第9話
「そう。報告ご苦労様」
知的さを醸し出し、その振る舞いから軍師や副官を思わせる少女リアーナが、静かに労いの言葉を告げた。
三極の一角、アージェントレギオン。
その拠点の一室では、謎の転校生についての報告が行われていた。
「銀髪の転校生、完全に調子乗ってますね」
「ケルベロスの連中がやられたってことは……」
「そいつ、うちにもカチコんできたんすよね! これは報復案件でしょ!」
報告を聞いたアージェントレギオンのメンバーたちは、口々に意見をぶつけ合う。
その喧騒を意に介さず、アージェントレギオンのリーダー、ミランダは、
無表情のまま視線も動かさず、短髪の小柄な少女へ問いかけた。
「クー。実際に戦った感じ、どうだった?」
「あいつ、めちゃくちゃ強い。ワタシの磁力を引きはがした」
クーと呼ばれた少女、クーデリカが、感情の起伏なく答える。
「クーデリカは感情あんまり出さないし、いつも大げさに言うから、分かりづらいんだよな。本当にピンチだったのか?」
取り巻きの一人が、念押しするように尋ねた。
「うん。ピンチだった。新しい先生の介入がなかったら……負けてたかも」
クーデリカの追加報告に、室内の空気がわずかに変わる。
「マジっすか。“磁界の魔女”って言われるクーデリカさんが負けそうになるとか……マジで激強じゃないっすか」
メンバーたちの認識が、明確に引き締まった。
「行きますか?」
リアーナが静かに問う。
「……そうだな」
ミランダは、小さく頷いた。
「ちょっと待ってください! リーダーが行くまでもありません。ジュリアやエリーあたりを向かわせて、様子を見させれば…」
「"爆炎"を口にしたんだ」
ミランダが、その提案を切り捨てる。
「どんなやつか……一目見てみようじゃないか」
「所詮、田舎者の戯言にすぎません。リーダーが出るほどの――」
「……おい」
室温が、急激に落ちた。
次の瞬間。
バキン――
室内のあらゆるものを白い氷が一瞬で覆い尽くす。
「っ――!?」
発言したメンバーの顔が鷲掴みにされ、宙へ持ち上げられた。
――ピキピキピキ。
凍結が、顔面からじわじわと侵食していく。
「爆炎が……戯言だと?」
氷の魔女の瞳が、静かに細められた。
「もう一度、言ってみろ」
「リーダー、そのへんにしてちょうだい。彼女、死んじゃうわよ」
リアーナが冷静に制止する。
「黙れ。お前も凍りたいのか」
さらに張り詰めた殺気。
しかし、
「ミランダ。みんな怖がってる。そんなことじゃ、あなたの目的も達成できない」
リアーナの一言が、静かに突き刺さる。
「……気持ちは分かるけど、ミラ、怒りすぎ」
クーデリカもぽつりと補足した。
数秒の沈黙。
「……そうか。そうだな。すまん」
ミランダは、あっさりと手を離した。
パキン、と氷が砕け、失言をした生徒は床に崩れ落ちた。
「ごめんなさい。その子、看病して頂戴」
副官らしく、リアーナが即座に場を収める。
周囲のメンバーたちが慌てて駆け寄る。
「それで? 結局どうするの? 見に行くの、その転校生を」
空気が戻ったところで、リアーナが改めて問う。
「……そうだな。見に行くとしよう」
短い決断。
「そう。それじゃあ、私も一緒に行くわ」
「お前まで来なくてもいいだろ」
「いいえ。何かあっては大変だもの。もしかしたら……あの狸女も来るかもしれないし」
ミランダの目が、わずかに細まる。
「……そうか。あいつも来るか」
「ええ。あの子、この手の話には目がないもの。もしあなたと鉢合わせしたら、一触即発よ?」
「……お前が来てくれるなら、少し安心だな。では、明日の朝、共に行くか」
「ええ」
頷き、振り返ったリアーナは、二人に声をかける。
「それじゃあ、クーとアリアも一緒に来てちょうだい」
「わかった」
「承知しましたわ」
それぞれが短く応じる。
波乱の幕開けを告げる決定だった。




