黄昏の醤油味
どこからともなく現れるという、都市伝説の店。
その店に選ばれたものは、特別なラーメンを食べさせてくれるらしい。
ガラス戸がガラガラと引かれて開けられる。
「らっしゃい」
「大将、ラーメン4つね」
「あいよ」
4人が店の中に入ってくる。
店主は嫌な顔一つせずに、麺をゆで始める。
「お客さん、飲み会帰りかい」
店主が客たちに聞く。
「飲み会っていうよりかは、同窓会だね」
「そうそう、ぐーぜん、4人とも同郷でさ。そこで出会ったから、帰りにちょっと一杯、ね」
お猪口を飲むようなしぐさをする。
「そういう、お客さんらには、このラーメンがお勧めだ」
店主は、大きな寸胴から、スープをわずかにいれる。
それを多量のお湯で伸ばした。
「ここに麺を入れるんだ」
「なんだか…懐かしい?」
客の一人が、匂いをかぎながらつぶやいた。
「そうそう、このスープの匂い、どこかで…」
「そういや、高校受験の時、うちの母ちゃんがこんな感じの、作ってくれたっけな」
「へい、お待ち」
客らが話している間に、ラーメンは出来上がった。
「うん、この味だ。なっつかしいなー」
「なんだか、昔懐かしの味っていうかんじだね」
客らはそれぞれに感想を語り合う。
「大将、この名前は」
「黄昏の醤油って呼んでるな。懐かしいと思うのは、黄昏を感じているんだ。色のイメージは、夕焼けなんだが、うまく表現できてるかね」
「バッチリだよ」
そう言いながら、一気に完食した。
「ごっそさん。お代は」
「いいさ、お客さんらから取ることはできないよ」
そう言って、店主は続ける。
「また来てくれよ。それで、次はお客さんらの話、もっと聞かせてくれ」
「いいですよ。こんな旨い店、初めてだ」
客らが出て行くと、電気も自然に落ち、店の中は誰もいなくなった。
このラーメン屋、次はあなたの前に来るかも…




