第11話
「おはようリューネ」
カフェでの次の朝、校門を通り過ぎた銀髪の後ろ姿を見つけ、ルナが駆け足で近づいていく。
「あぁ…。おはよう~」
元気が取り柄のリューネがあくびをしながら気だるく挨拶を返した。
「どうしたのリューネ?寝不足?」
「あぁ、明け方まで夜会名を考えていてな……」
ドスンッ
「ヨッスー!」
リューネに後ろから抱き着き、ふわっとした声で謎の言葉で話しかけてきたのは、3極の一人シルフィーだった。
「なんすか?その挨拶?」
顔色を変えずいつもより暗めのテンションでリューネが聞き返す。
「えー?伝わらない~?
"よう"と"うっす"の合わせ言葉。一つ一つだと乱暴な言葉だけど、あら不思議
二つをくっつけると……。どう?かわいいでしょ?」
この場の緊張感を作り出した本人とは思えないゆる~い空気感が流れる。
「それよりー。りゅーちゃん元気ないね~。お姉さんが癒してあげようか~」
「いや、大丈夫っす。寝たら回復するんで」
「というか、誰?」
リューネが眠たそうに質問する。
「えー私のこと知らない?悲しいー」
まったく悲しそうな表情を一切見せずにシルフィーが答える
その二人のやり取りを間近で見て唇を震わせながらルナが答える。
「リューネ、この人が三極の一人シルフィーさん」
「様よ」
様を付けなかったことにいらぬ怒りを買うのではないかと言いなおす。
「やだな~。様とかつけなくていいよ。ルナちゃん」
「シルフィー様、いやシルフィーさんがなんで私の名前?」
自分みたいな底辺を知っているということにルナの混乱が加速し、
敬称をどうしていいかわからなくなるほど緊張の極致にいた。
「それより~。りゅーちゃんうちの夜会おいでよ~。可愛がってあげるよー」
「たしかもう一人いたよね。ルナちゃんたちもまとめて可愛がってあげるからうちにおいでよー」
「え?フェリスのことも知ってるんですか!?」
「お姉さんにはなんでもお見通しなのだ」
ピッと得意げに人差し指を立てる。
入りたくても入れない。誰もが憧れる三極の一角に入れる。
ここにいないフェリスも加えられ、思いもよらない提案をうけ少し心が揺れるルナがリューネに目を向けた。
「可愛がるってなんですか?別にいいっす。自分たちの夜会作るって決めたんで」
「あっ、でも先輩の夜会をくれるっていうんだったらいいですよ」
リューネが冗談交じりに答えた。
「え~ん。お姉さん悲しいよ~。泣いちゃうよ~。夜会を頂戴だなんて困っちゃうよ~」
棒読みのウソ泣きが小さく響く。
「おい!ねぇさんのオファー断るなんて、なんてやつだ!」
「だから言ったんですよ!こいつ誘うのやめときましょうって!」
シルフィーの取り巻き、ハース・フォークのメンバーが次々にまくしたてる。
話題の転校生リューネと三極の一角のリーダーがじゃれているように見える姿に、野次馬たちがしだいに集まってきた。
「ねえさんちょっと人が集まってきました。これ以上は」
シルフィーの側近が小さく諭す。
「そろそろ時間かな」
「りゅーちゃんにはうちに来て欲しいな。まだあきらめないからね~。」
捨て台詞のような言葉を吐き、シルフィーは取り巻きの数人と一緒に3年生の校舎へ歩いて行く。
「はぁ……早めに夜会を作らないとあきらめてくれそうにないな……」
めんどくさそうにため息を漏らすと、リューネたちのやり取りを見つけたが、怖くて近づけずにいたフェリスが速足で合流してきた。
「ねぇ?シルフィー様になんて言われたの?」
「ついにリューネに終わりの時がきたかと思ったよ!」
開口一番フェリスが興味津々に質問を投げかける。
「フェリスー。縁起でもないこと言わないで~」
嵐が去ったことへの安心感でルナがへたり込みながらお願いする。
「それで?それで?」
「なんか自分のところの夜会にこないかって誘われた」
疲れきったルナに代わり当事者のリューネが答えた。
「えっーーーーー!リューネ!スカウトされたの!?すごいじゃーん!夜会はいるの?」
「なんも凄くねぇよ。てか入らん。あいつとやろうとしてるのに夜会に入ったら意味ねえよ」
興奮してまくしたてるフェリスと対比するようにあきれた様子でリューネが答える。
「中に入っちゃえば逆にやりやすくなるかもよ。毎日会うんだから、どちらかと言えばチャンスは多いんじゃ」
「そのやりかたもあるか……。でもめんどくせぇな。魔女なら一番でしょ!」
額に手を当て少し考えたすえに答えをだした。
「そっかー。リューネが言うならそれが良いね」
「ちなみに、そのスカウト。私たちもらしいよ」
「えっ!そうなの!?私入れるの!?」
「でも、リューネが入るならってことだと思うけど……」
「えー!そうなると話は変わってくるよ!リューネ!入ろう!シルフィー様のところに!」
「なんだよ急に!嫌だよ!」
「わがまま言わない!今すぐ入会届出そう!」
そんなものがあるかはわからないが、フェリスの入りたい欲は人一倍強いらしい。
リューネの手を引いて3年の校舎に向かおうとする。
「なんでそんなに入りたいんだよ?」
リューネが引かれる手を振りほどきながら怪訝な顔をしてフェリスに質問する。
「だって、シルフィー様に可愛がられるんだよ!めっちゃいいじゃん!」
「あー、癒されたい。シルフィー様に膝枕されながら頭を撫でてほしい~」
フェリスが妄想の世界へと誘われていく。
「フェリスってシルフィーさんファンなの?」
フェリスの知られざる一面に驚きを隠せないルナが続けて質問する。
「ルナ知らない?隠れシルフィー様ファンって結構いるんだよ。」
「そ、そうなんだ」
あまりの勢いに少し引き気味になるルナ。
「だ・か・ら、3年の校舎行こう!」
「だ・か・ら、嫌だって!」
リューネの手を引っ張るフェリスを引きずりながら、3人は2年の校舎へ入って行った。




