第10話
「セシリア様。例の転校生の噂、ご存じですか?」
四人が並んで寝ても余りあるほど巨大なベッドの上。薄衣を纏った少女たちが、魅惑的な肢体を投げ出し、甘い溜息混じりに談笑していた。
ベッドのヘッドボードに腰掛けていた、セシリアと呼ばれる少女が、はだけたシャツを整え、短い髪をかき上げた。
「ああ、知っているさ。今や学園の時の人だからね」
「セシリア様は、あの子にご興味がおありなのですか?」
「そうだね。興味がないと言えば、嘘になるかな」
「……セシリア様も、あの転校生を『お側に』置きたいのですか?」
一人の少女が、熱を帯びた手つきでセシリアの素足を撫でながら問いかける。
「どうだろう。彼女の方からこちらへ来てくれるなら嬉しいけれど。聞き及ぶ限りでは、力でねじ伏せないと言うことを聞いてくれなそうな、野性味溢れる子のようだね」
「セシリア様がお声をかければ、跪かない子なんておりませんわ」
妖艶な空気が、室内をゆっくりと満たしていく。
「一度、見に行こうかな」
セシリアが何気なく呟いたその一言がきっかけとなった。
「セシリア様が行かれるなら、私もお供します!」
「私も行きます!」「私も、私も!」
ベッドの外に控えていた者たちまでが、我先にと声を上げ、室内はにわかに騒がしくなる。
「待ってくれ、みんな。君たちの気持ちはよく分かっている」
セシリアは困ったように眉を下げ、優しく窘める。
「けれど、そんな大勢で押しかけたら、転校生も驚いてしまうだろう? 今回はボク一人で行くよ」
「セシリア様お一人だなんて、あまりに危険ですわ!」
「セシリア様がそう仰っているのよ、その言葉を否定する気?」
「黙りなさい。セシリア様ともあろうお方が、あんな雑魚ども相手に怪我をするとでも?」
再び激しい言い争いが始まり、収拾がつかなくなる。
「みなさん、静かにして。セシリア様がお困りだわ」
凛と透き通る声がその場を制した。
声の主は、セシリアの影のように寄り添う少女、レオナだった。
「皆の気持ちもわかります。でも、誰かが付いていってしまうと、残された人が可哀そうだわ」
「セシリア様は一人で行かれると言われました。私たちはそれに従うだけです」
正論を突きつけられ、場が静まり返る。
「ありがとう、レオナ。いつも君が皆をまとめてくれるから、ボクは自由でいられる」
セシリアは柔らかな笑みを浮かべ、少女たちを見渡した。
「皆も、優しい気持ちをありがとう。君たちがいてくれるから、ボクはボクでいられるんだよ」
「セシリア様……っ」「セシリア様……」
その場にいた全員が主の名を吐息のように漏らし、うっとりとした瞳で見惚れている。
「さっそく、明日のお昼にでも行ってくるよ。レオナ、留守を頼むね」
「はい。仰せのままに」




