第 四 章 成瀬つぐみ先生
第 四 章
姫魂冥衣花はその日職員室で担任教師の怠慢さを追求していた
めいかはその時小学校5年生で、先生は算数の授業で三角形の内角の和は
180度だと教えた
教師は去年教育大学を出たばかり。名前は成瀬つぐみ(23才)
つぐみ先生はめいかに言った
「めいかちゃん、クラスのみんなが適当に描いた三角形の端っこを三箇所破って
つなげてみたら直線になってたでしょ
ということは、その三角形の内角の和は180度ってことじゃない」
めいかは言った
「99匹目のカラスが黒かったとしても、100匹目のカラスも黒いとはかぎりません」
つぐみ先生は答えた
「たしかにそうだけどクラス全員で32人やったのよ。みんな直線になった
他のクラスでも同じことをやってるし、今の時期小学5年生は日本中で
同じことをしてる」
「つぐみせんせいは三角形は何種類あると思っているのですか」
「直角三角形と、二等辺三角形と、それ以外だから三種類かな」
めいかはその場でふたつの直角三角形を描いた
「このふたつの直角三角形は同じではありません
どうやってもかさならない」
つぐみ先生は、めいかのために椅子を用意し隣に座らせた
「じゃあめいかちゃんはどうしたら
三角形の角度の合計が180度っていうのを納得するのかな」
めいかはしばらく考えた
そして先生の机の上で三角形を描いた
めいかは言った
「この三角形は、かりに角度の和が180度ではないとします。すると」
つぐみ先生はその続きを興味深く聞いていた
この子は習ってもいない数学の背理法を独自に編み出そうとしている
めいかはそこでしばらく口が止まった
そして言った
「つぐみせんせい、三角形とは一体なんのことを言うのでしょうか」