【第10話】 8月第1週 「神、熱波と経済に語りすぎる」
ちゃぶ台の上に、団扇とスポーツドリンク、そして首元に巻かれた冷感タオルが無造作に並んでいた。
お盆も近づき、神域にも暑さが忍び寄っている。
日本列島では、この一週間もさまざまな出来事が重なった。
猛暑、株価、災害、外交、そしてアイスの新商品──
暑さにうだる中で、神々の“会議”は今日も始まる。
【今週の主要トピックス(2025年8月1日〜8月7日)】
1. 国内最高気温、今季初の41.3℃を観測(岐阜県多治見市)
2. 日経平均株価、一時4万1000円突破(史上最高値更新)
3. お盆前の帰省ラッシュ、早くも始まる(新幹線予約率135%)
4. 石川県で震度5弱の地震発生(津波なし)
5. 台湾との半導体供給連携、日本が支援拡大へ
6. 高校野球開幕、開会式に「AI応援団」初登場
7. アイス「ガリガリ君 梅しそ味」、SNSで話題に
8. 海外トピック:米・カリフォルニア州で山火事拡大、避難指示10万人超
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「今日の神議題は“暑すぎ問題”からやな」
オオクニヌシがそう言って、卓上の温度計を指差した。神域でも35℃を超え、扇風機が唸っている。
「多治見で41.3℃って……灼熱の神か誰かが暴走してんじゃないの?」
アマテラスが麦茶をすすりながら眉をひそめる。
「知らん。ワシはここ数年、ちゃんとセーブしとる」
スサノオが団扇を扇ぎながら答える。「これは気候神会議の怠慢やろ」
「でも、あれですよ。ガリガリ君“梅しそ味”、今回めちゃくちゃバズってますわよ」
イナリがスマホを見せながら笑う。「この時期の清涼感、まさに商売の神も納得の出来」
「神々も経口補水液かガリガリ君か、どっちか選べってくらいやもんな」
タヂカラオは氷を口に放り込みながらうなる。
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【1】日経平均、史上最高値更新──“信仰よりも指標か”
「ほれ見てみ、株価や」
オオクニヌシがタブレットを掲げる。「一時やけど、4万1000円を超えたで」
「マジで? 神社の賽銭箱にも株価指数導入せなアカン時代来とるな」
スサノオが皮肉を込めて笑う。
「けどねえ、個人投資家の心は穏やかじゃないわよ。上がりすぎると、逆に怖くなるんだから」
アマテラスが、祈りにも似た視線で画面を見つめる。
「経済ってのは、“信頼”の神に近い概念ですからね。バブルの時と違って、今回は実需がある分、怖さも深い」
イナリが真顔になる。「海外資金も入ってるから、下手に祟りでも起こしたら即暴落ですわ」
「金融市場にも祝詞いる時代やな」
タヂカラオがうなずいた。
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【2】震度5弱、石川──“神域の綻びか”
「地震も来たな。石川県で震度5弱や」
オオクニヌシが重い声を落とす。
「津波がなくて何よりやけど……北陸って、年明けにもあったろ?」
スサノオが静かに言った。「地中の神々、眠り浅いんやないか?」
「うーん、今年はなんだか“揺れ”が長引いてますね。地殻ストレス、祓いたいところですわ」
イナリが神楽鈴を手に取る。
「俺たちができるのは、静かに見守ることだけか……」
アマテラスが窓の向こうを見つめた。
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【3】台湾と半導体連携──“祈りを込めた精密工程”
「日本がまた支援枠拡大するってさ。台湾との半導体連携」
タヂカラオが資料を眺めながら話す。
「そういう“細かい技術”の世界こそ、神の息吹が宿るんよ」
オオクニヌシがうなずく。
「昔なら“魂入れ”って言ったところよね」
アマテラスが頷く。「半導体の工程にも、祈りのような集中がある」
「電子の流れにもご利益はあるんやな」
スサノオが笑った。
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【4】高校野球&AI応援団──“人の声と、機械の声”
「高校野球、始まったで。今年は“AI応援団”やて」
イナリがニュースを読み上げる。
「AIが声援を送るんか?」
スサノオが驚いた顔を見せる。「それは……ワシらより先に応援される存在やな」
「……でもまあ、応援って“誰かを想う力”やからな。AIでもそこに真心があればええんやないか」
タヂカラオが柔らかく笑った。
日本列島の夏は、ただ暑いだけではない。
株価が跳ね、地殻が揺れ、帰省と旅が交錯し、人々の想いも交錯する。
世界のどこかで火が起き、同時に誰かがアイスを食べて笑っている。
ちゃぶ台の上に置かれた新聞の見出しは、今日もぎっしり詰まっている。
神々は語る。ただ、祈るように語る。
願わくば、来週もまた、無事にちゃぶ台を囲めますように。