第 六 章 カラーコンタクトレンズ
第 六 章
姫魂冥衣花は中学受験に合格し、女子中高一貫校に入学した
入学式の直後、冥衣花は担任の教師から職員室に呼ばれた
教師の名前は、神楽 神子(23才)(かぐら みこ) 日本史の教師だ
神子先生はめいかに言った
「姫魂さんのご両親は、両方とも日本の方なのよね?」
「父は生まれた瞬間、日本国籍を取得した日本人
母はちょうどその日にちょうど同じ病院で生まれた日本人でした」
「だからあなたは綺麗な黒髪をしているのね。ボブの髪型も似合ってる
ということは、瞳も黒くなければおかしいよね、でもそうなっていないわね」
冥衣花はこたえた
「かぐらせんせい、誤解があるようですがわたしはカラーコンタクトレンズなどを
入れたりなどはしておりません
わたしの瞳をよくごらんになっていただければ」
神楽神子は立ち上がり、冥衣花に顔を近づけ両方の瞳を観察した
「どう見ても、何度見ても姫魂さんの瞳ははっきりとした紫色にしか見えないんだけど
どういう自信を持ってそれを言ったのか、よけい怒られるような挑発するようなことを
なぜわざわざ 」
「仮にわたしがラベンダーカラーのカラコンを入れていたとしても
校則にカラコンについての記述は一切無く、
当てはまるとしたら、はしたない行動を慎む、という箇所ですが、
瞳の色が黒以外であることがはしたないと主張なさるのなら、アジア人以外ほぼ全員
はしたない瞳である、という事に
レオナルドダ・ヴィンチは聖母マリアの瞳を受胎告知の中でブルーに描いていて、
それなら聖母マリアは下品な女だと我が校が主張していることになり
その結果、全世界のカトリックが約1000年ぶりに9回目の十字軍を結成して
わたしたちの校門に弓矢や投石器を投げてくる
かぐら先生は日本史の先生ですから十字軍の残酷さや恐ろしさを分かっておられない
彼らは神の名のもとに罪のないイスラム教徒を、女子供関係なく」
かぐら先生は言った
「ちょっと待とうね、姫魂さん
カラコン禁止っていうのは生徒手帳の6ページ目に書いてあるのよね
だから十字軍はうちの校門を打ち破ったりしないし、十字軍については
聖ヨハネパウロ2世が、イスラム教徒に謝罪してるしね
だからもう結成されないと思うしね
これ以上わたしを挑発するようなことをすると
わたしもあなたを守りきれなくなる
話が上に上がったら、わたしの手からこの問題は離れてしまうの
だから単にカラコンを外して謝罪し、短い反省文を書いたらそれでいいのだから」
神楽神子は冥衣花を見た
その瞳は紫でなく青だった
神子は混乱した。目を離したこの一瞬にカラコンを交換できるわけがない
だけどそれ以外に何がある
たしかにさっきは紫色だ
冥衣花は言った
「人は己が正しく世界を把握していると思い込むよう設計されてる
机にあるその赤色をしたペンの実態は赤ですか」
神子はどうなっているのか分からないまま話を聞いた
「職員室のLEDから発せられる光は白色光。つまり全ての色が
含まれてる。その赤ペンが赤に見えるのは、LEDの光が
ぺんにぶつかり、赤以外の色はぺんに吸収され、赤だけ吸収できず
反射して私たちの網膜にぶつかるから」
神楽神子はこのおとなしそうな黒いめがねの女の子の内面は理解を超えたものがあると
察知し、この子の担任をするのは大変になりそうだと思った瞬間
冥衣花の左の瞳が、ゆっくり青から白目を含めて真っ赤に変わり
右の瞳が瞬時に青から黒になった
冥衣花は続けた
「ということは、赤ペン自体が赤色を発しているのではなく、赤だけ受け入れていない
のを網膜が受け取っている物理現象を、赤色のぺんと認識しているのです
では、赤ぺん自体は、本体は、本当は何色なのか。吸収している方の色か、
吸収できず、反射した方の赤色なのか」
神楽神子は父親も含めて代々、木花咲耶姫を祀った
子守神社の神主をしている家系で
日本的で超自然的な現象は幼い頃から数多く経験してきた
木花咲耶姫
日本の神話のきわめて美しい女性のかみさま
桜のように美しく咲き桜のように儚く散った
そのようにして神子先生はめいかを特別に扱うようになり、この子が社会に適応できる
ように自分が責任を持って担任すべきだと思った
そして担任をした3年間、さらにめいかが卒業してからも親しく会うほど、
みこ先生とめいかは仲良くなった