第2話
「ふぅ、ギリギリ間に合ったーー」
一気にグラウンドへ流れ込んだ群衆のせいで思うように進めず、新学期の式典が行われる体育館に滑り込んだのは式典開始の直前だった。
(ほとんどの生徒が来てないのに、やる意味あるのかな……)
さすがは札付きの不良が集まる学園。新学期の式典だというのに、出席している生徒はまばらで、教師たちの数とさほど変わらない。
(それにしても、凄かったな……。あの人、今頃どうなってるんだろ。あんなことしちゃって、無事で済むはずないよね)
列の端っこで、朝の光景を思い出し、少しだけ心配になる。
「えー、皆さん。おはようございます」
そんな心配をよそに、学園長が声が体育館に響いた。
「……我々の住む国は、聖都を中心に、それぞれ異なる独自の魔法体系を持つ四つの都市国家によって構成されています」
(……また始まった)
毎回恒例の、長い歴史の話。
「それは国の成り立ちに深く関係しており――」
(長いんだよなぁ……)
「中でも我々の領域では火や水などを司る5大元素魔法こそが重要視されおるが、我が校にはそれらから外れた、いわば『社会に溶け込めない』問題児も多く在籍している。それはかつて五大元素以外の魔法が歩んできた迫害の歴史に……」
「ねえルナ! 朝のあれ、見た!?」
学園長の退屈な独白を遮るように、興奮気味のささやき声が眠たくなってきていた意識を引き戻す。
茶髪のボブカットを揺らしながら隣に座ってきたのは、唯一の友人、フェリスだ。
「……一応、見てたけど」
勢いに少し押されながら答える。
「すごいよね! 上位勢を一発だよ!? しかも二人まとめて!!絶対転校生だって。同じクラスになれたら最高じゃない?」
フェリスは目を輝かせながらまくし立てる。
(転校生……)
確かに、見たことのない顔だった。
「でもさ、ちょっと心配かも。」
フェリスは少し声を潜めた。
「さっき聞いた話だと、やられた人たち“夜会”のメンバーらしいよ。血眼で犯人を探し回ってるみたい」
朝の事件は、すでに学園中のネットワークを駆け巡っているようだった。
"夜会"この学園にある忌まわしき問題。派閥、グループ、チームと呼ばれる別名。
(やっぱり……)
あの少女のことが、また少し気になった。
「……では次に、新任教師の紹介を行います」
いつの間にか学園長の長話が終わり次の項目へ移っていた。
一人の教師が立ち上がり、壇上の中央へ歩み出たのは、見覚えのない一人の女性だ。
長い黒髪を後ろで一つに結び、鋭い眼差で生徒たちを見下ろす。
ただ立っているだけで、その場の空気を引き締めていた。
「おはよう、諸君」
静かだが、よく通る声。
「聖都から赴任してきた、クレアだ」
体育館を見渡す。
「……と言っても、出席している生徒は少ないな。だから端的に言う」
少しの間を置き
「ここには札付きのワルや、問題児が多いと聞いている。だが、私には関係ない」
「私は、私のやるべきことをやるだけだ」
その言葉には、妙な説得力があった。
「以上だ」
短い。
あまりにも短い挨拶だった。
一瞬の沈黙の後、教師席からだけ、パラパラと乾いた拍手が響いた。
「……なんか、面倒そうな先生が来たね」
フェリスが小声で言う。
「うーん……」
ルナは少し考えてから答える。
そして、小さく付け加える。
「この学校のことを知ったら……そうも言ってられないかも」
「そうだよね。どうせ、気合が入ってるのは最初だけでしょ。この学校の『常識』を知れば、すぐ絶望して辞めていくよ」
フェリスもうなずきながら同意する。
ただ――
ルナの胸の奥には、小さな予感が生まれていた。
今日、この日が。
何かの始まりになるような、そんな予感が。




