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009 一撃必殺

◆ ◆ ◆


「副隊長、あれは無理じゃないッスかね」

「あー無理だな。まともに相手出来る数じゃねえわ」


 こりゃあ、この都市も終わりだな。命は金に変えられねえし、仕方ねえ。仕事を放棄してトンズラするとするかぁ。俺達傭兵ってのは、そういう薄情なもんなのさ。


「なっ!? 何のためにお前達を雇ったと思っている!?」

「戦場で生き残れるのは臆病者か賢い奴だけってことさ。俺達は賢者の大隊、賢いからああいう無理なのは相手にしねえわけよ」

「ふざけるな!! 我らエメラルダ商会が、そんなふざけた発言を……うっ……あ……?」


 このお嬢ちゃんはやり手で美人だが、ちーっとばっかしうるせえんだよなぁ。隊長だったらこんな女、さくっとぶっ殺して次の都市へ移動するんだろうけど、俺はちがぁ~う。こういうのはな、ちょっと顔を叩いて武器をチラつかせれば、簡単に言うことを聞くもんなんだよ。


「俺達と来るんなら、命だけは助けてやってもいいぜ?」

「この都市の戦力を見なよ。ジャルマー共和国はフランフェルにマギアがあるが、ここにはない。ここに来るまでどれだけかかる? それまであの魔獣の大群を相手に防衛出来ると思うか?」

「そ、そんな、でも、友好国がすぐに応援で……」

「ワルーシャはロムナと小競り合い、オーランディアは内乱でガタガタ。どこが助けに来てくれるって? ええ? お前、頭が良いんだろ? 考えたらわかるだろ」


 おーおー良いねえ、その絶望に染まった表情!! そそるぜ、こういう女の心がボッキリ折れる瞬間ってのが最高なんだよ!! 物わかりが良い女ってのは最高だ、世の中の女がこいつみたいにすぐ立場を理解してくれるとすげーハッピーなんだけどなあ?


「――ヒルガオ商会のオルカ部隊は何をモタモタしてんだぁああ!?」

「シャーク会長!! 前線はヤバいですって!!」

「うるせぇやぁい!! あの魔獣の群れを見やがれぇ!! すんっげぇー数だ、この都市の戦力でどうこうできる数じゃねえ!!」

「女子供はシェルターに避難しろ! 戦える奴はなんでも良い、武器を持て!!」

「魔獣を中に入れるな!!」


 他のところ馬鹿な愛国者は随分といきり立ってるが、俺達にそんなものはねえ。所詮流れ者、馬鹿みたいに強えだけのハイエナよ。国から国へ、美味い餌を食い尽くして移動するよそ者。食い尽くしたこの都市にはもう用はねえんだよ!!


「それじゃ、移動すんぞ。おら、付いてこいよ」

「誰が……お前達なんぞ……。お前達と生きるぐらいなら、ここで、死んでやるわ」

「ッチ、面倒臭え女だなぁオイ。ちょっとわからせて」

「お、おい!! なんだ、あれ!?」


 あぁ? 魔獣の中になんかデケえのでも居たか? いやそれにしてもこの地響き、デケえな……。こりゃ超弩級のイノーマスでも出たか……!? だとしたらこうしちゃ居られねえ、さっさとこんなとこはおさらばしねえと……。


挿絵(By みてみん)


『――ヒルガオ商会より、皆様にお伝えします。これより、当商会の魔導鉄巨人、【N-01・ホワイトリリー】が戦闘行動を開始します。危ないですので、屋内への退避をお願いします』


 な、な、な、なんじゃありゃああああああーー!? おいおいおい、ベルリーネにはマギアがないんじゃなかったのかよ!!


「馬鹿な……。う、動かないはず……!! エンジンコアがなかったはず!!」


 じゃあどうやって動いてんだよ、エンジンコアって、あれだろ、いちばん大事なやつだろ!? くっそたけえやつだろ!? それ無しで動くわけが……!!


「……!! 助けて、シャーク会長!!」

「あぁん!? なんだぁ、エメラルダじゃねえか」


 くそ、あの女逃げやがった!! この都市が滅ぶから何を言っても問題ねえと思ってたのに、これじゃ計画が破綻しちまう!! こうなったら、あのシャークとかいう野郎ごと……。


「動くな! この緊急事態に味方へ銃を向けるとは、何の真似だぁ、賢者の大隊ぃ?」


 ど、どうする、このままじゃ囲まれる!! どうする、どう……!? こ、こいつだ!!


「ちょっと、何をしますの!? きゃあああ!!」

「えっ、あっ……?」

「騒ぐんじゃねえ!! この女をぶっ殺すぞ!!」


 どこのメイドか知らねえが、へへ……!! あのエメラルダより随分といい女を捕まえたぜ……。ちっとばっかし体の方は貧相だが、まあいい……!


「動くな! 手を頭の上まであげて、大人しくしてろ!!」

「動くな、手を頭の上にあげろ、大人しくしろ。ですね?」


 なんだぁこの女、随分と落ち着いてやがるな、気持ち悪い!! まあ後でひん剥いてからも同じように落ち着いていられるか、楽しみってもんだぜ。


「た、たい、ちょ、ご、がっ……!?」

「あ゛ぁ゛、がっ……!?」

「私の自由を奪うお願いを3つ聞いたので、貴方達からも3つ……頂戴しますね」


 なん、息が、出来ね、体、動か……ねえ!?


「な、なんだこいつら、なんでも良い!! このクソッタレ共を拘束しろぉい!!」

「ごぉ……!?」


 お、おい、なんだこの感覚……!? 下半身が、焼けるように痛え!! 死ぬ、死ぬ!! 死ぬほど痛え!! 痛えよ、股がぶっ壊れる!! うわあああああああああああ!!


「それでは、私はシスティーナ様の勇姿を見るのに忙しいので。失礼します……参りましょう、フィール様」

「え……ええ、ちょっと聞きたいのだけど、何をしたのかしら……?」

「それは聞きたいというお願いですか?」

「あー!! あー!! いえいえいえいえ、違うわ! 今のナシ、今のナシ!!」

「そうですか、残念ですね」


 い、意識が、俺の、股間が……。あ、あ――――。



◆ ◆ ◆



『――――おはよう、お姉ちゃん――――』


 驚いたわ、ええ……とっても驚いたわ。まさかエルちゃんが、あのペンダントを依り代にして魂を繋ぎ止めていたなんて!! 初めは信じられなかったけど、エルちゃんの書いた日記の存在とか、作ってくれた魔導具に関する思い出とかを全部覚えていて……。もう間違いないって、確信したわ!


『お姉ちゃん、こんなちっちゃい武器で大丈夫なの!?』

「凄く古い武器だからどの程度の威力かわからないけれど、形状からしてエネルギーライフルとエネルギーブレード、魔力を流した感じは悪い感触がなかったから、使えると思うわ」

『えっと、バーニアを使って一気に移動はしないの!?』

「そんなことしたら、外に居る人が丸焼けになっちゃうわよ?」

『そんなに凄い出力なの!?』

「60トン以上もあるものを素早く動かせる装置よ、凄い威力なんだから使っちゃ駄目よ?」

『ぎょえー……』

 

 ああ、可愛い声……!! ついつい後ろの席を覗き込みたくなっちゃうけど、我慢よ。我慢しなさい、私!! 霊体のエルちゃん、凄く可愛い!! 魔力を体に纏わせれば触れた感触も楽しめたし、また頭を撫でられるわ。早く帰って撫でたい、早く倒さなきゃ。じゃあバーニアで……あ、自分で使っちゃ駄目って言ったばっかりだったわね。


「まさか、あのネックレスに宿っていたなんて……」

『ずーっと呼びかけてたんだよ? でも反応してくれなくて、あー見えてないんだーって凄く悲しかったんだから!!』

「どうしてこの機体のエンジンコアにした途端、見えるようになったのかしら」

『依代が大きくなったから、出力が上がった感じなのかなぁ? 自分でもわかんないの!』

「そう、でも本当に嬉しい! エルちゃんとまたお喋りが出来て……」

『お姉ちゃんとイヴさんと、あのヒルガオって人以外からは見えてないみたいだけど』


 そこなのよね。霊体のエルちゃんを見ることが出来たのは、私とイヴさんとヒルガオ会長以外誰も居なかったのよね。だから空中に向かって喋り続けていたように見えるって言われちゃったわ。


「あら……?」

『どうしたの、お姉ちゃん?』


 イヴさんが変なのに絡まれていたみたいだけど、全員倒れたわね。あれは絶対『動くな』とか『手を上げろ』とか言ったわ。ご愁傷様、それは対価として『酸素』と『体の自由』を奪われるパターンよ。

 実はあの凶悪な対価の要求、エルちゃんの入れ知恵なのよ。空気中には酸素っていう成分が含まれていて、それが濃くても薄くても私達には有害なんだって。だからそれを体の中から奪ったら、その人は気を失ってしまう……死に至ることもあるとか。あの様子だと、殺してはなさそうね。


「おかしいわね……」

『えっ!? 機体のどこか、おかしいの!?』

「いいえ、魔物の群れの方よ」


 それより気になるのは魔物の群れのほうね。通常、魔物が群れとなって都市や村に突っ込んでくるスタンピードという現象は、同じ種族や似た生態の魔物が束になって突っ込んでくるの。

 この群れは……混成だわ。普段は大人しい草食の魔物も、人間だろうが魔物だろうが関係なく殺しにかかってくる昆虫系の魔物も、ここに来る最中襲ってきたハンターウルフや上位種のジャイアントレッドビーストまで……。


『色んな種類の魔物が居るように見えるけど……』

「それがおかしいのよ。魔物同士も殺し合い、捕食が発生するの。この組み合わせはおかしいわ」

『じゃあ、明確な意思を持ってここに突っ込んできてるの?』

「そうよ。もしくは……なにか恐ろしいものに追い回されている、とかね」

『イノーマス……!?』

「今回は、そんなに強いイノーマスは居ないみたいね」


 ちらほらイノーマスは居るみたいだけど、強いイノーマスは居ないわね。大群でなければ生身でも勝てる程度の魔獣ばっかり。さて、そろそろ都市に影響が出ないところまで離れたかしら。


「まずは一発、ライフルで牽制してみようかしらね」

『機体の魔力をチャージして撃てばいいんだよね!』

「起動してすぐだから、機体の魔力を使ったらエネルギーが枯渇してしまうわよ?」

『え、じゃあどうやって撃つの……?』

「エネルギーライフルをどうやって撃つのって、それはエネルギーライフルだもの、魔力をチャージして撃つのよ?」

『えっ? えっ? お姉ちゃんごめんね、言ってる意味がわからないの』


 エネルギーライフルはマギア本体から魔力を込めて撃てる、強力な射撃兵器よ。そのマギアの出力、魔力変換器の性能、銃本体の出力増幅器の性能にもよるけど、射程が長くて使いやすいスタンダードな兵器。今回はマギアを起動したばかりで魔力残量が少ないから……。


「マギアに魔力が少ないなら、私が魔力を込めればいいじゃない」

『…………はい?』

「こうするのよ。ふぬぬぬぬ……!! チャージ……!!」


 マギアに魔力がなければ、私の魔力を使えば良いのよ。さあ1発分のチャージが出来たわ!!


「それじゃ撃つわね。こちらシスティーナ、攻撃を開始するわ。エネルギーライフル、発射」

『は、へっ!? 本当に――』

 

 ――――あ、このライフル……。


「あっ……」

『ひゃああああああ!? 何この光ーーッ!?』


 ちょっと、強すぎるかもしれないわね。



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