033 常識が破壊される音
「なあ!! なあ、システィーナ!!」
「何かしらぁ!?」
「ペイント弾だよなぁ!? ハンドガンだよなぁ!?」
「そうよ、間違いないわよ!?」
今日はキャロルちゃんの射撃訓練の3日目。
いきなり射撃実践から入ると基本が疎かになるというゲイルの意見で、1日目と2日目はほぼ発砲なしで各種銃の構え方、メンテナンスの方法などを教えるに留まったわ。それから3日目、いよいよ22口径の実銃でペイント弾を撃ってみようという流れになったのだけど……。
――――バァン!! バァン!!
「ペイント弾を撃ってる音かぁ!? これ、どうなってんだ!?」
「私の方が聞きたいわ!!」
射撃用の的は鉄製で出来ているはずなのに、ペイント弾の命中した部分が変形するか吹き飛んでいる。エルちゃんは私のことを『ちょっと常識的な部分が欠けている』と言うけれど、そんな私でもさすがにこれだけはわかるわ。
どう考えても、ペイント弾を撃っている威力じゃない。
「…………終わり、ました!」
「あ、うん……。終わった……?」
「なあ、そのペイント弾って特別製? いやさっき俺達が撃ったのと一緒だよな」
「同じお店から買ったものよ……」
「あう……?」
キャロルちゃんになんて言えば良いのかしら。偉そうに銃の扱いがどうとかこうとか、今のうちに謝っておいたほうが良いかもしれないわ。どうしてペイント弾で厚さ1センチの鉄板が破損するの……? これで、ハンドガンの威力なのよね……?
「とりあえず、結果だけは良いな。頭部に1発、心臓部には2発、しっかり当たってはいるんだが……」
「ペイント弾よね?」
「間違いなくペイント弾だが……」
「ペイント弾で鉄板が破損したかしら」
「するわけないだろ!!」
「イヴ様、上手く出来た、みたいです」
「んん……! と、とても、良い結果のようですね」
キャロルちゃんのために、77口径のアサルトキャノンを特別に用意してあるのよね……? 25口径のペイント弾でこれなら、77口径のアサルトキャノンを撃ったらどうなるの……? まず、同じ22口径のハンドガンで実弾を撃ってみるべきじゃないかしら。
「キャロルちゃん? あ、あのね? この実弾を1発だけ、一番近くのターゲットのどこでも良いから、撃ってくれるかしら?」
「はい!」
「おいおい実弾って、大丈夫かよ……!」
大丈夫かどうか知るために撃つんでしょうが。同じ銃を扱っているはずなのに、全く違う威力になるなんて見たことも聞いたこともない――ッ!! あっ、撃った……!! ターゲットは!?
「システィーナ」
「…………言いたいことは、わかるわ」
「22口径のハンドガンの実弾で、1センチの鉄板に、穴は空かない」
「空かないわね……」
「しかも弾のデカさの何倍だ? 指が何本入るんだよ、この穴……。当たった部分が破壊されているって言ったほうがしっくり来るが?」
「ん~……!!」
とりあえず、わかったわ。わかりました。わかろうとしたつもり。キャロルちゃんにいきなり77口径を撃たせなくて、本当に良かったということだけはわかった。撃った本人は何も不思議そうにしていないけれど、この結果は明らかに異常。とにかくこのまま屋内で射撃訓練を続けるのは、非常によろしくないということだけは確かよ。
「エルちゃん!」
『わああ!! 何、お姉ちゃん!?』
「防音とか減音の魔法って、使えたりするかしら!」
『え、えっとね……。消音の魔法があるけど、広範囲は無理だよ?』
「キャロルちゃんが撃った時の音だけでも良いの。外で射撃訓練をするから、射撃位置の消音をお願いしても良いかしら!」
『うん、大丈夫! 多分出来ると思う!』
外……! 外に行きましょう。このまま屋内で射撃訓練を続けるのはマズいわ。次はターゲットじゃなくて、あの分厚いコンクリートの壁を破壊されてしまう気がするわ。既にターゲットを貫通して後ろのターゲットまで破壊しているのだから、このまま続けるのは絶対に危険よ。
「お姉ちゃんはこのターゲットを修理してから行くから、ゲイルと一緒に外で射撃に適した場所を探して貰っても良いかしら」
「この前、模擬戦をやったところとかにするか……?」
「あそこは人通りがあるほうだから、もうちょっと離れたほうが良いわ。北側は人の往来がかなり少ないって聞いたから、そっちが良いわね」
『ちびちゃんに探して貰おうっか!』
「ええ、それが手っ取り早いかもしれないわね。エルちゃん、お願いね」
『うんっ! よし、ちびちゃん! この都市の北側で、キャロルちゃんの射撃訓練をしても良さそうなところ、探してきて!』
本当に77口径を撃たせるの……? でも、キャロルちゃんの期待に満ちたあのキラキラした瞳……。今日はやめておきましょうなんて言えないわ。私だって、やっとマギアに乗れるってなった日に『今日はやめておこう』なんて言われたら泣いちゃうもの。とにかく場所を変えて、ここじゃないところでやる必要があるわ。
◆ ◆ ◆
私、キャロルちゃんに50口径のリボルバーで撃たれたら死ぬと思うわ。
「わぁああ……!」
『ちょっと、撃っても10発までにしてくれるかなぁキャロルちゃん!! 消音の結界が耐えられないからぁ!!』
グッと力を入れて堪えたぐらいじゃ、この破壊力は止められない。
セシリーちゃんが新しく覚えた『プレス加工魔術』で沢山作って貰った鋼鉄製の人型のターゲットが、50口径のリボルバーで撃ったら1発で弾け飛んだ。もう、貫いたとかじゃないの。弾け飛んだという表現が正しいわ。
「俺はあのアサルトキャノンとかいう、どう見てもヤバいものを彼女に持たせたくない」
「今日乗って良いと言われた新しいマギアに、やっぱり乗るなって言われたら、ゲイルはどう思うかしら」
「…………まあ、特別何か異常が見つかったとかじゃなければ、乗りたいわな」
「そうよね。そうなのよね」
エルちゃんの消音の結界魔法も、50口径のリボルバーで12発撃つと耐えられずに結界が破壊されてしまったわ。11発目で音が漏れてきて、12発目で完璧に破壊という具合ね……。ちなみに、私が撃った場合は30発撃っても壊れるどころか、安定して何発でも耐えられそうな状態だったわ。だからエルちゃんの魔法が未熟だとか、そういうわけじゃない。むしろ完璧と言えるレベルよ。
「システィーナ様、これ、撃ちたいです」
来ちゃった。どうしましょう。77口径アサルトキャノン……。
「単発モードがあったわよね? まずは、1発だけ撃ってくれるかしら……」
「はい!」
「ああ、絶対やべえってアレは……」
「エルちゃん、気合いを入れて消音して頂戴……!!」
『結界を二重にしたらちょっとは違うかなぁ!?』
「出来る限り、頑丈な結界にして……!!」
イヴちゃん、日傘を差してニコニコしながら見ている場合じゃないのよ。もしかしたら音が漏れて、音の衝撃がこっちに来るかもしれないんだから……!! ちょっとこれでダメだったら、消音の魔法のほうに研究が必要となる可能性が出てくるわ。こんなのを使って訓練してたら、爆音過ぎてベルリーネの住民からどれだけ苦情が来ることか……。
「いきます!」
「ああ、結界の中に入っていっちまった……」
「大丈夫よ、1発だけ……1発だけだから……」
1発だけだから、きっとまだ大丈夫なはずよ。鋼鉄製のターゲット、大きな穴が空いちゃうかしら……。心配だわ……。
――――ドォォオオン!! バァァン!!
「あっ……」
『二重にした結界が、1発で割れたよ!?』
「おいおいおいおい……」
「わぁあああああ……!!」
大丈夫じゃなかったわ。粉々よ、圧倒的粉砕感。マギアの実弾兵器ぐらいの威力はあるんじゃないかしら……。
「なあ、連射出来るんだよな?」
「連射、出来るわね……」
「鋼鉄製だよな? 紙とか、革じゃない……よな」
「鋼鉄製ね。ただの鉄より頑丈に作られた、ちゃんと鍛えられた鉄よ……」
「木っ端微塵だが? 鋼鉄製の板って、あんな感じに粉々になるんだっけか?」
「…………ならない、わね」
どうしましょう、連射モードなんて絶対いけないわ。1発でこれなのよ? 絶対ダメに決まってるじゃない。これは、いけない……。
「キャロル、凄い威力ですね。これならどんな襲撃者も一撃です」
「はい、イヴ様!」
人に撃ったら、ミンチどころか血煙になって蒸発するんじゃないかしら。これは人に向けて撃って良いものじゃないと思うわ。でも、エルちゃんに教わった防御魔法ガーディスを展開しているなら、数発は耐えられるかもしれないわね。試したくないけど。
「実戦形式の射撃訓練はどうするかしら、ゲイル?」
「無理、アレは無理」
「そうね、オモチャの銃を買ってきましょう。無理よね」
良かった、ゲイルもこれで実戦形式の射撃訓練は無理だと思ってくれていて。とりあえず威力はもう、ええ。十分理解したわ……。ペイント弾以下の、オモチャの銃が必要ね。
「あのさ……」
「どうかした……?」
「俺、オモチャの銃ですら不安なんだけど」
「奇遇ね、私もよ」
そのオモチャですら不安になるのは、どうしてなのかしらね……。ああ、キャロルちゃんがアサルトキャノンを抱きかかえて離そうとしないわ。これでおあずけなんて、あまりにも可哀想だけど……。消音の結界の強化と、私もそれを覚えて協力しないと、これ以上は無理なのよ。
『お姉ちゃ~ん……!!』
「うんうん、エルちゃんはとても頑張ったわ。エルちゃんは悪くないのよ、後で私にも消音の魔法の使い方を教えてね? 今度は2人がかりでやりましょうね」
『うぅ~……!!』
魔法には絶対の自信があったエルちゃんも、今回ばかりは心が折れたようね……。やっぱり、世の中には何事も上がいるということよ……。私も頑張るから、エルちゃんも頑張りましょうね。





