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007 ヒルガオ商会

◆ ◆ ◆


 お風呂に入りながら、これから私達が向かう商会の話をフィールさんから聞いたわ。

 まず名前は、ヒルガオ商会。フィールさんが所属している商会で、シャーク商会とは非常に友好的な関係。ほとんどグループ商会のような状態だそうよ。

 ここで気がついたのだけど、フィールさんはフィレンツェ王国で高級娼婦として働いていたはず、というところね。『もう戻るつもりはないから』って教えてくれたけど、彼女はフィレンツェ王国の情報を集める諜報員、いわばスパイだったそうよ。


「おかえりなさいませ、フィールさん。お連れの2名様が、そうなのですね」

「ええ、ただいま戻りましたわ。こちらの方がシスティーナさん、そしてこちらの方はその付き人さんよ。使用人ではないから間違えないで」

「システィーナ・リリーと申しますわ。こちらは私の付き人のイヴよ」

「イヴ・リースと申します」

「ああっと、申し遅れました。会長の秘書をしております、ダーマンと申します。どうぞこちらへ」


 ヒルガオ商会は毎年爆発的なヒット商品も出すけど、大きくコケることもある、安定性に欠ける商会……。でも、毎年の決算報告を聞く限り、常に黒字運営を続けていて儲けのほうが非常に大きいみたいだから、経営が厳しいってことはないみたいね。

 そんな商会がなぜ、パイロット(・・・・・)を欲しがっているのか。言わずもがな、ある(・・)ってことよ。この商会には……魔導鉄巨人(マギア)が!

 商会がマギアを持っているなんて聞いたことがないけれど、恐らくどこかの古代遺跡で発掘したものか、もしくは超格安で横流し品を落札した、またはジャンクをツギハギにして1機のマギアを作ったってことよ!

 

「予定より早いけど、大丈夫かしら?」

「今日と明日はスケジュールを空けておいでです」

「随分と期待されているわね」

「それはもう、あの……んんっ! 優秀な方に来て頂けると聞いておりますからね」


 あら、物凄く期待されているわね。大丈夫かしら、期待外れだったらどうしましょう? もしかしたら、こんなパイロットは要らないって追い出されちゃったりして。


「…………イヴさん、能力を使っちゃ駄目よ?」

「システィーナ様こそ、緊張しすぎて物をお壊しにならないよう」

「フィールさん、本当に……大丈夫なのですよね?」

「あー……能力は間違いないわ」

「そうですか……。とにかく、こちらで会長がお待ちですので」


 ちょっと緊張するわね……。ノックの回数は、えっと……。


「システィーナ様、お待ち下さい。この拳はまさか、ドアのノックをするためのものではありませんよね? 拳を振り上げて、何をするのですか?」

「え、えっと、ノックは何回だったかなって……」

「4回ですが、それはダーマン様が行うことですよ」


 あら、そうなのね? 確かに偉い人と会う時、案内されるのを待つようにって言われたことがあったような……。あれは確か、フィレンツェ国王に会う時だったかしら? さっさと会って話を聞いてエルちゃんの待つお家に帰ろうと思って行動したら、凄く怒られたわね。


「ヒルガオ様、フィール様とお客様が到着なさいました」

「――あ~! ちょっと待って欲しいのじゃ~……」


 可愛らしい声なのに、随分とお年を召されたような喋り方をする方なのね?


「あー!! うぎゃぁーー!!」

「ヒルガオ様、大丈夫ですか!?」

「中に入ったほうが、よろしいのではなくて!?」

「入りますよ、ヒルガオ様!!」


 なにかハプニングかしら。妙な気配は感じないし、そういったトラブルではないと思うけれど、大きな音がしたし心配ではあるわね。


「ヒルガオ様!! どう……なさい……」

「んぁ~! だから待っていて欲しいと言ったのじゃ~!!」


挿絵(By みてみん)


 どうして、レースのカーテンが足に絡まっているのかしら……。派手に破れて床にも落ちているし……。引っかかって転ぶにしては、窓の位置も高いわよね?


「ヒルガオ様、足を使おうとなさいましたね……?」

「だ、だって、立ちたくなかったんじゃもん……」

「久々にお会いするヒルガオ会長が、まさかこんな……はぁ~……」

「おおフィール! 元気にしておったか? ちゃんと食べておるか? 相変わらずスタイルが良いのう~! 未だに鍛えておるようじゃな!」

「質問攻めはやめてくださいな、元気ですし、ちゃんと食べておりますし、トレーニングも続けていますから」

「えっ」

「え? 何か?」

「いえ、なんでも……ありません」


 考える、考えるのよ私……。ヒルガオさんはフィールさんを見て『鍛えている』と言ったわね。そしてフィールさんは『トレーニングも続けている』と言った。つまりフィールさんは鍛えているけど体が弱い、ということ……?

 これは、無理なトレーニングはおすすめ出来ないわね。このスタイルをキープするためのトレーニングを独自に編み出した可能性が高い。その人に合っていないものをやらせると、余計に体への負担が増えることもある……。よし、トレーニングには誘わないようにしましょう!


「して、その3人がフィールの連れてきたパイロットなのじゃな!?」

「3人? ええと、こちらのスラリと背の高いお方がシスティーナ・リリー様で、この方がパイロットです。そして、こちらは付き人のイヴ・リース様」

「システィーナ・リリーです。フィレンツェ王国でパイロットをしていました」

「イヴ・リースです。システィーナ様の身の回りのお世話を担当しております」

「そうかそうか、システィーナにイヴか。よろしく頼むぞ! で、もう1人は誰じゃ?」

「はい?」

「ヒルガオ様、何の冗談ですの?」


 もう1人……? この部屋には他に誰も居ないし、潜伏している人も多分居ない……。ヒルガオさん流の、何かの冗談かしら?


「およ? あれ? ほら、システィーナの後ろに……はれ?」

「誰も居ませんが……」

「お、おかしいな、先程まで居たはず……? あれ? あれ?」

「会長、お戯れは程々にして頂きたいですわ。せっかく優秀なパイロットであるシスティーナ様に来て頂いたのに、失礼ですわよ!」

「す、すまん……。確かに居たはずなのじゃ……うう、歳かのう……目も悪くなったか……?」


 歳だなんて、私よりずっと若く見えるのに。イヴさんと同い年ぐらいじゃないかしら? 外見はそう見えるけど……。もしかして、長命種との混血……?


「ま、まあ! 改めて儂の自己紹介じゃ! 儂はヒルガオ・カリステジア、ヒルガオ商会の会長をしておるぞ!! 従業員は総員77、儂とそなたらを含めたら丁度80名となる!」

「だから、1人多いですよ会長」

「ああそうか、79名じゃな……。あ、そうじゃ! こう見えて歳は225、誕生日は覚えておらぬので商会の創業祭と共に祝っておる!!」

「もしや、エルフ族との混血なのですか?」

「うむ、多分な!! 幼い頃に戦争で親を亡くしたでな、詳しくは何もわからん!!」


 恐らくエルフ族との混血ね。人間種の特徴が大きく出ているだけで、体に流れている魔力はエルフ独特の強大なものを感じるもの。


「ああ、気にするでない。戦争で親を亡くした、病で親を亡くした、この世には様々な理由で子供の頃に親から離れた子供は多い。そのうちの1人というだけじゃ。まあ暗い話はどうでもよい!! それより、儂の商会で働く条件などの話し合いじゃな!」


 いよいよ本題ね……。お金の話は疎いから、イヴさんに頼ろうかしら……。


「まずはマギアの状態を見てから、じゃろ? これから乗るマギアを見ずして、何を決められようか!! なあ、そう思うじゃろ?」

「確かに、それもそうね……」

「よしきた! どれ、早速ハンガーへ行くとするか!」


 ちゃんとしたハンガーで整備しているのね! そこらの倉庫に押し込んであるのかと思ったけど、整備用の建物を用意してあるなんて! 本当に、マギアを使った商売に本気で挑もうとしているのね。これは期待が持てるわ……。


「とりあえず、顔見知りのフィールは一緒に来てくれ。ダーマン、そのカーテンを片付けておいてくれ! ついでに新しいものを取り付けるように!」

「これからは足でカーテンを引っ張りませんよう……」

「では魔力で開け閉めが出来るカーテンを取り付けておいてくれ!!」

「そんなものありませんよ……」

「あるわよ? あるわよね、イヴさん」

「あー……。あれは、エルエニア様が開発したものですから……」

「ごめんなさい、ないみたいだわ」


 魔力で開け閉め出来るカーテンはあると言いたかったけど、エルちゃんが開発したものなら駄目ね。これはあげられないわ! だから、忘れて頂戴ね。


「いやいやいや、待て待て! エルエニアとは誰じゃ、知り合いにそんな凄い魔導具師がおるなら、紹介してくれぬか!? 絶対に買う、言い値で買うぞ!!」

「私の、妹よ。残念ながらもうこの世には居ないの」

「あ……。そう、なのか……。すまなんだ……。素晴らしい、妹君だったのじゃな」

「ええ、私より濃い紫色の髪が綺麗で、魔法がとっても得意で、それでいてとっても物知り――」

「あー……。システィーナ様、マギアです。マギアを見に行きましょう?」

「あらやだ、エルちゃんの話になると、つい……」

「うむ、愛されていたのじゃなぁというのは、たっぷりと感じたぞ!」


 そうよ、本当に大好きで……。ああ、エルちゃん……。エルちゃんの居ない世界は、お姉ちゃんとっても辛いわ。やっぱり約束を破ってでも、会いに行くべきかしら……。


「では会長、お気をつけて。道中でお転びになりませんよう」

「そこまでババアにはなっておらぬ! どれ、行こうかの」

「ええ、お願いしますね。ヒルガオ会長」


 そんなことをしても、エルちゃんは喜ばないわよね。この辛い気持ちを乗り越えないと、エルちゃんに『お姉ちゃん情けな~い』って笑われちゃうわ。今はマギア! そう、新しいマギアを見に行くの! フィレンツェで乗っていた旧式よりは、新しいと嬉しいわね~。


「紫の髪……。魔法が得意……。ふむ、先ほど見えていた、あの少女……」

「ヒルガオ会長、何かおっしゃいまして?」

「ん? ああいや、歳を取ると独り言が多くなるだけじゃ」


 

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