珠玉となった