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爆炎の魔女  作者: ねこまる
伝説の始まり
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第5話

放課後、帰り支度をしていたルナに不意に背後から声が掛かった。

「よっ! 朝はありがとな。肩貸してくれて」

「へっ……!? あ、えっ?」

変な声が出た。同時に、教室に残っていたわずかな生徒たちの視線が一気に私へ突き刺さる。

恐る恐る振り返る。

そこにいたのは、銀髪の少女。


自称?爆炎の魔女、リューネだった。


「私? 私のことですか……?」

思わず自分を指差す。

(やめてぇー! 話しかけないでー! 仲間だと思われるー!)

必死の心の叫びも虚しく、リューネは屈託のない笑みを浮かべた。

「そうそう。あんた」


リューネは当然のように頷いた。


「遅刻しそうだったのに、校門ふさがってたじゃん?」


「おかげで助かったよ。さすがに初日から遅刻はまずいっしょ」


気さくな口調だった。


まるで、普通のクラスメイトに話しかけるように。


しかし、周囲の空気はまるで違った。


誰もが息を潜めている。


誰もがこちらを見ている。


関わってはいけない存在に、関わってしまった人間を見る目で。


「そうだ」


リューネは続けた。


「学園のこと教えてよ」


「……え?」


「なんか朝から喧嘩ばっか吹っかけられてさ。話せるやついないんだよね」


(それはあなたが喧嘩してるからです――)


(肩も勝手に借りただけですよね――)


心の中で反論する。


しかし、声には出せない。


「えっと……その……」


口がうまく動かない。


「ちょっと予定が……」


やっとのことで絞り出した言葉。


しかし、


「OK、OK」


リューネはあっさりと言った。


「予定あるなら待ってるよ」


逃げ道はなかった。この銀髪の「嵐」は、一度狙いを定めたら絶対に引かないタイプだ。

ルナは半ば諦めて、彼女の話し相手になることを受け入れた。


「……わかりました」


その瞬間だった。


「どうしたのルナ!?」


聞き慣れた声が教室に響いた。

「転校生ともう友達になったの!?」


振り返ると、保健委員の仕事を終えて戻ってきたフェリスが、驚きと少しの興奮が混じった顔で駆け寄ってきた。


「ち、違うよ!」


慌てて否定する。

しかし、


「友達?」


リューネが呟いた。


「うん。そうだな」

「今日から、友達ってことで」

「凄いじゃんルナ! こんなに強い子が友達なら、もう校内で絡まれる心配なんてないよ!」

「う、うん……? 友達、なのかな……?」

ルナの引きつった返事をよそに、リューネはニカッと笑った。

「じゃあさ、じゃあさ私とも友達になろうよ!」

恐れ知らずのフェリスが大胆な提案をする。

「いいぜ。友達は多いほうが楽しいしな。よろしく」

「やったー! 強い友達ができた! この学園、怖い人ばっかりだから心強いよー!」

ルナの表情とは正反対にフェリスが飛んで喜んでいる。


新しい友達ができたという予想外の出来事を呑み込めていないルナは、無邪気に喜ぶフェリスを横目に、

(むしろ絡まれる原因が増えるんじゃ……)

という不気味な予感を必死に飲み込んでいた。


「それにしてもさ」

フェリスが身を乗り出す。


「初対面の挨拶で"爆炎"って名乗っちゃうの、マジでヤバいよね」

フェリスが声を潜め、かつ興奮気味に語りだす。


「魔女の二つ名ってさ、その力を認められた魔女が呼ばれるもんでしょ? 勝手に名乗れるもんじゃないし、ましてや"爆炎""はこの学園の伝説。そりゃあ、全員から狙われるよ」


ルナも頷く。


この学園で、“魔女”の二つ名は特別な意味を持つ。


それは単なる異名ではない。


強者として認められた証。


畏怖そのものだった。


リューネは、笑った。

「上等だよ。来る奴は全員ぶっ飛ばす。それが"テッペン"への最短ルートでしょ」

リューネは椅子に深くもたれかかり、静かな声で当然のように言った。


その言葉には、一切の迷いがなかった。


冗談でも、虚勢でもない。


絶対の自信だった。

「あと、それ!"テッペン"長い学園の歴史でただ一人も到達したことがない学園の頂点。あの"爆炎の魔女"ですらなれなかったテッペン……」

少しの沈黙が流れた……。

「それより」

空気を変えるようにリューネはフェリスを見る。

「とりあえず、学園で一番強いのは誰だ?」

その瞬間。


フェリスの表情が変わった。


待ってました、と言わんばかりに得意げに胸を張る。

「ふふーん。その話なら……」


わざと間を置いて、


「“情報の魔女”と呼ばれる私に任せなさい!」

「そんな二つ名ないから!」

ルナが即座にツッコミを入れる。

しかし、フェリスは気にせず机の上に身を乗り出した。


「今、この学園で最強って言われてるのは三人」


フェリスは指を三本立てた。


「三年生の三人の魔女」


「それぞれが最大派閥“夜会”を率いていがみ合ってる状態」


「夜会?」


リューネが聞き返すと、


「簡単に言うと、チームとかグループのことだね」


ルナが補足する。


「この学園では、ほとんどの生徒がどこかの夜会に所属してるの」


フェリスが続ける。


「三つの夜会は、今、三つ巴の状態。どこかが動けば、残りの二つが襲う。だから均衡が保たれてる」


「なるほど」


リューネは興味深そうにうなずいた。


「まず一人目」


フェリスの声が少し低くなる。


「“炎姫の魔女”シルフィーが率いる夜会」


「その名は《ハース・フォーク》」


「シルフィーさんは天真爛漫という言葉を具現化したような人で、家族のような絆を重んじる仲間意識が異常に強い夜会みたい。仲間に手を出した奴には10倍のケジメ(報復)をつける武闘派グループ」


「リーダーは普段は穏やかなお姉様らしいけど、怒らせたら最後、この学園ごと灰になるって噂」


「二人目」


「“銀牙の魔女”ミランダ」


夜会アージェントレギオンの支配者」


「規律を絶対とする夜会で、鉄の掟と結束力はまるで軍隊みたい」


「ルールを破った身内にも容赦ない冷徹な組織。統率力は三夜会の中で最強って言われてる」


「冷徹な支配者。それが彼女の評判かな」


「そして三人目」


「“隷鎖の魔女”レイラ」

「《エクリプス》って夜会があるけど、夜会とは名ばかりで、王子様のような圧倒的なカリスマ性に惹かれた狂信者の集まり」

「レイラが夜会を支配してるっていうより、夜会のメンバーがこの人に従ってるって感じかな」

「同性愛者っていう噂も……」


「他にも強力な夜会はいくつかあるけど、この3つの夜会が"3極"と呼ばれる、今もっともテッペンに近い人たちかな」

「あ、あと一応、どこの夜会にも属さないけど最強格の『震雷の魔女』って人もいる。彼女は自由人だから、頂点争いには興味ないみたいだけどね」


話を聞き終えたリューネは、静かに呟いた。


「なるほど。とりあえず、そいつらを倒せばいいんだな」


当たり前のように言い放った。


誰もが逆らわない存在。


それを倒す前提で話している。


フェリスが苦笑する。


「いやいや、人数が多すぎるって! さすがのリューネでも、全員を相手にするのは……」


その時だった。


ドンッ!!!


突然、教室のドアが耳障りな音を立てて蹴破られた。

「おいッ! 転校生はどいつだ!」

入ってきたのは、上級生と思しき三人の生徒たち。


全員、敵意をむき出しにしている。


「調子に乗ってくれてるらしいじゃねえか」


「先輩様が、この学園のルールを教えてやるよ」


教室の空気が一瞬で凍りついた。


今教室に残っているのは学園内でも数少ない喧嘩とは程遠い真面目で大人しい生徒たち。


当然、誰も動けない。誰も声を出せない。


そして一人の生徒が震える指で、ルナの後ろを指差した。


その瞬間。


ルナの背後で、椅子が静かに鳴った。


「フェリス」


リューネが静かに聞いた。


「今、うるさく吠えてるのはさっき話してた三夜会のメンバーか?」

先ほどまでの気の抜けた声とは違う。

低く、冷たい声だった。


フェリスは扉の前の三人を観察する。


「うーん……違うと思う」


首を横に振った。

「あの三夜会のメンバーなら、何かしらの証を持ってるはずだから」

「証?」

「シュシュとか帽子とか、それぞれがメンバーであることを証明するものを持っているはず。目立つ形でね」

「たぶん……」

少しだけ苦笑して、

「噂の転校生を倒して、一気にトップ争いに食い込みたい人たちだと思う」


その言葉を聞いて、


リューネは、つまらなそうに息を吐いた。


「そうか。じゃあ、大したことないな」


「噂の三夜会のメンバーを倒せば、上が出てくると思ったんだけどな」


「こいつらじゃあ力不足だわ」


完全に、格下として扱っていた。


「あぁん!?」


一人が机を蹴飛ばす。


「さっきからゴチャゴチャうるせぇんだよ!!」


「状況わかってんのか!?」

「今からてめぇに、この学園のルールを教えてやる」

「土下座するか」


拳を鳴らす。


「それとも、アタシらの拳で地面舐めるか」


「好きな方を選ばせてやるよ」


教室の空気が張り詰める。


リューネはゆっくりと椅子から立ち上がると、肩を回して彼女たちに向き直った。

「先輩」

その顔には笑みがあった。


「私、土下座ってよく知らないんすよ」


一歩、前に出る。


「先輩の体で」


さらに一歩。

「教えてもらっていいっすか?」


その瞬間、三人の顔から、余裕が消えた。

本能が理解した。目の前にいる相手が、自分たちよりも上の存在だと。


リューネの背中を見ながら、ルナは思った。


(もしかして……)


(リューネの友達になったってことは……)


(毎日、こんなことが起きるの……?)


心臓が、不安で強く脈打つ。


怖い。


逃げたい。


関わりたくない。


そう思っているのに目が離せなかった。


銀髪が揺れる。


そして、次の瞬間。


勝負は終わっていた。


何が起きたのか、ルナには理解できなかった。


ただ、三人の上級生が、床に倒れていた。


それだけだった。


リューネは、何事もなかったかのように振り返る。


「ルナ、フェリス」


名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。


「次は、三極とかいうやつらのたまり場を教えて」


当然のように言った。


その目には、迷いも、恐れも、一切なかった。


この瞬間、ルナは確信した。


この人は本気で、この学園の頂点を取りに来ている。


そして、その隣にいる限り、もう二度と元の日常には戻れないのだと。

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