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第 五 章 香月あさみ (4月17日)

第 五 章


めいかは病院の地下2階にある遺体しかいない部屋の入り口に通学かばんを置いた

そして部屋の真ん中まで進んだ

周囲を観察し一周回転する


ステンレスでピカピカに作られた、遺体が入っているかも知れない引き出しの前を

歩いていく


A7と書かれた扉の前を通り過ぎようとし足が止まった

めいかは小さな手で扉の取っ手を両手で掴み、細い腕で全身を使い

綱引きのように思いっきり最後まで引き出した


遺体は布がかけられている

手首を掴み巻いてあるプラスチックのストラップを読んだ


No.2819281 香月あさみ (4月17日)


とある


めいかはかかっている布を胸元まではがした

その若い女性の首には一本の太く黒いあざが半周していた



ああ、あなたが死神か。黒いめがねをかけた女子高生の見た目なのは予想外だわ


香月あさみ(こうつきあさみ)は言った


「死神というのは知りませんが、もし存在するなら遺体にもう用はないのでは?」


「じゃあ、どなた?」


「姫魂冥衣花です。恋朋女子高校の一年生です。父がここの救急で医師をしていますので

 あなたが運ばれた際に父がお世話になりました

 そしてあなたの言うとおり、わたしはめがねをかけていますがこれは度が入っていない

 いわゆる伊達めがねで 」                        


「ええと、ひめたまさん。わたしが聞こうとしてるのはそういうのじゃなくってね、

 あとあなたのお父さまにわたしがお世話になった結果、

 わたしは遺体安置所にいるんだしね、教えて欲しいのはね」とあさみは言った


「なぜ伊達めがねをかけるようになったかというと、あれは小学校5年生の冬休み

 夕方、帰宅する最中にふと空を見上げると細かい雪が降り出していて、

 そこで素敵な一句を思いついたのです

 その一句は



   両肩に


 そらのかけらの


   雪化粧



「うん、名句だとは思うよ。それはわたしも認める

 でもね名前教えてもらったり、素敵な一句を詠んでもらっても

 なんていうのかな、あなたの肩書きとかポジション的な、役割とかさ

 わたしはそういうのを知ろうとしてるの、女子高生のめいかちゃん


 わたしって、ほら死ぬの初めてじゃない?だから死んだあとに登場する

 キャラクターがどんなのでこれから自分がどうなるのか無知なの。わかる?」


めいかは答えた

「あなたのお気持ちはわかるような気がいたします

 降ってくる粉雪を空のかけら、と表現し両肩を雪化粧で自分を魅力的にしてくれた

 

 でも雪化粧という表現は、通常景色に使うものなのでそこに違和感を感じる、

 というのならたしかにそうかも知れません。しかしそもそも景色に対して

 化粧というのが比喩表現なので小5の時のわたしは

 そこをあえて」                 


「ちがうちがう。言われるまで全くそこは気にしてなかった

 両肩に積もる雪の比喩に文句はない

 

 そこじゃなくって、あなたは何人もわたしみたいな人相手にしてるんだろうから

 死後1日たった人のこころの機微っていうか、同じ血が通った人間なんだっていう

 ところをまずはさ

 わたしは死後の世界ってないのかと思ってたくらいだから」


冥衣花は言った

「ご冥福をお祈りいたします」

「もしかしてこのまま帰ろうとしてる?」

「アポイントメントがなくお会いしたものですから」


「素敵な冬の一句を詠んでもらっておいてなんだけど

 用事とかないなら、

 そのまま死んだままにしておいてもらってた方が嬉しかったかな、わたしは

 もしこれがおじさんとかだったら、可愛い女子高生とお話しできて

 楽しめたかも知れないし、そういう需要はたしかにあると思うのよね

 

 黒のめがねは似合ってて可愛いと思うしね、長めの黒いボブの髪型も似合っててね

 でもそれは男性の場合のお話ね」


 「わたしに何か用事があるのでしょうか」めいかは言った


「わたしの記憶だと、永久に安らかに眠ろうとしてた所を

 あなたが起こしたんだって思ってんだけど

 保育士を1年ちょっとしてるから、

 とんちんかんなお話をする4歳児とおしゃべりするのは好きだけど、

 死亡してるからわたし保育士の資格無くなってると思うしさ、

 そもそもめいかちゃんは4歳児でもないしね」                    


冥衣花は言った

 「あさみさんは安らかに眠ろうとなんかしていなかった

  21才の若さで自ら命を断つ魂がそのまま永眠したのを見たことがない」

 

 「そうそう。それでいい」


「何かお手伝いすることがあるかもしれません」めいかは言った

 そしてつけ加えた


 「通学カバンの中にタロットカードがあります」


 「じゃあわたしの恋愛運教えて」


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