新たな依頼
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
蒼い2トントラックは、ベルクハイムの石畳を噛みしめるように、ゆっくりと徐行で進んでいた。
道行く人々は一様に足を止め、この巨大な「鉄の荷車」を、畏怖と好奇の入り混じった目で見つめている。
特に子供たちは、見たこともない造形と、その腹の底に響くようなエンジンの重低音に、ぽかんと口を開けて固まっていた。
圭一は窓を半分ほど開け、車内に流れる軽快な音楽を外へと溢れさせていた。
現代の日本で聴き慣れた、躍動感のあるリズムが石造りの街並みに反響する。
「わあ、すごい!」「なんだか楽しい音がするぞ!」
一人の少年がパッと笑顔になり、トラックに向かって小さく手を振った。
圭一はそれに応えるように、穏やかな笑みを浮かべて手を振り返す。
すると、その反応をきっかけにしたように、周囲の大人たちからも笑顔が溢れ出した。
屋台の店主や、店舗の前を掃除していたスタッフまでもが手を止め、音楽のリズムに乗るように親指を立ててくる。
この「異質な機械」が、音楽という共通言語を通じて、少しずつ街の日常に溶け込んでいく。
圭一はハンドルの重みを感じながら、目的地であるアイアンウッド商会へと車を走らせた。
商会の建物の前で、圭一は一度トラックを停車させた。
前回はレオが助手席から安全を確認していたが、今日は自分1人だ。
ここから荷卸し場までは、狭い路地を後退して進入しなければならない。
圭一は運転席を降りると、商会の番頭やスタッフを呼びに向かった。
「すみません! リトヴェインのケーイチです! 納品に参りました!」
「おお、ケーイチさん! お待ちしておりましたよ」
奥から出てきた番頭が、歓迎の意を込めて声をかけてくる。
「申し訳ありませんが、安全のため、後ろの死角に人がいないか見ていていただけると助かります。この車は、後ろが直接見えにくい構造なもので」
「なるほど、承知しました。後ろから指示を出しましょう」
番頭が荷卸し場の奥へと駆けていくのを確認し、圭一は再び運転席に乗り込んだ。
――ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ。
静かな街に、鋭い電子警告音が規則正しく鳴り響く。
前回と違い、今日は路地の看板こそせり出しているものの、道端に置かれていた邪魔な荷箱はあらかじめ片付けられていた。
圭一はサイドミラーとバックモニターを交互に確認し、淀みのないハンドルさばきで、トラックを停止位置へとぴたりと据えた。
「ふぅ、助かりました」
圭一がドアを開けて降りると、番頭がどこか不思議そうな顔をして苦笑いを浮かべていた。
「……ケーイチさん、この音には、どうしても慣れませんな。なんだか、鳥の鳴き声とも違う、妙に耳に残る響きだ」
「すみません。ですが、それがこの音の目的なんです。わざと目立つ音を出すことで、近づく人に『今、巨大な物が動いているから危ないぞ』と知らせているんです」
「ほう、なるほど……。自分だけでなく、周りの安全まで音で守る、というわけですな。それは素晴らしい考えだ」
番頭は感心したように頷き、スタッフたちに丸太の荷下ろしを指示した。
圭一は手際よくラッシングベルトを外し、スタッフたちが10本の丸太を降ろしていくのを見届けながら、商会長のグスタフを訪ねるべく建物の中へと入った。
奥の応接室では、グスタフがすでに書類を広げて待っていた。
「お待ちしておりました、ケーイチさん。無事に到着されたようで何よりだ」
「お待たせしました、グスタフさん。レオさんからの依頼で、前回と同じ10本の丸太を納品に上がりました」
「ありがとうございます。……さて、ケーイチさん。前回お話しした『新しい仕事』の件ですが、憶えておられますかな?」
グスタフの表情が、商人の真剣なものへと変わった。
「もちろんです。鉱石の輸送、というお話でしたよね」
ベルクハイムは険しい山々に囲まれた山岳都市であり、古くから多様な鉱石の採掘で栄えてきた。
しかし、その物流には常に大きな課題がつきまとっていた。
「この世界の物流は、基本的には馬車です。ですが、鉱石というのは重い。馬の消耗も激しく、一度に運べる量にも限界があります。何より、時間がかかりすぎるのが悩みの種でしてな」
グスタフの説明によれば、現在は鉱石専門の足腰の強い馬を使い、木枠に入れた30キログラム分の鉱石を30箱、合計で900キログラムほど積み込んで輸送しているという。
目的地である「アルディア」までは、馬車で片道4時間から5時間。
道自体は比較的安定しているが、街道には盗賊や魔物が出現するため、護衛を雇わなければならない。
リスクを最小限に抑えるため、レオの木材輸送と同じく、現地で1泊して帰ってくるのが通例となっていた。
圭一は頭の中で素早く計算を開始した。
(馬車で4時間から5時間……。距離にして16キロメートルから18キロメートルといったところか。ベルクハイムからアルディアまで、トラックなら舗装されていない道だとしても、巡航速度を保てれば1時間はかからないはずだ)
「グスタフさん。アルディアまでの輸送、ぜひお受けしたいと考えています。積載量ですが、私のトラックなら木箱を60箱……重量にして1800キログラム分を一気に運ぶことが可能です。荷役のスタッフの方々には苦労をかけるかもしれませんが」
「木箱を60箱……!? 今の倍の量を、一度に、ですか!」
グスタフが驚きに目を見開く。
「納品先のクローデル商会には、荷扱いに長けた力自慢の獣人たちもおります。彼らなら、60箱程度の荷下ろしなど、あっという間に終わらせてしまうでしょうな」
「……獣人、ですか?」
その言葉に、圭一の心拍数が跳ね上がった。
アニメや漫画の中の存在だと思っていた空想の種族が、この世界には当たり前に存在している。
「おや、ケーイチさんは獣人に……ああ、そうでしたな。記憶を失っておられると伺っていました。申し訳ない、驚かせてしまったようだ」
「いいえ、頭を上げてください! 獣人の方にはまだお会いしたことがないので、むしろすごく興味があります。ぜひ、彼らと一緒に仕事をしてみたいです」
「ははは、そう言っていただけるとありがたい。さて、……肝心の運賃ですが、いくらで運んでいただけますかな?」
圭一は慎重にソロバンを弾くように、自分なりの適正価格を算出した。
(リトヴェインからベルクハイムまでが22キロメートル。そこからアルディアまでを18キロメートルと想定すると、片道で40キロメートル。往復なら80キロメートルの走行になる……)
「基本の輸送費として、1キロメートルあたり10リル。往復80キロメートル分で、800リル。これでいかがでしょうか?」
「800……。ふむ、それに人件費を乗せなければなりませんな。……よし、人件費として500リルを上乗せしましょう。合計1300リル。これでどうですかな? もちろん、盗賊対策の護衛はこちらで手配します」
レオからの依頼では、人件費300リルと輸送費440リルの合計740リルを受け取っている。しかし、グスタフは、より高い人件費を設定してくれたのだ。
「……承知しました。その条件で、ぜひご依頼をお受けいたします」
「本当ですか! いやあ、ありがたい! これで商会の回転が劇的に良くなる!」
グスタフは満面の笑みを浮かべ、圭一の手を強く握った。
「そうだ。先ほど仰っていた移動の時間ですが、改めて、どれほどを見込めばよろしいか?」
「何もなければ、30分から40分ほどでアルディアへ到着するでしょう。休憩を含めても、1時間もあれば十分です」
「……そんなに……。いや、実際にリトヴェインからも驚くべき速さで来られている。神の力というのは、まさに偉大ですな」
グスタフとの商談の結果、アルディアへの輸送は週の初めに行うことで合意した。
これにより、圭一には週の3の日にレオからの740リル、そして週初めにグスタフからの1300リル。
合わせて週に2040リルの安定した収入が確定したのだ。
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