第8話
リューネたちがカフェで相談をしている頃――
「つんつん、つんつん……。ねえ、君たち大丈夫?」
静まり返った二年生の廊下。うつ伏せで倒れている二人の生徒を、しゃがみ込んだ女生徒が人差し指でつついている。
先ほどリューネに叩き潰された者たちだ。
「姉さん、そんな奴ら放っておいていいっスよ」
「そう~? こんなところで寝ていたら、風邪ひいちゃうよ~?」
「バカは風邪ひかないっていいますし」
「キョウちゃん、ひど~い」
くすくすと笑う。
そこへ、教室の中を確認しに行っていた取り巻きが戻ってきた。
「あねさん。転校生、もういないみたいっス」
「え~。せっかく来たのに~? もう帰るの~?」
「まあ、転校生がいなきゃどうしようもないので」
「う~ん。しょうがないかー。じゃあ明日の朝に来よ。朝ならいるよね?」
「ねえさん……朝、起きられますか……?」
間髪容れず、ツッコミが入る。
「それともう一つ。その噂の転校生、そいつ、テッペン宣言したらしいですよ」
一緒にいた別のメンバーが追加の情報を伝える。
その瞬間、彼女の纏う空気が一変した。
「へぇ……。テッペン、ねぇ……」
柔和だった表情と声色が、一瞬にして凍りつくような冷たさを帯びる。
その自由奔放、天真爛漫な"炎姫"と呼ばれる魔女。
しかし、もう一つ"炎鬼"と呼ばれる所以を
間近でその変化を見てしまった二人は、言葉を失い、冷や汗を流した。
「そっかぁ。なるほどねぇ。うん……。じゃあ、やっぱりその話題の転校生を見に行こうかな」
再び明るく響いたその声には、先ほどの冷徹さは微塵も残っていない。だが、それがかえって周囲の恐怖を煽った。
――その時。
「こらー! どこに行ってんの!」
廊下の奥から鋭い声が飛んだ。
「あー、クロエちゃんだー。よっすー」
「よっすーじゃないわよ!」
クロエと呼ばれた少女が、ずかずかと歩み寄ってくる。
「あんたが二年の教室にいるってバレたら、大変なことになるわよ!」
「大丈夫だよー。放課後なんて、ほとんど人いないし」
悪びれもせず、ひらひらと手を振る。
「今は噂の転校生を見に来ただけだから。……いなかったけど。だから明日の朝、また来るー」
「ちょっと待って!」
クロエの声が一段低くなる。
「絶対ロクなことにならないの! 揉め事作るだけだから!」
「なんでー? なんもしないよー。ちょっと見るだけだよ」
「待て待て待て」
クロエが額を押さえた。
「あなたが"興味ある"って時点で、あの二人も動くでしょ」
空気が、わずかに強張る。
「もし二年校舎で鉢合わせなんかしたら……それこそ戦争よ」
「やだなー。私、大人だよー?」
「鉢合わせしたところで、なんもしないよー。クロちゃんは心配性だなー」
にこにこと、無邪気な声で返す。
「嘘おっしゃい! この前もそう言って、気になる子がいるって見に行って、
リーヴァのところに先にスカウトされてる1年を、スカウトごと吹っ飛ばしたじゃない!」
「あー」
姉さんと呼ばれるその少女は、誤魔化し笑顔で舌をペロリと出した。
「だって、うちのオファー蹴った上に、あっち行こうとしてたし。じゃあいっかー、みたいな?」
「“みたいな?”じゃないのよ……!」
クロエが深くため息をつく。
「あの後始末、どれだけ大変だったと思ってるの」
「リーヴァのところだったからまだ良かったけど、あれがミランダのとこだったら――完全に抗争案件よ」
「う~ん。でもさー」
くるりと踵を返す。
「今回の子は、先にスカウトされてても、どこにも靡かなそうだし。大丈夫大丈夫」
軽い。あまりにも軽い調子で言い切る。
「キョウちゃん、リンちゃん行くよー」
「はい、ねぇさん!」
呼ばれた取り巻きが即座に反応し、3人は三年校舎の方へ来た道を引き返していく。
「もうっ!シルフィー!!」
クロエが頭を抱える。
「3極の一人って自覚あるの!?どうしてもって言うなら私も行くから!」
諦めたようにその背中を追いかけた。




