【第1話】神会議、2025年上半期の総括を試みるも、全員脱線。
ようこそ、神々の会議室へ。
この物語は、「もし日本の神々が現代ニュースについて本気で語り合ったら」という妄想から生まれたコメディです。
神話リスペクトはありますが、神聖さはほとんど残っておりません。
政治も経済もAIもSNSも、全部ちゃぶ台の上でツッコミ対象。
そのぶん、すこしでも読んでクスッと笑ってもらえたら幸いです。
第1話は2025年上半期の“総括編”。
神々、だいぶ疲れてます。
【神話的但し書き】
この物語はフィクションであり、
登場する神々は日本神話をもとにした架空の存在です。
でも、もし彼らが現代を見ていたら──という妄想に、
ちょっとだけ付き合ってくれたら嬉しい。
---
人間はよく言う。
「神は、見ている」と。
見ている。確かに、見てはいる。
けれど──そこに何を思っているかは、誰も知らない。
だがこの神界には、それを“語ってしまう”神々がいる。
静観ではなく、ツッコミ。
威厳ではなく、ギャグ。
神性ではなく、神経質。
これは、そんな神々が“2025年の人間界”について
本気で会議をしている物語である。
---
【神会議議事録:第1回定例/2025年7月】
神々の会議室は、いま全面リフォーム中だ。
「この間の雷で屋根抜けた」「いやあれは誰かが天鼓鳴らしたから」とか、犯人探しもほどほどに、仮設会議場に設置されたちゃぶ台と座布団の周囲に、神々が集まっていた。
「えー、本日は2025年上半期の総括を──」
言いかけた**オオクニヌシ命**の声に、早速かぶせるように別の声が飛ぶ。
「えっもう半分終わってんの? てか、私まだ正月明けた気分なんだけど?」
不満げな第一声は天照大神、
──高天原に引きこもった過去をもつ太陽の女神だが、
現在では主にSNSとVTuber活動で祀られる新時代の神である。
「てか、まとめるならまとめるって言っといてよ。資料もってきてないし……ていうか暑すぎる……」
「アマテラス様、あなたのせいです」
「えー私のせいなの? いや違う違う、これ気象庁の管轄でしょ。太陽の神ってだけで責任とらされるの不服なんだけど〜」
彼女の隣には、ラムネを片手にぐだぐだしているスサノオ命。
言わずと知れた暴れ神にして、アマテラスの弟。海と嵐の神として知られるが、最近は台風実況と災害バズりで活動しており、ネットでは“災害系神V”とまで呼ばれている。
「まあまあ。総括ってのは、我らの威光を再確認する神聖なる──」
「──あ? 威光? 最近の人間ども、“神”ってだけで面白がるぞ? 俺なんか“エンタメ災害神”扱いや。名前で天気予想されとる」
「それはあなたがサーフィンしながら神鳴らすからでしょ。あと毎年7月にだけTikTokやってるのやめて」
まったく進行しない。
「……一度黙ってくれると助かる」
進行役のオオクニヌシはため息をついた。
---
【会議、始まらない】
ちゃぶ台の横では、イナリ神が扇子で自分を扇ぎながら、「今年はもう“副業神”って呼ばれすぎて心が荒むわ……」と愚痴っていた。
「こっちは真面目に商売繁盛と五穀豊穣やってんのに、
“神に祈ったら副収入爆上がり!”ってアフィ案件に使われるんやで……詐欺や詐欺」
「え、それ私のリスナーが言ってたやつかも」
とアマテラスが悪びれもなく言い放つ。
「っていうか、最近“推し神”とか“映える神社”とか……
わしら、もう“神”じゃなくて“テーマパークのマスコット”扱いやで?」
「それ、去年も言ってたよな?」
とスサノオが笑いながら言うと、イナリは座布団を丸めて投げた。
「この座布団、ネットで“スピリチュアル御利益グッズ”として転売されとったからな!? どこの誰や!!」
---
【それでも進む、神の総括】
「──では、順にまとめましょう」
ようやく音頭をとったオオクニヌシ命が、膝上のタブレットを起動する。
神々もついに電子機器に手を出したのは、昨年末のこと。
紙の巻物での議事進行が「読みづらい」「風で飛ぶ」「解像度が低い」とクレームが続出したためだ。
「まず、上半期の主要な現世トピックをいくつか挙げます」
---
【2025年・上半期トピック(抜粋)】
1. 能登半島地震と災害続出
2. 新紙幣発行と“ご利益紙幣”ブーム
3. AI・生成コンテンツ規制議論の激化
4. インフルエンサー型“神頼み商法”の台頭
5. 推し活×神社文化の商業化加速
6. 政治と宗教の距離問題が再燃(某議員暴言など)
7. “感謝しない参拝者”論争、SNSで拡散
「……なんやねん、“感謝しない参拝者”って」
イナリがまた扇子を叩きながら呟く。
「お辞儀の角度が浅いとか、鈴鳴らす順番が違うとか、そんなことで怒られてるって……逆にこっちが感謝したいわ。わざわざ来てくれて」
「まあでも、“神様って怒ってないの?”って質問は増えてるらしいよ」
アマテラスが横から言うと、スサノオが「ははっ」と低く笑った。
「じゃあ怒るか?」
「やめてください。災害系の神が本気でそれ言うの怖いから」
---
【神会議:上半期ニュース総ツッコミ編】
「まずは──能登半島地震、そして各地の自然災害について」
オオクニヌシの言葉に、空気が一瞬、沈む。
話題が重たいのは、神々もわかっている。
この手の“災害”に関しては、直接関与する神も少なくない。
特に、スサノオの目つきが鋭くなった。
「……あれは、俺じゃない」
「わかってます」
「いや、ほんとに。あれは……ただ、積もりに積もったものが噴いただけだ。
地面の怒り。風の悲鳴。海の警告。俺じゃない。……俺、能登には行ってねぇから」
スサノオが小さくつぶやくように言いながら、缶ラムネを手元で握りつぶした。
「けど──おまえ、直後に能登の海岸でサーフィンしてたって報告あるぞ?」
「……あれは、波が呼んだんだよ!!」
雰囲気が一気に崩れた。
「ていうか、あんたどの海でも“波が呼んだ”って言うけど、それ神が言うセリフじゃないからね! ただのノリじゃん!」
と、アマテラスが突っ込む。
「いやでも災害時の避難神事はちゃんと行ったで? “防災の神”ってタグも流行っとったし」
イナリがスマホ型お札(※神具アプリ)を操作しながら挟む。
「神タグ文化やめろって言ってるでしょ!」
オオクニヌシがとうとうちゃぶ台を軽く叩く。
---
【紙幣と神のプライド】
「次。──新紙幣発行と、“ご利益デザイン”の話題です」
「これなー……」
アマテラスが呆れたように息を吐いた。
「どうせなら神の顔、使ってくれればよくない?」
「逆に宗教的すぎて使えねーよ。流通止まるわ」
スサノオが即答する。
「でもなんかさ、裏に神社の模様あるだけで“金運アップ!”って拡散されてたで」
イナリがスクショを広げながら言う。
「そう、それそれ。“新一万円札は財布に入れるだけで運気爆上がり”って、あれ誰が言い出したの?」
「知らん。たぶん副業アカウントや」
「そもそも“アマテラスの加護がある紙幣”とか言って出回ってたけど、わたしそんな監修してないからね!? ほんとに!?」
アマテラスは何度も手を振って否定するが、
スサノオがニヤニヤしながら言う。
「でも“顔”はどうだ? オマエ、もし一万円札の顔になったら?」
「……そりゃもう、部屋に額縁で飾る。
で、SNSのプロフにも“紙幣の女神”って書くね。タグ:#御金様」
「安い……っ!」
---
【AIと神性の侵食】
「次、“AIによる生成コンテンツと神の権威”について──」
オオクニヌシの一言で、空気がまた別方向にピリついた。
「それ、マジでヤバいやつ」
アマテラスが即答する。
「私さ、AIで“神っぽい発言”を自動生成するBotがあって──
それが、私の声に似せて配信してんの。で、こっちが本物だって言っても“どっちでも良くない?”って言われた」
「存在の否定やな……」
イナリが小さく呟く。
「てか最近、“神絵AI”も出てきたやろ? 祭礼の絵巻とかも勝手に“映え加工”されて……
AIのくせに“神の気配”とか演出しとるんよ。わしも真顔で“いや、お前ちゃうやん”ってなる」
「でもこれ、冗談抜きで危機やと思うで?」
タヂカラオが珍しく真面目に口を開く。
「神話も、姿も、言葉も。全部AIで再現されたら──
信仰って、どこから本物で、どこから演出なんやろな?」
その言葉に、一瞬だけ空気が静かになった。
──それを破ったのは、スサノオだった。
「よし、AIより派手な神事やるか。
いまから俺、火山噴かすわ」
「やめろ! 犯罪神になるな!!」
---
【推し活と神社の境界線】
「……もうひとつ、軽めの話題を挟みましょう」
と、オオクニヌシが画面に映したのは、“推し活神社”特集のテレビ画面キャプチャ。
「“願掛けエンタメ”“神社×アイドルグッズ”など、
いわゆる“推し神”現象が過熱しております」
「わかるけどなー、でもあれはもう宗教というよりも“ライブ会場”なんよ」
イナリが言う。
「俺の社でも、“このキャラと縁結びお願いします”って言われたことある」
スサノオが小さく笑う。
「しかもそいつ、二次元キャラな。お前、交際どころか存在が違うやん」
「でも、それって……信仰、だよね?」
アマテラスがぽつりと呟いた。
「“この存在と繋がりたい”って想いが祈りだとしたら、
もはや神も推しも、壁がなくなってきてるのかもね」
「いいこと言うた風に締めてるけど、
それで神社の鳥居がネオンピンクになってええんか!?」
イナリが叫ぶ。
---
【神会議:〆の迷走と神視点の総括】
「さて──最後の議題です」
進行役のオオクニヌシが、ぬるくなった麦茶を一口飲んでから顔を上げる。
「政治と宗教の距離感問題について、簡潔に……って言おうと思いましたが、やめましょう」
「えっ、やめんの?」
「ええ。どうせここで“ある議員”とか“ある教団”の話を出すと、
あなたたちが好き放題しゃべって炎上するのは見えてますから」
神々が、同時に視線を逸らす。
「てか、前に“天啓を受けた”とか言って立候補したやついたじゃん。あれどうなったの?」
「その後、“神が支持してくれなかった”って落選したで」
「そりゃ神界は“選挙権ない”からなあ……」
神々の声が小さくなる。地味にそのへん、気にしているらしい。
---
【だんだん話がズレてくる】
「ところでさ、さっきの“感謝しない参拝者”って本当にいたの?」
アマテラスがひょっこりと問いかける。
「いた。“拝むだけで願い叶えてくれると思ってたけど、何も起きなかった”ってSNSで書いてた」
「でもさ、たとえば“神様、恋人がほしいです”って来て、
一年後に“彼氏できませんでした”って怒るのって──
私たち、どこまで責任あるの?」
「しらんがな」
スサノオが即答した。
「そういうのは“信仰”やのうて“期待”や。
神様はガチャじゃないんやで、って何回も言うとるけどなあ……」
とイナリが続ける。
「むしろ、信仰とは“叶わなくても手を合わせること”やろ」
タヂカラオがしみじみ言った。
だが、アマテラスが即座に返す。
「いやー、でも“私の光が足りなかったんですか?”って言われると、ちょっとへこむよ。
人間ってさ、勝手に信じて勝手に怒るから……うん、やっぱ怖いわ」
「それが信仰の本質やからな……」
オオクニヌシが静かに言葉を添える。
「だからこそ、神は常に“見守る”という立場にある。
介入しすぎれば依存を生み、放置しすぎれば忘却される。
ちょうどいい距離感を保つのが、最も難しいんだ」
「──っていうか、そもそも我々は何のためにここにいるんだ?」
急に真顔になったのは、スサノオだった。
「世界を見守るためか? 願いを叶えるためか?
それとも──この国の“八百万”って言葉にすがられ続けるためか?」
一瞬、空気が静かになる。
「……違うな。これは」
彼は、ポケットからスマホを取り出す。
「今日は“神々の会議中”ってタグでトレンド1位や。
──つまり我ら、人気やで」
「それでええんか!!!」
---
【神視点の総括】
──そして。
会議が終わったあとも、残った神々は、
ちゃぶ台を囲みながら、麦茶とせんべいをつまんでいた。
「じゃあ、まとめよか」
オオクニヌシは、タブレットに向かって語りはじめる。
その姿はもはや、“土地神”というより“現世の記録係”だ。
---
《神視点・2025年上半期総括》
天災と人災の境界が、さらに曖昧になった。
人が生み出した“無関心”という災害が、じわじわと世界を侵している。
神の名が軽んじられる一方で、
“推し神”や“映え神社”として再発見される場面も多かった。
これは信仰の“変質”ではなく、“変化”と捉えるべきだ。
紙幣、SNS、AI──
人間が“人間の力だけで神を模倣できる”と思い始めた時代。
だが、それでも祈る者がいる限り、神は存在し続ける。
神は万能ではない。だが、見ている。
そして、たまに笑う。たまに怒る。
それだけで、十分だ。
---
「──と、まとめてみたが、どうかな」
オオクニヌシが顔を上げると、
スサノオはすでに横で寝ていた。
アマテラスはスマホ片手にインスタを更新中。
イナリは通販で“祈願済・冷却ジェル座布団”を爆買い中。
タヂカラオは……筋トレアプリでバーチャル腕相撲していた。
「……やれやれ」
オオクニヌシは、そっとちゃぶ台を見つめる。
八百万の神々が、今日もこの国を見ている。
見てはいるが、決して崇高でも完璧でもない。
むしろ──人間以上に、雑で、感情的で、時々くだらない。
でもそれこそが、“神様らしさ”なのかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございました!
神々の会議──という体で、真面目に世相を見ながら、
わりとどうでもいいノリで暴れてもらいました。
今後も「時事×神々×雑コメディ」の三拍子でお送りします。
第2話では「猛暑」「推し神社増殖問題」「政治のトンチキ化」など、
さらに混迷を極める“2025年7月”を神々が全力で語ります。
信仰って、便利でも正解でもなくて、
ただ「祈りが残ること」が大事なのかもしれません。
──とか言ってみましたが、たぶんまた脱線します。