おはかまいり
「お墓参り行こうか。今年も」
「今年も?」
「うん」
「わかった」
車を使ってのんびり移動。
窓から入って来る風が懐かしい。
夏はとっくに過ぎ去って、秋もあるか怪しい季節。
そんな時期に亡くなった。
「ごめん」
車を降りて歩いていると不意に君は言った。
「どうしたの?」
「ちょっと気分が悪いや。そっちで休憩してくる」
「去年もこうだったよね」
「そうだね。ごめん」
「いいよ。いっておいで」
てぽてぽ走り去る君を見つめ、私は今年も一人でお墓の前へやって来る。
途中で買っておいた君へのお供えであるコンビニのアイスをぽんっと置く。
寒い季節になってきたけれど、きっと二時間もせずに蟻の餌だ。
お線香をあげて、両手を合わせ、目を瞑り。
「いつまでこんなことしているつもり?」
私は君に問いかける。
けれど、君は答えない。
死人に返事なんて出来はしない。
「ま。私は嬉しいけどね」
そう言って立ち上がる。
確かにあるはずの君の骨に踵を返して歩き出す。
お墓なんて見えなくなった頃、木陰で休憩をしている君を見つけた。
「ごめんね。もう終わった?」
「うん。挨拶は済んだからもういいや」
「大切な人なんだ?」
「うん。とっても」
君の問いに私は頷く。
一瞬浮かんだ笑顔が秋空の雲で陰る。
「俺も行くべきかな?」
君の問いに私は答えないまま歩き続ける。
二度続いた私への呼びかけ。
無視して歩き続ける。
毎年続くこの茶番。
来年も出来るだろうか?
「帰りにアイス買っていこうか」
「また買うの?」
「お供えに使っちゃったしね」
「それもそうか」
ありふれたやり取りをしながら私は歩く。
雲の影に覆われた私達の影は目を凝らさなければよく見えない。
だけど、凝らす必要もないか。
君がもう死んで幽霊だなんて分かりきっているんだから。
「寒いね」
「そうだね」
今年も一年、茶番は続いた。
叶うなら来年も、そのまた来年も――ううん、出来るなら私が死ぬまで続いていることを願う。
お日様の光が影のついている私と影のついていない君を温かく照らしてくれた。




