侵生楼の味噌味
誰も場所を知らないが、不思議なラーメンを食べさせてくれるという店。
その店に行くためには、店主に選ばれなければならない。
そんな店に選ばれた幸運な者が、今日も店を訪れた。
「らっしゃい」
店主が無愛想に言う。
「ッチ」
舌打ちを一つして、客の男はカウンターに座る。
「お前には、これがいいだろうな」
客から何も聞かず、1杯のラーメンを差し出す。
くすんだスープには、灰色の小さな塊が浮かんでいる。
「…これは」
「食ってみろ。話はそれからだ」
箸を渡し、客に食わせる。
「…なんか微妙だな」
「腹減ってきたんだろ。じゃ、食え」
それから何も店主は言わず、新聞を読み始めた。
10分ほどで、客は食べ終わった。
「ごちそうさま。金は」
「1500円だ」
新聞をたたみながら、店主は客に言った。
「お前はあほか。こんなラーメン一杯で1500円はないだろ」
「アホはお前だ。そもそも、お前がこの店を選ばなければ、そんな値段付けないんだよ。ほら、払いな」
客は舌打ちをしながら、1500円を払った。
「そういや、このラーメンはなんて名前なんだ」
「侵生楼の味噌だ。侵生楼っていうところで作られた味噌を使っている。特製な味噌だ」
「そうか…」
客はそう言ってガラス戸を開け、外へ出た。
店主はそのガラス戸が閉められたのを見てから一言。
「…味噌は味噌でも、脳の味噌なんだがな」




