035 団欒の時間
「――はい、キャロル。あ~ん?」
「あ、あ~……」
可愛いわね……。こうして、イヴちゃんに甲斐甲斐しくお世話をされている間は、とっても可愛いわ……。
「んっ……んっ……。あの、もう、自分で……」
「キャロル、次は何が食べたいですか? ほら、ステーキも運ばれてきましたよ?」
「急にぶっ倒れたと思ったらこれだもんなあ……」
「羨ましいですか?」
「お前さんに頼んだら、何を取られるかわからないから遠慮しとく」
「そうですか。次はステーキを頂きましょうか」
「はい……」
キャロルちゃんは空気銃でゲイルを無力化した後、急に力尽きて倒れてしまった。魔力切れということでもなく、ただ急に倒れた。恐らく能力を使いすぎた反動か、能力に目覚めすぎた反動……と、エルちゃんは言うのだけど、どうにも確証が持てないみたいね。
「エルちゃん、魔法の研究もいいけど、ご飯を食べないと」
『う~ん……』
「ご飯を食べて元気を出さないと、良いアイディアも出てこないわよ?」
『うん~……』
エルちゃんは完全に自信喪失中。魔法と自分の能力には自信があったから、それを打ち砕かれてひたすらしょんぼりしているわね。それだけキャロルちゃんが規格外だったってことなのだけど、自分の得意分野で負けたのが相当悔しいみたい。
かくいう私も実は悔しいわ。力だけなら私のほうが上だけど、閃光弾が効かないとか、銃撃の腕前も威力もキャロルちゃんのほうが上ってことが、どうしても悔しい。ゲイルは既に諦めているみたいだけど、私は簡単に諦めたくないわ。いくつになっても向上心は持ち続けていたいし、成長し続けたいって思うもの。
「あ~。なんじゃ、こんな時に悪いんじゃがのう」
「ヒルガオ会長が食事に誘ってくださったんだもの、悪いなんてことはないわ」
「うむ、そう言ってくれるとありがたいが……。システィーナよ、明日の朝にゲイルと共に南へ向かってはくれぬか?」
「俺は一応ジャルマー共和国の軍人だぜ? 民間人の指示で機体を勝手に動かすことは出来ない」
「それなんじゃが、議会と英雄殿から通達が届いた。これが指令書、システィーナには依頼書じゃ」
私には依頼書……。ゲイルには指令だから、強制力が強いものね。内容は……例のネームレス部隊の調査ね。国境付近で怪しい動きをしていないか、どこから侵入してきたのか、それらを全部調べてきて欲しいという依頼になっているわ。最初はホワイトリリーを接収する気だったみたいなのに、随分と下手に出るようになったわね?
「ホワイトリリーがダイレクトリンク機だって知って、軍部も議会もビビっちまったみたいだな」
「うむ、ゲイルが搭乗した際の映像球を送ったら、こんなものは要らんとばかりに突っ返されたぞ」
「あの時の映像球、送ったのかよ!! 最悪だぜおい!!」
「どうしても乗りたいと言うたからな。それにヒルガオ商会とシスティーナの所有物じゃから、記録するのは当然じゃろ」
「まあ、そうなんだけど……」
あら、ゲイルが試運転した時の映像を送ったのね。ダイレクトリンク機は感触が直にパイロットへ伝わるから、歩いた時の感触なんかも足に伝わってくる。もちろん、マギアの重量が関節部にかかれば、その分だけパイロットにも伝わってくるから……。痛みに敏感な人だと、一歩動いただけで悶絶して泡を吹いて倒れるのよね。ゲイルは頑張って2歩動いてから、元の位置に戻って気絶したわ。
「議会からはそんな機体は要らんと言われ、英雄殿からはこれから先、横槍を入れることはないと約束してくれたぞ」
「むしろ聞きたいんだが、あれに乗って平気なのか? いや、平気だったんだよな……操縦してたもんな……」
「私は痛みに鈍感な方だから、痛いという感触はないわね。大きく破損してやっと痛みを感じるぐらいだわ」
「突っ込みたいが、返ってくる言葉を考えただけで疲れたから言わないでおく」
「そうするのが賢明じゃな」
民間が力を持ちすぎるのは、政府からすればあまり好ましくない状態なのは確かなのよね。万が一にも、ということを考えてしまうもの。ホワイトリリーにはそこまでの能力がないと判断したのでしょうけど……。正直、これから先改造に改造を重ねれば、最新機に性能で劣らないスペックまで強化出来ると思うわ。それこそ、ゲイルのグッドレスポンス以上の性能に。
そう! ゲイルにグッドレスポンスへ乗せて貰ったのよ、皆には内緒で。最新機って凄いわね、視界が360度全方向見ることが可能なモニターに、通信の自動傍受機能、自動ロックオンと追尾機能なんかも搭載されていて! もう凄いって言葉しか出てこなかったわ!
操縦支援機能もとっても優秀で、エルちゃんみたいに会話が出来るわけじゃないけれど、使いたい武装を口に出せば換装をスムーズにサポートしてくれたり、機体に異常がないか自己診断機能が備わっていたりもしたのよ。どこが悪いとどうなってしまうのかとか、そこまでしっかり説明が出るから、機体への理解度も深まって素晴らしいわ。
「それと、エメラルダ商会に何やら動きがあるそうじゃ」
「エメラルダ商会? ああ、なんか最近名前を聞くな」
「最近儂の商会とよく揉めている商会じゃ。動かぬマギアだと知っていて売って、動かすことに成功したと思ったら今度は共同使用権を主張してきたり、まあ何かと難癖をつけてくる女でなぁ……」
「どんな動きがあるのかしら」
「やたら羽振りがよくなった。カジノも失って、グループ商会もいくつか潰れて、金がないはずなんじゃがのう……」
「聞く限りでは、どうもきな臭いな」
「うむ。妙に強気で動きも活発なのじゃ」
本当にしつこい商会ね、エメラルダ商会は……。お金がないはずなのに羽振りが良い……大きな資金源がバックにあるということかしら? うーん、商売に関しては明るくないからわからないわね。マギアのことと周辺各国との揉め事ぐらいなら詳しいのだけど。あと、エルちゃんについても詳しいわね。
「イヴ、外を出歩く時は気をつけるのじゃぞ。必ずキャロルかシスティーナと共に行動するのじゃ」
「わかりました、ヒルガオ様。キャロル、ヒルガオ様にも実力を認めて貰えましたね。良かったですね」
「わあ……! ありがと、ございます」
「オルカ商会の隊員のほとんどが、意味不明なことを言っておったぞ? 空気銃で鉄板を壊したとか……」
「それは盛りすぎだろ」
「話が盛られすぎているわね。鉄板を破損させたのは22口径のペイント弾よ」
「話を盛りすぎじゃろ! わはははは!!」
今のは、話を盛っていないのだけど……。
「はは、ははは……? はは……。まさか、本当にペイント弾で?」
「ええ、破壊したわ」
「ペイント弾の方はマジだな」
「そちらの話は本当ですね」
『単純に消音の結界を重ねるだけなのが悪いのかなぁ……。減音と組み合わせるとか……』
「ペイント弾って、破壊力を有しておらんじゃろ……?」
実はペイント弾って、当たったところが青痣になる程度には結構痛いらしいのよね。連続で受ければ当然、内出血によるの出血性ショック死もありえる程度には危険な武器なのよ? だから、威力が増加する対象なんでしょうけども。
「当たったら痛いんだぞ?」
「え、痛いのか? ベチャッとなるぐらいじゃないのかえ!?」
「一応痛いわ。至近距離で当たれば傷になることもあるし、内出血も起きるわ」
「し、知らんかった……!」
「でもキャロルちゃんのは指や肉ぐらいなら多分吹っ飛ぶわよ」
「…………キャロル、間違えても一般人を撃ってはならんぞ!」
「は、い」
そうね、一般人を撃ったら大変なことになっちゃうわね……。
じゃあとりあえず当面は、イヴちゃんの護衛はキャロルちゃんが専任。私とエルちゃんとゲイルでネームレス部隊の侵入箇所の割り出し、国境付近の警備ってことね。暫くホワイトリリーを乗り回せるいい機会だから、外で連泊する想定でしっかり用意していかなくちゃ。
「ゲイル、暫く一緒に行動することになるけど、野外の遠征任務は初めてじゃないわよね?」
「あ~……。野外遠征は3日が最高なんだが……」
「3日じゃ遠征任務じゃないわね。それじゃピクニックよ」
「ピ、ピクニック……」
『お姉ちゃん、今回も一緒に行って良い?』
「え? 当然、エルちゃんも一緒に行く想定よ。来てくれないと寂しいわ」
『行くー!!』
「元気な幽霊ちゃんだなぁ……」
ゲイルは3日の遠征任務が最高なのね。それじゃ、今回は良い経験になると思うわ。
せめて必要最低限の道具や、あのマジックバッグぐらいは貸してあげようかしら? 内緒でグッドレスポンスに乗せてくれた恩があるし、あの綺麗な操縦席を汚したらあまりにも悲しいものね。
「明日の朝なら、飲み過ぎは厳禁よ。長期遠征用の道具がないでしょうから、私の方である程度用意するわね。ゲイルは必要だと思うものを自分で用意して」
「一応そういう訓練も積んだ軍人なんだがなぁ~……」
『お姉ちゃんも元軍人さんだよ~』
「…………所属と階級は?」
『秘密~!』
「なんだよ~。まあ只者じゃないなって感じはするが、明日から一緒に行動すればわかることか」
ネームレス部隊が活発に動いているということは、ベヒモス部隊も動いているはず……。どちらかの本隊に、どこかでばったりと出会わないと良いけど……。さすがに私とゲイルだけじゃ、本隊を相手するとなったら厳しいものがあると思うわ。ホワイトリリーの全力を引き出していないから、まだなんとも言えないけれど。
「とりあえず行くという流れになったが……うむ! システィーナ、頼んだぞ!」
「はい、ヒルガオ会長」
「それじゃ、今日はこのぐらいで……残った料理は……」
「……キャロルが全部、食べたいそうです」
「あ、はい……えへ……」
キャロルちゃん、ここにある料理を全部食べきれるの……? 私も結構食べる方だし、エルちゃんも幽霊になってからは食べる方だけど、私とエルちゃんを合わせて倍にしてもキャロルちゃんの食事量より少ないって……どういうことなのかしら。キャロルちゃんのお腹って、マジックバッグになっていたりするの?
「……食べ終わるまで一緒に居ます。エルちゃん、お姉ちゃんにも魔法の研究見せてくれる?」
『うん! あのねあのね、消音の結界を重ねるよりも――』
「ゲイルよ、年寄の話しに付き合ってくれるな?」
「素敵なレディとの会話を断るなんて野暮な男じゃないさ」
「皆様、ありがとうございます。キャロル、良かったですね」
「ありがとう、ございます。嬉しい、です!」
今日も訓練を頑張ったものね。美味しいご飯を沢山食べて、これからもイヴちゃんの護衛を頑張って頂戴ね。
さて、私の可愛い可愛い大好きな妹の魔法講座に、頑張ってついていかなくっちゃね……。





