第14話
「オラァ!」
「ははっ、そっち行ったぞ!」
「キャンキャンッ!」
「逃がすな、逃がすな(笑)」
「……クゥ〜ン……」
不快な笑い声と、魔獣の悲鳴。
橋の下へ駆けこんだクーデリカの目に飛び込んできたのは、青い制服に身を包んだ四人の他校生が、小さな魔獣をボールのように蹴り上げ、弄んでいる光景だった。
「――おい。何をしている」
集会を終え、いつものように魔獣の様子を見に向かっていたクーデリカは、その騒がしい声と耳に障る罵声に足を止める。
(……あの子の場所で、何を)
胸を刺すような嫌な予感。橋の下へ駆けこんだ彼女の目に飛び込んできたのは、あまりに凄惨な光景だった。
「――おい。何をしている」
鋭い眼光。普段は感情を表に出さないクーデリカが、隠しきれない怒りを露にする。
「あぁ? なんだテメェ」
「ワタシらの遊びを邪魔すんじゃねえよ」
「チビが調子乗ってんじゃねえぞ」
「……これが、遊び? ……クズ共」
怒りが込み上げると同時に、脳裏に閉じ込めていた古い記憶がかすかに蘇る。
クーデリカはそれを振り払うように首を振り、不良たちを射抜くように睨みつけた。
「その制服、うちの学園じゃない。……別の学校。……消えて」
「あぁ? おめぇみてぇなクズの学校と一緒にすんなよ。お前もこのチビ魔獣と同じように、俺たちが遊んでやるよ!」
「……ワタシが、本当の『遊び』を教えてあげる」
低い、けれど熱のこもった声。彼女が左右の手に魔力を込めると、周囲の空気が重く震えた。
「あっ? やろうってのか、4対1で。こいつ計算もできねぇのかよ」
「囲んでボコって終わりだ――」
「おい、待て……あのカバンについてるアレ、まさか……」
一人が、クーデリカの荷物にある『アージェントレギオン』の帽子に気づき、顔色を変えた。「こいつ、まさかレギオンの――!?」
気づいた瞬間には、もう遅かった。
二人の不良が見えない巨大な磁石に引かれるように、凄まじい勢いで正面衝突した。
「グハッ!? なんだ、なんで吸い寄せられる……っ!」
「お前こそ、こっちに来やがって!」
罵り合う2人をよそに、クーデリカの磁力魔法が次の獲物を捕らえる。
「おい、お前ら何やって――」
言い終わる前に、3人目の体が橋の側壁へと猛烈な勢いで叩きつけられた。磁力で壁に貼り付けられた衝撃で、そのまま意識を失う。
「こいつ、何なんだ。変な魔法を使いやがって……! ぶっ殺してやる!」
最後の一人が拳に水の魔法を纏い、突進しようとした瞬間。
「っ!? 足が、動かない……!」
両足が地面に張り付き、一歩も動けなくなる。
驚愕してクーデリカを探すと、そこにはもう誰もいなかった。
数メートルの高さ。磁力の斥力で浮遊する彼女が、冷徹な瞳で見下ろしていた。
「……終わり」
一言。浮遊状態から一直線に加速したクーデリカが、弾丸のような飛び蹴りを直撃させる。
激突の瞬間、足を止めていた磁力が解除。数メートル吹き飛ばされ、呻き声を漏らして動かなくなった。
「思い出した! こいつ……『磁界の魔女』だ!」
「磁力で引き寄せたり、地面に固定してたのかよ……っ!」
「ヤバすぎだろ、逃げろ!」
最初に衝突した二人が、仲間を見捨てて走り出す。
「……逃がさない」
クーデリカが掌を向けると、逃走する二人の背中に強烈な引力が働いた。
ザッバアァァーーン!
二人は川へと放り込まれ、大きな二つの水しぶきを上げ、無様に流されていった。
4人が為す術なく消え去り、橋の下には一瞬の静寂が戻ったかに見えた。
しかし、その静寂はすぐに、橋の向こうから響く複数の足音によって塗りつぶされる。
青い制服を纏った仲間たちが、新たに続々と姿を現したのだ。その数、総勢十名ほど。
彼女たちは敵意を剥き出しにして、小柄な少女を包囲するように睨みつけた。
「おいおい、チビちゃん。よくもうちの者に手を出してくれたじゃない」
「どうなるか、そのちっぽけな頭で考えてもわかるわよねぇ?」
「……ふぅー。数、多い。……うるさい」
クーデリカは不快そうに、短く吐き捨てる。
「……ちょっと、遊んだだけ」
強気な言葉とは裏腹に、彼女の視線が周囲を鋭く探る。連戦による魔力の消耗は、確実に彼女の身体を蝕んでいた。
さすがのクーデリカの瞳にも、隠しきれない焦りの色が混じり始める。




