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異世界で始める運送業 ―物流は社会の血液です―  作者: 道雪ちゃん


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アイアンウッド商会

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

ピーッ、ピーッという、この世界には存在し得ない音が静まり返った路地に反響する。


 アイアンウッド商会の奥から飛び出してきた男は、商会の切り盛りを任されている番頭だった。


 彼は、蒼い鉄塊を目の当たりにし、腰を抜かさんばかりに驚愕していた。


「な、……なんだこれは! レオさん、これは一体何の騒ぎです!?」


「驚かせてすまんな。こいつは俺の相棒のケーイチと、そのスキルで呼び出した『トラック』だ。詳しいことは後でグスタフさんに話す。まずはこいつを降ろさせてくれ」


 レオが豪快に笑いながら宥めると、番頭はようやく正気を取り戻したのか、慌てて奥のスタッフたちを呼びに走った。


 その間に、圭一は運転席から降りると、黄色いヘルメットを被った。


 カチリ、とあご紐を締める。


「ほう、ケーイチ。それは簡易的なヘルムか? 随分と軽いようだが……」


 レオが興味深そうに、圭一のヘルメットを指の関節で軽くコツコツと叩く。


「ええ、安全第一ですから。見た目以上に丈夫そうですよね」


「鉄ではないようだが、不思議な素材だ。職人のこだわりを感じるな」


 圭一は慣れた手つきで荷台へ回り、ラッシングベルトのバックルを解放した。


 ガチャガチャという金属音が響き、丸太を締め付けていた力が解かれる。


ベルトを素早く巻き取る手際の良さに、戻ってきた番頭とスタッフたちが息を呑む。


 彼らはトラックの威容に怯えつつも、レオの指示に従って丸太の荷降ろしを開始した。


「……信じられん。いつもは丸太5本が限界だったはずなのに、10本も載っているとは。これほどの重量を耐える荷車など、見たことがないぞ」


 番頭が震える手で記録帳にペンを走らせる。


「グスタフ様がお待ちです。荷降ろしが終わったら、中へどうぞ」



………


   

 商会の内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。


 行き届いた清掃と、上質な木材の香りが漂う応接室。


 その最奥に、白髪に整えられた髭をたくわえた、小太りの男が深く腰掛けていた。


 アイアンウッド商会の主、グスタフだ。


「レオさん! 驚きましたぞ。窓から見えたあのアレは、一体なんなんですかな」


「グスタフさん。あれはこのケーイチがスキルで召喚した、鉄の荷車『トラック』というものです」


 レオに紹介され、圭一は一歩前に出て、深々と頭を下げた。


 これまでの放浪者としての顔ではなく、隙のない「営業スマイル」を浮かべる。


「初めまして、商会長様。私はケーイチ・ミナミと申します。大きな音や、得体の知れない見た目で皆様を驚かせてしまい、大変申し訳ございません」


 その丁寧すぎるほどの物腰に、グスタフは眼鏡の奥の目を丸くした。


 レオが、村の前で圭一を拾ってから今日に至るまでの経緯を手短に説明し、トラックの機能については圭一が補足した。


「ここまで……1時間かからなかった、とおっしゃいましたかな? レオさん、貴方はいつも朝に出発して、夕方にようやく到着していたはずだ。それが、こんなに早く移動できるものがあるなんて……」


 グスタフは震える指先で髭を撫で、商人の鋭い目で圭一を見つめた。


「今後、私がこちらまで納品を担当いたします。積載量もレオさんの時の2倍、2000キロまで可能です。これを必ず5日に1度のペースで、決まった時間に納品いたします」


 圭一の提案に、グスタフの目の色が変わった。


「……それはありがたい。ケーイチさん、とお呼びしてよろしいかな? あの森の木材は非常に上質でな、大都で人気の高級家具などに使われておるのだよ。供給が安定し、しかも倍の量が届くとなれば、我が商会としても願ってもない話だ」


 グスタフは身を乗り出し、さらに声を潜めて続けた。


「……実は、うちの商会は木材だけではなく、鉱石なども扱っておるのだ。それらをここから大都の方面へ向かった『アルディア』という交易都市に卸しておるのだが……もし、そのトラックとやらで運んでいただけるなら、大きな利益が出る。ぜひ、そちらもお願いしたいのだが、いかがかな?」


 予期せぬ仕事の拡大案に、圭一の胸が昂る。だが、ここで即答はしない。


「魅力的なお話です。詳しいお打ち合わせは、次回納品にお伺いした際にさせていただければ幸いです。本日は初仕事ですので、まずはこの木材を無事に届けられたことに専念したく存じます」


「おお、そうだな、そうだな。あまりの衝撃に、つい気が急いてしまった。レオさん、よかったら街を案内してあげてください」


「ええ、こちらへ来る時にもその話になっていたんですよ。精一杯楽しませてきます」



………



 商談を終え、二人が表へ出ると、荷台は既に空になっていた。


 圭一は周囲に人がいないことを確認し、心の中で「送還」を念じた。


 トラックは光の粒子となって消える。


 ちょうどそこへ、売却代金を持った番頭が駆け寄ってきた。


「あ、あれ? あの鉄の荷車はどこへ……?」


「あれはスキルで召喚したものですから、用が済めば戻せるんですよ」


「な、なるほど。スキルの力とは、恐ろしいものですな……。では、本日の代金はこちらです」


 手渡された小袋の中には、鈍い輝きを放つ金貨が6枚収められていた。


 10リル=鉄貨1枚。

 鉄貨10枚=銅貨1枚(100リル)

 銅貨10枚=銀貨1枚(1,000リル)

 銀貨10枚=金貨1枚(10,000リル)

 金貨10枚=白金貨1枚(100,000リル)


 ……あらかじめ聞いていた通貨体系に照らせば、6000リル、つまり日本円で6万円相当の報酬だ。


(……これが、俺がこの世界で初めて稼いだ金だ)


 ずっしりとした重みを掌に感じ、圭一は深く息を吐いた。


「ありがとうございました」


 二人は番頭に別れを告げ、活気に満ちたベルクハイムの街路へと歩き出した。


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